べいかりあす座談会

衣斐:家電チームの皆さま。「魔改造の夜」の出場、お疲れ様でした。今回は、半分くらいのメンバーに集まっていただき、地上波では放送されないような開発の裏話を聞いていきたいと思います。それでは、早速ですが、最初に、家電チームのサブリーダーとしてプロジェクトを支えていただいた馬場さんからお話を聞きたいと思います。馬場さんが所属する部門からは、ソフト、ハードの両面でたくさんの人材が参加してくれました。まずはその、多様な分野の人材を抱える、東芝デベロップメントエンジニアリング株式会社について教えてください。

 

馬場:いろいろな技術分野から参戦させていただいたのですが、それが東芝デベロップメントエンジニアリング株式会社(以下、DME)の特色の一つかなと思います。DMEは従業員数1300人のうち1000人がエンジニアの会社です。電気、ソフトウェア、データ分析など様々な分野の技術者を大きな規模で持っているのがDMEの強みだと思います。業種はすごく多く、鉄道などのインフラ関係、ストレージ、電子デバイス、産業機器などそれ以外にもいろいろあるんですけれども、東芝グループ内外のお客様に対して、上流から下流まですべての行程で、量産レベルの高い品質のモノづくりを提供している会社です。

 

衣斐:今回は、その上流から下流まで開発できる能力を、量産ではなく、1品モノを作るために使っていただきました。馬場さんには家電チームのサブリーダーとして、最後の形態にも採用されたメインのアイデアを開発する”王道”チームを見ていただきましたが、

 

ーーー今回プロジェクトを進める上で、サブリーダーとして大事にしていたことを教えてください。

 

馬場:最初の1週間で作ったプロトタイプの継続として、堅実に開発を進める王道というチームと、それとはまた別に、全く違う視点でいろいろアイデアを出していって進める覇道というチームで進めていくことになりました。その覇道の方をより柔軟に自由に進めるためにも、王道を早めにフィックスさせて、うまくリソースを覇道の方に移そうということを初期は考えていたんです。ですが、王道も覇道に比べれば堅実とは言え、確立されたものではないので、いろいろな試行錯誤や、再検討、検証というのが多く発生しまして、当初見込んでいた計画からだんだんズレが生じていきました。そういった中でそれぞれの機能を担当しているメンバーのモチベーションをすごく気にして大事にしていました。特に若手は、最後まで時間がかかってもやりきりたいという思いが強くあって、私もできる限り、それを尊重して進めたいというのは思っていました。とはいえ、ベテランの方には、特に若手に対してはできるだけサポートというか道筋を示してあげるというところをお願いしていました。

最終的にはベテランの方の豊富な経験や、知識、技術によって改善、改修をしていき、最高レベルのべいかりあすが出来上がるわけですが、そういった中でも特に若手の方は、精一杯自分でやり遂げたという達成感だったり、短期決戦ならではの緊張感とか、この場でしか味わえないいろんな貴重な経験ができたんじゃないかなと思います。

 

衣斐さん

馬場さん

衣斐:若手の方がベテランの方と肩を並べて何かを作るという経験は、中々無いかと思いますので、良い経験になったのではないかと思います。馬場さん、ありがとうございました。では、若手の話が出たので、DMEから今日来ていただいた若手の、牧野さんにもお話を聞いてみたいと思います。

 

ーーー若手として魔改造の夜に参加してみてどうでしたか?

 

牧野:今年入社5年目なんですけども、入社以来ずっとソフトウェア専門でやってきていましたが、組み込みの経験は今までありませんでした。そのため、今回の内容が完全に組み込みだと最初に伺ったときお役に立てるのかなとすごく心配でした。でも、いざプロジェクトに入って活動していくうちに、周りの方のものすごい熱量を見て、これは私も全力でやりたいっていう気持ちになって、Z駆動機構の制御では私にできることをやろうと思って、全力でやっていきました。

衣斐:その全力で取り組んだ

 

ーーーべいかりあすのZ機構の制御で頑張った所について教えてください。

 

牧野:Z駆動機構を簡単に説明しますと、初期状態から2mまで4段階の階層があり、そのスライドレールの外に、切り込みが入っている鉄板が付いているんです。それをフォトセンサーで切り込みの通過を見て高さを判定するっていう機構です。ある程度の高さまでいったらソレノイドという棒を出して、そこに乗っけて固定するっていうのが基本機構です。

衣斐:最初からその形じゃなかったですよね?

牧野:そうですね。切り込みになったり、鉄板の形状が違ったりとか、いろいろ初期状態から変わりました。そのたびにソフトウェアを更新するというのがありました。その中で、苦労したのは高さの判定条件と、ソレノイドを出すタイミング、あと、上昇速度の調整で苦労しました。

高さ判定については、機構が色々変わったりして初期の設計と実機が違っていたというところがあって、何度も調整を加えなきゃいけなくて、最終的に条件分岐が複雑になってしまって、ソースコードが見づらくなっていました。最終日の一日前に、ソフトウェアチームで急遽集まってコードレビューを開きまして、色々な意見をいただいて、ここはこうやった方がミスしづらいという修正をして、実装までこぎつけました。

ソレノイドのタイミングと上昇速度については、パラメーターチューニングするときに試行錯誤する必要がありました。その際、スライドレールが急に落ちると壊れてしまうので、周りの人にお願いして、重たいスライドレールを支えてもらって実験する必要があって、色んな方が協力してくれたので実装できました。

牧野さん

衣斐:1.5カ月という短期間の開発であれ、コードレビューして見やすくかつ迅速に修正も対応可能な工夫をされていてすごく感心しました。ありがとうございました。では、続いて、ソフトウェアの開発について、ベテランの佐々木さんにもお話を聞かせていただきます。

 

ーーーべいかりあすのソフトウェアの最適化についてのエピソードを教えてください。

 

佐々木:最初テストとして作っていたメカナムホイールを制御するソフトコードがありまして、それを継承してずっと使ってたんですね。そこに、なんかべいかりあすが斜めに走るって問題があって。PWM制御の波形を見てみたら、どうやら左右の波形が違うと。これはおかしいから、ソフトコードをきれいに書き直しましょうと。私は別のプログラムを担当していたので、私が抜けても、誰が引き継いでもいいように、結構シンプルな作りにして、みんなが触れるような作りにしました。

衣斐:別のプログラムというと、リモコンもご担当されていたかと思いますが、工夫した点を教えてください。

佐々木:リモコンまわりのキーの配置をリーダーが操作されるので、操作性がいいように後々すぐにボタン配置を変更できるような作りにしました。もちろん、これも、後から誰でも改変できるような作りにしています。

佐々木さん

衣斐:ありがとうございました。では、次は狩野さんからハードウェアの話も伺っていきたいと思います。今回、べいかりあすの移動手段として、メカナムホイール機構を採用されました。これは実は狩野さんが趣味で作られたラジコンが元になっているとのことですが、

 

ーーーべいかりあすに採用した、メカナムホイールの魅力について教えてください。

 

狩野:やっぱりまず見た目ですよね。もう何かごつくて、いかつくて何かそれが走っただけでも皆を圧倒できるんじゃないかなって思いました。性能としても結構良くて、普通の車だとステアリングを切って動くだけなんですけど、メカナムホイールを使うとまっすぐにも行けるし、横にもスライドできるし、さらにその地点で旋回するなんていうのもできるし。それでさらに複合的に、それを合わせ込んだような動きもできるし。何かすごい魅力がぎゅっと詰まっているものだったから、自分でもロボットをメカナムホイール使って動かしたいなっていう気がしたんです。

衣斐: 今回、メカナムホイールでこだわった所を教えてください。

狩野:やっぱりこだわった部分はそのメカナムホイールの特性をしっかり生かせるように重心バランスを中央にギリギリまで寄せたので、それで更に重心バランスを下の方に持ってくることによって、どんなスピードを出しても倒れないようにするといったようなところは結構こだわったところですね。

衣斐:最初に速度計算してましたよね。

狩野:はい。それで結構ブレーキングを一生懸命掛けても大丈夫なくらい、機体の方は大丈夫だっていう検証が計算できてたんで、そうすれば安心して使っていけるんじゃないかと。もう本当に倒れるっていうのが一番あったらいけないことかなと思って、ここはしっかりと設計の段階から計算していました。

衣斐:2m延ばすことができるようになったのが、かなり後半だったので、その時点で倒れていたら本当に大変でしたよね。最初から、倒れないということを考えていていただいたお陰で、最後まで倒れずに進められたですね。ありがとうございました。

狩野さん

衣斐:さて、「王道」案のエンジニアリング的な部分の裏話は、ソフトやハードの面で色々お伺いできましたが、馬場さん。

 

ーーー「王道」案はどのようにして、方向性が決まったのでしょうか?

 

馬場:始まって1週間でプロトタイプ発表会があって、そこの前あたりに、本田さんがべいかりあすのほぼ最終形のコンセプトをキービジュアルという形で出してくれたんです。その時、ホームベーカリー以外の部分をブラックアウトする(黒く塗る)のも決まっていて、「そこに黒子がいて、これはこういう意味があって、こうブラックアウトするんだ」みたいな設定も完璧にされていました。それまでは吊っているパンを、ただ取っていく機械をどう作ろうかと考えていました。でも本田さんのキービジュアルを見た瞬間に、みんなの意識が、ホームベーカリーがモンスターに変化して、それが宙に浮いているパンを食べる、見ている人が楽しくなる、そういうモンスターを作るんだというように、がらっと変わったような気がしました。そこから「王道」案の開発に入るんですけど、その時にみんなのゴールイメージが共有されているので、すんなりと開発が進められたというのが一番最初の大きなきっかけになったかなと思います。

衣斐:馬場さん、ありがとうございました。それではデザインの話になってきたので、本田さんにお話を聞いていきたいと思います。ビジュアルでコンセプトを伝えていくというのは、デザインの重要な役割だと思います。まずは、 CPS×デザイン部について教えてください。

本田:デザインって多分一般的に聞くと、綺麗な色とか、かっこいい形とか、そういうのを作る人なのかなって思われがちなんですけど、デザイン部がやっていることは結構幅広くて、上流の方だと事業ビジョンの可視化とか、商品コンセプトの作成とかといったものを作るために、ワークショップを設計して、ファシリテーションをやって、それを運営しています。あと下流の方だとその実際できたサービスとか、製品をどうやってプロモーションしていくかとか、Webを作ったり展示会作ったりそういったものをやっています。他にはカタログとかブックレットとか、そういうコミュニケーションデザインのディレクションもしています。

衣斐:ご説明ありがとうございました。紹介が遅れましたが、私も本田さんと同じく、CPS×デザイン部に所属しております。さて、

 

ーーー「エンジニアがヒーローになる」という番組の特性上、デザイナーが開発メンバーに入るというのはレアなケースだと思います。どういう思いで参加されたのか教えてください。

 

本田:デザイナーとしてどう参加するかっていう以前に、僕が興味があったのは普段一緒に仕事してないエンジニアの人と物を作ってみたいなって。それが最初にありました。デザイナーとしては、みんなが色々なことを考えているから、それを聞きながらそれってこういうことですか?ってその場で絵にして、合意形成するというときに役に立てるかなと。合意形成したものから、ゴールイメージをつくることで、「よし、じゃあ皆であそこの山に登ろう」って、みんながそこに向かってベクトルを揃えて頑張れるようになるのではないか。そういう思いで参加しました。

安達:ゴールイメージをポスターにして貼り付けたキービジュアルもそうなんですけど、ディスカッションの時にホワイトボードで「こんな機構」って描いている1枚1枚のスケッチのクオリティーが高いんですよ。なので途中から行っても何かだいたいがわかるんですよ。

衣斐:ああ、途中からホワイトボード見てわかる。それは大きいですね。

本田:言葉だけだとお互いちょっと違うことを想像してたりするので、それってこういうことですよねって確かめながらやっていくのが大事かもしれない。

本田さん

安達さん

べいかりあすのポスター

衣斐:ちなみに、今回、プロジェクトの前半の拠点となった、共創センターCreativeCircuit®もまさに、そういったしゃべったことが流れてしまわないように、あらゆるところにホワイトボードがある設計となっています。さて、本田さんから

 

ーーーデザイナーとしてエンジニアの皆さんに聞いてみたいことはありますか?

 

本田:今までの魔改造を見ていると、現場合わせで作っている感じがしていて。そういう意図しない形が魅力的で、凄みみたいなものがあるとは思うんです。でも、デザイナーが入るとそれがどうやって変わるのかなっていう興味もあって。デザインが加わることで今までとはひと味違ったものになったと僕はおもっているんですけど皆さんはどうですかね?

狩野:開発していた部屋の中に大きく、まず絵が印刷されて飾っていたときに、みんながやっぱりそれを見てこういう風にしないといけないんだなって。みんなで意識しながらやっていた感じもする。ああいうのを見ると、やっぱり何か方向性がしっかりと付けられていた気がします。

本田:プロトタイプ発表会の時には、パンを熊手と網で回収していく機構でした。それを見た島田社長が「パンを食べるというお題を聞いて、どうやって食べるのかなと思ったんですけど、こうやったんですね。うまいことやったと思うと同時に、ちょっとずるいなと思いました」とおっしゃったんです。それでやっぱりそう思われてしまうのかと思い、「ホームベーカリーがパンを食べる」ということに向かっていくきっかけになったと思います。

衣斐:確かにプロトタイプを披露することで客観的な意見がもらえて、ただ勝つだけでは満足させられないという事に、全員が気づいたような気がしますね。本田さんありがとうございました。続いて同じデザイン部門の若手として参加いただいた大西さんにお話を伺いたいと思います。先ほどから「王道」という言葉が出ていますが、大西さんは、

 

ーーー王道案の対抗馬として「覇道」案で色々面白いことをやっていただきました。覇道案で試した中でお気に入りのアイデアを教えてください。

 

大西:マジックで使うスティックがあるんですが、だいたい10センチぐらいのなんですけど、それが一気に展開して1メートル10センチに伸びるんですね。これを連結して2メートルぐらいにすれば、パンを取れるんじゃないかと思って、実際に買って作ってみました。でも実際やってみたら全く使い物にならなくて、開発は中止になってしまいました。

衣斐:あれは、実現できたら面白かったですよね。他にもたくさん作られていたと思いますが、何個くらいのアイデアをプロトタイピングしたのでしょうか?

大西:10個以上はやったかと思います。

衣斐:何でも試してみる姿勢は素晴らしかったかと思います。今回、大西さんも若手でしたが、

 

ーーー若手としてどういう思いで参加したのかおしえてください。

 

大西:デザイナーとしてみんなやらないこと、かつ入社3年目の若手なんで、突拍子もないことをやってもいいだろうと思ってました。また、僕にできないものたくさんできる方々エンジニアの方々が参加されるので、逆に僕はそっちで勝負しても意味ないだろうとは思ってました。なので、よりお客さんが見て面白いものを発想するってとこに力を使おうと思いました。でも、それは言うだけじゃダメなので、プロトタイプを雑でも良いので作ろうという思いでやってました。それを形にできる、実装できる方々がいらっしゃるので、そこを信じて今回挑戦しました。

当然、経験や技術力ではベテランの方々に勝てないので、やる前は正直力不足かなとは思っていました。でも、僕としては面白いアイデアをどんどん出して、検討の材料として上げていくってことで貢献したいなと。結果的にやってみて本当に良かったです。こんな経験なかなかできないので本当に感謝しています。

衣斐:ベテランが活躍しがちですが、そんな中でも自分の特徴を活かして良い経験ができたようで良かったです。ありがとうございました。

それでは次は、家電チームのリーダーとして研究開発センターから参加いただいた山崎さんにお話を伺いたいと思います。

大西さん