東芝 知的財産室長インタビュー:
オープン・イノベーション時代における、知的財産戦略のあり方

東芝 知的財産室長インタビュー: オープン・イノベーション時代における、知的財産戦略のあり方

更新日:2017年10月24日

知的財産の権利を創出し、適切に管理していくことは、市場で企業が競争力を高めていくために欠かせない重要な活動である。近年、あらゆる業界で加速するグローバル化とオープン・イノベーション化の潮流に伴い、この知財戦略は変革の岐路に立たされている。

製造業のリーディング・カンパニーであり、戦略的な特許活動を推進する東芝グループは、こうした新時代の知財戦略をどのように考えるのだろうか。
東芝の知的財産室・室長である下川原郁子氏に話を聞いてみた。

株式会社東芝 技術統括部 知的財産室 室長 下川原郁子氏

ビジネスにおいて高まる、知的財産の重要性

企業が多大な資本を投じて創り上げた知的財産は、貴重な経営資源であり、競争力の源泉ともいえる。これを適切に保護するために特許が果たすべき役割は大きく、知財戦略の質がその企業の価値を左右すると言っても過言ではない。

近年はグローバル化による競争の激化や、急速に進む技術革新の影響もあり、企業活動における特許の重要性はますます強まっている。
また、最近のトレンドであるオープン・イノベーションの活性化も、特許の価値を再認識する一助になっているようだ。

「オープン・イノベーションの状況下では、異なる業種の企業と競合したり、あるいは協働して新しい事業に取り組むケースも多々あります。自分たちの土地勘がない業界の企業を客観的に知る上で、知的財産データは重要な判断要素のひとつ。今後、特許調査の需要はますます増えていくでしょう」

と下川原氏は話す。

特許システムへのAI導入が、業界の壁や国境を越える

グローバル化とオープン・イノベーション化の波は、世の中に特許の価値を再認識させると同時に、従来の特許調査では対応しきれない新たな課題ももたらしている。
下川原氏は、これからの特許調査で苦労しそうな点をこのように述べる。

「たとえば、東芝の事業分野に今までウォッチしていなかった異業種が参入してきた場合、馴染みのない企業だからこそ、その企業の主要な事業以外の特許も把握しておくべきかどうかを多面的に熟考する必要があります。
また、土地勘がない業界の特許情報を調査するとなると、その事業における主要プレーヤーの社名や業界用語すらもわからないので、調査の取っ掛かりが把握しにくいという点も課題でしょう。これをイチから調べるのは技術者にとって大きな負担ですし、かかるコストも膨大になってしまいます」

加えて、さまざまな業種への参入が活発なICTの分野では新しい技術用語がどんどん生まれているので、同じ技術であっても用語が異なるケースも少なくない。

「現状は調査結果が人に依存しているため、その業種に対する理解度によって、用語の使い方や解釈にバラつきがありますし、細かな表記ゆれを拾えない可能性もあります」

と下川原氏が述べるように、技術者が慣れ親しんだ業界の調査ならまだしも、馴染みのない業界への調査が今後も増えることを考えると、従来の調査方法では負担が増す一方だろう。

こうした課題に対する解決策として期待されているのが、AIを駆使した特許システムの構築である。
膨大なデータを正確かつスピーディに処理するのは、AIの得意とするところ。
あらゆる業界の特許情報を自動で調査できれば、技術者が土地勘のない業界を手探りで調べる必要がなくなり、負担軽減につながることは間違いない。

下川原氏:

「たとえば"SaaS"という語で検索をかけたら、AIが"サーバー・クライアント型" "ASP" "クラウド"といった類似語も気づきでピックアップしてくれるように、表記ゆれを全て抽出してくれるような機能があれば、効率化だけでなく検索精度の向上にもつながるでしょう。

また、今後は海外であっても、日本と同じベースで特許調査ができて、その調査結果をもとに話ができる環境が整備されていることがどの企業でも重要になるでしょう。
だからこそ、業界の壁はもちろん、国境も越えて均質かつ合理的な調査結果が得られる特許調査システムの登場が待ち望まれているのです」

東芝グループの知見を生かした、新しい特許システムに期待

『特許業務ソリューション』を提供する東芝デジタルソリューションズは現在、AIを活用した新たな特許システムを開発中。
最先端技術を取り入れて業務効率化を図るとともに、グループ内の知見を活用して、市場や現場のニーズに応えられるソリューションを目指していく。

「東芝グループ自体が知的財産の宝庫ですし、業界に誇れる特許調査のエキスパートがいます。
また、製品づくりを通して“見栄え”や“使いやすさ”を日々追求しているデザインセンターもあります。
こうした東芝グループならではの強みを生かしながら、まずは東芝グループ内部で新しいシステムを検証し、フィードバックと改良を重ねていけば、東芝グループ外においても現場のニーズと本当にマッチしたソリューションが完成するのではないかと期待しています」

と下川原氏。

もうひとつ、「特許システム×AI」に秘められた可能性として、特許情報に含まれているビッグデータの活用が考えられる。
東芝の『特許業務ソリューション』は特許情報と、たとえばプレスリリースのような特許以外の情報とを組み合わせて分析することができる。
従って、そこにAIを導入すれば、特許情報を経営情報とリンクさせて分析したり、製品のトレンドと組み合わせた新しい分析結果が手に入るかもしれない。
大量に存在し、かつ、データの宝庫である特許情報を効果的に活用すれば、今よりもさらに事業価値を見定めることができるだろう。

「たとえばある特許の処分を検討する際に、東芝グループ内でその特許と近い事業を展開している部署を探してくれたりなど、処分を検討している特許の価値を見定める場面にも貢献できそうですよね」

と、下川原氏は未来図を語ってくれた。

なお、東芝デジタルソリューションズは特許情報および知的財産関連の国内最大の見本市(2017年11月8日〜10日、東京・科学技術館で開催)に出展予定。
興味のある方は、ぜひ会場まで足を運んでいただきたい。