橋梁床版内部の健全度を解析・可視化する技術を福岡高速で実証

-橋梁の老朽化対策のデジタル化を推進し、橋梁補修の効率化および社会インフラの長寿命化に貢献-

2022年7月12日
株式会社東芝

概要

当社は、外観からは分からない橋梁床版内部の健全度を解析し可視化する技術を開発し、その効果を福岡北九州高速道路公社(以下、福岡高速)で実証しました。本技術は、車両が橋梁を走行する際に路面で発生する微弱な波動を床版下面に設置したセンサで取得・データ化し、そのデータを解析することで、従来の目視点検では確認できなかった内部の損傷をデジタル化し、その損傷度合いを解析して健全度マップとして可視化します。本技術を用いることで、橋梁内部の状態に応じた補修計画策定や作業の実施が可能となります。橋梁の老朽化対策のデジタル化を推進し、橋梁補修の効率化および社会インフラの長寿命化に貢献します。
当社は、福岡高速2号線における床版補修において、本技術の実証を行い、橋梁内部の状態の評価の妥当性を確認しました。
当社は、今後も福岡高速との実証を進め、事業会社である東芝プラントシステム株式会社とともに、2024年度の道路事業者向けのサービス提供の開始を目指します。

開発の背景

社会インフラの長期的な安定稼働のため、インフラ保全の重要性が高まっています。特に国内では、高度経済成長期に整備された道路、橋、トンネルなどのインフラ構造物の多くが建設後50年を迎え老朽化が急速に進んでいることに加え、作業員の高齢化や生産年齢人口の減少などによる人手不足といった問題が顕在化しています。また、2012年に山梨県で発生した笹子トンネル天井板崩落事故をきっかけに道路法が改正され、近接目視による5年に1回の点検が義務化されるなど、安全で効率的なインフラ保全が求められています。
今般、当社は橋梁の補修の効率化を実現し橋梁の長寿命化に貢献する技術の開発に取り組みました。老朽化した橋梁は架け替えなどの大規模な更新を行う他、多くは補修により長寿命化が図られます。橋梁のコンクリート床版を補修する場合、目視点検により外観からその劣化程度を判断し、補修範囲や工法が決められますが、内部の変状による劣化の進行は外観から分かりにくく課題となっていました。また、メリハリのある保全計画を実現するための優先度付けや、補修そのものの効果を把握するのが難しいことも課題となっています。
補修に当たり、内部の変状を加味した補修範囲・工法の決定や、優先順位に基づいた保全計画の策定ができれば、より適切な補修が可能となります。また、補修後、内部の損傷の改善状況を把握する手段があれば、補修漏れの見逃しなどによる再補修の手間がなくなり、効率的なインフラ保全を実現できます。

本技術の特長

そこで当社は、車両が橋梁を走行する際に路面で発生する微弱な波動を利用し、外観から分からない橋梁床版内部の健全度を解析して可視化する技術を開発しました。本技術では、まず、車両走行の障害とならない床版下面に複数センサを設置します。設置したセンサで、路面から床版内部を伝わる波(弾性波)を計測し、独自のセンサーデータ解析技術を用いて床版の健全度を解析します。これは、床版を伝わる弾性波の震源分布を解析し、対象エリアの震源の密集度により健全度を解析するものです。こうした解析により、計測範囲内の健全度をマップで表示することが可能です。(図1)
本技術は具体的に、「コンクリート補修時の対象エリアの抽出」や「コンクリート補修効果の可視化」などに活用できます。「補修対象エリアの抽出」は、補修が必要な箇所を特定することで、より適切に補修することができます。また、「補修効果の可視化」は、補修効果を施工後に確認することで、補修漏れの見逃しなどを防ぎ、将来的な補修費の抑制につながります。
当社は本技術を用いて、2021年8月、10月および2022年1月に福岡高速1号線ならびに2号線のコンクリート床版で計測を行い、その効果を実証しました(図2,図3)。本実証においては、約4m×1mのエリアに18個のセンサを設置し、それぞれの実証期間において約2~6時間分のデータを取得しました。床版補修前後の計測では、健全度マップの比較により、補修により健全度が回復したことが可視化できました。
本技術は、従来の目視による点検では確認できなかった橋梁内部の損傷の抽出と、その損傷度合いの可視化を実現し、効率的で適切なインフラ補修による社会インフラの長寿命化に貢献します。

図1: 開発した技術の概要
図2: 福岡高速での実証の概要
図3: コンクリート床版の補修効果評価に関する実証結果

今後の展望

当社は、今後も福岡高速との実証を進め、東芝プラントシステム株式会社とともに、2024年度の道路事業者向けのサービス提供の開始を目指します。また、本技術は、橋梁に限らずコンクリート構造物に幅広く適用できるため、橋梁以外への適用範囲の拡大に向け多様なコンクリート構造物での実証を合わせて進めていきます。本技術により、インフラの老朽化対策のデジタル化を推進し、サーキュラーエコノミーの実現に貢献してまいります。
なお、今回開発した技術には、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託研究業務「インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト」の成果が含まれています。