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コラム

[第30回] 銀行からIT大手までが参戦!加速する日本のQRコード決済、最新事情

更新日:2018年08月21日

官民を挙げて「観光立国」に取り組む日本。今後は国際的なスポーツイベントが続き、ますます訪日外国人観光客が増えてくるなか、喫緊の課題として語られているのが、海外で先行する「決済のキャッシュレス化」だ。

経済産業省は2018年4月に「キャッシュレス・ビジョン」を策定。7月には産学官からなる「キャッシュレス推進協議会」を立ち上げるなど、キャッシュレス化を強く後押ししている。まだまだ各国と比べて現金での決済比率が非常に高いとされる日本で、どういったプレイヤーがキャッシュレス市場を切り拓くのか。また、銀行などの金融機関はこの課題にどう対応していくのか。その最新事情を紹介する。

日本でキャッシュレス化が進まなかった理由とキャッシュレス先進国との差

経産省の「キャッシュレス・ビジョン」によれば、キャッシュレスとは「物理的な現金(紙幣・硬貨)を使用しなくても活動できる状態」。主な支払い手段としては電子マネー、ポイント払い、デジタルコイン、デビットカード、モバイルウォレット、クレジットカードなどが該当する。

日本のキャッシュレス決済比率は、2015年の時点で全体の18.4%。これは先進国の中ではドイツ(14.9%)と並んで極めて低い水準であり、韓国(89.1%)、中国(60%)、カナダ(55.4%)、イギリス(54.9%)といった諸外国と比較するとまだまだといったところだった。

しかしこの数年で状況は変わりつつある。Suicaに代表される交通系ICカードや、楽天Edy、nanaco、WAONなどポイントシステムを連携させた電子マネーが浸透。スマートフォンでのiDやQUICPayといったクレジットカードに紐づけた非接触決済の普及にも後押しされ、“現金派”が多いとされた日本の生活者のマインドにも変化が起こってきたようだ。

しかしスマートフォンなどを用いた電子決済に対応するためには、小売店に設備投資の必要があり、また決済サービス業者への手数料が生じることから、飲食店や小売店の動きが鈍く、国の旗振りや生活者のニーズに反して、遅々とした歩みとなっている。

キャッシュレス社会到来の鍵はQRコードを使ったモバイルペイメント

キャッシュレス決済普及の鍵を握るのは、やはりスマートフォンを使った支払い、いわゆるモバイルペイメントだ。中でも今年になって大手含む各社から次々とラインアップされているのが、QRコードを使った決済システム。

QRコードを使った決済のメリットはいくつかあるが、小売店側にとって一番大きいのは特別な設備投資が必ずしも必要ないこと。売り手(小売店側)も、買い手(消費者側)も、スマホと決済サービス(アプリ)さえあれば、手元に現金がなくても瞬時に決済が可能という手軽さが魅力だ。

QRコードを使った支払いには「店側が提示するQRコードを消費者がスマホで読み取って決済」「逆に、消費者がスマホアプリで表示したQRコードを店側が読み取って決済」という両方のパターンがあり、多くのサービスではこの両方に対応している。

例えばキャッシュレス決済で大きく先行する中国のサービスAlipayとWeChatPayは、QRコードを用いた決済を爆発的に普及させた。中国国内では地方の露天商に至るまで、あらゆる商店・サービス施設がQRコードでのモバイルペイメントに対応しているというから驚きだ(この二つのサービスは日本市場への参入も果たしている)。

日本の状況はどうかというと、2018年はQRコード決済元年かと思わせるほどに大手の参入が相次ぎ、スタンダードの座を争い始めた。ここでは多数ある日本のQRコード決済サービスの中から気になるものをピックアップしていこう。

日本のQRコード決済、一気に戦国時代に突入!あなたはどれを使う?

まずは、今年次々と驚きの施策を発表して注目を集めているLINE Pay。LINEグループの展開する電子マネーLINE Payのアカウントにチャージした残高からQRコード支払いができる決済サービスだ。加盟店での買い物に使えるほか、個人間送金や割り勘が手軽にでき、LINEユーザーの間で一つの経済圏を構築しつつある。この夏のQUICPayとの提携により、使える店舗は爆発的に増えた。

6月に行われたLINE CONFERENCE 2018では、「LINE Pay 店舗用アプリ」のQRコード決済手数料を3年間無料化することを発表。決済サービス会社への手数料を無料化することで一気にシェアの拡大を狙う戦略なのかもしれない。さらに自社決済端末「LINE Pay ORIGINAL DEVICE」の開発で小売店への導入ハードルを下げることを明らかにした。

LINE Payを含めた多くの決済サービスが日本での普及のエンジンとしているのが、日本人に非常に親しまれているポイントシステム。特に楽天スーパーポイントを軸として巨大な経済圏を形成している楽天グループでは、楽天ペイという決済システムがQRコード決済にも対応している。クレジットカードを楽天カードにすれば、楽天ペイと楽天カードで楽天スーパーポイントの二重取りができるということもあり、人気は上々。加盟店を大幅に増やし続けている。

IT大手のヤフーは、6月から同社の決済サービスYahoo!ウォレットの新機能としてQRコード決済を導入したかと思えば、7月にソフトバンクとともに合弁会社であるPayPay株式会社を設立し、今秋からバーコードやQRコードを使って決済できる新たなスマホ決済サービスPayPayを提供開始することを明らかにした。スマホ決済におけるユーザー数ナンバーワン、加盟店ナンバーワンを目指すとしており、ソフトバンクグループのノウハウを生かした飲食店や小売店への営業に期待が集まっている。

その他、日本におけるスマホ決済の先鞭をつけたOrigamiのようなベンチャー企業も存在感を示している。加えてアマゾンジャパンのAmazon Payやメルカリの子会社として立ち上がったメルペイなど、大手IT系企業グループによる金融サービス参入が相次いでいる。

こうした状況を受け、銀行などの金融機関もQRコード決済サービスに本格的に取り組み始めている。銀行のスマートフォン決済への取り組みでは、2016年に横浜銀行ががGMOペイメントサービスと連携し『はまPay』をスタート。GMOペイメントサービスはさらに2018年にふくおかフィナンシャルグループの『YOKA!Pay』、そしてゆうちょ銀行の『ゆうちょPay』を手掛け、これら銀行間でのQRコード決済の連携を行うとしている。
また、メガバンクでもキャッシュレス時代に向けた取り組みを加速させている。みずほ銀は福島の東邦銀と共同で、福島県冨岡町を中心にコンビニエンスストアや食堂などの施設でQRコード決済の実証実験を行っている。

三菱UFJフィナンシャル・グループは、米アカマイ・テクノロジーズと協業し、ブロックチェーン技術を使ったIoT時代の“最速”決済処理システムを開発し、2019年度をめどに実用化するとしている。5G回線の登場で世の中のありようが大きく変わると予想される中、フィンテックの力でどんな顧客体験が創造されるのか、期待が膨らむ。さらにメガバンクでのQRコード決済統一規格の報道もあり、これからの動きに目が離せない。

インバウンド需要が見込める観光地の事例としては、琉球銀行が西表島交通と提携し、年間30万人以上の観光客が訪れる西表島におけるクレジットカード加盟店開拓業務を委託。島内全ての店舗で国際ブランドのカードによる決済ができる環境を整えることを発表した。あわせて西表島内の路線バスにカード決済端末機を搭載し、クレジットカードや電子マネーの取り扱いを実証実験として開始。さらに今後は西表島以外の竹富町の島々全域も対象に、“キャッシュレスアイランド”の実現を目指すとしている。

経産省の掲げる「将来的に世界最高水準の(国内のキャッシュレス決済比率)80%を目指す」という目標に向け、金融機関やIT企業は着々と動き出している。生活者に選ばれる決済サービスはどのようなものか、キャッシュレス社会は本当に実現するのか、引き続き注目したい。

ライタープロフィール

ライター:上野 俊一
ゲーム雑誌編集者、音楽制作雑誌編集者、VR雑誌編集者、フリーライターを経験。特にデジタルエンタテインメント分野に詳しい。最近はFinTech関連の記事を多く執筆している。


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