カーボンニュートラルに向けた産業構造の変化にいかに挑むか(後編)
~カーボンニュートラル社会の実現課題に向けた東芝の取り組みとは~

テクノロジー、イベント

2023年2月21日

「TOSHIBA OPEN SESSIONS」における、カーボンニュートラルの最新動向について議論された内容を紹介する後編。前編では、東芝のカーボンニュートラルに向けた取り組みを紹介するとともに、近年の再生可能エネルギーを取り巻く環境変化や日本固有の問題、今後の導入課題などについて議論した内容を掲載した。
後編では、再生可能エネルギーの導入やカーボンニュートラルの実現に向けたさまざまな課題に対して、東芝がどのように貢献しようとしているのかについて議論した内容を掲載する。

登壇者:
東芝エネルギーシステムズ株式会社 取締役/統括技師長 兼 エネルギーシステム技術開発センター ゼネラルマネジャー 落合 誠
東芝ネクストクラフトベルケ株式会社 代表取締役社長 新貝 英己
東芝デジタルソリューションズ株式会社 ICTソリューション事業部 デジタルコンサルティング部 部長 中間 雅彦
モデレーター:株式会社 東芝 インフラサービス推進部 インフラサービス戦略企画室 ゼネラルマネジャー エネルギーマネジメントマッチング推進室 エキスパート 弓削 慎太郎

カーボンニュートラル社会の実現に向けて、東芝グループはどう貢献していくか

弓削:
先ほど再生可能エネルギーのさまざまな課題について議論がされましたが、その中で東芝グループは何をサポートし、何を行おうとしているのでしょうか。

新貝:
複数の課題がある中で、再生可能エネルギーの変動性、不確実性を抑え込んでいくために、いま我々は三つの技術を高めようとしています。
一つが発電量の予測です。発電計画は前日に出すため、翌日の予測を行わなければなりません。予測精度を高めるために、気象の予測から取り組んでおり、数時間先の予測を行うために、衛星画像のデータや発電量のリアルタイム実績データを使って分析しています。そこで計画との誤差が出たら、運用も含めて補正をするための技術です。

二つ目はトレーディングです。今後、市場取引が始まりますが、前日のスポット市場、当日の時間前市場、さらに需給調整市場というように、市場が複雑化してきています。発電事業者は、どの市場にどのタイミングで、いくらで提供すればよいのか、その判断が難しいので、AIも使いながら最適化して、収益性の安定化に繋げる方向です。
三つ目が蓄電池などの制御技術です。需要、発電量、市場価格の予測も行いながら、翌日の蓄電量について経済性と系統の安定性に資するように、アルゴリズムで制御していく一連の技術を高めていきます。

弓削:
国内の太陽光発電所は小規模のものが多いとのことでしたが、発電事業者の規模も大手電力会社ほど大きくないことを考慮すると、サービスや技術がある程度安く、まとまった形で提供されることが求められると思いますが、その点はいかがですか。

新貝:
それについては二つ方法があります。まず我々が電力を束ねて業務代行する方法です。ただし自立化の文脈でいうと、発電事業者自身ができるようになることが重要です。そこでクラウドサービス化にも着手し、比較的廉価に使ってもらえる環境を試行しているところです。

弓削:
一方で、エネルギーは再生可能エネルギーだけではありません。エネルギー全体の安定化と、社会全体のカーボンニュートラルの実現に向け、東芝グループは長い期間をかけて多くの取り組みをしてきました。今後、重要視される技術や大きな流れについて、教えて下さい。

落合:
究極のカーボンニュートラルの実現は難しく、大きな課題です。しかし大きな課題だからこそ、できるところから一歩ずつ進めていくことが大事だと思っています。電気エネルギーを「つくる」「おくる」「ためる」「つかう」ところで一気通貫でソリューションを提供できる点が東芝の強みだと思います。
カーボンニュートラル実現のためには発電だけでなく、使うところでの対応も大事になります。産業社会で発生するCO2をどう減らすかということも大きな課題です。モビリティやビル、その他の産業での省エネルギーやエネルギーマネジメントも含め多くのソリューションを幅広く揃え、それらを着実に実施していくことが重要になると考えています。
その中で技術的な課題となるのは、新貝さんの話にもあったとおり、全体を束ねて最適化していくことです。その実現には、「つくる」「おくる」「ためる」「つかう」ところのデータを繋ぐデジタルデータプラットフォームが重要になります。

弓削:
需要家の視点では、そういったソリューションを導入したいと考えているところもあると思うのですが、計画もこれからであり、まさにいま悩んでいる状況も垣間見えます。一方で、ここへ来てエネルギー価格が上がり、非常に難しいタイミングになっている気もします。東芝グループは、そういった需要家にどのような支援を行いたいと考えていますか。

中間:
先ほど見える化というキーワードでお話しましたが、従来お金の単位で行っていた原価計算や財務計算を、エネルギーやCO2単位で行うことが求められる時代になっていくと思います。当面はカーボンニュートラルに向けた施策づくりを支援しますが、エネルギーやカーボンを簡便に見える化し、そのデータに基づいて管理していく仕組みづくりを支援していきたいと考えています。

東芝デジタルソリューションズは、製造工程の管理やサプライチェーンをマネジメントするソリューション「Meisterシリーズ」を提供しています。これらのソフトウェア群に、欧州のIoT標準化の考え方を導入しつつ、日本の産業界で使える仕組みにして提供していきます。欧州のルールも細部まで定義されたものではないので、現場に適用するには、ルールを紐解きお客様の状況に応じて作り込んでいくことが必要になります。
手作業でのデータ集計はほぼ不可能な世界に入っているため、モノを作ったら自動的にデータが取れて、温室効果ガス排出量を計算、管理できる仕組みを作る必要があると思います。

東芝デジタルソリューションズ株式会社 ICTソリューション事業部 デジタルコンサルティング部 部長 中間雅彦

弓削:
再生可能エネルギーも含めたエネルギー価格の安定化をサポートする取り組みとしては、どのようなことをお考えですか。

新貝:
今日は発電側の立ち位置でお話してきましたが、発電と需要が両輪でバランスする世界にしていくため、データで繋ぐことが大切だと考えています。最近は、需要家が発電設備を敷地の中に作ったり、外に投資をして作ったり、余剰が出た時には売電するなど、需要家が発電家にもなり、その境目がなくなってきています。需要家主導で再生可能エネルギーをどうするかという意識も高まってきており、上手くデータで繋いで最適化することを進めたいと思っています。

弓削:
需要家、発電者という区分が融解していくのであれば、東芝グループ内でも、事業区分を融解しつつ一緒になって提案をしていく側面も非常に大事になってくるということですね。


カーボンニュートラル社会、その先のサーキュラーエコノミーに向けて備えておくべきこと

弓削:
カーボンニュートラル社会に向けて備えておくべきことは何でしょうか2022年11月のCOP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)でも話題になりましたが、さまざまな理由でカーボンニュートラルは上手くいかないのではという懸念もあります。カーボンニュートラルを狙うだけでは実現が難しいので、もう一歩踏み込んで、カーボンネガティブ(CO2の排出量よりも吸収量が多い状態)を狙った技術やサービスも必要な気がしています。

落合:
確かにカーボンネガティブに向けて、CO2の回収や、回収後にいかに貯めて使うかという点も大事です。回収したCO2を有価物に転換する技術開発も進んでいますが、それで使い切れないとすれば、どう貯めておくかについて、今後は考えなければならないでしょう。また、今はCO2が最も多く排出されているところで回収しようとしていますが、本当にカーボンニュートラル、カーボンネガティブを狙うなら、空気中からCO2を抜くような革新的な技術も必要になる可能性があります。そういったことに積極的に取り組んでいくことが、全体としてカーボンニュートラルに近づくことに繋がるでしょう。ただし東芝一社で実現するのは難しいので、社会全体、産業界全体で協力して取り組むことが必要になります。

弓削:
そういった技術が前倒しで必要になる状況もあり得るでしょう。我々としては、実現に一歩でも近づくようにやり続けていくことですね。一方で、やはり再生可能エネルギーには自然エネルギー由来の変動性があります。日本における実現の難しさを考慮すると、エネルギーを上手く貯めて、タイミングよく使うことも大事だと思います。

新貝:
欧州では、調整力を持った電源や蓄熱として、バイオガスという再生可能エネルギーがかなり広まっています。ただ日本ではそれほど普及していないため、解決手段として蓄電池が大きな存在になると思っています。最近では需要家に置かれる蓄電池、発電所に併設する蓄電池、系統に直付けする蓄電池というように、置き場所も多様化しており、それに応じて目的も変わってくるため、マルチユースという考え方も出ています。
重要になるのは、日中の太陽光による余剰電力をタイムシフトする手立てとしての蓄電池と、刻一刻と変化する発電量をフラット化し需要に合わせていく蓄電池です。国から補助が出ていますが、技術面で我々も高度化を図りたいと考えています。

弓削:
カーボンニュートラルが少し進んでいくと、サーキュラーエコノミーにも近づくような気がします。カーボンニュートラルを実現するには大きな座組が必要になりますが、サーキュラーエコノミーになると、より関係者も増えてきます。そういった中で、しっかりと繋がりつつやり遂げるには、どのようなことが大切になるのでしょうか。

中間:
サーキュラーエコノミーのためのリサイクル、リユースなどの循環サイクルづくりに取り組んでいる製造業も多いと思います。その際には製品自体のデータを共有していくことが出発点になりますが、リサイクル、リユースが必ずしもカーボンニュートラルの観点で、CO2削減に繋がっているのかというと、実は必ずしもそうではないという現実もあります。
リサイクル材で作るよりも、バージン材単体で製造するほうが、CO2排出量が少ないという話もあるので、まずはデータ共有から始め、実際に企業をまたいだサプライチェーンの中で、どんなエネルギー消費パターンになっていて、どういう組み合わせが最適なのかが分かる仕組みや仕掛けがないと成立しないでしょう。そういった全体のシミュレーションができるように、我々が提供するデータ共有や製品設計シミュレーションなどのサービスを、上手く組み合わせながら貢献したいと考えています。

弓削:
データという点では、実際のCO2排出量の算出も手作業に近く、大変な思いをされている企業も多いようです。一方で昨今、データの確からしさも課題になっています。データの信頼性についてはどうお考えですか。

中間:
信頼性確保のためにはブロックチェーン技術の活用が欠かせないと見ています。データ共有と言えば聞こえはよいのですが、企業が自社のサプライチェーンをすべて取引先にオープンにすることは考えられません。とはいえ、取引先からすれば、サプライチェーンの末端まで把握したいという要求もあります。そこに現実的な解を与えてくれるのがブロックチェーンなどの技術です。それらをいかに上手く使っていくかが、今後考えるべきポイントになるでしょう。

弓削:
では最後にパネラーの皆さんから、視聴者の方々に向けて一言ずつお願いしたいと思います。

落合:
まずはデータをしっかり繋いで、見える化を進め、その上で最適化を図ることが大事だと考えています。それと同時に、それらを支える強いコンポーネント、要素技術をさらに確立していきたいと思います。カーボンニュートラルという大目標は、決して1社では実現できせんので、ぜひお客様やパートナー、他の企業やステークホルダーの皆様と協力して進めたいと思っています。

新貝:
カーボンニュートラルを実現するのは最終的には我々、大げさに言えば人類の意志だと思います。技術で解決できる点もありますがコスト的にも限界もありますので、環境も変わる中でカーボンニュートラルに向けた思いを皆で醸成し、人々の行動変容に合わせて取り組んでいくことも大切だと思っています。我々は技術開発も頑張りますが、そういった活動も進めたいと考えています。

中間:
データ共有や見える化という点からお話してきましたが、やはり見えるようになったデータで何をするのかが極めて大切です。行動変容も同様ですし、データに基づく最適化、エネルギー源の組み合わせを、どう作り込むのかも非常に重要です。そこに貢献できる仕組みを皆様と一緒に作り上げたいと考えています。

弓削:
不確実で未知の課題だからこそ、皆様と対話をしながら、東芝グループが持つ具体的なソリューションの提案によって、カーボンニュートラルを前進していく支援をさせていただきたいと思っています。本日はありがとうございました。

株式会社 東芝 インフラサービス推進部 インフラサービス戦略企画室 ゼネラルマネジャー エネルギーマネジメントマッチング推進室 エキスパート 弓削 慎太郎

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2022年11月現在のものです。

執筆:井上 猛雄


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