デジタルで豊かな社会の実現を目指す東芝デジタルソリューションズグループの
最新のデジタル技術とソリューションをお届けします。

契約事務のデジタル化にブロックチェーンを活用し自治体DXに貢献

ここ数年の間に、日本のビジネス様式や行政手続きは大きく変化しました。国による制度や慣行の見直し、そして法律の改正や施行により、自治体において、押印や書面化の義務の廃止や緩和がなされたことで、デジタル化による業務効率化が進められています。法律や環境の整備によって、自治体における契約の電子化が現実的なものにもなりました。
ここでは、自治体の契約業務の効率化に向けて、ブロックチェーンの活用により信頼性と安全性を高めた東芝デジタルソリューションズの電子契約システムをご紹介します。


制度の見直しにより加速する契約の電子化


近年、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、ビジネス様式が大きく変化しました。多くの企業でテレワークが推進され、行政手続きにおいても「書面・押印・対面」を原則とした制度や慣行、それらへの意識が社会課題として顕在化しました。新しいビジネス様式における一層の生産性向上と経済活性化を図るため、社会課題の解決に向けて社会全体のデジタル化を目指し、国の主導で制度や慣行の抜本的な見直しが進められています。

実際に、2021年1月に地方自治法施行規則の改正により自治体との契約における電子署名の要件が緩和されました。これにより、電子文書の「作成者」と「契約時点から改ざんされていないかどうか」を示すことができる電子署名を用いることで、電子文書に、押印した書面と同等の法的効力を持たせられるようになりました。また、2021年9月に施行されたデジタル改革関連法の中では、さまざまな行政手続きにおいて押印や書面化の義務が廃止されたり緩和されたりしました。これらの法律の施行により、これまで難しかった自治体との契約の電子化が現実的に可能なものとなり、電子契約のシステムやサービスを導入する自治体が増えています。

例えば、長崎市では、事業者と契約を締結するにあたり信頼性と安全性が高く手間やコストのかからない仕組みの構築や、契約事務全般の効率化に取り組まれています。これを実現するために、長崎市と東芝デジタルソリューションズは連携し、2021年9月から1年間にわたり、当社の電子契約システムによる契約事務の改善と実用性の検証を行いました。その結果、事務処理にかかる時間の削減や、事業者の収入印紙額の削減、テレワーク環境の整備といった効果が認められ、2023年6月から本格的に運用が開始されています。

※長崎市における本格運用開始のニュースリリースはこちら

当社の電子契約システムを詳しく紹介する前に、電子契約について簡単に説明します。

一般的に電子契約には、契約者本人が電子署名をする当事者型と、電子契約サービスの利用者を契約する当事者と特定して電子契約サービス事業者が契約者の代理で電子署名をする立会人型があります。これらの仕組みの多くは、ファイルがPDFに限定され、当事者型は本人性の高い契約ができるものの契約者本人に手間とコストがかかり、一方の立会人型は契約者本人の負担は減るものの当事者型よりもなりすましのリスクが高いといわれています。

当社では、本人性の高い電子署名による契約、かつ、契約者本人の負担を極力抑えた電子契約システムを提供しています。このシステムを実現するにあたり活用したのが、ブロックチェーンの技術です。ブロックチェーンの仕組みにより、改ざんの防止、そしてデータの正しい記録や保全が確保できるため、安全にデータの管理ができます。この技術を電子契約システムにどのように活用したのかを、説明していきます。

※ブロックチェーンに関する解説および当社の技術については、DiGiTAL T-SOULの技術解説連載で詳しく説明しています。


ブロックチェーンによる安全で信頼性と透明性の高い電子契約システム


自治体が、本人性の高さを重視して当事者型の電子契約を利用したい場合、現在は、契約者本人が電子認証局から電子証明書の発行を受けて電子署名をする仕組みが一般的です。この場合、契約者本人に手間とコストがかかります。

これに対して当社は、ブロックチェーンの暗号化技術を活用し、契約者本人の負担を抑えながら本人性の高い電子契約を実現しました。具体的には、電子入札で利用している電子証明を内蔵したICカード、あるいはユーザーIDとパスワードとそれにひも付けられた秘密鍵を用いた本人確認により、電子契約を行うものです。この電子契約により、契約書のハッシュ値とそれに合意した事実がブロックチェーンに記録され、万が一、契約の締結後に契約内容を書き換えられた場合には、それが検知できる仕組みになっているなど、「契約の合意の記録」が高い信頼性と透明性を持って安全に管理されます。さらに、ブロックチェーンを活用した仕組みにより、契約に必要なさまざまな添付書類、契約後の各種文書(書類や図面、写真など)といったPDF形式以外の一般的なファイル形式の電子文書も対象になりました(図1)。

このように、ブロックチェーンを活用した当事者特定の電子契約の実現により、契約者本人による電子証明書の発行が不要となり、また扱うファイル形式が柔軟になったことで、契約者の負担を軽減する効果を得られました。このシステムは、産業競争力強化法に基づくグレーゾーン解消制度において、建設業法および電子署名法についての適法性を確認できています。

※グレーゾーン解消制度:現行の規制の適用範囲が不明確な場合でも、事業者が安心して新事業活動を行えるように、具体的な事業計画に即してあらかじめ規制適用の有無を確認できる制度。このシステムに関しては、建設業法施行規則第13条の4第2項及び電子署名法第2条第1項の条件を満たしていることを確認しています。


契約事務全般を支える電子契約システムが持つ3つの特長


ブロックチェーンを活用した当社の電子契約システムは、電子契約の部分に加えて、その前後に発生する契約事務全般をサポートしています。具体的には、発注者と受注者の間における、契約に関連する書類のやり取りから、契約情報および工事などの作業内容や進捗状況の共有、作業後の成果物の登録や管理、そして支払いを求める請求書の発行までを支援する機能として提供しています。これにより、契約事務全般のデジタル化と、それによる業務効率化を実現します。

この電子契約システムには、3つの特長があります。

1つ目の特長は、「業務の流れを止めない仕組み」です。前述したとおり、電子入札で使っているICカードやユーザーIDを利用して電子契約が行えるため、電子入札からそのままシングルサインオン(SSO)で電子契約を行うことができます。また、発注者と受注者の双方において、契約案件の一覧や、個々の契約の進捗状況を確認することができます。

2つ目の特長は、「業種区分に合わせた書類の共有と合意」です。電子契約システムでは、契約に必要な書類の様式を、建設工事や建設のコンサルティング、物品の購入といった業種区分で整理し、共有しています。これにより、発注する自治体は契約に必要な様式の指定が、受注した事業者は指定された様式の入手が、漏れなく正確に素早くできる効果があります。また各自治体の決裁基準に合わせて、契約を締結したり変更したりする際のフローを柔軟に設定できる点も便利です。さらに、契約書に付随する各種届出や図面、図書などの書類も、電子署名を行い契約書にひも付けてブロックチェーンに記録し、安全に管理することができます。これにより、事業者による押印した紙の書類の提出が不要となり、ペーパーレス化にも大きく貢献します。

3つ目の特長は、「契約事務に必要な機能の実装」です。電子契約システムでは、契約を行う過程で発生するさまざまな事象に備え、各種機能を提供しています。例えば、提出書類の差し戻しや、事業者による契約の辞退、事業者との契約の解除などに対応するための機能、さらには、実態に即した契約ができるように、単体の事業者との契約に加えて、三者間での契約や共同企業体(JV)との契約などにも対応しています。


電子調達システムとの連携で調達業務全般を効率化


ここまで説明してきた電子契約システムは、当社が長年にわたり自治体向けに提供してきた電子調達システムと連携することで、さらなる業務効率化を促すことができます。なぜなら、契約事務は、調達業務の中に位置する業務のひとつだからです。

電子調達システムは、自治体における建設工事や建設のコンサルティング、物品の調達、業務委託などにおいて、それらの発注から契約、検査、検収に至るまでの一連の調達業務を一元的に管理するシステムです。例えば、事業者(受注者)による入札への参加資格の申請や、自治体における参加資格を持つ事業者の管理、入札に関連する情報の一般公開、電子入札の実施、入札や契約の管理などの業務をサポートする各サブシステムで構成されています(図2)。

これら一連の流れの中で、落札後、つまり受注する事業者が決まった後に行うのが、自治体と事業者間における契約の締結です。契約の締結に利用する電子契約システムが、電子調達システムと連携することで、前述したシングルサインオンによる電子契約システムの利用や、契約案件の一覧と契約の進捗状況の確認ができるほか、電子入札システムに登録された事業者の情報や契約情報などを取得することができるようになります。

さらには、電子請求による請求書の確認後に、財務会計や文書管理のシステムに対して、請求に関連する情報を提供することもできるようになります。これにより、関連するシステムと連携した契約事務全体のデジタル化、そして調達業務全般の業務効率化とペーパーレス化により、自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を支援します。


将来的には地域通貨や農作物のトレーサビリティーなどの展開にも期待


当社は、今回の電子契約システムの実現に欠かせなかった、ブロックチェーンの基盤を活用し、自治体における、DXの推進や新しい住民サービスの創出を支援していきたいと考えています。

例えば、電子文書の真正性や非改ざんを証明する手段としての活用はもちろん、地域通貨やボランティアポイントなどの仕組みや、地域農業や工業製品のサプライチェーンにおける本格的なトレーサビリティーの確保、新しい不動産登記、どこにいてもできる電子投票、災害支援や罹災証明などの効率化、ふるさと納税の簡易化など、社会全体のスマート化を推進する基盤として、社会課題の解決に向けた取り組みを続けていきます(図3)。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2023年9月現在のものです。

>> 関連情報

関連記事