インフラ機器のメンテナンスを最適化
私はインフラ機器を対象とした異常検知の技術に取り組んでいます。機器のメンテナンスといえば、これまで定期メンテナンスが広く行われてきました。定期メンテナンスは予防的に設備を守るうえで有効ですが、例えば3ヶ月に一度などの頻度で、作業員が必ず現場に行く必要があります。また、故障が発生した場合には設備停止による影響が大きく、追加の対応が必要となります。そこで注目されているのがCBM(Condition Based Maintenance、状態基準保全)と呼ばれる、機器の状態に応じたメンテナンスです。機器の状態をデータから読み取っていくことで不具合を探知し、もうすぐ壊れそうな部品に対して先回りして交換するなど、メンテナンスの計画を最適化していきます。そこで私は、CBM向けに機器の状態を診断するためのAI技術の研究に取り組んでいます。基本的には機器のログデータをAIに解析させるのですが、私が力を入れているのは、現場の作業員の方々の持っている知見をうまくAIに教えてあげることで、異常を検知する能力を向上させる部分です。例えばベテランの作業員は、ある数値を見て特定の部品が摩耗しているのではないか、といったことがわかります。このような過去の経験から得られた知見をAIに教えて、育てていく取り組みを進めています。
保守の熟練者が簡単な操作でAIを教育
CBMを進めている対象は、自動改札機や券売機などの駅務機器です。東芝グループ内の保守会社と連携して、日々吸い上げられていくデータに対する『このデータが怪しい』といった現場の意見をAIに学習させる技術を開発しています。その入力作業がなるべく負担にならないように、現場の担当者が簡単に使えるようなアプリを作っています。吸い上げられたデータ一覧の中から異常に関係の深いデータを選別してもらう作業をアプリ上で行ってもらい、それを即座にAIに反映しています。会社に入るまでは駅務機器をテーマに研究をするとは想像もしていませんでしたが、現場の方々と話をし、駅務機器の保守という自分が今まで触れてこなかった世界を知る体験は、面白いものでした。学生時代の研究室では画像処理や自然言語処理、AIに取り組んでいました。対象は異なりますがコアとなる技術は共通しているので、学生時代の知見も生かしながら仕事を進めています。自分はAIをやってきたからそれにしか興味がないという姿勢より、AIをどのような場面で使うかという、使う先のことに興味を持つことが大事だと感じています。今では駅で自動改札をメンテナンスしているところに出くわすと、『あ、いま開けているな』と気になったりもします。
ある出勤日のスケジュール
08:30:出社
- メールチェック
- 予定確認
09:00:個人作業
- プログラミング、実験、報告資料作成、論文調査
10:00:部門連絡会
- 部門全体への連絡
11:00:部門内勉強会
- お互いの取り組み紹介
12:00:昼休み
- 同じ部門の人と食堂へ
13:00:個人作業
- プログラミング、実験、報告資料作成、論文調査
16:30:退社
- 子供の世話があるため、出社日は早めに退勤する
ある在宅勤務日のスケジュール
07:45:勤務開始
- メールチェック
- 予定確認
08:15:個人作業
- プログラミング、実験、報告資料作成、論文調査
12:00:昼休み
- 昼食、子供の世話
13:00:勉強会
- 勉強会(国際会議の報告や論文紹介など)を聴講
14:00:個人作業
- プログラミング、実験、報告資料作成、論文調査
15:30:打ち合わせ
- 関連部門と進捗報告や方針相談・議論を行う
17:00:方針整理
- 打ち合わせ内容を踏まえて、今後の方針を整理
17:30:勤務終了
- 仕事が終わり次第、子供をお風呂に入れる
使う立場から感謝の言葉をもらえる仕事
入社半年でこのテーマを担当することになり、3年ほど経ったところで一旦の区切りになる予定です。博士課程にいた頃は、研究といえば論文を書くことがゴールという世界に生きてきたので、正直なところアプリを組むのもよく分からないし、もっと他のことがやりたいと思うこともありました。でも動くものを作って現場の方々から感謝をされるようになったことで、自分のしている仕事の価値が理解できました。将来は研究テーマをリードできる存在になりたいと思っています。学生の時から1つのことを深めるというよりもいろんな所をかじっていくことが多く、画像処理の研究室に所属しながらテキスト解析をやったり、入社してからはログデータに関わり、最近ではテキスト解析に絡んできたり、さまざまなテーマを行ったり来たりしています。それを自分の強みとして考えようとしています。一人でできることには限界があり、それよりも社内にはいろいろな専門の人がいるので、そのような人たちと協力して大きなテーマに取り組むといったことができるようになりたいと思っています。
学生の皆さんに一言
『専門家でない人に、自分の研究を伝えられるか試してみてください。』
学生であれば有名な国際会議に論文が通ることが正義だったりもしますが、会社ではどんなにすごいものを作っても、技術の価値を事業部の人に理解してもらえないと実用化されないと思います。そのような訓練をする機会が学生の時点ではあまりなかったと思っていて、それを意識しておくだけでも有効だと思います。たとえば自分の研究テーマを両親に紹介してみるなど、畑違いの人とコミュニケーションを取ることが大事だと感じています。

