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コラム

[第11回] 2016年の金融トレンドを振り返る!(後編)
マイナス金利が後押し? 地方活性化とAIロボットの可能性

更新日:2016年12月19日

2016年の金融業界を総括する連載企画。前編では、日本の金融業界に新たな風を吹き込んだ法改正を中心に振り返った。後編では、日銀によるマイナス金利の導入や米国大統領選挙でのトランプ当選など、国内外の政策がもたらした金融業界の変化と未来をひも解いていく。

地方銀行の再編により、大規模地銀グループが相次いで誕生

2016年2月16日からスタートしたマイナス金利政策。民間金融機関が日銀に預ける当座預金にマイナス0.1%の金利が適用されるようになったことは、金融機関のみならず日本経済全体に大きな影響を与えた。
企業の設備融資や消費者の住宅ローンの助長につながった一方、貸し出し金利の低下によって利ざやが縮小するなど、民間金融機関にとっては厳しい側面も。利益の減少をどのようにカバーし、戦略を構築していくかが喫緊の課題となった。

マイナス金利が民間銀行にもたらした影響として注目したいのが、地方銀行の再編。ここ数年でじわじわと増えつつあった地銀再編が、今回の政策によってさらに加速したとみられている。主だった動きでは、2016年4月1日には、横浜銀行と東日本銀行が経営統合し、共同持ち株会社の「コンコルディア・フィナンシャルグループ」が誕生。設立時の総資産は17兆円を超え、この時点で国内最大の地方銀行グループとなる。

次いで、2016年10月1日には茨城県の常陽銀行と栃木県の足利銀行を傘下に置く足利ホールディングスの「めぶきフィナンシャルグループ」(総資産:約15兆円)、2016年10月3日には、西日本シティ銀行と長崎銀行の「西日本フィナンシャルホールディングス」(総資産:約9兆円)が誕生。大規模な地方銀行が続々と生まれた。
さらに、福岡市を拠点とする「ふくおかフィナンシャルグループ」は、2017年4月を目処に長崎県の十八銀行と経営統合する方針を発表。実現すれば連結資産規模は18兆円を超える見込みで、コンコルディア・フィナンシャルグループを抜いて国内最大の地方銀行となる。

いずれの再編も、人口減少や経済規模の縮小といった地域社会が抱える課題、そして今回のマイナス金利による収益低下が背景にあると考えられる。資本や資産規模が大きくなることで余力が生まれ、古くから地元を支えてきた銀行が力を合わせることで、地域に根ざした新しいビジネスの創出につながるだろう。
一方で、貸し出し先の母数や規模が小さい地方において、資本を有効活用できないのではないかという懸念もある。地域活性化や経営規模拡大を目指して、今後どのような取り組みが生まれるのか注目したい。

業務効率化と顧客満足度向上のカギを握る、AIロボット市場

マイナス金利政策の影響で業務純益が低下していくなかで、“業務効率化によるコスト削減”と“サービス利便性の向上による顧客獲得”も、銀行が生き残るうえで避けては通れない課題である。その双方を実現する可能性を秘めた施策のひとつに、AIロボットの活用が挙げられる。

当コラムでは、話題を呼んだロボット尽くしのサービス業や、メガバンクに続々と“入行”するAIロボットを紹介した。

たとえば、シナリオで答えられる質問の回答をAIが担うことで、オペレーターはより丁寧なサポートが求められる対応に注力できるようになる。これにより業務効率化と顧客満足度の向上を実現するだけでなく、いままで見えなかった課題の発見や、新しいビジネスを開拓する可能性も秘めているのが魅力的な点だ。

直近の動きでは、みずほ銀行とソフトバンクがAIを活用した個人向け融資事業を2017年よりスタートすることを発表。みずほ銀行が保有するビックデータやローン審査ノウハウ、ソフトバンクが保有するビックデータやAIによるデータ分析のノウハウを融合した新しいビジネスとして注目を集めている。ジャパンネット銀行もFinTechベンチャーのfreeeと連携してAIを活用した融資サービスを始めることを発表。改正銀行法の後押しも受けて、今後は大手メガバンクのみならずAIを活用した金融ビジネスが増えてくることは間違いない。

また、AIロボット導入の成功事例をみると、“AIロボットの接客”自体が新たな顧客体験を生み、直接的に集客や売上に貢献している側面もあることがわかった。AIロボットがその街の新しいシンボルになれば、これまで集客が見込めなかった層が店舗を訪れるきっかけになったり、外部からの集客につながったりする可能性も十分に考えられるだろう。

そういう意味では、首都圏や都市部に限った話ではなく、地方においても有効活用できるかもしれない。実際、地方の企業や自治体がAIロボットを導入するケースも増えつつあり、当コラムでも人手不足の解消に役立つとされるコミュニケーションロボットの事例を紹介している。

上記のようなコミュニケーションロボットの効果が実証されれば、人口減少と少子高齢化の課題を抱える地域社会で活躍できる場面は多いはず。成長著しく、地域活性化にも貢献できるAIロボット市場。もしかすると、資本の有効活用が期待される大規模地方銀行の“次の一手”になるかもしれない。

日銀の追い風となった、米国大統領選挙のトランプ当選

日銀は2016年9月20〜21日の金融政策決定会合で、マイナス金利の総括的な検証を行ったうえで、金融緩和のための新しい枠組みとして「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入を決定する。

主なトピックとして挙げられるのは、10年国債利回りがほぼゼロになるように長期国債の買い入れを行い、長期金利の過度な低下と民間金融機関の収益悪化を抑止する方針だ。
この背景には、マイナス金利政策に一定の効果があると評価しつつも、民間金融機関の業績を圧迫していることは間違いなく、政策に対する金融市場からの批判を和らげるねらいがあったと考えられる。
結果として、一時的に10年国債利回りが0.005%まで上昇したものの、その後はゼロ〜マイナス0.1%のレンジ内で推移していた。

そこに新たな風を吹き込んだのが、米国大統領選挙のトランプ当選、いわゆる「トランプショック」だ。これにより米国の10年国債利回りが急上昇。大統領選前日には1.85%だったものが、翌日には2.05%にも昇った。トランプ政策によるインフレの到来や米国経済の回復を市場が予想したのだ。当然ながら日本の長期金利も少しずつ持ち上がり、16日には10年国債利回りが0.005%まで上昇。外的要因が大きいものの、日銀の目論見通り、日本の10年国債周りをプラス圏に押し上げることに成功した。

今後、トランプ効果による長期金利の上昇がいつまで続くのかが注目されているが、日銀はほぼゼロに誘導する政策をとっているため、いまのところ日本の10年国債利回りが大きく上昇することはないと考えられている。そして、この日米金利差の拡大による円安トレンドが続けば景気回復への期待は高まり、新しい金融商品の需要も高まるだろう。
2016年12月12日には、米マイクロソフトが傘下のベンチャーキャピタルを通じてAI分野に特化した投資ファンドの設立を発表。日本国内でも、三菱UFJ信託銀行や三井住友アセットマネジメント、シンプレクス・アセット・マネジメントなど、2016年に入ってから続々とAIファンドの運用を開始する企業が増えており、「トランプショック」の波に乗ってどのような成長を遂げるのかが期待されている。

とはいえ、まだまだ不確定要因が多いと言われているトランプ政権。就任後の政策が2017年の日本経済、そして金融業界にとって大きな焦点になることは間違いない。

ライタープロフィール

ライター:松山 響
大手広告代理店や電気通信事業者のオウンドメディアにて、取材・ライティングを担当する。若者の実態調査、地方創生プロジェクトに関する記事を継続して執筆。また、生協の週刊情報誌の編集に創刊から携わり、食と安全にも明るい。


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