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コラム

[第1回] ロボット店長に、ロボット銀行員も?
AI接客最前線

更新日:2016年7月27日

感情を認識するヒト型ロボット「Pepper for Biz」の法人向けレンタル開始や、囲碁AI「アルファ碁」が世界トップ棋士に勝利 するなど、日進月歩で成長を続ける人工知能(AI)テクノロジーの世界。今後も多岐にわたる分野への展開が期待されるなか、にわかに注目を集めているのが、接客サービスにおけるAI技術の導入だ。接客ロボットや自動接客ツールには、業務の効率化や人材不足の解消につながる可能性があるとして、首都圏の企業のみならず、地方の企業が導入するケースも徐々に増えている。いま“AI接客”の最前線では、どのようなアイデアが生まれているのだろうか。いくつかの事例を紹介しよう。

ホテルの受付からレストランの店長まで、“ロボット尽くし”のサービス業

AIロボットの接客サービス導入例として2015年に大きな話題を呼んだのが、長崎県佐世保市のテーマパーク「ハウステンボス」にオープンした世界初のロボットホテル「変なホテル 」。フロントでは多言語対応のAIロボットがチェックインやチェックアウトの手続きを行い、館内の案内係も、クロークで荷物を預かる係員も、客室まで荷物を持ってきてくれるポーターもロボットで構成されている。

フロント係にはヒト型、ロボット型、恐竜型と3種類のロボットを配置し、それぞれが愛嬌のある動きや温かみのある表情をするなど、エンターテインメント性をしっかりと打ち出しながらも、最新技術を駆使した業務の効率化によって、ホテル業界でしばしば課題とされる人件費の大幅な削減に成功している。

さらに、ハウステンボスは2016年7月16日に「変なレストラン 」を新規オープン。“200年後のレストラン”をテーマに、AIロボットが店長を務め、自然な対話ができるコンシェルジュロボットがレストランを案内する。「変なホテル」に引き続き、お好み焼きや焼きそばを作る調理係、カクテルやソフトドリンクを作るバーテンダー、お皿を片付けるホール係までロボットが担当するという徹底ぶりが好評で、連日長蛇の列ができているという。

合理化を最優先に考えるならば、ホテルの受付やレストランの案内係をわざわざロボット化する必要はなく、自動音声システムやタッチパネル式を採用したほうが開発・運用コストを抑えられるかもしれない。しかし、人と対面する接客業務においては、相手を楽しませる“おもてなし”がサービスの満足度に大きく影響する。もともとテーマパークという空間とロボットの親和性が高いこともあるが、エンターテインメイト性を保つことで“ロボットの接客”自体が付加価値となっているのが、ハウステンボスの勝因といえるだろう。

メガバンクに続々と“入行”するAIロボットたち

銀行のロビー案内を、ロボットが応対してくれる。そんなサービスを実現すべく試験的に導入されているのが、三菱東京UFJ銀行のヒト型ロボット「NAO 」だ。Pepperの開発に携わったアルデバランロボティクス社のロボットで、来店客の表情や声を読み取って窓口を案内するAI機能を搭載。約20ヶ国語に対応できるため、外国人観光客のさらなる増加が見込まれる東京オリンピックでの活躍も期待されている。身長は約58cm、身振り手振りを交えて話す姿はなかなか愛くるしいものがあり、ハウステンボスと同様に業務の効率化を図るだけでなく、顧客を楽しませる狙いもあることがうかがえる。
そのほかにも同社は、音声による話し言葉で各種手続きに関する質問ができるスマートフォンアプリ「バーチャルアシスタント 」の開発や、無料対話アプリLINEの公式アカウントに人工知能インターフェイスを活用 してQ&Aサービスを充実させるなど、AI技術の導入に積極的な姿勢を見せている。

一方、みずほ銀行が全国約10店舗に導入したPepper は、窓口誘導業務のほかに、来店客の体感待ち時間を削減する任務も請け負っている。Q&A方式でわかりやすくレクチャーしてくれる保険案内をはじめ、受付カードの番号を利用したおみくじや、子ども向けのミニゲーム、金融にまつわる小噺や川柳まで提供してくれる充実ぶり。しかも、吉本興業の子会社である「よしもとロボット研究所」が開発したアプリを搭載しているため、ネタの品質は“一流”だ。

エンターテイメント性の高さはすぐさま話題を呼び、Pepperをきっかけに来店する客が増加。Pepperによる簡潔な説明が効果を生み、金融商品や保険商品に興味を抱く顧客も増えたという。AIロボットを活用した“新しい顧客体験”が、集客や成約につながった好例だろう。

「ヒト対AI」ではなく、AI活用の先にある「未来」に目を向けよう

AI技術がめざましく進歩を続ける一方で、「人間の仕事がなくなってしまうのではないか」という懸念もある。しかし、上記のような事例を見る限り、AIは人間があくまでも“活用するもの”であるとつくづく感じさせられる。

たとえば、三菱東京UFJ銀行のような取り組みであれば、いわゆる「よくあるお問い合わせ」への対応をAIが担うことで、オペレーターはより丁寧なサポートが求められる個別の問い合わせに注力できるようになる。顧客満足度の向上はもちろん、いままで見えなかった課題の発見や、新しいビジネスを開拓する可能性も秘めているのだ。これは人口減少でリソースが限られている地方の企業にとっても、大きな変革のチャンスがあるといえる。

ハウステンボスやみずほ銀行の例は、業務の効率化だけでなく、“AIロボットの接客”自体が新たな顧客体験を生み、直接的に集客や売上に貢献している。これも首都圏や都市部に限った話ではなく、地方の店舗にも活用できる事例だ。たとえば、AIロボットがその街の新しいシンボルになることで、これまで集客が見込めなかった層が店舗を訪れるきっかけになったり、外部からの集客につながったりする可能性も十分にあるだろう。

このように、私たちに必要なのは「AIに仕事を奪われる」という発想ではなく、AIを活用することで生まれる未来への視座を持つことである。企業や地域社会に新たな活力を与えてくれるであろうAI接客の動向に、今後も注目していきたい。

ライタープロフィール

ライター:松山 響
大手広告代理店や電気通信事業者のオウンドメディアにて、取材・ライティングを担当する。若者の実態調査、地方創生プロジェクトに関する記事を継続して執筆。また、生協の週刊情報誌の編集に創刊から携わり、食と安全にも明るい。


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