概要
当社は、マイクログリッドの安定稼働を実現するためにGFMインバーター(Grid forming inverter)による系統安定の効果を実機検証しました。マイクログリッドは、大規模発電所の電力供給に頼らず、再生可能エネルギー(以下、再エネ)を活用し地域単位で電力の自給自足を可能にする分散型エネルギーシステムの一種です。電力は出力や需要が急激に変動すると、普段安定している系統周波数が急激に変動し、保護リレー(*1)が動作し電力供給が止まり停電につながることがあります。特に、再エネの割合が高まると系統周波数の変動は大きくなるため、マイクログリッドの普及には、系統周波数を安定的に保つ技術の開発が求められています。
当社は、本年3月、系統周波数が急激に変動した際、インバーターから電力を出力することで擬似的な慣性を供給し、配電系統内の系統周波数を維持するGFMインバーターを試作し、模擬的に構築したマイクログリッドに適用した場合の効果を実機検証しましたが、今般、再エネを実際に使用するなど、より実環境に近い形で実機検証を行い、太陽光発電にGFMインバーターを搭載した場合に、系統周波数の低下が約3割抑制されることを実証しました。
当社は、本成果の詳細を、2022年9月に開催される電気学会 電力・エネルギー部門大会および2022年10月に開催されるECCE2022(2022 IEEE Energy Conversion Congress and Exposition)で発表する予定です。
また本研究は、当社が、環境省が2019~2021年度に実施したCO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業の一環として、「変動性再生可能エネルギーの活用に向けた仮想同期発電機概念に基づく連系用インバーター制御技術の開発」を受託し、パシフィックパワー株式会社および環境エネルギー技術研究所株式会社、国立研究開発法人 産業技術総合研究所、パシフィックコンサルタンツ株式会社と共同で実施したものです。
開発の背景
日本政府は、2020年10月、「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、脱炭素社会の実現に向け、太陽光発電や風力発電などの再エネの主力電源化を進めています。2021年10月22日に閣議決定された第6次エネルギー基本計画においては、「地域における再生可能エネルギーやコージェネレーション等の分散型エネルギーリソースの活用に向けては、地域における地産地消による効率的なエネルギー利用、レジリエンス強化等にも資するマイクログリッドを含む自立・分散型エネルギーシステムの構築等が期待されている。」と言及されており、災害等による大規模停電時には自立して電力を供給できるマイクログリッド(図1)への期待が高まっています。また、海外では、環境問題への対応に加え、アジア・アフリカ各国の電力の供給網が整備されていない地域(オフグリッド地域)で、再エネと蓄電池を活用したマイクログリッドを構築して電力を供給するプロジェクトが相次いでいます。2015年時点で全世界のマイクログリッドの容量は12,000MWを超え(*2)、今後さらなる拡大が見込まれています。
従来の基幹電力系統では、需要変動や再エネの出力変動が発生した場合でも、併用している火力発電等で使われているタービン等の回転体が持つ慣性力(状態を保とうとする力)が系統内の周波数の急激な変化を抑制するため、電力の安定供給を保つことができます。しかし、今後再エネを主力電源とし、火力発電などの大型タービンを用いた電源の割合が減少すると、回転体による慣性力が不足し、電力の安定供給への影響が懸念されます。慣性力不足の対応策の費用試算では、基幹電力系統の再エネ比率が5~6割になった場合、年間51億円から128.9億円が見込まれています(*3)。
また、基幹電力系統と比較して小規模なエネルギーシステムであるマイクログリッドでは、太陽光発電や風力発電が主力電源として想定され、天候に応じて発電量に変動が生じる一方で大型タービンを用いる火力発電所との接続も見込めないため慣性力不足による電力供給の不安定化がより顕著になることが指摘されています。マイクログリッドの安定稼働には、慣性力不足を補い、電力供給を安定化する技術および、実証を進め早期に実用化につなげることが不可欠となっています。
本技術の特長
そこで、当社は、電力供給や電力需要の変動が発生した場合でも、疑似的な慣性力を供給し、配電系統内の系統周波数の低下を抑制するGFMインバーターを試作し、その効果を実機検証しました(図2)。当社が試作したGFMインバーターは、従来の慣性力がないGFL(Grid following inverter)インバーターの制御アルゴリズムの代わりに、新たな制御アルゴリズム(*4)をインバーターに実装することで、再エネの出力や電力需要が急激に変動した場合に、GFMインバーターから電力を出力し疑似的な慣性力を発生させ、系統周波数を維持します。これにより、系統周波数の急激な低下を瞬時に抑制し、安定的な電力供給が可能になります。
実機検証においては、当社が試作したGFMインバーターと、内燃機関のディーゼル同期発電機を並列運転させる構成を取り入れた独自の評価手法により、実環境に近いかたちで系統への負荷を発生させ、定量的な効果検証を可能にしました。
これまでに、当社は、系統周波数50Hz(東日本で使用されている系統周波数)、再エネ率4割を想定し、模擬マイクログリッドとして、GFMインバーターが搭載された蓄電システム(定格20kW、電池容量14.9kWh)5台、内燃機関のディーゼル同期発電機(定格125kVA)1台、電力負荷を変動させる負荷試験装置2台を組み合わせて、蓄電池の放電時における効果検証し、その成果について発表しました(*5)。本検証では、負荷変動が50kWの場合の系統周波数の低下を2.4Hz(50.0Hzから47.6Hz)から0.6Hz(50.0Hzから49.4Hz)と7割抑制されることを実証しました。東日本における系統周波数の変動に伴う電力供給停止の周波数閾値は48.5Hzとされており(*6)、この実機検証は、この閾値を下回らない状態を確保し、停電を回避した安定的な電力供給の実現を実証するものです。なお、ディーゼル同期発電機と並列運転による実機検証は世界初(*7)となります。
今回、当社は、GFMインバーターの効果をより実環境に近い形で検証するために、GFMインバーターを搭載した蓄電池を使用せず、GFMインバーターを搭載した太陽光発電(定格20kW)1台とディーゼル同期発電機(定格125kVA)1台のみを使用した状態での実機検証を行いました。本検証において当社は、負荷変動が10kWの場合に、系統周波数の低下を1Hz(50.0Hzから49.0Hz)から0.7Hz(50.0Hzから49.3Hz)と約3割抑制されることを実証しました(図3)。
また、蓄電システムと組み合わせた構成(*8)において、蓄電池の放電時だけでなく充電時においても、系統周波数の低下を2.2Hz(50.1Hzから47.9Hz)から0.6Hz(50.2Hzから49.6Hz)と7割抑圧できる効果も検証しました(図4)。このことは電気自動車(EV)の充電において系統安定に貢献できることが期待できます。
さらに、マイクログリッドでの使用が想定される内燃機関の同期発電機等との並列運転に適した慣性力を選定することで、GFMインバーターの瞬時的な負荷を22kWから16kWと3割低減できることなどを検証しました(図5)。
今後の展望
日本政府は、2050年までに脱炭素社会を実現するために、国と地方が協働・共創しながら施策を展開していくために「地域脱炭素ロードマップ」を策定し、「2050年をまたずに、脱炭素で強靭な活力のある地域社会を全国で実現」する方針を示しています。当社は、マイクログリッドにGFMインバーターが早期活用されることを目指し、GFMインバーターによる系統安定の実証を進めてまいります。
*1 電力系統または電力設備などの異常状態を短時間で検出し、異常が発生した箇所を他の健全部からすばやく切り離すよう指令を出す装置
*2 国際標準化IEC TC8設立趣旨 IEC - TC 8 Dashboard> Scope
*3 電力広域的運営推進機構 調整力及び需給バランス評価等に関する委員 第64回調整力及び需給バランス評価等に関する委員会 資料3「「再エネ主力電源化」に向けた技術的課題及びその対応策の検討状況について」(2021年8月23日)
*4 “エネルギー貯蔵で構成される電力システムを可能とするインバータ制御方式の提案”,電気学会論文誌B,Vol.138,No.11,pp854-861,2018.
*5 2022年3月にIEEE accessにて発表
https://ieeexplore.ieee.org/document/9755962
*6 電力広域的運営推進機構 発電事業者の皆さまへ 既連系発電設備における周波数低下リレー(UFR)の整定値変更のお願い(2019年5月7日)
*7 2022年4月当社調べ。
*8 GFMインバーターが搭載された蓄電システム(定格20kW、電池容量14.9kWh)5台、内燃機関のディーゼル同期発電機(定格125kVA)1台、電力負荷を変動させる負荷試験装置2台を組み合わせ