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[第15回] 個人型確定拠出年金の本格的な普及に向けて。
10分でスタートできる、最先端iDeCoサービス
更新日:2017年3月17日
2017年より、個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入対象が拡大。企業年金のあるサラリーマンや公務員、専業主婦にも確定拠出型年金への加入が認められるようになった。しかし、もともと貯蓄文化の根強い日本に確定拠出年金のメリットが浸透しているとは言えず、その存在自体を知らない人も多い。
そんな中、たったの10分でiDeCoが始められるサービス「MYDC」が登場し、注目を集めている。今回は『株式会社MYDC』の代表取締役社長・前川卓志氏に、サービスの特長や、個人型確定拠出年金を日本に浸透させるための課題、そのために金融業界がすべきことをうかがった。
“手軽さ”と“わかりやすさ”で、iDeCoへの抵抗感をなくす
2016年に6月2日に設立された『株式会社MYDC』は、ロボアドバイザーによる資産運用サービス「THEO(テオ)」を提供する『株式会社お金のデザイン』、福利厚生サービスを提供する『株式会社ベネフィット・ワン』、そして『伊藤忠商事株式会社』の3社が出資する確定拠出年金(iDeCo)の運営管理機関だ。
2017年1月16日に同社がリリースした「MYDC」は、スマートフォンで簡単にiDeCoへの申し込みができるサービス。3つの質問に答えて節税メリットを確認したあと、ウェブ上で作成した申し込み用紙に押印して返送するだけで、不備がなければ申し込み完了となる。さらに、資産運用を始める際はロボアドバイザー「THEO」が商品選択をサポート。iDeCoによる節税メリットを得たい人だけでなく、資産運用に興味がある人のニーズにも応えることができる。
代表取締役社長の前川卓志氏は、サービス開発の背景についてこのように述べる。
「当時、iDeCoには3つの課題があると考えていました。ひとつは認知度の低さ、次に申し込み手続きの面倒さ、そして、サービス選択や商品選択の難しさ。認知度については2017年1月の法改正をきっかけに少しずつ高まっていくと予想していたので、我々は残り2つの課題を解決しようと思いました」
手軽さとわかりやすさを追求するため、デザインや画面設計にあたって『お金のデザイン』のメンバーも交えて議論を重ねたという。
「画面に掲載する情報は引き算で考えて、本当に必要な情報だけを入れるように心がけました。私はもともと金融業界の人間なので、どちらかと言えばあれもこれも説明したくなるタイプなのですが(笑)。そこは元グーグルの社員など、“非金融”出身者の視点を参考にしながら設計しました」と前川氏。選択できる商品も3本の投資信託と1本の定期預金に絞ることで、初めての人でもわかりやすく、抵抗感を抱きにくい情報量を実現している。
MYDC利用者の9割以上が投資商品を選択。一方、利用拡大への課題も。
iDeCoの最大の魅力は節税メリット。積立金が全額所得控除になるため、たとえば課税所得が300万円の会社員なら、年間で最大5.5万円程度の節税が見込める。MYDCもサービス立ち上げ当初は、運用利益よりも節税メリットを伝えることに注力していたという。しかし、いざフタを開けてみると、当サービス利用者の9割以上が投資信託を選択していることがわかる。
「法改正以前のデータではありますが、確定拠出年金に加入する方の7割程度は定期預金を選択する、つまり節税メリットだけを取っていると言われています。その中で、9割以上もの方が投資を選ぶとは、正直我々も予想していませんでした。それだけ投資に対する潜在的ニーズが大きく、アドバイスを受けたいと思っている方が多くいるのだと実感しましたね」と前川氏は振り返る。
一方、利用者の年齢層は40~50代がボリュームゾーンとなっており、他のiDeCoサービスと大きな差異はないという。
前川氏は、「スマートフォンで完結するサービスなので、20~30代の利用者も増えると予想していたのですが、やはりiDeCoのニーズ自体がまだ若い層にはあまりないんですよね。老後のことを気にするのは40~50代ですし、歳を重ねて所得が増えれば節税メリットへのイメージも湧きやすい。20~30代は老後よりもまず、結婚や子育てなどにかかるお金のことのほうが心配ですし、節税メリットも身近に感じにくいようです」と語る。
確かに、20~30代のライフステージで老後の資金にコミットするのは難しいのかもしれない。しかし、本来であれば危機感を持つべきなのは、退職金や年金がある程度は保証されている50代ではなく、退職金制度や年金制度見直しの影響を受ける20~30代であろう。そこに、前川氏はiDeCoにおける4つめの課題を感じ始めているという。
「申し込みの面倒さや商品選択の難しさ以前に、iDeCoの制度自体をジブンゴトとして捉えていただくのに、意外と時間がかかると感じています。“節税メリットがあるから得ですよ”とお伝えしても、“英語を話せたほうが得”ぐらいにしか捉えてもらえないというか(笑)。実際に、iDeCoのメリットを説明してもピンとこなかった方が、“ねんきん定期便”に記載された支給額を見て、ようやく危機感を抱いて加入することもありました。それぐらい、この制度とご自身の人生をリンクさせるのは難しいのだなと。
MYDC利用者の内訳を調べてみると、ほとんどの方が節税メリットを最大に受けられる金額で積み立てをしています。つまり、iDeCoのメリットを理解している層、または節税メリットが充分に受けられる層が始めているということ。まだまだアーリーアダプターだと思いますし、次のステージに向けて我々にできることを色々と議論している段階です」
日本の投資人口を増やすために。金融機関との業務提携も開始
iDeCoの浸透に向けて政府主導の施策が期待される一方、スタートアップ企業を含めた金融業界全体での取り組みも認知度向上には欠かせない。すでにMYDCも、他の金融機関や企業との協働を計画しているという。
「金融機関の方々が課題としてよく挙げられるのが、iDeCoの普及には関わっていきたいが開発・運用コストがかかるということ。弊社のサービスは、ユーザーのスマホ上で手続きが完結し、店頭に申し込み窓口を設置する必要もないので、そこに協働のメリットを感じていただけることが多いですね。特定の金融機関に属しているわけではないですし、特定の金融商品を邪魔することもないので、開発・運用コストをかけずにユーザー利便性の高いiDeCOサービスを始めたいと考えている金融機関でしたら、MYDCを活用しやすいのではないでしょうか。
私たちとしても、iDeCoの認知度の低さや制度の難しさをイチ企業で解決することはできないので、金融機関や企業と協働しながらその課題を乗り越えていきたいと考えています」と前川氏。
最後に、同氏はiDeCoの普及を通じて伝えていきたいことをこのように語った。
「iDeCo自体の普及はもちろん、この事業を通じて日本の金融教育にも貢献していきたいという思いがあります。大ざっぱな計算ですが、月1万円積み立てると年12万、30年で360万円です。この、大きいようで少ないお金を投資商品で運用してみることのおもしろさを伝えていきたいんです。仮に、それを利回り3~4%運用すると、30年で600万円弱になります。積み立て金が1.7万円なら、30年で約1,000万円です。これは、今の定期預金の金利水準では得られない額ですよね。しかも、運用益が非課税なのもiDeCoの大きな魅力。
まずはiDeCoで投資の成功体験を積んでいただき、次は「THEO」であったり、他のサービスであったり、あるいは自分で投資を始めてみたり。貯蓄志向が強いと言われる日本で、投資を身近に感じてもらうための第一歩として、このサービスを活用していただけたらうれしいです」
<プロフィール>
前川
卓志:東京大学経済学部卒。ミシガン大学経営学修士MBA。1996年に株式会社住友銀行(現:株式会社三井住友銀行)に入行し、市場企画、経営企画業務を歴任。ボストンコンサルティンググループを経て、2010年に日本初のPEに特化した独立系プレースメントエージェントであるアーク・オルタナティブ・アドバイザーズ株式会社(現:アーク東短オルタナティブ株式会社)を設立し、経営に従事。その後、アジア・アフリカ・インベストメント・アンド・コンサルティングのDirector
& Co-CEO、株式会社トレードの取締役社長を経て、2016年株式会社MYDCの代表取締役社長に就任
ライタープロフィール
ライター:松山 響
大手広告代理店や電気通信事業者のオウンドメディアにて、取材・ライティングを担当する。若者の実態調査、地方創生プロジェクトに関する記事を継続して執筆。また、生協の週刊情報誌の編集に創刊から携わり、食と安全にも明るい。