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コラム

[第16回] 地銀や政府が主導する“地方創生”のイマ

更新日:2017年3月31日

「まち・ひと・しごと創生総合戦略」、いわゆる「地方創生」は、第2次安倍内閣の打ち出した政策のひとつ。日本の人口減少に歯止めをかけ、東京への一極集中を是正し、「地方から日本を立て直す」ことを目的としている。これを受けて、全国の自治体が最初の目標年次である2020年に向けて戦略を立て、各種施策を行ってきた。そしてこの地方創生の大きな鍵を握ってきたのが、地方銀行や信用金庫といった各地の金融機関だ。
本稿では、2017年で5カ年計画の3年目に突入した地方創生を、主に「地銀の取り組み」という観点から取り上げ、地域活性化および、地方銀行のビジネス拡大につながると考えられる事例を紹介する。

地方から日本を立て直す! 最重要政策のひとつ「地方創生」

全国的な人口減少、進む超高齢化、東京への一極集中、大都市と地方の稼ぐ力の差といった日本の課題を解決すべく、2014年に第2次安倍内閣によって打ち出された「地方創生」という戦略。別名「ローカル・アベノミクス」とも呼ばれる。
地方創生は従来のような単なる地方振興策とは根本的に異なり、日本という国そのものを立て直し、維持するための総合的な経済政策として明確に位置づけられており、発表当初から大きな注目を集めてきた。

当初、国は「2060年の段階で1億人程度の人口を維持する」という長期ビジョンを示しつつ、事業推進の第一歩としては、国と各自治体がそれぞれ2015年度から2019年度までの5カ年計画で目標を立て、達成するべしという方針を打ち出した。

地方創生の大きな特徴は、国からの補助金やビッグデータといった情報面・人材面での支援はありつつも、あくまでも地方自治体が自ら主体となって「地方版総合戦略」をそれぞれ策定し、目標を達成することが求められていること。各市町村といった自治体では、自ら雇用の創出、Iターン・Uターン・Jターンの推進、最終的な人口増などを目指して創意工夫し、自身で設定したKPIを2019年度までに達成できるよう各種事業を推進しなくてはならない。

実際にそれらの事業を推進するためには「産官学金労言」の連携が重要とされており、中でも各種事業のエンジンになるのが「金」、すなわち地方銀行や信用金庫といった金融機関だ。
国の大号令を受け、全国の地銀の多くが地方創生を専門に取り組む担当部署を設置。2015年からの2年間だけでも、地域企業や自治体と連携したプロジェクトを発表する地銀が続出した。

そんな中、2016年9月、金融庁は新たに地方銀行の地域企業への貢献度を評価する55項目の新指標「金融仲介機能のベンチマーク」を導入。共通ベンチマーク5項目、選択ベンチマーク50項目からなるこの新指標は、地銀の融資先企業への経営支援や地域貢献度を「見える化」することで、地方創生のさらなる活性化を目論むものだ。国の地方創生への本気度を改めて示すものと言えよう。

地方創生の鍵を握る、地銀のユニークな試み

さて、地方創生においてはどのような取り組みが注目を集めているのだろうか。

昔から製紙、タオル製造、造船などの製造業が盛んなのが、四国の愛媛県。県内総生産の約4分の1を製造業が占める愛媛は、さまざまな分野の製造会社を擁して栄えてきた。しかし、長く続いたデフレや人口減少の影響もあり、1990年に5000以上あった製造業の事業所数が現在は半分にまで減少してしまったという。

そんな愛媛に拠点を置く伊予銀行では、地方創生の掛け声がかかる以前から中小企業の経営改善および地域活性化を目指す取り組みを積極的に行ってきた。中でも注目したいのが、2013年に営業部内で結成した「ものづくり支援チーム」だ。

その名の通り、県内の製造業者を支援することを目的としたこのチーム。伊予銀行ではすでにいる人材(行内の銀行員)を集めるのではなく、外部から募集した「転職組」だけでメンバーを構成した。JVCケンウッド(音響機器メーカー)出身の技術者、井関農機(機械メーカー)出身の生産管理担当者、パナソニックヘルスケア(医療機器メーカー)出身の知的財産戦略担当者といったさまざまな分野の「製造業のプロフェッショナル」たちに加え、大手商社(三井物産)や経産省の出身者も参加。それぞれが自分の培ってきた専門分野の知見とスキルを活かし、製造業者からの相談に答える形で技術開発や生産管理、販路開拓、補助金申請、後継者探しに至るまで、あらゆる面でサポートを行ってきた。

同チームが手がけた県内の中小企業同士のビジネスマッチングの事例としては、造船会社から船舶内の振動・騒音防止について課題があるとのニーズをキャッチしたことから防振素材開発企業を紹介したケースや、コンクリートの素材に使われる「高品質フライアッシュ」の利用ニーズのある企業を同製品のメーカーに紹介したケースなどがある。

この伊予銀行の取り組みでは、「銀行の事業だから金融マンでチームを作ろう」と決めつけることなく、実際に製造業に携わってきた「その道のプロ」を集めてチームを構成したところが最大のポイントと言える。「何を達成したいのか」「そのためにはどんな人材が必要なのか」という根本的なところから発想されており、学ぶべき点が多い。

続いて紹介したいのが、九州は鹿児島県を拠点とする鹿児島銀行。やはり国が地方創生を唱える以前から、自ら高い危機意識を持って地域の人口増や雇用創出に取り組んできた銀行のひとつだ。
地銀として農業金融にもいち早く着手してきた同行は、2016年9月、鹿児島中央青果、鹿児島共同倉庫、北九州青果、園田陸運、KFGアグリファンドといった地元企業と共同で農業法人「春一番」を設立した。鹿児島銀行が自ら農業に参入した目的は、ITを活用した新しい農業ビジネスモデルを率先して構築していくことで、農業従事者の減少や高齢化、耕作放棄地の増加といった地元農家の課題解決を図ることにある。

春一番では、ITを活用した生産・管理システムの導入により高い収益力を確保すると同時に、「人手」が必要となる昔ながらの露地栽培との融合により、地元農家による将来的な雇用の創出も目指している。

また、同行では農業における資金調達手法の多様化を図るため、ABL(農畜産物などの動産を担保にすること)による融資を行ってきたが、2010年には肥育・繁殖牛のABLにおいて「Agri Pro」という管理システムを開発・導入し、牛の成育度などを可視化した。従来、畜産農家の持つ「資産」である牛の状況を把握することは難しかったが、銀行側で牛の状況を把握できると同時に、畜産農家側にとっても便利な資産管理システムとして機能しているという。

鹿児島銀行の例を見ても、地銀がITを活用することで解決できる地域の課題は多い。他行やメガバンクの後追いでシステムを導入するだけでなく、それぞれの地域特性に合わせてITを活用した課題解決のノウハウを蓄積していくことも、現代の地銀に求められる姿勢なのかもしれない。

ふるさと納税に続け! 地域企業を応援する「ふるさと投資」

地方創生の一環として推進されている政策のひとつに「ふるさと投資」がある。地域資源の活用やブランド化など、地方創生につながる事業に対して数万円から投資できる、個人向けの小口投資だ。内閣府地方創生推進事務局の主導で啓蒙活動が進められており、地方の自治体や地域づくり団体、地域金融機関との連携・調和を重視していることが特徴だという。

小口投資を効率的に成立させるため、ふるさと投資の多くは「クラウドファンディング」の形式を取る。投資家は、自分が投資した事業の売上高や利益が一定水準に達すれば分配金を受け取ることができる仕組みだ。事業側のメリットとしては、すぐに元利支払いが求められるような融資ではないため、収益が上がるまで時間がかかる新事業にじっくり取り組んだり、中長期的な産業育成に活用できる点が挙げられる。

優れた地域資源や事業の育成を目標としたふるさと投資だが、地域資源や事業の魅力やポテンシャルをよく知っているのは、やはり地域金融機関の実務担当者だろう。金融機関にとっては、地域の企業が成長することが新たな融資先の獲得につながるため、投資対象企業への直接的な融資や事業計画の作成支援、モニタリングを通じた経営助言、仲介事業者や投資家への紹介などを行うことが求められる。

最後に、ふるさと投資による地域活性化の例として、栃木県大田原市における「大田原グリーン・ツーリズムファンド」の事例を紹介しよう。

大田原市は、観光地としての知名度は高くないものの、農業が盛んで那珂川、八溝山系の里山、日帰り温泉と地域資源が豊富な土地だった。そこに着目したのが、大田原市の出資で作られた官民一体の法人「大田原ツーリズム」。農業体験、商品加工体験、自然体験、農家民宿への宿泊など観光客と地域住民のコミュニケーションを取り入れた観光プログラム「大田原グリーン・ツーリズム」を企画、商品化するため、2012年から2013年にかけてクラウドファンディングで1,149万円を調達した。結果として、2012年当初は年間189人しかいなかった観光交流人口が2013年は806人、2014年は3,923人、2015年は6,459人と大幅に増加。農家民宿も年間1,500泊以上を受け入れており、観光交流地として急成長を遂げた。

栃木県では栃木銀行が2015年から「とちぎん地域産業創生プログラム」としてクラウドファンディングの普及に取り組むなど、大田原の事例を受けてさらなる啓蒙が行われている。

地方創生には、地域の金融機関による直接的、間接的な支援が不可欠だ。しかし、単に地元企業に融資することだけが支援ではない。製造業支援に特化した専門チームを作って中小企業同士のマッチングを行う伊予銀行の例や、銀行自ら新たなビジネスモデルを示した鹿児島銀行の例など、地域や銀行の個性に応じて、さまざまな貢献のあり方が考えられる。

金融機関が、形にとらわれることなく各地域に合った柔軟なアプローチで地元企業や産業を支援することが、日本を元気にする地方創生へとつながっていくのだろう。

ライタープロフィール

ライター:上野 俊一
ゲーム雑誌編集者、音楽制作雑誌編集者、VR雑誌編集者、フリーライターを経験。特にデジタルエンタテインメント分野に詳しい。最近はFinTech関連の記事を多く執筆している


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