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設備資産管理のデジタル化で保全業務最適化と課題解決を支援

社会インフラやプラント、工場の設備管理においては、各設備の稼働率を維持、向上させるために、点検や修理のコストの抑制と効率的な改善活動の両立が求められます。そこでは、壊れてから修理するのではなく、壊れる前の部品交換や定期的な清掃など継続的なメンテナンスが重要です。特に、年々増加する高経年化した設備に対しては、より適切な対応が必要です。ここでは、電気やガス、水道、交通などのインフラ設備や工場の生産設備を管理する業務の効率化や自動化を支援する、東芝デジタルソリューションズのEAM(Enterprise Asset Management)ソリューションをご紹介します。


高経年化する社会インフラの最適な管理に欠かせない設備保全


近年、人材の不足や熟練者が持つ技術やノウハウの継承が進まないといった問題が、社会課題としてよく挙げられます。設備管理においても、これらの問題により、社会インフラやプラント、工場における設備の点検や修理など保全業務に影響が出ています。また、高度経済成長期に導入された多くのインフラ設備が高経年化により更新時期を迎え、さらには業界の標準化や法制度の改正に保全業務のプロセスを対応させる必要があるなど、さまざまな課題が山積している状況です。

実際に、設備管理の現場からは、「設備保全のための業務を標準化・最適化したい」「設備保全にかかるコストを削減したい」「さまざまな設備から収集されるデータを一元管理して有効活用したい」といった切実な声を聞くことも増えてきました。

設備管理には、設備の計画から設計、製作、調達、そして運用、保全、廃棄、再利用に至るすべての段階、いわゆる設備のライフサイクル全般で、設備を効率的にマネージメントすることが求められます。それを実現するためには、設備の状況を常に把握できるように、設備のライフサイクル情報を収集して一元的に管理することが重要です。

また、設備管理における業務のひとつ「設備保全」とは、設備が正常に安定して稼働するように管理することです。壊れた設備の修理はもちろんのこと、定期的な部品の交換や清掃によるメンテナンスで不具合を早期に発見することで、設備の故障を未然に防いで稼働率を高めることも重要な役割です。設備保全に必要なコストや人材を最適化するためには、いかに適切なタイミングで設備をメンテナンスできるかが鍵となります。

これは設備の更新においても同様です。なぜなら、たとえ同じ時期に導入した設備でも、設置する場所や使用する頻度、負荷のかけ具合などにより、劣化の状態が異なるからです。耐用年数だけを判断材料とするのではなく、設備ごとに劣化の状態や故障のリスクを把握した上で、優先順位をつけて更新する計画を立てることで、投資のコストや更新作業を行う人材の最適化や平準化が図れます。

このような、設備の保全や更新を行うタイミングの見極めが、設備を最適に管理する上で欠かせない要素のひとつであるという考えの基、東芝デジタルソリューションズは、設備の状態を基に保全や更新の時期を提案する「設備投資最適化ソリューション(WAOT:APM&AIPM Optimization-model Template)」を提供しています。


設備が抱えるリスクを可視化して設備投資を最適化するWAOT


WAOTは、設備が抱えるリスクと設備の更新にかかるコストや作業負荷に配慮しながら、設備の最適な更新計画を策定できるソリューションです(図1)。

設備が抱えるリスクは、設備のパフォーマンスを管理するAPM(Asset Performance Management)により、設備が故障する確率と故障による影響の度合いから数値化します。故障の確率は、設備の種類、そしてそれぞれの設備が設置されている環境や使用される頻度などにより異なるため、それらを基に算出します。また、故障による影響の度合いは、設備が停止することによる経済的な影響だけでなく、設備の壊れ方によっては影響を与えてしまう可能性のある周囲の環境に対する修復や補償なども勘案して算出します。こうして算出した故障の確率と故障による影響の度合いを、リスクマトリクスに当てはめることで、設備が抱えるリスクの数値化および可視化を行います(図2)。

APMで数値化したリスクに、設備の更新や部品の交換を行う工事に関わるコストや作業負荷などの情報を加えて工事の計画を策定するのがAIPM(Asset Investment Planning and Management)です。AIPMを用いて、年間の予算や、年度ごとあるいはエリアごとの工事費の推移、工事に必要とされる作業者の数や資機材の量、さらには工事に欠かせない専門的な技能を持つ作業者の負荷状況などの情報を整理し、さまざまな条件でシミュレ―ションを行います。これにより、膨大な組み合わせの中から工事全体にかかるコストや作業負荷の平準化につながる、最適な設備の更新計画を策定することができます。

このようにWAOTによって、設備の状態やリスクの正しい評価と、それを根拠とした点検する周期や修理する計画、更新する計画などの策定により、最適な投資ができるようになります。例えば、電柱や鉄塔を管理する一般送配電事業者は、故障する可能性の高い設備から順番に、計画的にメンテナンスを行うなど、現実的な作業スケジュールの立案や適切なタイミングでの更新が可能となり、費用も抑えられます。

同じように、高度経済成長期に大量に導入されたインフラ設備についても、WAOTの活用により、リスクの可視化と無理のない更新を確保した投資計画の最適化を実現します。


一元管理した設備保全データで業務の効率化と抜け漏れ防止を図る


WAOTを有効に活用するためには、設備の各種データの活用が欠かせません。しかし、設備保全の現場の多くでは、これまで業務の効率化に向けてさまざまなシステムが導入され、複数のシステムにデータが分散されている現状があります。実際に、データを一つにまとめたいとか、蓄積したデータを業務プロセスの変革に役立てたいといった声も聞かれます。そこで当社は、データの有効活用を支援するために、複数のシステムを統合したりデータを連携したりして、データの整合性の確保と一元的な管理を行う統合設備管理システムを提供しています。

一元管理されたデータは、設備保全の業務に付随するさまざまな業務で生かされます。設備保全においては、毎年行う予算の策定をはじめ、運用の担当者などと行う点検や修理のために設備を停止する日程の調整、設備の修理や更新に伴う図面の改訂や必要な資機材の調達、法令に則した監督官庁や自治体などへの工事の申請、協力会社に対する作業実績の確認や支払いなど、多くの企業や組織と関わりながら多種多様な業務をこなさなければなりません。

内容が多岐にわたり複雑なこれらの業務は、一般に設備保全の担当者に一任されていることが多く、負担が大きいものです。そのため、業務の抜け漏れも起こりやすくなります。この保全担当者に集中する作業負荷を軽減させるために、当社は、作業の標準化とそれを基にした自動化を支援しています。例えば、保全計画が完成したら、これまで保全担当者が担っていた資機材の発注や協力会社への工事依頼、監督官庁への工事の許可申請などを行うために必要な情報の作成支援をシステムが作業予定に合わせて自動的に行います。完成した書類は一元管理され、情報を必要とする購買などの担当者が直接参照できるようにします。法制度や保全方針の変更に伴う保全作業や交換部品などの変更時には、影響する作業標準や手順書を一元管理された情報をもとに特定して修正することで、個々の設備の保全計画(作業タスク、申請、調達、予算などの情報)が自動的に修正されます。

これらにより、各担当者の作業負荷の軽減と、業務の処理速度や品質の向上の両立を図ります。また、点検によっては自動的に発注まで行えるようにしたり、点検の時期が近づいたら保全担当者に知らせたり、さらには監視システムで異常を検知したときに、自動的にアラートを出したり作業指示を出したりすることなども可能になります。

このように、統合設備管理システムを活用してデータの一元管理を実現することで、WAOTによる設備投資の最適化にとどまらず、設備保全に関わるさまざまな業務において、人為的なミスの削減や業務の効率化を実現します。


グローバルで利用されるEAMパッケージを適切に選択して提供


これまでに説明したWAOTや統合設備管理システムによる設備投資の最適化やデータの一元管理は、当社が長年にわたり社会インフラや工場に設備管理(EAM)ソリューションを提供し、培ってきた経験やノウハウから、必要性を感じ、生まれたものです。

※EAM:Enterprise Asset Managementの略。企業や組織がもつ有形資産の保守管理を、各資産のライフサイクル全体を通して行う仕組みのこと。

当社では、業界で幅広く利用されているEAMパッケージをベースに、お客さまの業務や環境に応じて最適な構成にしたEAMソリューションを提供しています。ベースにするのは、「IBM Maximo Manage(以下、Maximo)」、あるいは「SAP S/4HANA Asset Management(以下、SAP EAM)」です。この2つのパッケージは、考え方や実現方法が異なるため、お客さまの既存のシステムの状況や対象とする業務の範囲、標準化の状況など、最適なシステム構成にするためのノウハウが非常に重要になります。

例えば、法令により定められた点検を適切な手順で抜け漏れなく実施したいなど設備の保全を重点的に管理したい場合には、Maximoが適しています。Maximoが持つ拡張性やほかのシステムとの連携の容易さと、当社の豊富な経験で培った構築のノウハウにより、調達や経理など既存のシステムを含めた最適な構成での提供や、大規模なシステムへの適用が可能です。

また、生産管理や購買管理、会計などでSAPジャパン株式会社が提供するERP(Enterprise Resources Planning)を活用されているお客さまの場合は、すでにお持ちの運用ノウハウなどを生かせるSAP EAMが適しています。SAP EAMを有効に活用するために、当社は、長年の運用実績がある企業の構成を基にしたテンプレートを準備し、導入期間の短縮や業務の変更による差異の軽減、利便性を向上する機能の追加などを実現しています。

海外製のパッケージは、日本での運用と考え方が異なる面もあります。当社は長年の導入実績から得たシステムの勘所を生かして、MaximoとSAP EAMをお客さまそれぞれの状況に合わせて最適に活用できるソリューションにして提供しています。


電力会社に評価された豊富な実績と安心のサポート体制


電力会社の配電領域において、国内で初めて10億件もの膨大な設備情報の統合管理基盤を構築した、中部電力パワーグリッド株式会社への導入事例を紹介します。

同社では、13万キロメートルにも及ぶ配電線路や280万本超の電柱など、3400万件を超える膨大な配電設備を運用管理されています。これら膨大な設備に関して、効率的な更新と、劣化の状態や施設の状況に応じたリスクの適正な判断が求められていました。また、複数のシステムに分散された設備管理に関わる情報を横断的に管理可能なアセットマネジメントシステムの導入も求められていました。

このような中、同社では、スマートメーターを管理するために元々導入していたMaximoを軸に、EAMによる統合管理基盤を構築することが決まりました。そして、EAMパッケージを中心に関連システム群を統合する大規模システムを構築した実績が評価され、当社がパートナーに選定されました。当社では、開発だけでなく、コンサルテーションから要件定義、開発、運用・保守、さらにはAIやIoTといった次世代EAMに向けた高度化への取り組みまで幅広くカバーする体制を有しています。(図3)。

中部電力パワーグリッドでは、統合管理基盤の構築にあたり3400万件を超える設備の基本情報と、10億件におよぶリスク評価に必要な設備の諸元情報が、統合的に管理されています。今後は、送電や変電で運用する系統設備の情報も、統合管理基盤に集約される予定です。また設備の状況の一元的な管理にとどまらず、系統から需要家側まで流れる電気の潮流をも可視化できるデジタルツインに向けた環境の整備も進められています。

※中部電力パワーグリッド株式会社の導入事例は、こちらで詳しく紹介しています。

東芝デジタルソリューションズのEAMソリューションは、設備保全の管理はもちろん、設備の稼働情報や各種センサーからの情報をIoTで集めて、AIやデータ分析の活用やほかのソリューションと連携する統合的な設備管理を目指しています。将来的には、多種多様なデータを一つのモデルにまとめることで、さらなる業務の効率化や省力化、そして脱炭素化も実現したいと考えています。ぜひご期待ください。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2024年1月現在のものです。
  • この記事に記載されている社名および商品名は、それぞれ各社が商標または登録商標として使用している場合があります。

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