べいかりあす座談会

衣斐:では、同じCMCつながりで、出浦さんにも話を聞いてきたいと思います。普段のお仕事を教えてください。  

出浦:普段は主に構造解析や熱流体解析を使って、装置開発支援とか製造プロセス改善をやっています。衣斐さんは1カ月半って長いっておっしゃってましたけど、装置開発ということに関してはかなり短い期間なんです。装置開発って基本的に何回も試作するっていうのがすごい時間と費用がかかるので、解析でアタリをつけてこれでいけますっていうものを実際に作るっていうことが多いんです。

けど今回、プロトタイプも含めてみんな装置開発のスピードがすごい速くて、解析で何回も回しているよりもモノを作った方が早いっていうくらいのスピード感でした。だから正直、私が自分のスキルを使ってお役に立てたかっていうと、多分あんまりそんなことはないのですが、メカナムホイールとそのフレームをつなぐブラケットの強度ですとか、Z機構を持ち上げた時に曲がったりしないかみたいなところの確認でシミュレーションを使いました。何回も解析を回して、こういう形状にした方がいいですよみたいな解析の使い方はしてないです。それだけ皆さんの開発スピードが速すぎたっていうことなんですけど。  

衣斐:確かに恐ろしい速さで色々な開発が進んでましたね。とはいえ、強度の部分とか検証いただけていたお陰で、安心して開発を進められたというところはあったかと思います。そういった解析などで活躍いただく一方で、

 

ーーー今回、  べいかりあすが、もっと美味しくパンを食べるために、色んな方法や味にもこだわったと思うのですが、その辺りのお話を聞かせてください。  

 

出浦:皆さんの開発スピードが速かったため、設計者の方が設計している間、手持無沙汰だったので、パンを焼いてました。  

衣斐:手持無沙汰だから焼いてたんですか!?  

出浦:お題発表があって、プロトを検証するためにもパンが必要だったので、まずパンを焼いてみようとなり、焼いてみました。そしたら、すごくおいしかったんです。取るためのパンだったのに、みんなで全部食べちゃいました。 

衣斐:その美味しさの秘密は、バターにもこだわったとか。(会場、笑い)

出浦:山崎さんがこだわりました。

山崎:なるべくおいしいパンにしたいと思って

出浦:パンの材料とレシピがレギュレーションとして決まっていました。薄力粉も商品指定されていたので、変えられるものがバターくらいしかなくて。でも、山崎さんがやっぱりおいしさを追求したいっていうことで高級なバターを買ってきてくださって、そのバターで焼いたパンはとても美味しかったです。

衣斐:どういうバターだったんですか?

山崎:グラスフェッドバターを使いました。夜会で、おいしさの秘密としてグラスフェッドバターを使ったことを紹介したかったけど、できなかったから、今、話せて良かった(笑)。 

出浦さん

衣斐:明日からグラスフェッドバターが品薄になるかもしれませんね。美味しいパンの秘密を教えていただき、ありがとうございました。では次は、渡邊さんにお話を聞いていきたいと思います。まずは、所属する東芝インフラシステムズ株式会社について、どういう事業をされているのか、教えてください。  

渡邊:事業領域が広すぎて全部は紹介できないため簡単に説明します。上下水道システムや、防衛システムの電波塔、航空機の管制塔のシステムとか、電力の伝送システム、産業用のコンピューターを作っているところもありますし、自動車用のモーターなんかを作っているところがあります。自分のところは鉄道関係のものを作っているところで、鉄道は車両の電気品と機関車と運行システムとかをやっています。

衣斐:ありがとうございます。渡邊さんと言えば、くるりん機構が印象的でした。

 

ーーーくるりん機構について詳しく教えてください。 

 

渡邊:くるりん機構はですね。三友さんが説明した通り、ToFセンサーがべいかりあすを2m上げた状態でもロープのセンシングが厳しくて、ちょっとでも近づけたいという事で作った機構なんです。こだわったのは開発が佳境に入っていたので、ソフトや電気的な変更があったら影響が大きくなると思って、ソフトを使わず、機械仕掛けで何とかしたいと考えました。で、どれぐらいあげたらいいのって聞いたら、とにかくできる限り高さを稼いでくれとのことだったので、Z機構の上下運動の中で、それと連動して留金が外れてバタンってなって立ち上がるっていうのを考えました。バネで持ち上げたかったので、なるべく軽い素材でっていうので。その時いろいろ考えたんですけど、本田さんに相談したら、プラダンなら黒があるというので、プラダンで作りました。

衣斐:あれは、あっというまにできて驚きました。

渡邊:元々、「覇道」のアイデアで腕を伸ばす機構があって、それを収納する方法を考える中で、バネで動かすという構想があったので、それを持ってきたので早く作ることができました。部品もそれをつくるために、強度の違う2種類を買っていて、丁度それが使えました。

衣斐:何センチ上がったんですか?

三友:20cm強上がりました。あれがあるおかげで、センサーの認識精度が、全然違いました。  

出浦:でも、最後、上がらなくなっちゃって

渡邊:そうそう。前日に作って、これでばっちり走るぜって言ってたら、当日の朝、なんかくるりん機構が上まで上がらないんです。その場でどうやって直すかと考えたんですけど、結局ただのバネなので、押さえるのが弱くなると戻る力も弱くなる。すごい華奢な機構で作ってたので、止めている板を、うにって奥に押し込んで曲げました。そうしたら、バネの反動も強くなって本番ではちゃんと立ち上がるだろうと信じて。  

衣斐:じゃあテストもしなかったんですか?

出浦:はい。本番でくるりんってなった時、ガッツポーズをしてました。

渡邊:結構ドキドキして見てました。

渡邊さん

くるりん機構

衣斐:そのくるりん機構も、元は覇道案からの流用という話も出ましたが、他に

 

ーーー覇道案でお気に入りのアイデアやエピソードがあれば教えてください。  

 

渡邊:覇道で何がやりたかったというと、やっぱり見てる人の度肝を抜くことがやりたくて。ある程度考えられる延長ではなくて、「何これすげー」みたいなのを言ってもらえるようなのをやりたいと思って、自分はこの覇道を進めたいと思ってました。色々案が出ていた中のお気に入りは、べいかりあすが、飛んで1列全部食べちゃう。で、下からメカナムホイールが入って走ってきて着地。というのがやりたかったです。そこまでできなくても、本気でジャンプさせようとしていました。 本当のパン食い競争って、上にあるパンを走って取って、口で取ってまた走る。だからジャンプはずっとやりたかったです。ジャンプもどれぐらいのバネだったらこいつをジャンプさせられるか。ちょっと口の開け閉めはとりあえず置いておいてどのぐらいのバネだったジャンプできるのかなと思って計算して、そのバネを買ったんです。でも、めちゃくちゃ硬くて車のサスペンションぐらい硬い。これを縮めた状態にしておいて解放して飛ばしたら、これはもう事故が起きると。 

本田:購買、僕が担当してたんで、届いた時に押してみたんですが、びくともしなくて、そっと棚に戻しました。(会場笑い)  

渡邊:計算上は飛ばせるはずでしたが、とてもじゃないけどバネの力を抑えられなくて諦めました。  

山崎:電磁石の計算もしてませんでしたっけ?  

渡邊:ソレノイドでやろうとしてましたけど、コイルが100個ぐらいいるとかそれもとてつもない数値だったので、さすがにそれはやりませんでした。  で、本当にやりたかったのは、アイデアは中村さんが出してくれたアーム機構。それを実現できるように武田さんとも相談しながら自分で設計したんですけど、予算の課題がありました。動かす機構にスライドレールを使いたかったんです。ただ軽くないとダメなので、アルミのスライドじゃないと実現できないということで強度計算してもらったりしたんですね。でも、アルミのスライドレールを使うとなると片方で6本。それが両側分、使うとなると、それだけで予算オーバーでした。じゃあ自作しようということで、試しにワイヤーとボルトナットでプロトタイプを作ってみたけど、抵抗が凄くて全然動かなくて。でも、あれは、金に糸目を付けずに動くところまでやってみたかったです。 

アーム機構

衣斐:ありがとうございました。あのアーム機構が実現していたら、20秒くらいで全部食べれたと思うので、私も金に糸目を付けないべいかりあすも見てみたかったです。アーム機構の話が出たので、中村さんにもお話を聞いていきたいと思います。まずは、所属する東芝エレベータ株式会社について教えてください。

中村:東芝エレベータは、昇降機に関わる製品・システムの開発から製造・据付・調整・保守までの一貫したサービスをお客さまへお届けしている会社です。

衣斐:先ほど渡邊さんの話に出てきた「覇道」案を代表する  アーム機構はどのように生まれたのでしょうか?  

中村:このプロジェクトに入って、僕最初にやったのはこのフィールドですね。あのフィールドがちょっと絵からはわからないなと思って、最初にまず100分の1スケール。手のひらサイズですね。このサイズを作ってみました。このフィールドは基礎計算やってみたら、結構速くなきゃいけないってわかりました。そこで何とかして他の方法がないかなっていうのを考えた時にこの手のひらスケールを作って横から見たんですね。すると、実は真ん中走っている時って、この両サイドのパンとそれから上のパンも、ほぼ円に近い、等距離にほぼ近いなということに気がつきました。もしかしたらこの真ん中を走らせる時に両方手を伸ばせば、ものすごく短い走行距離で済むので、速度を遅くできるし、安定した動きができると思って、アーム機構を考えました。  

衣斐:100分の1のスケールモックを作ったから出たアイデアだったんですね。  

中村:はい。プロトタイピング大事だと思いました。  

山崎:中村さんは本当に色々作ってくれましたよね。  

中村:本当に、それこそ大西くんや他のメンバーと一緒に。大西君は10って言っていましたけど、多分20ぐらいのアイディアを作っているし、自分たちのできない部分は本当に渡邊さんや武田さんとか、皆さんに作っていただいたのも、ものすごく嬉しかったです。 

中村さん

スケールモック

衣斐:中村さんは、本当に色んな覇道案を試していただきましたが、シミュレーターでも活躍いただきました。開発がギリギリになるにつれて、私も心配になってきて、シミュレーターのプロトを作ってきました。その後、中村さんが、ソフトウェア開発が得意なので、引き継いでいただいて、完成度の高いシミュレーターを作っていただきました。

 

ーーーべいかりあすシミュレーターについてこだわったところを教えてください。  

 

中村:開発期間後半になってもべいかりあすが存在していなかったので、自分もドローン操作をやる経験上、練習できないというのはまずいと思っていました。衣斐さんが1日で作ったシミュレーターがあったので、それをなるべく本番に近い形で、操作の練習ができるように工夫できないか考えました。 ただ、どれくらいのスピードになるのかというのもわからなかったので、元のシミュレーターの動作をばらして、前後左右移動、回転、上下昇降のすべてのパラメーターを調整できるようにしました。おそらく直前まで練習すると思ったので、いわゆるゲームのオプション設定のように簡単に変えられるように、ソフトを組み上げました。  

衣斐:山崎さんも、何度もシミュレーターで練習してましたよね。  

山崎:衣斐さんが作ってくれたやつは、滑る感覚があって、実際とは動きが違ってはいたのですが、中村さんがフィッティングしたやつは、ほぼ、実際と同じ操作感でした。細かいですが、縦と横での動きの違いとかも再現されて。  

中村:メカナムホイールとはいっても、やっぱりタイヤで滑るものなので、縦と横のスピードが変わるのですが、それも調整できちゃうと。当然回転数の調整できるし、Z軸の方も衣斐さんが作ったプトロタイプは瞬間的にぽんっと上がるようになっていたんですけど、リアルな世界ではやっぱりそういうわけにはいかなくて、やっぱり徐々に、時間をかけてゆっくり上がるといったところを感覚的につかんでもらえるようにこだわっています。あと、やっぱり競技時間が短いということもあったので、移動するところや回転するところと、Z軸を上に上げるとこを同時に動かす操作練習ができるようにしています。それからやはり外に出てしまう、脱輪ですね。脱輪したことがわかるようにシミュレーターに表示するようにしていました。  

衣斐:もう私が最初に作ったシミュレーターとは別物になってますね。凄い。  

本田:中村さんと言えば、ヤミーもやってましたよね。  

中村:実は本田さんのコンセプトの時点で、べいかりあすがパンを食べたときに「ヤミー」の声を出すというのがありました。東芝のifLinkというアプリでRECAIUSという音声合成サービスを使って、べいかりあすの声を作りました。この時も、本田さんこだわり強すぎてですね。「ヤミー」って言葉の発声にもなかなかOKをいただけなくて。イントネーションや声の高さなど、本当にパラメーター調整に苦労したというのを覚えています。ちなみに先ほど言ったシミュレーターの中では、パンを一個取るごとに「ヤミー」と発声するように、実はなっております。 

衣斐:実は私もRECAIUS事業部に出向していた時期があったので、今回使ってもらえてうれしかったです。さて、今日、全員に来てもらうことはできなかったのですが、他に

 

ーーー没になってしまったアイデア中から、好きなプロトタイプがあれば教えてください。

 

中村:及川さんのチョコレートで取るのが好きでした。

大西:ジャム、チョコ、蜂蜜と色々試しましたね。

シミュレーター

衣斐:確かに液体系は1個取ると、取ったパンが邪魔で2個目が取れないって言う弱点がありましたが、1個目取った時は、きれいに、すっと取れて、感動しました。ありがとうございました。では、最後に、木村さんからお話を伺っていきたいと思います。まずは所属する、東芝電波プロダクツ株式会社について教えてください。

木村:渡邊さんがいらっしゃる東芝インフラシステムズ株式会社の中にある事業部の一つとして、電波システム事業部というのがあるんですね。で、私の会社はその電波システム事業部の傘下の会社です。何をしているかって言いますと、その電波システム事業部で開発をした製品の製造と保守を主にやる会社で、一部開発部隊もいるという会社です。

衣斐:まずは、先ほどからべいかりあすの黒色に関する話題が結構でてきていますので、木村さんにお話を聞きたいと思います。この

 

ーーー黒塗りのベースとなる、一夜城ならぬ、一晩で黒になったエピソードについて教えてください。

 

木村:黒く塗るためには、どこかで組みあがっているパーツを分解して塗装を行う必要がありました。でも、開発と加工がいっぱいいっぱいの状況で、山崎さんが関係者の開発や加工の状況を丁寧に聞き取って、今の状態をバラして黒に塗る時間はもはや取れないため、塗装は諦めるべきという判断をされました。山崎さんから本田さんに黒く塗るのは諦めることを伝えることとなり、本田さんもしょうがないねっておっしゃると思っていたら、「いや、この世界観をこれまで話してきたのに変えるのか」というお話になって。そこから山崎さんが、工程というか、完成を目指していくためには時間が足りない。本田さんはやっぱりこの世界観があってのべいかりあすだと、おっしゃって、お二人で議論が始まったんです。それが片や世界観と片や工程の話をしてるので、全然嚙み合ってない。真剣に二人で話してる周りに4人ぐらいいたんですけれども、口出しなんかできないくらい雰囲気的にバキバキです。で、ずっと二人の話を聞きながら、私が思ったことというのは「これ両方を両立させられないのか」。

何とかそこを両立させれば丸く収まるわけなんですけど、どうしても両立させられないのかなっていうところで考えてみると、その塗るための時間、バラす時間。その2つの時間の問題も出てくる。でも、本田さんが途中で折れてくださったんですよね。ばらさなくてもいいからとにかく黒にならなきゃいけないということをおっしゃってくださったので、「なるほど。ばらさないんだったらこれ後何日くらいで塗れるんだろう」って考えて2日あったらいけるんじゃないか。1日目にまずプライマーを塗って2日目に黒にするっていうところで、これはいけるんじゃないかなと。

ではその時間を、どこで使うかっていうと、夜、開発が終わってからと、朝、開発が始まるまでの間。意外と塗ると早く乾きましたよね。

本田:早かったです。いい時間過ごせましたよ。塗りながら木村さん何でエンジニアになられたんですかなんて話して。

衣斐:意見を、ぶつけ合うことで、良い解決策、二律背反を実現できた良いエピソードをありがとうございました。

木村さん

黒く塗られたべいかりあす