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コラム

[第17回] リテラシー向上が金融サービス普及のカギ! 金融教育の現在地

更新日:2017年4月24日

FinTechの浸透により、消費者にとってわかりやすい金融サービスが続々と登場し、手軽にサービスを享受できる機会は確実に増えている。その一方で、金融に対して敷居が高いイメージを抱いている層が多いのも事実。
金融業界のさらなる発展のためには、より多くの消費者に金融サービスを身近に感じてもらい、ニーズを喚起させることが不可欠だ。その取り組みのひとつとして、今回は「金融教育」に注目したい。

先進国に遅れをとっている、日本の金融リテラシー

金融庁はサブプライム問題の発生を契機とした金融危機を踏まえ、消費者の金融リテラシー向上、金融行動の改善が重要であるとし、2012年に「金融経済教育研究会」を設置。2013年には、国民の生活スキル向上、金融商品の供給促進、家計金融資産の有効活用を目的とする「最低限身に付けるべき金融リテラシー(4分野・15項目)」を発表し、国を挙げて金融教育に注力してきた。

しかし、世界的な格付け機関であるS&P グローバル・レーティング社が2015年に発表した調査によると、日本人の金融リテラシーは世界144カ国中38位、先進国の中では下位に位置付けられており、「日本人の半数以上に十分な金融リテラシーが備わっていない」という見解を示している。

金融広報中央委員会(知るぽると)が2016年に全国18〜79歳の個人25,000人を対象に行った「金融リテラシー調査」でも、金融知識・判断力を問う問題の正答率は55.6%で、中でも18〜29歳の正答率は42.9%と低い。さらに、株式、投資信託、外貨預金などのリスク性資産を購入したことがある人は、全体の2〜3割に満たず、その中の2〜3割は商品性を理解しないまま購入しているという。

まだまだ貯蓄文化の根強い日本だが、今後は年金や貯金だけで十分な資産形成ができるとは限らず、特に若年層こそ資産運用などを通して自ら将来のお金を蓄えていく必要がある。

FinTechで生まれた金融サービスは、ユーザーファーストに基づく設計やわかりやすさ、モバイル対応などから、金融になじみのない若年層との親和性も高いと考えられる。ただ、サービスを利用する側に十分な金融リテラシーが備わっていなければ、数あるサービスの中から自分にとって最適なものを選択するのは難しく、自分の“お金”にまつわる悩みを解決してくれるサービスが存在することにすら気が付かないかもしれない。

このような課題を解決し、金融サービスを消費者にとってより身近なものにすべく、また社会貢献活動の一環として、一部の金融機関やFinTech系ベンチャー企業では積極的に金融教育を実施している。

教育現場に参入し、リテラシー向上に貢献する金融機関

みずほフィナンシャルグループは「2016〜2018年度グループCSR取り組み方針」における柱のひとつに、「金融教育への取り組みへの継続推進」を掲げている。これまでにも、東京学芸大学との共同研究による金融教育テキストの開発、教職員向け公開講座や研修の実施、学校への出張授業などを行ってきた同行。
「若いうちから金融の仕組みについての理解を深め、複雑化・グローバル化する社会で自立した生活者として生きていけるように」という考え方にもとづき、学校教育の現場に力を注いでいるのが特徴だ。

2016年に同行が実施した「子どもサマー・スクール」では、全国73の支店に会場を設置し、子ども向けに職業体験やお金の管理方法をレクチャー。小学生を中心に約1,300名もの参加者が集い、地域の子どもたちが社会とお金について学ぶ良い機会として好評を博した。

大学生に対する金融教育も需要が高まっており、学びの場に参入する金融機関が増えつつある。
たとえば、SMBC日興証券は、2015年に学生マーケティングを専門とするオーシャナイズ社と連携し、大学生の金融リテラシー向上のためのプロジェクト「UNISA」を始動。勉強会やイベントを開催するほか、全国57大学に金融に関する教科書「大学生の夢と現実とお金の話。」を無料配布している。
日本証券業協会は「金融リテラシー出前講座」を全国に展開しており、社会に出る前に知るべき金融の基礎知識や、証券市場の役割や投資の意義を大学生に伝えている。

ちなみに、先述した金融広報中央委員会の調査では、「金融教育を受けた」と回答した学生の正答率(56.4%)はそうでない学生の正答率(38.2%)よりも高く、全年齢層平均(55.6%)をも上回っていることから、若者に金融教育を施すことの重要性がうかがえる。

40以上の地銀が主催。年々盛り上がる「エコノミクス甲子園」

ここで、地方銀行が協働して金融リテラシー向上に取り組む事例を紹介したい。全国の高校生が金融・経済の知力を競い合うクイズ大会「エコノミクス甲子園」だ。NPO法人金融知力普及協会が全国大会を主催し、地方大会や地区予選は40を超える地方銀行が主催。2007年にスタートし、2017年には第11回大会が開催された人気イベントである。

金融庁をはじめ、全国銀行協会や日本証券業協会など金融業界を代表する団体が協力しており、出題される問題は単純な金融・経済の知識ではなく、時事問題やトリビア、地方大会では地元経済についても出題されるなど、幅広く「お金」に関する知識が問われる。

一般の金融リテラシーとは少し毛色が異なるかもしれないが、高校生の参加者は年々増加しており、エントリーした人には主催から事前学習のための教材が送られてくる。学校教育では習わない「お金」に関する知識を身に付けるきっかけ作りとして、リテラシーの向上に大きく貢献していると言えるだろう。

ベンチャー企業の参入は、金融教育の需要が高まったことの証左

近年は金融機関のみならず、FinTech系のベンチャー企業も金融教育に着手しはじめている。
家計簿アプリサービスなどを開発・提供するマネーフォワード社は、2016年より学生に向けたお金に関する学習、知識の習得を目指すプログラム「18歳からのマネーフォワード」を開始した。

これは日本の教育現場で経済知識の習得が重視される傾向にあるのに対し、貯蓄や資産管理、投資、クレジットカード利用、保険など、より実践的な「お金」について学ぶことに注力したプログラム。ただ知識を身に付けるだけでなく、自分自身で資産を形成する力を育むことを目的としている。

第一弾として聖徳学園高等学校での公開授業が実施され、話題を呼んだ同プログラム。今後、様々な教育現場で実践的な「お金」の知識を学ぶ授業が展開されることが予想される。

このように、金融機関だけでなくベンチャー企業が金融教育に取り組み、それが単なる社会貢献にとどまらずビジネスとして成立する背景には、消費者側にも金融リテラシーが十分に備わっていないことに対する危機意識があるのかもしれない。様々な理由が考えられるが、少子高齢化や社会保障制度への不安、退職金の減額など、将来の「お金」に対する不安が理由のひとつに挙げられる。
これまで企業や社会が保障してきた「お金」が揺らぎ始め、自分たちで資産形成をしなければならない状況の中で、「金融リテラシーが低いと損をする」という意識が芽生えつつあると言える。

これは同時に、銀行員のリテラシー向上も重要になることを意味する。資産形成をしたくても十分な知識がない層に対しては、いっそう銀行員の的確なアドバイスが必要とされるし、消費者のリテラシーが底上げされた場合は、銀行員がより高度なリテラシーを身に付けていなければ、銀行としての価値が揺るぎかねないからだ。
また、日進月歩のFinTechや法改正に対応するためには、継続的に金融リテラシーを高める環境作りや、逆にITの力で知識やスキルを補完するソリューションも期待されるだろう。

消費者や銀行員の需要に応じて、長らく金融教育に取り組んできた金融機関の知見と、ユーザーファーストの視点やアイデアを持ったFinTech企業が協働して、金融教育プログラムを立ち上げる可能性も大いに考えられる。今後、金融業界の隆盛をさらに後押しする新たな金融教育サービスの登場に期待したい。

ライタープロフィール

ライター:松山 響
大手広告代理店や電気通信事業者のオウンドメディアにて、取材・ライティングを担当する。若者の実態調査、地方創生プロジェクトに関する記事を継続して執筆。また、生協の週刊情報誌の編集に創刊から携わり、食と安全にも明るい。


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