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コラム

[第14回] 2017年、AIはビジネス現場への実戦投入フェーズへ
銀行も本格導入が待ったなしの状況に!

更新日:2017年2月28日

今やAI(人工知能)の文字を新聞で見かけない日はないといっていい。グーグルをはじめ、アップル、アマゾン、ソフトバンク、フェイスブック、マイクロソフト、IBMといった大企業が中心となって巨額の投資が行われてきたこの分野は、いよいよビジネス現場への実戦投入フェーズへと移行しつつある。昨年、法改正など国を挙げてFinTech推進に取り組んだ金融業界は、その先端を走っているといっても過言ではない。今年のAI関連ニュースから、特に銀行に関係しそうなものをピックアップしてご紹介し、2017年にAIが金融の世界にもたらす変革を予想する。

ここ数年のAIブームをけん引したキーワード「ディープラーニング(深層学習)」

2012年の6月、米グーグルが開発したAI(人工知能)がディープラーニングによって自ら学習し、「猫」を画像認識できるようになったという発表があった。それからわずか5年足らずでAI分野の研究は飛躍的に進み、ディープラーニングという新時代のキーワードとともに、一大ブームと言える状況を迎えるに至った。

ここ1年の動きを振り返ると、2016年3月には米グーグル傘下の英グーグル・ディープマインドが開発した「AlphaGo(アルファ碁)」が囲碁界のトップ棋士であるイ・セドル九段との五番勝負に4勝1敗と圧勝。AlphaGoの特筆すべき点は機械学習、ディープラーニングのテクノロジーが用いられていることで、自ら数千万局にも及ぶ「自己対局」を繰り返すことで圧倒的な強さを身に付けたのだという。その後、2017年の年明け早々にネット上で世界ランク最上位クラスのプロ棋士を次々と撃破していた謎のアカウント「Master」の正体がAlphaGoの進化版だったことが、グーグル・ディープマインド社によって明らかにされた。もはやチェス、将棋、囲碁といったゲームの分野において、最上位のAIは人間が太刀打ちできるレベルではなくなりつつあるのかもしれない。
また、2016年11月には中部経済新聞の70周年記念企画として「AIが執筆した新聞記事」が発表され、大きな話題を呼んだ。2017年1月には、日経新聞もAIが作成した記事を公開した。

2016年はまさに「AIブーム」と呼ぶのにふさわしい1年だったと言える。

このブームの中核をなす技術「ディープラーニング(深層学習)」とは、AI研究の長年の課題であった「機械学習」の一種だという。機械学習は「人間が当たり前に行っているような“自分で学習する”機能」を機械にも獲得させる研究分野で、ディープラーニングの場合は、脳の働きの一部を疑似的にシミュレートする研究から始まった「人工ニューラルネットワーク」という考え方をもとに構築されている。近年ディープラーニングの手法が実用レベルになったことで、画像認識や音声認識、自然言語の理解といった「人間なら子供でも自然に学習できるが、コンピュータが長く苦手としてきた分野」においても飛躍的に能力が向上しつつある。そしてこのディープラーニングをさまざまなデータに応用することで、従来はできなかったスマートなデータ認識や分類が可能となってきたことが、現在のAIブームの背景にあることを押さえておこう。

「自ら学習するAI」たちが銀行のビッグデータを有効活用!

現在、AIやディープラーニングは実社会においてどのように役立つものなのだろうか。ビジネス分野でのAI活用は、主に「ビッグデータをAIが学習し、解析し、分類する」という方向から始まっている。さらなるAIの近未来像としては、AI自身が解析したデータに基づいた推論や提案を行うようになる……などの方向性も考えられるが、現時点では「人間には処理しきれない膨大な量のデータに対してAIが傾向の解析、分類を行い、その解析結果、分類結果を人間が役立てる」というのが主流の使われ方だと言えそうだ。

2017年に入ってからのAI関連ニュースで気になったものを、銀行関連のものに絞っていくつか見ていこう。

三菱UFJ信託銀行は、2016年12月からディープラーニングの技術を用いた投資ファンド「AI日本株式オープン(絶対収益追求型)(日本AI)」の法人向け提供を開始。さらに2017年2月からは個人投資家向けの提供もスタートさせた。同行は以前からAIを用いた投資ファンドに積極的に取り組んでおり、シミュレーションや試験運用の結果、人間の担当者だけで運用した場合よりも投資成績が良い結果が得られているという。 同行の持つすべてのデータをニューラルネットの入力データとして使用しており、それらのデータによってどのように株価が変動するのかを自己学習させ、どのデータを重視するのかなどについて判定精度を高めていく。このサービスでは完全にAIによる運用が行われるわけではなく、最終的な判断は人間の担当者が下すという形になっており、現時点でのAIファンドのスタンダードな形と言えそうだ。

ディープラーニング関連で言えば、三井住友フィナンシャルグループによるクレジットカードの不正検知の精度向上のための検証結果発表も興味深いニュースだ。従来の不正検知技術では、「疑わしい」とされた取引のうち本当に不正だった取引は約5%程度だった。しかし、過去数カ月分のクレジットカード利用のデータをディープラーニングでAIに学習させたところ、この数字を約90%まで引き上げることができたという。膨大なデータからAIに学習させて精度を高めるディープラーニングの強みを生かした事例と言えるだろう。

人工知能を活用したお手軽なクラウドサービスも登場

銀行周辺でのAI活用のひとつの潮流となりそうなのが、法人向け融資審査での導入。たとえば広島銀行は、2017年2月6日にAIを活用した融資審査高度化に向けた実証実験を開始したことを明らかにしている。この実験は審査精度の向上や審査期間の短縮、審査の一部自動化などを図ることで、高付加価値サービスの提供やコスト削減を目指したもので、同行の取引先の入出金履歴をはじめとする各種データをAIに入力し、それぞれのデータと倒産リスクの関係性などを検証。また、この実験結果を踏まえて融資業務全般への応用可能性を広く検討するとしている。
なお、融資関連へのAI活用はメガバンクでも導入が進んでおり、みずほ銀行もソフトバンクとの共同出資会社で、AIを活用した個人融資事業を今年からスタートさせるという。

最後に、新生銀行子会社の新生フィナンシャルが2017年2月に発表した「SkyFox」というSaaS型アナリティクス・ソリューションをご紹介したい。これは新生フィナンシャルとグリフィン・ストラテジック・パートナーズが設立した人工知能活用のためのフィンテック合弁会社「セカンドサイト」が提供するクラウドサービス。銀行の保有データやインターネット上のオープンデータをAIが分析し、ユーザーのダイレクトメール申込予測や来店予測ができるという。導入費用が30万円、運用時の基本料金が月額10万円から利用でき、さらに3カ月の無料トライアルも可能。すでに新生銀行グループのみならず、池田泉州銀行など複数の金融機関が導入を予定している。

いずれのサービスの場合も、まだまだ何かの業務を完全にAI任せにするというものではないものの、もともと銀行が持っていた大量のデータという資産がAIを使うことで新たな価値を生み出し始めていることがわかる。業務において明らかに数値的な改善が見られる事例が多いため、今年だけでもかなりの領域でAI化が進むのではないだろうか。コスト面や運用技術といった導入の壁に関しても、SkyFoxのようなクラウドサービスなど、安価で簡易な選択肢がどんどん登場することは想像に難くない。

今はもうAIをぼんやりとSF的なロボットとして捉えるのではなく、融資審査や投資といった従来業務の精度を高め、可能性を広げ得る実用的なツールとして認識することがまず必要だろう。AI研究は非常に幅広いアプローチがあるジャンルであり、今後も銀行業務に役立つテクノロジーが次々と出てくるはずだ。業務の効率化のみならず、AIの分析能力を活かした潜在需要の掘り起こしや、それに伴う新しいサービスの創出にも期待したい。

ライタープロフィール

ライター:上野 俊一
ゲーム雑誌編集者、音楽制作雑誌編集者、VR雑誌編集者、フリーライターを経験。特にデジタルエンタテインメント分野に詳しい。最近はFinTech関連の記事を多く執筆している。


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