対話型生成AI「x-MirAI(クロスミライ)」を構築
マルチクラウドかつセキュアな生成AI利用でDXを加速
株式会社奥村組は、自社グループ専用の対話型生成AI「x-MirAI(クロスミライ)」を構築しDXを加速させている。同社は東芝デジタルソリューションズ(以下、東芝)が持つ生成AI・クラウド構築技術のノウハウを活用してAWS*1とMicrosoft Azure*2のハイブリッド構成による、同社グループ専用生成AIプラットフォームを構築した。まず専用のUI(ユーザーインターフェイス)を開発し、全社員に活用してもらうことを目指し、Azure OpenAI Service*3を活用したセキュアな環境でのChatGPTの利用環境を構築。次のステップとしてRAG*4機能を実装し、社内の施工データや各種データの統合・抽出を進めている。
進化のスピードが速い生成AIサービスを柔軟かつセキュアに取り込み、それによる業務効率化を進めることで社員にとって真の意味での「相棒」となる生成AI活用を目指している。
Before
生成AI導入による業務効率化を要望する声が増加していた。各部署が保有する膨大な施工データや技術マニュアル等があったが、それらを全社でうまく活用できていない状況であった。社内で個々に利用するのではなく、統合的かつセキュアな生成AIサービスを導入した上での業務効率化、デジタル化が求められていた。また、一般的な生成AIツールの利用にはセキュリティリスクや情報漏えいなどの不安があった。
After
セキュアな環境下で安心して業務に活用できる対話型生成AI「x‑MirAI」を導入した。マルチクラウドで構築し、今後の生成AIの変化や進化にも対応できる仕組みとした。段階的にRAGを構築し社内情報の抽出を実装、各部署にある様々なデータベースの情報を取り込み、全社的なシステム連携、活用促進と業務効率化に向けて着々と進化を遂げている。
アナログ中心の現場にも求められるDX化
奥村組は1907年の創業以来、トンネル、ダム、鉄道、オフィスビル、マンションなど、あらゆる土木・建築工事で高い施工技術を発揮してきた国内有数の総合建設会社だ。
伝統ある「堅実経営」と「誠実施工」の精神に基づく技術力は同社の強みであり、それが他社との競争に打ち勝つ源泉となっている。
その一方で、バックオフィスでのデジタル化は進んでいたものの、現場ではアナログ重視の文化が根強くデジタル化がなかなか進まず、効率的な情報共有や迅速な意思決定を阻む要因となっていた。
現場を含めた全社的なデジタル化に着手
ICT統括センター 副センター長
瀬戸康平氏
こうした中、同社は建設業界におけるデジタル化の新たな潮流を踏まえ、2020年4月に「ICT統括センター」を新設。建設現場を含めた全社的なDX(デジタルトランスフォーメーション)に着手し、データドリブンな仕組みの構築を目指すこととなった。
ICT統括センター 副センター長の瀬戸康平氏は、その当時をこう振り返る。「建設業の基幹業務におけるデジタル活用には、さらなる発展の余地がありました。バックオフィス系のシステム化は進展していましたが、現場作業では従来からの手法が継続されていたのです」。
また、同部署では、業界で主流となりつつある3次元モデル(BIM/CIM*5)を活用する取り組み*6も進めてきた。そうした中、2022年末頃より生成AIが広く注目されるようになったが、社員が思い思いに生成AIを利用するのはセキュリティ上の問題があったことから、会社全体として、統括的かつセキュアな環境で利用可能な生成AIサービスの検討をスタートさせた。導入をリードしてきた瀬戸氏は言う。「半年ほどかけて概念実証(PoC)を実施しました。便利さと同時に、企業情報漏えいなどのセキュリティリスクも考慮した上で検討を重ねました」。この検証結果を踏まえ、同社は社内利用専用の対話型生成AIシステムの構築を決定する。
こうした中、同社は建設業界におけるデジタル化の新たな潮流を踏まえ、2020年4月に「ICT統括センター」を新設。建設現場を含めた全社的なDX(デジタルトランスフォーメーション)に着手し、データドリブンな仕組みの構築を目指すこととなった。
ICT統括センター 副センター長の瀬戸康平氏は、その当時をこう振り返る。「建設業の基幹業務におけるデジタル活用には、さらなる発展の余地がありました。バックオフィス系のシステム化は進展していましたが、現場作業では従来からの手法が継続されていたのです」。
また、同部署では、業界で主流となりつつある3次元モデル(BIM/CIM*5)を活用する取り組み*6も進めてきた。そうした中、2022年末頃より生成AIが広く注目されるようになったが、社員が思い思いに生成AIを利用するのはセキュリティ上の問題があったことから、会社全体として、統括的かつセキュアな環境で利用可能な生成AIサービスの検討をスタートさせた。導入をリードしてきた瀬戸氏は言う。「1年ほどかけて概念実証(PoC)を実施しました。便利さと同時に、企業情報漏えいなどのセキュリティリスクも考慮した上で検討を重ねました」。この検証結果を踏まえ、同社は社内利用専用の対話型生成AIシステムの構築を決定する。
ICT統括センター 副センター長
瀬戸康平氏
もちろん、この生成AIシステムを構築するには自社だけではハードルが高く、開発が必要となる。そのパートナー選定においては複数企業からの提案について、入念な比較検討を実施した。その結果、「最新技術への対応力」と「長期的な信頼関係構築」を重視し、東芝の提案を採用したのである。
変化し続ける生成AIに対応できる柔軟性と長期的な信頼感
同センター イノベーション部 戦略課長
日野彰彦氏
生成AIを社内で利用するためのシステム構築に東芝を採用した決め手について、同センター イノベーション部 戦略課長の日野彰彦氏は「将来的な技術変化への柔軟な対応力」を挙げる。「進化し続けるAI技術に対応するため、さまざまなモデルを選択的に利用できる拡張性が必要でした。1年後、2年後に何が主流になるか分からない中、特定のLLMに固定されない柔軟な設計が不可欠だったのです。マルチクラウドに対応できる、と言ってくれたのは東芝さんだけでした」と日野氏。
また、進化を続ける生成AIについて長期的なパートナーとして信頼できる相手という点も重視した上で、短期間(4ヵ月間)での構築という厳しい条件に対応できる点も評価したという。東芝ではさまざまなサービス・ソリューションに生成AIの活用を積極的に進めており、その知見と実績を活かして今回のマルチクラウドでの生成AIサービス導入の実現に至った。
生成AIを社内で利用するためのシステム構築に東芝を採用した決め手について、同センター イノベーション部 戦略課長の日野彰彦氏は「将来的な技術変化への柔軟な対応力」を挙げる。「進化し続けるAI技術に対応するため、さまざまなモデルを選択的に利用できる拡張性が必要でした。1年後、2年後に何が主流になるか分からない中、特定のLLMに固定されない柔軟な設計が不可欠だったのです。マルチクラウドに対応できる、と言ってくれたのは東芝さんだけでした」と日野氏。
また、進化を続ける生成AIについて長期的なパートナーとして信頼できる相手という点も重視した上で、短期間(4ヵ月間)での構築という厳しい条件に対応できる点も評価したという。東芝ではさまざまなサービス・ソリューションに生成AIの活用を積極的に進めており、その知見と実績を活かして今回のマルチクラウドでの生成AIサービス導入の実現に至った。
同センター イノベーション部 戦略課長
日野彰彦氏
同部 AI・データ活用推進課 野口洋平氏は「開発中も柔軟に対応してもらえ、その後のRAG対応については予定より早いリリースを実現することができました」と東芝の対応力を高く評価している。
「x‑MirAI」は、ChatGPTやClaudeなどのパブリックモデルとは一線を画す、奥村組専用にカスタマイズされた対話型生成AIサービスだ。セキュリティ強化と企業特有の情報学習により、その業界や企業の業務プロセスに最適化されている。この対話型生成AIサービスは、パブリックモデルの利便性と企業のセキュリティ要求の両立を実現し、DXを安全かつ着実に推進する重要なツールとなる。
2024年8月に、社内の一般情報に対応した対話型生成AIサービスとして「x-MirAI」をリリースし、さらに2025年3月には社内文書にアクセスできる「企業内RAG(検索拡張生成)」機能を追加した。これにより、奥村組特有の業務プロセスに最適化された回答提供が可能となったのである。
同部 AI・データ活用推進課
野口洋平氏
社内問い合わせの削減や資料作成支援など業務効率化にも貢献
「x-MirAI」のリリース後、全国の拠点での勉強会実施や、現場責任者会議での直接説明などの地道な普及活動によって、現在は本社などのバックオフィス部門では約50%、全社では約20%の社員が利用するようになった。
具体的な活用事例として「例えば、これまで総務・人事部門に問い合わせていた事務手続きを、いつでも自分のタイミングで確認することが可能です。夜間や休日でも利用でき、人には直接聞きにくいことも気軽に質問することができます」と日野氏は利便性を強調する。
x-MirAI利用画面イメージ
「x-MirAI」のUI設計では、全社的な利用促進を図るためユーザービリティを最重視したという。履歴機能やお気に入り機能を実装し、全社的な文書の横断検索はもちろん、部門別の情報アクセス制御も実現している。専用キャラクター「ミライちゃん」の採用など利用してもらうための親しみやすさにもこだわった。また、RAG構築のための社内情報の選定・搭載には、土木、建築、安全など部門別のワーキンググループを組織し進めている。
「x-MirAI」は、経営層向けの報告書作成時の文章校正や、Excelの数式作成支援など業務効率化にも貢献しているという。また、全国の拠点における勉強会では「こんな便利なものがあるなら、もっと早く利用したかった」という声が多く聞かれ、今後もこうした各拠点における勉強会など丁寧な普及に努めたいという。
その一方、「まだ現場の技術者の利用率が低い」という課題も明らかになっている。「現場ではデジタルツールよりも人に頼る文化が根強い傾向があります。利用率向上に向けて、現場で真に役立つ情報の拡充が必要だと考えています」と日野氏は分析する。
社員一人ひとりの「相棒」としての生成AIに
今後は「x-MirAI」の一層の機能拡充と利用率向上の両面で展開を進める計画だ。「現場技術者向けに施工計画書など専門的な技術情報の搭載を最優先で進めています」と野口氏は述べる。
日野氏は「社内Webサイト情報や、将来的には基幹システムの構造化データへのアクセスも実現したいと考えています。ちょっとした疑問があればまず『x-MirAI』に聞く、という習慣が全社的に定着すれば一層の業務効率化にも繋がるはずです」と語る。
目指すは社員一人ひとりの「相棒」としての「x MirAI」だ。
2025年4月からは新入社員研修にも「x-MirAI」を積極活用する予定だ。「デジタルネイティブ世代の新入社員は生成AIの活用に抵抗がなく、むしろ日常的に使っています。彼らから組織全体へ利用が波及することを期待しています」と瀬戸氏は展望を語る。
セキュアな環境で自社専用の対話型生成AIの構築・運用を実現し、建設業界におけるDX推進に新たな道筋をつけた奥村組――。同社では、現場の迅速な意思決定と企業全体のデータドリブン経営への転換が着実に進んでいる。東芝は今後も「x-MirAI」の進化と発展をしっかりと支えていく。
*1:AWS(Amazon Web Services)は米国その他の諸国における、Amazon.com, Inc.またはその関連会社の商標です。
*2:Microsoft、Azure、米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標または商標です。
*3:Microsoft社のクラウド「Microsoft Azure」上で、AIモデルを利用できるサービス。
*4:RAG:Retrieval-Augmented Generation(検索拡張生成)
*5:建物や構造物の3次元図面に、各部の名称や形状、寸法などの属性情報を付与したもの。
*6:建設業界において計画、調査、設計段階から3 次元モデルを導入し、属性情報(数値や条件)を持たせることで、一連の建設生産・管理システムの効率化・高度化を図るプロセスを指す。
SOLUTION FOCUS
生成AIの導入検討から業務活用までワンストップでサポート。お客様の要望に応じて、社内文書・ナレッジ活用から、工場データ・現場適用、設計・開発業務応用と幅広い用途へ生成AIを用いたソリューションを提案・提供いたします。
この記事の内容は2025年3月に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。
COMPANY PROFILE
会社名
株式会社 奥村組
創業
1907年
本社所在地
大阪市阿倍野区松崎町二丁目2番2号
事業内容
総合建設業およびこれに関連する業務