地球にやさしく、プラントベースで素材を丸ごと使用する考え方から誕生した、ミツカングループの「ZENB」。最初はビジョンに共感するファン層に向けたD2Cブランドでしたが、2025年以降リテールへの販路拡大を予定しています。店頭で手にとってもらうには、ビジョンへの共感だけでなく、何が必要で、どんな層へのアプローチができるのか。購買データの分析から、セールス戦略を組み立てることに成功しました。
Before
D2CブランドとしてECで商品を販売。リテール営業に関して参照するデータは、POSの商品カテゴリごとのデータやアンケートなどをベースにした意識データが主だった。
After
意識データに加えて購買データを使用することで、より説得力の高いセールス活動へ。2025年春からのセールスに活用し、リテールへの販路拡大を行う予定。
【背景】
人と社会と地球の健康を考えて生まれた、新ブランド。
そもそもブランドが誕生した背景からお話しますと、2018年にミツカンが掲げた「未来ビジョン宣言」がきっかけです。未来ビジョン宣言の中にある「人と社会と地球の健康に貢献する」を象徴するブランドとして「ZENB」は生まれました。特に人と地球を意識し、核となったのは黄えんどう豆を使用した商品の開発です。プラントベースであること、添加物を加えないこと、素材を捨てることなく丸ごと使うことなどを意識しています。製品を、美味しく、健康に、毎日の食事の中で食べていただくことで、地球にもいい。そういったブランドです。現在のZENBはグルテンフリーや糖質オフなど、健康食品としての側面が注目されやすいですが、ビジョンからスタートしたものだったんですね。
【事業課題】
ECからリテールへ。
次のターゲットは、何を求めている?
ビジョナリーな製品だからこそ、原料や加工にコストがかかるため、どうしても製品自体の価格は比較的上がる。初めはビジョンへ共感してくれる方をターゲットに、D2Cでの販売を行いました。エシカルやサステナブルといったトピックスへ関心の高い方に、購入いただくことから始めたのです。
その後ZENBの認知度が一定高まってきたタイミングで、エシカルやサステナブルとは異なる側面の価値も見えてきました。たとえばグルテンフリーといった、健康に関する便益についてです。
並行して、私たちは販路をD2C、つまりECのみから、リテールにも広げることを考えていました。これまでのビジョンに共感して購入してくれていた層から、店頭で見かけてパッと手に取るような層へ、一気にターゲットを広げる。それまでとは異なるアプローチが求められることになります。D2Cでは、ビジョンがカギだった。では、リテールでは? そこで私たちがフォーカスしたのが、注目され始めていたグルテンフリーの側面です。購買データから、グルテンフリーに興味を持つ層の購買行動や興味関心について分析することはできないだろうか。東芝データさんへご相談をしました。
株式会社 Mizkan Holdings 執行役員
ZENB事業 マーケティング&ダイレクトグループ グループリーダー
佐藤 武 様
【施策】
リテール企業へのプレゼンは、
市場規模見込みやターゲットの購買見込みがカギになる。
株式会社 Mizkan Holdings 株式会社 ZENB JAPAN
Nプロジェクト マーケティンググループ 主任
野口 真輔 様
大きな目的は、2025年春からのセールス資料へ記載するデータの取得と、その分析・考察です。平たく言うならば、リテール企業へ「ZENBの商品を置いてください」と交渉するにあたり、「こういった方がターゲットになるのでこれくらいの市場規模になる」「だからこのような売れ方・売上が期待できる」とプレゼンする、その裏付けとなる購買データを求めていました。
通常のPOSデータからわかるのは、商品ごと、あるいは商品カテゴリごとの売上データです。ポン酢が何本売れた、お酢が何本売れた、といったことはわかる。ただしそういった商品カテゴリに縛られているデータだけを見ていても、生活者の購買行動や興味関心を分析することはこれまで難しかったのです。
購買行動や興味関心を分析するには、商品ごとや商品カテゴリごとではない、異なるデータの見方が必要でした。たとえば、「グルテンフリーを謳う製品を購入する人は、同じカゴで他にはどのような製品を買う傾向にあるか?」といったこと。つい固定観念で見てしまっていたデータを、違う視点から見る試みについて、ともに議論することができたのが面白かったですね。簡単そうに説明しましたが、望む通りの結果が出るかどうかは、我々も東芝データさんも、当時は正直手探りでした。手探りな中でも、一緒に議論しながら進められたのがよかったのかなとも感じています。
株式会社 Mizkan Holdings 株式会社 ZENB JAPAN
Nプロジェクト マーケティンググループ 主任
野口 真輔 様
【成果】
人は、アンケートの回答通りに行動しない。
だから購買データがあると強い。
グルテンフリーに関心がある場合、他に3つのキーワードにも関心を持って買い回りを行うということがわかりました。それが、「タンパク質の摂取」「食物繊維の摂取」「糖質オフ」です。(*1) それまでもZENBの強みとして仮説を持っていたところではありましたが、データがあることで確信を持つことができた。「グルテンフリー、タンパク質、食物繊維、糖質オフ」のストーリーをきれいに描くことができました。これら4つに関心がある層の市場は、まだ大きくはありませんが、競合となる製品も含めてカテゴリごと盛り上げることで市場を拡大させていきたいですね。
2025年春からのセールス資料へ活用するため、具体的な成果としてはまだこれからですが、これまでよりも説得力のあるデータを資料に盛り込むことができたと感じています。これまでミツカン社内も含め、プレゼン資料へ活用してきたデータは、先に挙げたPOSデータやアンケートをベースにした意識データが主なものでした。意識データももちろん重要なのですが、仮に「こういった製品を買いたいですか→YES」と答えた人が多かったという結果になったとしても、目的によっては説得力に欠ける場合もあります。極端に言えば、「アンケートではYESと答えたけど、実際は買わない人って結構いるよね」と考えると、そのデータだけでは弱いことになる。そこに購買行動をもとにしたデータが加わると、プレゼン相手への説得力はより強力なものになるでしょう。意識データと購買データ、両方あることが私たちのセールス強化を大いに後押ししてくれると期待しています。
*1:クラスタリングAIで分析したグルテンフリー食品の潜在市場
【将来の展望】
データを活用することで、トレンドの予測も可能に。
今回はセールスに活用することを目的としたデータ分析でしたが、今後は商品開発やマーケティングにも活かしていくことができたらと考えています。我々のように日夜新しい商品を生み出す人間は、常に「トレンドの潮目」が知りたいもの。購買データからそれがわかるようになるといいなぁなんて、期待をしています。たとえばですが、「これまで糖質オフに関心を持っていた層が、最近はこういうジャンルの製品を購入し始めているから、この領域は次流行るのではないか?」といった予測。ちょっと期待できそうな気がしませんか。
こういった予測も含めたデータの活かし方は、一社だけでやるよりも、何社もが似たような試みをやりながら、東芝データさんへその知見が蓄積していくとよりいいのではないでしょうか。たとえば自社のデータだけを分析するより、「飲料業界さんだとこういうトレンドがあって……」と話を聞けると、もしかしたら自分たちにはなかった新しい視点として商品開発の大きなアイデアになるかもしれないですよね。ですから、他の企業もみなさんやった方がいい(笑)。自分たちだけではわからなかったことが、データの力で、東芝データさんとの協業で、そしていろんな企業同士でデータを活かし合うことで、可能になっていくはずです。
今回活用したサービス
【新商品のポテンシャルを予測したい】
東芝独自のクラスタリング技術やデータ解析技術を活用して、商品の購買トレンドを発見できます。
クラスタリングAI
実際の購買ビッグデータから、消費者の購買パターン(購買特性)が共通する商品を同じ商品グループ(クラスター)に自動で分類する技術。
クラスタリングAIを活用することで、隠れた購買トレンドの発見や気付きを得ることが可能となります。
この記事の内容は2025年2月に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。
採用企業様プロフィール
会社名
株式会社 ZENB JAPAN(ミツカングループ)
https://zenb.jp/
設立
2019年
代表者
濱名 誠久
所在地
本社 〒475-8585 愛知県半田市中村町2-6
東京 〒104-0033 東京都中央区新川1-22-15
事業内容
ミツカングループZENBの通信販売。人や環境への負荷が少なく、「おいしさ」と「カラダにいい」をともに叶える新しい食生活の実現を目指していきたいという想いで立ち上げた新ブランド。