次の10年のモノづくりをデジタルで楽しみたい

デジタルの力を生かした交通管制システムを主軸に、システム開発に取り組む金堀裕輔。道路上で生まれるさまざまな情報を円滑にドライバーに伝える交通管制システムは、高速道路の運営に必要不可欠で、止めることが許されない社会的責任のある存在だ。そんな交通管制システムの次の10年を見据えた「イノベーション活動」を社内で発足し、楽しんでモノづくりに取り組む金堀にとっての“デジタル技術”について語ってもらった。


高速道路利用者の安全と快適を支える「交通管制システム」


高速道路でよく車を運転する人なら、何度も目にされているだろう「電光掲示板」。私は、この電光掲示板を通してドライバーに必要な道路情報を簡潔に伝える交通管制システムの開発に、深く携わってきました。交通管制システムとは、高速道路の状況を把握して判断や指示を行う道路管制センターに欠かせないシステムで、高速道路におけるさまざまな情報の収集や分析、ドライバーへの交通情報の提供などの役割を担っています。高速道路は、一般車両だけでなく、物流やライフラインを支えるトラックなども走っています。人びとが安全で快適な生活を送れることは「当たり前」ではなく、一般車両やトラックなどが滞りなく走行できる環境が、24時間365日不眠不休の交通管制システムや、それを精緻に運用する体制で支えられているのです。このため、ひとたびシステムで問題が起きると、多くの人びとに甚大な影響が及びます。私は、この社会的責任のあるシステムを支えていることに誇りをもって業務を行っています。

家族とドライブするときは、「これはお父さんが作ったシステムなんだよ」と子どもたちに自慢しています。

また、一昔前「日本道路公団ハイウェイラジオ♪」というジングルでおなじみだった、ハイウェイラジオの開発にも携わってきました。最初のころは、音声合成技術が世の中に出回り始めたばかりで、「音声にしたときに簡潔で明確な表現はどんなものか」という基本的なところからスタートし、試行錯誤をしながら開発しました。開発当初は、機械的で不明瞭だった音質が、技術革新により、今では人が話す音声と遜色ないところまできています。ハイウェイラジオのファンの方から、「歴代のハイウェイラジオと比べてずいぶん音声が聞きやすくなった」という声をいただいたときは、非常に嬉しかったです。

最近では、スマートフォンでハイウェイラジオを聴ける「E-ハイラジ」の開発にも携わりました。現在、6つの言語に対応しており、1つの情報ソースからそれらの言語に自動的に翻訳されるため、日本語に慣れていない方にもご利用いただけます。また、高速道路上の緊急情報は、自動的にプッシュ通知されるため、常にスマートフォンを見ている必要がなく、安全運転へもつながります。現在は東日本の一部で利用可能ですが、このような技術が日本全国に広がっていくことで、より多くの方に安全で快適なドライブを楽しんでいただけるようになると考えています。


人とモノのデータ連携で交通管制を変革する


高速道路の渋滞は、道路上に約2kmの間隔で埋め込まれた「トラフィックカウンター」と呼ばれる計測器の情報をもとに検知されています。しかし、このトラフィックカウンターはすべての道路に必ずしも同様に埋め込まれてはいないため、高速道路で働く人たちからの情報によって補完されている場所も少なくありません。こうした渋滞の検知だけでなく、高速道路が抱える課題はまだまだ多くあると、長年この分野に携わってきたからこそ感じる場面があります。その一方で、複雑な仕組みであることを知っている分、これを大きく変化させることは難しいと、自分の頭の中で考え、思考停止していたところがありました。

そんなとき、一人で考えていてもらちが明かないと考えはじめ、部門内で有志を募って「イノベーション活動」に取り組んでみました。人の行動に関するデータの活用を考えるこの活動に、およそ10人のメンバーが賛同し集まってくれました。すると自分一人の考えでは行き詰まっていたことも、新たな発想が生まれ、思考が広がっていくことを実感できました。高速道路は多くの人が利用し、そこには車をはじめとしたさまざまなモノがあふれています。これらの人やモノがもつデータを、デジタル技術をうまく取り込み活用することで、これまで想像もしなかった新しい体験を利用者へ提供していく仕組みが作り出せるのではないかと、盛り上がっています。10年後、高速道路の利用者は、現在よりもストレスが軽減された楽しいドライブ時間を過ごすことができるのではないか、そのとき、交通管制システムは、人やモノのハブとなり、会社やエリアを越えた新たな仕組みを構築できるのではないかと考えています。そういった交通管制の変革の一翼を担っていけたらいいなと思います。

大切なことば

私は若い頃から、「一人で何でもできる」「一人の方が早くできる」と自負していたところがありました。しかし、チームやプロジェクトをマネージメントする機会が増えると、「一人でやるには限界がある」「大きな仕事を成し遂げるにはチームが重要である」ということに気がつきました。実際に、チームメンバーに頼ることで多くの仕事量を効率的に進めることができ、さらに仕事を任せたメンバーが成長してチームとしての可能性が広がりました。

また、有志を集めて始めた「イノベーション活動」を通して、それまで互いに関わりのなかった人同士の発想が偶然つながり、まったく新しい切り口が生まれることを経験しました。多様な考えをもつ人びと交流し、そこから生まれる発想をもとに次の10年のモノづくりを考えることが、今後とても楽しみです。

金堀 裕輔

東芝デジタルソリューションズ株式会社
ICTソリューション事業部 道路ソリューション部 ソリューション第三担当


交通管制に関わるシステム開発に携わり、システム設計やプロジェクト計画、管理などを行っている。デジタル技術による交通管制システムの変革を目指して有志を募った「イノベーション活動」にも取り組んでいる。

執筆:秋葉 けんた

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