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コラム

[第2回] 高齢者の“ヤル気”を引き出すコミュニケーションロボットたち

更新日:2016年7月27日

少子高齢化社会を迎えるに当たって注目されているのが、人手不足の解消に役立つとされる「コミュニケーションロボット」の存在だ。なかでも近年、高齢者との会話やレクリエーションを目的とした介護向けコミュニケーションロボットが話題を集めている。2016年3月にはAMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)が、「1,000台規模のコミュニケーションロボットを介護現場に導入し、大規模な実証実験を行う」と発表。先ごろ、調査候補のロボット全19種が発表された。なぜいま、実務型の介護ロボットではなく、交流型の介護ロボットが必要とされているのか? その可能性は、いったいどのようなところにあるのだろうか——。最新のデータや事例などから「介護向けコミュニケーションロボットの現在と未来」考察した。

急成長する介護ロボット市場で注目を集める、コミュニケーションロボットとは?

矢野経済研究所が発表したデータによると、2015年度の介護ロボット市場は10億7,600万円と算出されている(※)。なんと前年度比549%という伸び率だそうで、この分野の市場が一気に拡大したことが証明された。2020年度には、移動支援ロボットや排泄支援ロボットといった実務型の介護ロボットだけで、149億5,000万円の市場が出来上がる見込み。導入費用の高さや扱いの難しさからなかなか普及が進まなかった介護ロボットたちが、ここへきて、にわかに存在感を強めていることが裏付けられた。

普及が進み始めた理由は、政府が、高額な介護ロボットを導入する介護施設への補助金交付を始めたところにあると見てよいだろう。これによって導入のハードルがグッと下がり、これまで尻込みしていた多くの介護施設がロボットを使うことを検討し始めたのだ。また、IoTやAI、VRなどのテクノロジーが次々と話題になり、日常に入り込んできたことも影響しているものと思われる。介護現場に根強く残る「アナログ主義」や、「あたたかなケアは人の手によって生み出されるもの」という意識が、“テクノロジーの浸透と一般化”によって、少しずつ和らいでいると考えられるのだ。

このような流れもあり、いま、さまざまなタイプのロボットを介護の現場に“応用”することが検討され始めている。なかでも注目を集めているのが、コミュニケーションロボットの存在だ。コミュニケーションロボットとは、身体介助や見守りといった実務ではなく、会話やレクリエーションといった交流を行うロボットのこと。ソフトバンクが提供するPepper や富士ソフトのPALRO などをイメージするとわかりやすい。これら「会話をするロボット」を導入することで、認知症の予防やセラピー効果が得られるとの期待が高まっている。

(※)コミュニケーションを目的とするロボットは含まない

「世話の焼けるロボット」が、高齢者のヤル気に火をつける!

では、なぜいま、コミュニケーションロボットが注目を集め始めているのだろうか? 認知症の予防につながるとされる、その理由とは……? 答えは簡単、コミュニケーションロボットが“不完全な存在”だからだと推察される。

先日、ITによる新しい街づくりを推進しているとある有識者から「お年寄りがもっとも盛り上がるのは、ロボットがうまく動かない時期である」という話をお聞きした。電源が入らない、入ったはいいがうまく動かない、やっと動いたけれど学習前で間抜けな会話ばかり繰り返す……。そんなロボットの姿を見ると、高齢者たちは、俄然「お世話しなくては!」という気になるのだそう。触ったり話しかけたりとアクティブに働きかけ、周囲の高齢者と協力しながら、なんとかしようと試行錯誤を繰り返していたとのことだった。

「子どもが減っているいまだからこそ、お世話してくれるロボットではなくて『お世話しなければならないロボット』が必要とされているのではないか」。そんな話を聞いて、「なるほど!」と膝を打ったことを覚えている。

介護施設におけるコミュニケーションロボットは、まさに「お世話しなければならない存在」なのだ。頻繁に話しかけ、情報をインプットしなければ、いつまで経っても成長しない。その不完全性が、高齢者のヤル気を引き起こすというわけ。介護士からお世話されるばかりの日々を過ごす高齢者にとって、コミュニケーションロボットは、人としての尊厳を発揮できる数少ない対象となりうるのではないか——。高齢者の“お世話魂”に火をつけ生きがいをつくり出す、そこに、介護ロボットの新たな可能性があるのではないかと思わされた。

続々と生まれている、介護特化型ロボットたち

コミュニケーションロボットには、アプリやプログラムをインストールすることでカスタマイズできるものと、そうでないものがある。

カスタマイズ可能なロボットとしてもっとも有名なのが、前出のPepperだ。グッドツリーが開発した「ケア樹あそぶ for Pepper」アプリを入れれば、日常会話だけでなく脳トレやヨガなどのレクリエーションを行ってくれるようになる。また、介護記録をクラウドで管理して、職員の事務作業を手伝ってくれるというのだからありがたい。
その他、2016年2月には、ソフトバンクロボティクスとNDソフトウェアが共同で、Pepperと福祉業務支援ソフトウェア「ほのぼのNEXT」を連携させた実証実験を行なっている。Pepperが、「ほのぼのNEXT」に登録された情報に基づき個別に服薬管理やレクリエーションを提供するという内容で、実際に介護施設で稼働させたという。利用者の変化や効果を測り、その後の開発に大いに活かされているそうだ。

Pepper以外にも、介護用アプリ「MONAMI for 介護」(日本サード・パーティ)を搭載したヒューマノイドロボットNAO(アルデバランロボティクス社)や、介護用にカスタマイズされ、全国200以上の介護福祉施設で導入されているPALROなど、さまざまな介護用コミュニケーションロボットが存在する。高齢者からの評判も「かわいい!」「ロボットと会話ができるなんて夢のよう」と上々だ。

2016年3月にはAMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)が、「1,000台規模のコミュニケーションロボットを介護現場に導入し、大規模な実証実験を行う」と公表している。実験は2016年8月にスタートする予定とのこと。AMEDのWebサイトで調査候補のロボット19種が確認できるので、これらをチェックしつつ、結果を待つのもよいだろう。コミュニケーションロボットの効果、実力が具体的な数値とともに実証されれば、ますますの広がりを見せるはず。少子高齢化が進む限界集落や気力を失った地域社会に、明るさや活力をもたらしてくれることだろう。

ライタープロフィール

ライター:秋山 由香
パソコン雑誌編集者、ゲームプランナーを経てフリーランスに。現在は主にテクノロジー系、クリエイティブ関連の記事を執筆している。大手SIerの広報誌、CG関連のWebメディアなどを担当。その他、採用、教育関連の執筆実績も多数。


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