儀メレオン★座談会

衣斐:ありがとうございました。では、次は、末松さんにお話を聞いていきたいと思います。普段はどのようなお仕事をしているのでしょうか?

末松:魔改造のときはエネルギー関係の機器の樹脂材料の開発をやっていました。耐久性だったり、寿命だったり、そういうものを評価して機器に搭載する仕事していました。

衣斐:今回、何かの耐久テストもしてくれましたよね。

末松:ゴムを何回も引っ張った時に、どれくらいで力が落ちるのかっていうのを確認していました。実際は最初は強すぎるので、何回か引っ張ってなじませないと安定して使えないっていうことがわかりました。

衣斐:そこからは、実験の時には何回も馴染ませてから使うようにしてたんですか?

吉水:ゴムの準備運動もチェックリストに入ってましたよね。

衣斐:糸の巻き方とかでも、いろいろと工夫されていたと思うのですが、

 

―――糸の取り回しのエピソードを教えてください。

 

末松:糸の取り回しはどの部分も大変でしたが、1号機カタパルト先端から飛ばす時にどうしても糸がダーツの軌道に影響するので、どれくらいの長さでどういう風に折りたたむのかの調整が難しかったです。1号機ダーツにつながる舌(糸)の取り回しが固まったのは本当にギリギリだったんです。搬出の前日とか。結局できるだけ回数を少なく折りたたむのが一番良かったんですけど、それでも絡みました。難しかったですね。

衣斐:シリコンスプレーとかも試してましたよね。

末松:ですね。結局シリコンスプレーが糸にとって、リンスみたいな役割で使えたので、ちょっとおまじないのように振りかけておくと絡みが治まるっていうことがわかって使ってました。

衣斐:じゃあ、髪の毛にシリコンスプレーかけるとさらさらになったりするんですか?

末松:髪につけるのはノンシリコンがいいとかうたっているのもあるので、やめた方が良いと思います。(会場、笑い)

衣斐:末松さんは、いろいろなことに挑戦してくれましたが、どこにでも手伝いに行っていたなと思います。いろいろなアイデアも試していただいたと思いますが、印象に残っている出来事を教えてください。

末松:どっちかっていうと、いろいろなことをやれたというよりも、これっていうのがなかったので、何でもやらなきゃと思ったんですよね。すごい印象深いのは最初にチームで集まった時に、一光ちゃんがみんなに自分の出来るスキルは何?って聞いたことです。

田中一光:ちょ、ちょっと、待ってくださいよ。

末松:メンバーにスキルを聞いて回って。

衣斐:お前は何ができるんだ?と(笑)。山橋さんと言い一光さんと言い、若手すごいね。

田中一光:会議の時間が変に余ったなって感じがしたんですよ。何かコの字のテーブルで会議してたんですけど、こっちサイドとあっちサイドで違う話が始まって、序盤から分かれるような空気が微妙だなって思ったんです。だったら何かみんなで話したいなって思って。急に好きな食べ物は何ですか?とかおかしいじゃないですか。だからそこで気をつかったんですけど。何?みたいな感じになってましたね。

末松:何かみんないろいろなことできるけど、プログラミングもできないし、図面も書けないので、ここでどういう役割が果たせるんだろうと思って。可能性のあるアイデアがあって、だれもやってないんだったら私が手を出そうと。ブロワーのアイデアも衣斐さんがこれはいけるんじゃないかって言ったら、じゃあしますという感じで。

衣斐:本当に、何かやれることがあれば何でも手を動かしてくれましたよね。それだけじゃなく、ピット作業もすごかったですよね。

末松:それは作業リスト取り纏めた山橋さんがすごかったでんすよね。

山橋:末松さんは、私が分からないところを聞くと、すぐこうしたいとか答えてくださったのでスムーズにリストを作れました。末松さんは絶対怒らないので安心。

吉水:怒られているのはこっちだ(会場、爆笑)。「吉水さんはこれやったほうが良いと思うんですけど」「そうっすか。そうっすね」みたいな。

衣斐:山橋さんに怒った人なんかいないでしょ。

山橋:そうですね。皆さんお優しいですから。

衣斐:怒る側だもんね。

山橋:違います。

末松さん

ブロワー方式の検討 

衣斐:次は、いよいよ大ベテランの方々からお話を聞いていきたいと思います。では、前田さんからお伺いしていきたいと思います。普段はどのようなお仕事をされているのでしょうか?

前田:水力発電機器の開発をやっております。実際の水力発電所機器の約10分の1の水車模型を組立、試験スタンドに据え付け、試験・開発をやって、お客様の立会いもやっています。開発委託の開発作業も同様にやっております。組立溶接だとか、ランナーやガイドベーンに、半田やパテ盛りをして角度や長さ厚みを変えていろいろと形状変更をするんですけど、それらの作業をやり、NC加工後の仕上げ組込みとかを何度も作業・試験を繰り返して、要求されたスペックをクリアするまでやっております。

また、海外では中国でつい最近終わったばかりなんですが、アジア大会が開催された杭州の方に水力機械研究所が有りますが、十数年前から出張して、その立ち上げぐらいから出向いて技術指導を行っておりました。そんな仕事と、時々ですけど共同研究先の大学に模型試験装置がありますが、そちらの方にも組立試験指導にも呼ばれて行っておりました。

衣斐:今回、ノコギリなどを持って仕事をしているシーンも多かったと思うのですが、普段のお仕事でも使ったりするのでしょうか?

前田:ときたまですね。自分の職場の方がやっぱり機械がちゃんと揃っています。(会場、笑い)

衣斐:メイカースペースは、誰でも簡単に扱えるデジタル工作機器しかなくて、熟練の方が扱うようなアナログ系の工具を全然置いてなくてすみません!

前田:朝、職場に直接行って、自分で加工をして、電車とかバスに長い物担いで何度も持ってきました。

衣斐:そうだったんですね!パンタグラフとか?

前田:材料が十分になかったんで、職場にあるいろいろなものを使おうと思ったんです。工具類も結構なかったので、頑張ったつもりです。

衣斐:ありがとうございました。

大木:パンタグラフの溶接も前田さんがいつのまにかやっていた。

衣斐:そうだったんですね!溶接もやっていたんですか、全然わかってませんでした。パンタグラフの溶接を行っていたという裏話は初めて知ったわけですけども、

 

―――パンタグラフの機構でこだわった機構やポイントを教えてください。

 

前田:やっぱりアルミの丸棒を固定してた樹脂材。それらを最初組んだ時にはいいんですが、だんだん伸ばしたり縮めたりすると摩耗して、最初はまっすぐになっていても何日かすると曲がったりして、修正の繰り返しです。それらを接着剤で直しておりました。それが一番大変だったんですね。

衣斐:接着剤で直してたんですか?

前田:固定がずれるんです。それを接着剤で動かないようにしたりとか。

衣斐:全然その辺の話は知らなかったので新鮮です。

安達:確かに朝行くと曲がってるってことが多かったですよね。

吉水:そんな時、「前田さ~ん」って呼んで。前田さん、ちょっと曲がってませんかねって言って。先端から見ると本当に良く分かるんですけど、曲がってるなって。

前田:私は、家が若干遠いので、早目に帰るんですが、その後皆さんが試験をやって、次の日来るともう曲がってるんです。(会場、笑い)

衣斐:でも、朝来たら曲がってるけど、次、試験するときには前田さんのお陰でもう直っているってことなんですね。パンタグラフは本当に前田さんのお陰だったんですね。

前田:パンタグラフが伸びる速度の調整をゴム紐で行ったのですが、非常に難しく、ゴム紐の種類選択、本数、張り具合の調整を何度も繰り返して。そこも大変でしたが、何とか上手く出来ました。

衣斐:ありがとうございました。では、

 

―――ベテランから見て、若者たちに伝えたい事を教えてください。

 

前田:私は、多分このなかで一番長老だったんですけど、最初はどんな事をやれるのか自分自身が心配だった。でも、各個人が技術を持っておられ各自がいろいろな作業設計をやられていて、何かうまくいってるなと感じました。最初の1~2週間は2つのチームが別々のチームで活動をやっていたのが、自然に「One Term」にまとまっているなというのが、印象的でした。途中で辞めただとか、そういう人もいませんし、遊んでいる人もいないんですね。うまく廻っているというのが一番印象的でした。

前田さん

パンタグラフの調整をする前田さん

衣斐:ありがとうございました。では、大木さんにもお話を伺っていきたいと思います。実は3年前に応募しようと思っていた時は、大木さんが研究開発センターの機器試作部(以下、機器試作部)の部長だったという事もあり、当時から大木さんにいろいろと相談させていただいておりました。そんな大木さんが、まさか開発メンバーとして応募いただけるというのは、ビックリして。

 

―――どういうモチベーションで参加されたのか教えてください。

 

大木:あの時と今とでは全然立場が違うけど…。あの時考えてたことは家電チームの方にいる機器試作部のメンバーたちが、どのくらいちゃんとやるかとか、どんなことを学んでどんなふうに成長していくかとかでした。僕もうそんな立場でもないんだけど。そういうところを見届けたかったというのが一つ。もう一つは手伝えることがあればと。元々参加しようと思った時は機器試作部のサポートしようかなと思ってました。最後に一回ぐらい機械設計をしてみたいなというのはあったので、そういうところでは満足してます。

衣斐:なるほど。土台とか照準についても大木さんにとりまとめていただいたと思うのですが、

 

―――土台や照準の工夫やこだわったポイントを教えてください。

 

大木:皆さんが一生懸命いろいろなことをやっているんだけど、全体を見ている人って実はいるようでいないので、抜けてるところが、いろいろ細々あると思っていたのね。朝、僕と前田さんが一番最初に来るんだけども、朝来たら細かいことちょこちょことやって、趣味でカタパルトをやってみたいなことをして。たまたま土台を担当する人がいなかったから。で、土台を作って全体をみたら照準器ないと駄目だなと思ったんで、その辺に余っている部品をかき集めて、適当にくっつけて照準器を作ってみたりだとか。あとはこう集会の時に嫌なことを言うのが僕の役目だなとか思ってたんだけれども、たまたまみんなすごく良くやったので、あまり嫌なことを言わずに済んだ。皆さんすごかったなと思っています。

衣斐:大丈夫ですか?皆さん、嫌なこと、言われてないですか?(会場、笑い)

大木:一番言うのが嫌だったのは、武山さんにロープウェイをそろそろ諦めないといけないんじゃないかなっていう話をちょっとしたよね。ただね、吉水さんがすごいファインプレーをして。一番ファインプレーだったのは本人そう思ってないんだけど、自動照準器、作ったでしょ?あれがすごいファインプレーだと僕は思っている。もしあれができていなかったら1週間ぐらい前かな?にパンタグラフ伸ばすやつ、「これで本当にいくのか」という話を多分したことになったと思う。でも、自動照準器があったからどうにでもなるなという気がしたんです。

衣斐:自動照準機能は、目玉機能でしたよね。じゃあ、大木さんにも前田さんと同じ質問になるのですが、

 

―――ベテランから見て若者たちと活動してどうでしたか?

 

大木:今回集まったメンバーは特別だったような気がしていて、モチベーションも高ければ能力も高い。思っていたより、すごく皆さん素晴らしかったなと。全体をちゃんと見ている人がいないにもかかわらず、自己組織的にいろいろなことが進んでいて、だから「なんでこんなことが行われたのか」というのはとても興味があります。やってても分からない。なぜか成立している。べいかりあすは多分、わりと伝統的な、プロジェクト全体を見て、ここにこんな機能があってっていうのをかっちり作りこんでやっていらっしゃったみたいなんだけど、こっち側は本当にそうではなくて。寄ってたかってなんとなくやって、でもなぜか成立している。とても奇跡的なことが行われたと思っています。で、これをもし体系化というか、整理して再現できるような何らかのマネジメントができるようになれば、何かの財産になるような気がします。

衣斐:実は5人とか6人とかで役割分担して開発するハッカソンみたいなところでは、それぞれが領域多少かぶりはするんですけど、目的に向かってそれぞれが動くというのが成立しているっていうのは、実体験で分かっていました。でも、この大人数でそれが成し得るかどうかっていうのは、今回プロジェクトを始める上で肝になるなって思ってました。

なので東芝版のデザイン思考であるカスタマーバリューデザインのなかにある、心理的安全性を上げて、みんなで意見を言い合って、100%参加して、みたいないろいろな共創のためのマインドセットを伝えていったりもしました。でも、知識だけあっても、実行できるとは限らないので、皆さんの適性や、菅沼さんのリーダーシップとか、いろいろなものがマッチして、自己組織的に動くことができたんだろうなって思いました。

大木:集まった人が良かったんだとは思うんだ。なぜか知らないけど我が強い人が…、本当は我が強い人はいたのかもしれないけど、出さなかったよね。俺が俺が!っていう。

衣斐:いや、結構みんな、強いでしょ(会場、笑い)

吉水:大木さんが一番強い

衣斐:確かに大木さん基準で行くと、皆、我が弱かったかもしれないですね。あと、大木さんの強い印象の象徴ともなったかもしれない、

 

―――フルメタルカタパルトへの想いがありましたら教えてください。

 

大木:あれ楽しかったですね、作っていて。吉水さんが作ったパンツのゴムのカタパルトを完全に再現することがテーマで、結果的にできていたから、私の設計は正しかったってちょっと自分の中で満足です。

3週間目か4週間目で伸ばすってことになったから、僕はあれ以上カタパルトをやる動きはあんまりなかったんだけど、もし伸ばすという選択がなかったら僕達が取れる選択肢は飛ばすことだけなのね。2週間目ぐらいから考えてたんだけど、パンゴムで行くんだったらおそらく破綻するだろうと。なぜかというと、パンゴムを3つ並べて3つ同じにはならない。再現性は恐らくないかなと思ってて。じゃ往生するだろうと思って。そこで必要なのが何個作って同じものになるというのを確保しておかないといけないなというのが裏のテーマでした。

衣斐:なるほど。フルメタルであれば、再現性が高いものが複数作れるから、バックアッププランの一つとして挑戦されていたんですね。

大木:もし駄目だったらどうするかみたいなことを延々と考えていて。

大木さん

儀メレオン★が載る土台

フルメタルカタパルトを作る大木さん

衣斐:ありがとうございました。そういった形で、今回、いろいろなアイデアはあったと思うんですけれども、最終的にはまとまってすごい良かったかなと思います。

大木:スイスイ会チームのみんながいろいろなぶっとんだアイデア出してて。あれがすごく良かったと思う。それが全体の雰囲気を作ったよね。マジかよって思ったり、本当はそんなことできるわけないなと思うようなものもあった。

安達:一番「まじかよ」って思ったのは、どんなのですか?

大木:いろいろな意味があるけど…。一番、まじかよって思ったのは、やっぱり森屋さんの電磁コイル案。

衣斐:あ~、あれね。最後までいたよね。(会場、笑い)

安達:最後まで、アンダーグラウンドで開発を…。

大木:あれがもうちょっとモノになってたら、すっごくおもしろかったのにね。馬鹿なこと僕大好きなので。あと、末松さんが一生懸命やってらっしゃったけど、ブロアーでぐわっと持ち上げて、穴まで開けて制御しようとした、あれもどうかしてるなと。(会場、笑い)

衣斐:あれ、結構いいアイデアだと思ったんですけどね。

末松:あれ、面白いですよ。

大木:やってて、絶対ものにならないなと思いながらやってらっしゃったと思うんですけど、

衣斐:まじか!?

大木:それでも、最後までというか、そこそこやったよね。なので、非常に良いメンバーが。

末松:おかしいなとは思ってたけど、できたら面白いなとは思ってました。

衣斐:なるほど~。でも本当にいろいろなプロトタイプを試すことで、この制約の中では本番に使った仕組みが最高のソリューションだろうって自信を持って進められたと思う。なので、いろいろな試すところで使われた、伸ばす機構の残骸にも意味はあったんじゃないかと思います。ありがとうございました。

じゃあちょっと、千頭さんはブロワーアイデア推してくれていた気がするので、千頭さんに話を振っていきたいと思うんですけど。

千頭:推してました!

衣斐:では、今回、デザイナーとして参加いただいた千頭さんからお話を伺っていきたいと思います。

電磁コイル案のプロトタイプ