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Vol.24 IoTデータをビジネス価値に変える東芝アナリティクスAI「SATLYS」 AIデータ分析がもたらすデジタルトランスフォーメーション

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#03 東芝の知見がビジネスに役立つAIを実現 SATLYSを支える、分析メソッドと分析技術 東芝デジタルソリューションズ株式会社 ICTインフラサービスセンター 参事 落合 信

東芝デジタルソリューションズのアナリティクスAI*「SATLYS(サトリス)」。その強みは、ディープラーニングの革新的な基盤技術だけではありません。リアルな現場の生のデータを通して磨き続けてきた当社の卓越した分析技術とAIの活用技術を組み合わせて、データの準備段階から分析結果の現場へのフィードバックまでを「プロフェッショナルサービス」として提供できるのも大きな魅力です。ここではお客さまの業務課題にマッチした分析モデルにAIによる推論を行って解決結果の検証をする、当社独自の「分析メソッド」をご紹介します。既に火力発電所の異常検知などで検証され、当社の豊富な知見を最大限に活用したSATLYSのサービスを支える重要な分析メソッドです。

* AI:Artificial Intelligence(人工知能)

産業用AIに問われる、
課題への適合性

ディープラーニングをはじめとする機械学習の進化により、AIは産業領域においても実用化に向けて動き出したといわれています。しかし、本当に役立てることができるのでしょうか。AIによるデジタルトランスフォーメーションを、お客さまのビジネス変革につなげるためには、どのようなAIが必要となるのでしょうか。

これらの問いに応えるため、東芝アナリティクスAI「SATLYS」は、産業用途に対して全方位に最適化された基盤技術をまとい、2017年10月にデビューしました。私たちは、SATLYSが産業用AIをリードし、東芝コミュニケーションAI「RECAIUS(リカイアス)」と共にAIの代名詞に成長していくことを目指しています。

当社では、アナリティクスAIを導入したいお客さまに向けて、デジタルコンサルティングから始める「プロフェッショナルサービス」を準備しています(図1)。

図1 SATLYSプロフェッショナルサービス

その根幹を担うのが、当社独自のSATLYS「分析メソッド」です(図2)。

確かにAIは、人とは比較できないほど大量なデータを処理し、より効率よくビジネスに有益な価値を見いだすことができます。熟練した専門家や職人でも難しい気づきに達し、さらなる創造を促し、事業モデルを次々と変革していくポテンシャルを秘めています。

しかし、AIで効果的な施策を実行するためには、ニューラルネットワークやツールを選定し、自社のシステムに適合させればいいというわけではありません。分析に必要となるデータを洗い出し、それを収集する方法を策定するなど、AIを導入する計画段階からお客さまそれぞれの事業やAIを導入する目的に最適化させることが何よりも重要なのです。AIの判断に100%近くの正解を求めるのか、70%で良しとするのかといったことも、業務課題や用途、分析したいデータ、さらには全体のシナリオで異なってきます。業務課題に対するシナリオの適合性や、求める推論の性能とその検証が不十分だった場合、せっかくAIを導入しても狙った効果が得られず、ビジネス変革につながる価値を生み出せなくなるのです。

図2 東芝の分析メソッドと分析技術

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SATLYS「分析メソッド」で
あらゆる事業領域の課題に対応

そこで当社では、SATLYSを提供するにあたり、これまで数々のAIの実証実験を通じて豊富に蓄積してきたノウハウを、さまざまなお客さまにとって汎用性のある形でお届けできないかと考えました。

リアルな現場における生のデータや生の声に触れながら、さまざまなAI活用を計画し実行してきた経験を標準化。課題の整理や仮設の設定から分析ロジックの策定、分析モデルの設計とその効果の測定までを網羅する一連の分析メソッドとしてまとめあげました。これをデジタルコンサルティングおよびAIを導入する準備段階から活用することで、お客さまのビジネスに本当に価値のあるAIのシナリオを詳細に作り込み、検証を重ね、AIが推論する性能を最適化。満を持して本番展開を図ろうというものです。

落合 信

このSATLYS分析メソッドは、お客さまの課題の全体構造を整理することでその本質を把握し、課題を抽出するフェーズと、AIによる解決策を導き効果を検証するフェーズに分けられます。

課題抽出のフェーズでは、当社が社会インフラや半導体など幅広い現場で培った多種多様な知見をフルに活用。課題とその分析に必要なデータの洗い出し、分析する手法を選定した上でAIを活用するシナリオの立案および目標値の設定を行います。

こうして得たシナリオをベースに、最適な分析モデルを設計。実際に解析を行った上で効果検証を行うのが次のフェーズです。ここでは当社独自のディープラーニング技術と幅広いシステムの設計・運用・保守に携わってきたエキスパートの知見が活躍。推論の性能を緻密に検証し、ボトルネックを解決した上で、実際に展開する準備を整えます。

当社のノウハウが集約されたSATLYS分析メソッド。その卓越性と革新性は既に社会インフラの領域で適用されはじめています。そのひとつが、火力発電所におけるプラントで起こる異常を、高い精度で検知しようというものです。

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火力発電所へのAI導入に、
高度な知見を発揮

火力発電所には、安全かつ効率的な運用により、人々が安心して電気を使えるための環境づくりが恒久的に求められています。計画外の停止で電力の需給に支障をきたすことは許されません。プラントの故障やトラブルなどの問題が発生する前に異常を検知して未然に防ぐことの重要性の高さが、他の産業領域以上に重要視されるゆえんです。

プラントの監視は、温度や圧力、流量などのセンサーデータを元に行われます。数十万個に及ぶ部品と、化学・熱・機械・電気など多数の物理相からなる大規模システムに起こる異常の兆候を、人の経験や勘だけで正確に見抜くことは不可能です。従って部品の交換は、故障の兆候があるなしにかかわらず、一定の期間ごとに一律に実施せざるを得ず、保守・メンテナンスコストが大きな課題となっていました。

これを解決するため、当社は火力発電所におけるプラントの異常検知にSATLYS分析メソッドを用いて、より高い精度で異常を検知することができないかに取り組みました。

一般的に、設備や部品の状態を推定するために物理モデルを利用するアプローチは、プラント内の複雑な物理現象を詳細な動的モデルとして構築する必要があり、推定のための計算量も膨大となります。一方、データドリブンによるアプローチで異常を検知するためには、膨大なデータが必要となる上、獲得したモデルの構造が理解しにくい、いわゆる「AIのブラックボックス化」を避けられません。

そこで私たちは、物理モデルとデータドリブン、両方のアプローチを融合させたハイブリッド型のモデルを構築する手法を選択しました(図3)。

図3 モデルの利点と欠点

約3,000点のセンサーから収集された27万件ものデータから、設備が停止する直前のセンサー値の変化および内部の状態の推移を特徴量として抽出し、仮想(デジタル)空間上に火力発電所の“デジタルツイン”ともいえるAI動的モデルを構築しました。このモデルに対して、給水量や燃料などの火力発電所を運転する際の条件や、発電出力の目標値を設定して、その挙動を解析しました。その結果、発電所の主要な蒸気や水の循環系統の配管漏れなどを保守点検員が現場で気づく前に検知できる可能性があることが分かりました。それ以外にもこのモデルと実際のデータは、さまざまな異常の検知や燃料の節約など最適な運転条件の検討にも活用できると期待しています。

当社が現場で培ったAIの基盤技術と分析メソッドを両輪に装備した、東芝アナリティクスAI「SATLYS」。お客さまのさまざまな課題に確実にお応えする、信頼のプロフェッショナルサービスとして、ぜひご利用ください。

※この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2018年1月現在のものです。

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