社会へ溶け込むデジタル技術を探求したい

ChatGPTが登場して以降、その関連情報を目にしない日はないほど、生成AIは社会に大きな影響を与えている。基盤である大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)の進化により自然な受け答えや文章の作成が可能となったことで、チャットボットや仮想アシスタントを介した検索や問い合わせ、文章の翻訳や要約などで、生成AIを活用する動きが広がっている。この生成AIの発展の要となるLLMを、より広く、さまざまな産業分野へ応用するための研究に取り組んでいるのが、石丸竣哉だ。自身の専門分野を極めながら幅広い知識を身に付けるなど、好奇心旺盛な一面を持つ。そんな石丸にとっての“デジタル”について語ってもらった。


広く深く学び、新たな価値を発見する


「広く深く知を求める」。これは、私が変わらずに持ち続けている姿勢です。実際、これまでに哲学、教育学、数学、情報科学、さらにはデザインなど、さまざまなことを学んできました。幼少期にプロの料理人が身近にいた影響もあり、料理を通して栄養学や衛生学などにも関心を持つなど、さまざまなことに対する探求心が尽きません。

私は現在、世界的に注目されている生成AIの基盤である、大規模言語モデル(LLM)の研究開発に従事しています。具体的には、LLMに関する技術的な調査や、さまざまな産業での応用に向けた取り組みです。ビジネスでの本格的な活用としては、まだ発展途上にある技術ですが、東芝グループでは接客サービスや保守点検業務の支援など、これまでに東芝が培ってきた産業分野のシステムノウハウや、現場から生み出されるデータを生かして、応用に向けた取り組みを進めています。

また、音声技術で人と人、人とモノとのコミュニケーションをスムーズにするソリューションの開発にも携わっています。これまでに、会話などの音声・テキストデータから、話者の意図を理解して分類する研究に取り組みました。コミュニケーションインサイト分析技術ともいわれ、いかに会話の本質を見抜けるか、洞察できるかが重要となります。生成AIを活用するうえでも重要となる領域のひとつです。

※コミュニケーションAI「RECAIUS」:https://www.global.toshiba/jp/products-solutions/ai-iot/recaius.html

急速に発展しているLLM技術は、社会の動きと密接に関わっています。そのため、最新の技術情報に加えて、社会情勢を把握することが欠かせません。

また、今は、テキストだけでなく、画像や音声、センサーなどの情報を複合的に学習し、高度な判断を行うマルチモーダルAIの研究も盛んです。日々、関連する情報が勢いよくあがってくる分野で、かつ、一つを学んでも、二つ三つと新たな知識や情報が求められる分野のため、それらのすべてを個人でキャッチアップし続けることは困難です。そこで、LLM技術に関する社内勉強会を企画し、有志を募りました。画像や音声の処理に明るい研究者やシステム構築に携わる技術者、さらにはセキュリティを専門とする技術者など、総勢120名ほどが集まったこの勉強会は、異なる専門性や経験値を持った人たちが厳選した最新の情報や論文を共有し合える貴重な場となりました。この場で、最新の技術や実装の工夫などの解説を受けたり、それを基に意見交換をしたりする中で、専門外の領域に関する現在のトレンドや知識を相互に補完し合えた体験、そして新しく築いた人間関係を財産として、今後の活動につなげていきたいと思います。

LLM技術は広くさまざまな業務に応用できることが魅力の一つです。応用先を検討するために仮説を立てて検証し、期待通りの結果が出せたときの達成感には大きなものがあります。一方で、応用先が広いため、研究開発ではこの一連の作業を何度も繰り返さなければなりません。一見手ごわく感じますが、私にとって、とても興味深く、どれほど難題であっても挑戦する意欲を掻き立てるものとなっています。


デジタルと人との接点に重きをおいたAI活用社会へ


ChatGPTの登場で、技術者だけでなく多くの人が、気軽にAIを利用できるようになりました。今後、AIは、私たちの業務や生活の中でますます活用されるようになり、社会環境をより良くしていくと思います。私自身もプログラミングやデバッグに生成AIを利用する機会が増えました。私生活でもAI音声認識サービスを使って、部屋の照明やエアコンなどの家電製品をコントロールしています。今後は、工場の設備をはじめとするビジネスの現場においても、さまざまなものに対して音声でオペレーションできる世の中になっていくのではないかと思います。

一方で、現在、日本においてChatGPTは、認知率が約70%に対して、利用率が15%ほどにとどまっているという調査結果があります。これは、「存在は知っているが活用していない(できない)人」が多くいることを示しています。LLMは、応用できる分野が広い技術です。これまで問題視されてきたデジタルデバイドがもたらす教育や経済、社会における格差の拡大を解消し、デジタルに詳しくない人もその恩恵を享受できるように、LLM技術の効果的な活用方法を考えていきたいです。例えば、スマートフォンは、使いやすいユーザーインターフェースのおかげで、多くの人が使える道具になりました。言語モデルの分野でも、使う人のことを考え、抵抗感なく手軽に直感的に使えるシステムやユーザーインターフェースを開発して、社会に貢献していきたいと思っています。

※「日本のChatGPT利用動向(2023年6月時点)」https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2023/cc/0622_1

次の10年間は、LLM技術の発展により、生活の中にデジタルがいっそう溶け込んだ世の中になると思います。常に新しい環境や技術に対応できるように、最新の技術を学び続け、最前線で活躍できる研究者でありたいです。

そして、私が最も興味を持っているのが、「感情を持ったAI」です。アメリカの哲学者であるジョン・サールは、1980年にAIを「弱いAI(特化型人工知能)」と「強いAI(汎用人工知能)」に分類し、汎用人工知能の実現は不可能だと考えていたそうです。しかし最近では、LLMは感情的知性を理解しており、感情的な問いかけによりパフォーマンスを向上させることができるという結果も報告されています。ただし、まだ解き明かされていないことも多く、今後のさらなる研究に期待が寄せられています。私は、LLM技術だけでなく、哲学や心理学、認知科学、神経科学などの幅広い観点から、多角的に多面的に汎用人工知能について考えながら、今後の発展を楽しみたいと思います。

※“Large Language Models Understand and Can Be Enhanced by Emotional Stimuli” https://arxiv.org/pdf/2307.11760.pdf(1.86MB)

大切なことば

「知を愛する」
これは、Philosophy(哲学)の語源となったギリシア語「Philosophia」の和訳です。学生の頃に西洋哲学、特にプラトンに傾倒していた時期があり、多くの書物を読む中でこの言葉に出合いました。当時から、情報科学や料理、酒、デザイン、栄養学など、さまざまなジャンルを学ぶことが好きでした。デジタルが生活に浸透した今、インターネットなどを通じてさまざまなことを独学できる時代です。あふれる情報から取捨選択しながら、広く深く知を求め、研鑽(けんさん)を積んでいきたいと思っています。

石丸 竣哉

東芝デジタルソリューション株式会社
デジタルエンジニアリングセンター 
AI・自動化技術サービス部


コミュニケーションAIの「RECAIUS」に関する研究開発に携わり、コミュニケーションインサイト分析技術や、会話データをダッシュボードで迅速に可視化するアプリケーションのフロントエンド開発などを担当してきた。現在は、大規模言語モデル(LLM)技術の調査や、LLM技術をさまざまな産業分野へ応用するための研究開発に取り組んでいる。

執筆:井上 猛雄

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2024年2月現在のものです。
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