儀メレオン★座談会

衣斐:玩具チームの皆さま。「魔改造の夜」の出場、お疲れ様でした。家電チームと同様、半分くらいのメンバーに集まっていただき、地上波では放送されないような開発の裏話を聞いていきたいと思います。それでは、最初に、玩具チームのリーダーとしてプロジェクトを推進いただいた菅沼さんからお話を伺いたいと思います。まずは、菅沼さんが所属する部門について教えてください。

菅沼:東芝エネルギーシステムズ株式会社は、東芝グループの中でエネルギーソリューション事業を担う会社として、「電気をつくる、おくる、ためる、かしこくつかう」ための機器・システム・サービスを提供しており、電力の安定供給と環境調和の両立を実現し、将来の世代まで安心して暮らせる社会を築くことを目指しています。

衣斐:菅沼さんは、普段はどのようなお仕事をされているのでしょうか?

菅沼:私自身は入社以来、原子力を安全に運転するための保全技術開発、具体的には原子炉内の構造物の溶接部にき裂が発生・進展することを予防するためのレーザーピーニングという技術の遠隔作業装置開発や、福島第一原子力発電所の調査ロボット開発をしていて、研究開発だけでなく、実際に現場適用まで対応することをやってきました。

今はマネージャーとして、再生可能エネルギーの風力発電とか水力発電向けに自動化、省人化というキーワードで、ドローンとかロボットを使って人の作業をいかに減らすかといった課題に取り組んでいます。

衣斐:衣斐:現場の開発、マネジメント両面で活躍されているんですね。今回、

 

ーーーリーダーとして参加いただきましたが、どのような想いで参加したのか教えてください。

 

菅沼:今回、非常にクリエイティブなお題が出て、クリエイティブな人たちが社内から集まってくると聞きまして。すごい人たちが集まった時にどれだけすごいものができるか、それを見てみたいという想いで参加しました。いろいろなプロジェクトを今まで業務の中でやってきていて、短期間にチームで何かを作り上げるという経験は何回かありましたので、その経験を活かして、すごい人たちが、すごいものを作り上げるのをサポートできたらいいかなと思いました。

 

―――アウトプットの方針を決める瞬間がありましたが、その時はどういう心境だったのでしょうか?

 

菅沼:言い方が難しいのですが、非常に他人事でした。

衣斐:まじ!?(会場、爆笑)嘘でしょう!?

菅沼:要は、私が決めなくても決まっていったんですよ。私が行ったのは、皆で議論する全体会議のタイミングを間違わずに開いたところです。

伸ばして射出する案と、7.5m手前から射出する案というのはそれぞれどういう課題があって、どこまでできているのか整理する議論を全体会議でやったんですね。私はそれを開いただけで。皆さんの意見を引き出すことを意識していました。結果的に皆さんがそれぞれ主張をして、それを裏付けるグラフとかデータが示されディベートみたいな感じで議論が起きて。全員納得して自然と決まっていったと思います。

衣斐:他人ごとという言い方をされてましたが、全体の意見を正確に引き出して、今出ている材料の中で決めていったという事実は、リーダーとしての一つのあり方だと思うんですよね。

菅沼:チームワークを意識していて、私は「自己組織化」と言っていたんですけれども、チームが勝手に成長していくという、それは何かというとみんなが危機感を持った時に責任感が生まれて、それぞれがリーダーシップを発揮するとういうチームです。それで、私がちょくちょく煽っているという構図です。若干わざとではあるんですけど。煽るというのはその人に押し付けているわけじゃなく、これってどこまでできるとか、いつまでにこれやらなきゃねって、雑談の中で意識的に確認していく感じです。

それと心理的安全性ですね。自由に発言できるような心理的安全性があったんじゃないかなというのと、それぞれ皆さんが自分で残り期間を考えて、まだ誰も手をつけていないから、ここやらなきゃなとか気づいて自ら積極的に行動できる場になっていました。そういうチームが完成していたのを認識できたので、まぁあとは任せていたって感じですかね。

衣斐さん

菅沼さん

衣斐:菅沼さん、ありがとうございました。それでは、その菅沼さんに、いろいろ、任された吉水さんに話を聞いていきたいと思います。まず、吉水さんと言えば、パンツのゴム(通称 パンゴム)を使ったカタパルトの開発が印象的でしたが、

 

―――通称パンゴムにかける想いについて教えてください。

 

吉水:パンゴムへの想いは特にないです。(会場、笑)とりあえず最初に野沢さんがパンゴム買ってきて、ちょっと飛ばしてみたら何か2、3mくらいピュンって飛んだんですよね。それで、これでいけるなって思って。

そんな中、みんながいろいろなアイデアを出して。これは形になるだろうなっていうのや、これはうまくいかないだろうなっていうのは正直、心の中ではあったんですけど、みんなはそれを楽しんでやっているのがよくて。だから、一番オーソドックスなアイデアなんですけど、パンゴムでみんなのバックアッププランみたいなことになればいいなとは思ってやってました。

衣斐:バックアッププランが本命の一部になったのも吉水さんが最初からずっとパンゴムを続けてくれていたからですね。その後、パンタグラフで伸ばすという案と合体させていくことになりましたが、印象的だったのは、揺れがすごかった時のことだったと思います。

 

―――揺れるパンタグラフを、いろいろな技術を組み合わせて解決したエピソードを教えてください。

 

吉水:そうですね。まず7.5m部伸ばしきれればそれはそれで良かったんですけれど、やはり重量とコストと強度の問題からどうしても5mぐらい伸ばすのが限界だなっていうのがあって。で、伸ばすとやっぱり、どっか折れちゃうっていう問題もあるので、できるだけ軽く作ってあげなきゃいけなかった。で、軽く作ると伸ばした時に先端がびょんびょんびょんってずっと揺れ続けてしまうんですけど、射出するには少しの揺れも許されないっていう問題がありました。で、方法をいろいろ考えました。結局最後2つ案を考えて。一つは制御技術の話なんですけど、揺れているんだから自分の振動をある程度予測してあげて、揺れの中でド真ん中のタイミングで射出するということをまず一つ考えました。

衣斐:そんなこと考えていたんですか!?

吉水:はい。それでプログラム組んで、これでいけるかなって思ったんですけど、たまたま自分の研究で、洋上風力発電関係で、海の上に浮かぶものの揺れを抑えるっていう技術開発をやっていて。そこで「動吸振器」という技術があるんですけど、応用できるかなと思って試しに先程言ってたパンゴムと、ボルトを適当に先端に付けてやってみたら恐ろしいほど揺れが収まって。

動吸振器って何かっていうと揺れやすい構造物にバネとマス(質量のある重り)を付けてあげると、そいつが振動して揺れが減衰して、振動が抑えられるというものなんです。揺れの周波数とか考えていろいろと設計して、最初はコイルみたいなちゃんとしたバネですね。全然うまくいかなくて。すごいゆっくりな揺れなんですね。ゆっくりな揺れってどうやって抑えるかっていうと、できるだけマスを重くするか、柔らかいバネでゆっくり動かすか。それのどっちかなんですけど、先端のマスを重くするのは難しい。そうすると、柔らかいバネしか方法ないなって思った時に、パンゴムしかないなって。

衣斐:おお!ここでもパンゴムですか?

吉水:もう本当にあれがベストマッチで。あとあれの長さを変えれば周波数変わるので、マスとパンゴムを使ってバッチリ押さえられるようになったかな。で、結局動吸振器なしだと30秒以上揺れてるんですけど、あれがあると10秒ぐらいかな?完全に制振できることが分かって良かったと。

衣斐:他に印象に残ったエピソードがあれば教えてください。

吉水:印象に残っている部分では、やっぱ最後の数日、菅沼さんが熱を出していなくなったことですね。あれ、なんか予告があったんですよ。最後の1週間ぐらい前に、菅沼さんが終バスの中で「僕ギリギリになると体調悪くなるんでいなくなるかもしれないです。」って言っていて。

衣斐:なんのフラグ立ててるんですか(笑)

吉水:あの時はすごい焦りましたけど、でも僕だけじゃなくてみんながそれぞれ自分の役割を分かってたんで、菅沼さんも多分心置きなく休めたのかなと思います。

でも、あの時の最後の搬出前の試験の時は、まじで心がヘタってヘタって大変だったんです。あんまり見せなかったかもしれないですけど、やっぱり1点しか当たらなかったり、通し練習で、1発目の矢がこう展開の衝撃でぽろんって落ちた時は絶望の状況でした。そんな時でも衣斐さんとかが心強く応援してくれたり、掛け声をしてくれたおかげで何とかなったかなっていうのが印象的です。

衣斐:そんな中、最終的には、1発目で(20点の)トリプルに当てる機能が作れたのは本当にすごかった。

吉水:そこはすごい自信を持っていいかなって思います。2試技目にチューニングして合わせるという方法もあったとは思いますが、でも1発目で20のトリプルを当てるという機能を作れたことは、やって良かったかなって思います。

 

吉水さん

パンゴム式カタパルト初期型 

パンタグラフの先にぶら下がる動吸振器

衣斐:では、次は、儀メレオン★の舌についてもいろいろと開発されていた野沢さんにお話を伺っていきたいと思います。

 

―――儀メレオン★の舌の機構について詳しく教えてください。

 

野沢:まず大前提として、レギュレーション上、舌が途中で切れたり、ダーツが刺さった場合でも、床に舌がついてしまったらアウト、0点というのがあったので、これは絶対避けなきゃいけないなと思っていました。ダーツを発射して的に当てる方は、吉水さん、末松さんをはじめとして射出機構を頑張って考えていた人たちが何とかしてくれるだろうとは思ってはいたんですけれども、舌のところがノーケアだったので、そこを頑張りました。最初の頃は糸で舌を構成していたんですけれども、絡まってダーツの矢と共になかなか舌が出てこなかった。たまたま網引さんが持ってきたカセットテープを舌としてダーツに取り付けたら、テープがきれいにほどけてダーツの矢が飛んでいったんで、よし、これならいけるんじゃないかということで、これで行こうと思いました。

衣斐:カセットテープは何で気づいたんですか?

網引:不思議なことに置いてあったんです。(会場、笑い)たまたま、机の上にカセットテープが置いてあって。

衣斐:え?誰が持ってきたんだろう。

安達:西川さんが、舌のために持ってきてたみたいです。

衣斐:そうだったんですね!不思議の謎が解けましたね。カセットテープの舌が最後まで使われましたが、その

 

―――舌が垂れないようにする機構について教えてください。

 

野沢:硬いもので止めてしまうと、テープを切ってしまったりする場合があるので、ブレーキパッドみたいにソフトタッチで止められる方法はないか考えていました。家で皿を洗おうとスポンジを手にしたときに、これは使えるんじゃないかって、本当に思いつきなんですけど。それでやってみたらうまくいってしまったので、そのままスポンジを採用することになりました。本当に思いつきなので、何か計算したとかそういう事ではないんですけれども。

衣斐:界隈ではソフトロボットと呼ばれる、最先端の技術だと伺いましたが、

 

―――ソフトロボットについて詳しく教えてください。

 

菅沼:柔らかいのがすごいってわけじゃなくてですね。その形に適応している。モーターは1軸しかないですけど、1軸以上の動きをしているんですね。

安達:私が覚えているのは、夕方ぐらいに話を聞いたら「今日一日スポンジを切って終わった」って言ってたことがありました。

衣斐:そんなに作るの大変だったんですね?

安達:朝来て、スポンジを切って、形を調整して、試して、もう1回調整してを、ずっと一日やってたみたいです。

衣斐:やっぱりすごいロボットだったんですね。でも原価的にはすごく安かったと聞きましたが。

野沢:スポンジ部分は1個1円くらいだったので、予算を抑えるという意味では貢献できたと思います。

衣斐:素晴らしいですね。他にも、いろいろな計測や実験もされてたかと思うので、

 

―――計測や実験のことについて教えてください。

 

野沢:まず藤牧さんと一緒に、ダーツのスピードを測る速度計をつけました。どれぐらいの速度で飛ばせば、どれぐらい飛ぶのか、どれぐらい高さが出るのか、だいたい計算は出来ていたのですけど、本当にそれが合っているのかというのを確かめる術がなくて。ハイスピードカメラとかいろいろ準備して頂きましたが、速度計ができたお陰で結構簡単に速度が測れるようになりました。開発の序盤でダーツの弾道計算用のエクセルを作りましたが、計算が合っているか確かめたかったので、実際に確かめられるようにしました。

衣斐:速度計での計測結果と計算は合ってたんでしょうか?

野沢:大体合っていました。空気抵抗とかあるのでちょっとはズレるんですけども、大まかな射出速度のアタリがついて、これぐらいで飛ばせば、ここに当たるんじゃないかっていうのは分かりました。速度計が動いたことは、ちゃんとダーツの矢を的に当てるという意味で大きかったんじゃないかなって思います。

衣斐:速度計の原理について教えてください。

野沢:光のセンサーを使っています。発光部と受光部からなる1対のセンサーを2点つけて、そこをダーツの矢が通過したときに、どれぐらいの時間でこの2点間を通過したかで、速度を計算して出していくっていう感じですね。

衣斐:むちゃくちゃ賢いですね。

野沢:それは主に藤牧さんがやっていました。アイデアは二人で考えたんですけれども、実際にやったのは藤牧さんでした。

吉水:あれは便利でした。それまで高速度カメラで撮影した動画から、ダーツが通過する画像のピクセルをコマ送りしていって、10コマでこの長さだから何m、って結構面倒くさかったんですよ。速度計でやってくれたから、打ったら速度が何mってパッとでるんで超便利でした。

安達:安定性とかそれで分かりますもんね。

衣斐:ずっと最後まであれ活躍してたんですね。

吉水:そうですね。あれで速度のばらつきがどんくらいかってみましたから。

衣斐:ありがとうございます。では、次に、若手としてソフトウェアを担当した、田中一光さんに話を聞いていきたいと思います。

野沢さん

食器洗いスポンジ製ソフトロボット