これからのリーダーに求める条件
大西 みつる
株式会社ヒューマンクエスト代表取締役社長
立命館大学経営学部客員教授
管理職への期待と、行動が合致していないのが課題
一般的に、リーダーというと組織の長のことをイメージするでしょう。企業においても管理職のことを指すことが多いと思います。しかし、「管理」という言葉と「リーダー」という言葉は、大分意味が異なります。これをどう考えればいいでしょうか。
もともと企業が管理職に対してかける期待は、任せた組織の業績を上げることです。そのために必要なのは、その組織のメンバーのやる気を高めたり、人を育てたり、活力ある職場にしていくことです。これは、管理する、というより人を動かしていく行動だといえます。
メンバーは管理職に、責任もって決定を行ってくれることを期待しています。実行の過程でうまくいかないことがあればそれを修正・調整して、仕事をスムーズに進めることを含めて、管理職の役割だと考えています。管理されることより、自分たちの仕事の推進者として動いてくれることを期待しているといえます。
管理職本人も、仕事に自分の意思を託し、組織のメンバーのやる気を引き出し、成果を生み出していくのが自分の役割だと考えているでしょう。これも、管理というより、全体をよい方向に持っていくことが自分の役割だと考えているといえます。つまり、組織の誰もが管理職にリーダーシップを期待しています。
しかし、私が企業の管理職研修の講師をしているときに、受講者に、「マネジメントとは何ですか?」と質問をすると、大半の方が「マネジメントとは、(人・モノ・金を)管理することです」と答えますし、「部下に指示をして目標達成のために動かすこと」という答え方をします。
何も間違っていないように見えるかもしれませんが、管理職に対する企業やメンバーからの期待、あるいは本人がこうあるべきだと答えた管理職像に合致する行動ではありません。
これは何故なのでしょうか。
古い思い込みが、行動を制限してしまっている
その理由は一言で言ってしまうと、これまで企業内で繰り返されてきた「習慣」のせいです。
先輩たちはこんな風に働いてきた、マネジメントについての教科書的な書籍で読んだなどから、そう思い込んでいるのです。
これを、スポーツのメンタルトレーニングの世界では、Limiting Beliefと呼びます。Limiting Beliefとは、自分で枠を決めてしまい、その枠に自分が縛られてしまうもののことです。Limiting Beliefがあると、その選手は無意識のうちに自分が考えた限界を超えることはできません。逆にLimiting Beliefをはずすことができれば、見違えるような成長があることがわかっています。
今、日本の企業は右肩あがりの成長の時期から、減速・衰退の時期にかかり、そこからまた成長のトレンドに乗せるために、様々な取り組みを試してみなければいけない時期にあります。
かつての右肩あがりの時期であれば、人やモノを均一にしたり、効率的に管理することが、成果をあげる方法でした。日本にはその時期にマネジメント理論が入ってきたので、Managerが管理職と翻訳され、「マネジメントとは管理すること」と日本では定義されてきたのだと推測できます。ですが、今日の状況で必要な行動はもう違います。
Managerとは、管理することが役割ではなく、組織のパフォーマンスをあげるために必要な準備やケアをすることがもともとの役割です。今、「これからの管理職の役割はこれだ」といった、新しい定義や新しい言葉がいろいろ紹介されていますが、管理職がまずやらなければならないのは、それらを今までの考え方に上乗せして学ぶことではありません。まず自分のLimiting Beliefを外さなければなりません。
では、そのためにはどうすればいいのでしょうか。
管理職自身から、Inside outで使命を定義する
Limiting Beliefを外すために必要なことは、視野をあげることです。そして、管理職の役割や、パフォーマンスをあげるために必要な行動を自ら見出し、意味づけていくことです。「自ら見出し、意味づける」ことを、経営学では「デザインする」といいます。
ここで大切なのは、「自ら」という点です。自分の内面から創り出す、Inside outであることが重要です。置かれている状況や環境にあわせて何をするのかを考える、というのはOutside inといいます。行うことが周囲や市場のニーズに合っている必要があるので、Outside inも大切ではあるのですが、それ以前にInside outで、自分のミッションややるべきことについて考えぬくことが大切なのです。
しかし今までは、そもそも管理職のやるべきことをInside outで、自分で考え抜くという発想自体が、なかったことかもしれません。
「仕事は、やりたいからやる、ということができるものではない」
「やりたいからやる、ということを許したら、だれもやらない仕事がでてしまう」
といった反論もでるかもしれません。
もちろん、組織には目標管理の仕組みがあり、組織の上から順にやるべきことがブレイクダウンされてきます。また、管理職には人事評価をする役割がありますから、上位目標を達成するように一人ひとりの目標を設定させ、人事評価するのが管理者の役割だと捉えるのは分かりやすいかもしれません。
ですが、そこで思考停止しては何も変わりません。この部分については、深く考える機会と時間をきちんとつくって、取り組んで行くことが必要なのではないかと思います。
自分は「選ばれた」という自覚と、もつべき覚悟に気づかせる
管理職にはすべての人がなるわけではありません。製造職だと従業員の1割くらい、営業職だと2割くらいの比率になるでしょうか。今は人材バランスの関係でもう少し多い場合もあるかもしれません。ですが、基本的には「自分は選ばれた」という認識をきちんと持つべきだと思います。
管理職の役割については、労働基準法にも関連する記述があります。総則の第九条と第十条です。
第九条では「労働者」について、「賃金が支払われる者」という定義がされています。第十条では「使用者の定義」がされていて、「労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう」とされています。つまり、管理職は労働者でもありますが、使用者でもあります。
では使用者としては、どんな行動が必要なのでしょうか。
どんな説明が腹落ちするかは人それぞれですが、私は、日本の連合艦隊長官であった山本五十六の、「やってみて、いって聞かせて、させてみて、ほめてやらねば人は動かじ」という言葉が最も好きです。連合艦隊の長という高い地位にいても命令をすればいいわけではないのです。人を動かさないといけないのです。人を動かすためには何が必要かということを、考え抜いている人の言葉だと思うのです。自分の面子や体面といったことよりも、全体のパフォーマンスへ貢献しよう、そのために周囲の人が力を発揮できるようにしようという貢献の気持ちがあるように思うのです。
私が研修の中でこんな話をすると、受講者から「それはもっと組織の上の人に言ってください」という反論がでることもあります。ですが、究極のことを言ってしまうと、管理職は目的や周囲の人に貢献することを、自分のモチベーションにすることが必要なのであり、そんな気持ちを持てる人が管理職になるべきだと思います。
管理職の役割はもっと研ぎ澄まされ、重要になっていく
今、ものすごい勢いで社会の仕組みが変わろうとしています。会社やビジネスの仕組みも変わっていくはずです。AIやRPA(ロボットの導入や機械による自動化)は、大幅に進展するはずですし、定型化できる仕事はもっとアウトソースされていくでしょう。
そうなると、これからの管理職には、よりはっきりと2つの役割が求められていくはずです。1つはその組織ならでは、あるいはその業務ならではというスペシャリストの部分と、協業先やますます価値観が多様化するメンバーとスムーズに、よい仕事をするためのマネジメント力の2つです。この2つが、2030年頃の組織にとってのコアになるでしょう。
つまり、「これで飯を食っていく」というくらいの自分の専門性を磨くことが、より重要になります。そして外国人や多様な人材、外部の協業先にも通用するマネジメントを身に着けていくことが必要になっていきます。これからの管理職の方は、特にその自覚も持って過ごしていくべきでしょう。
大西 みつる(おおにし みつる)
株式会社ヒューマンクエスト 代表取締役社長
立命館大学 経営学部 客員教授
立命館大学経済学部卒業後、本田技研工業に入社。本田技研工業では、鈴鹿硬式野球部でプレーした後、同チームのマネージャー、監督を歴任。チームを都市対抗野球大会で日本一に導く。その後、人事責任者として人と組織のマネジメントに従事する。人事としての海外赴任歴もある。2009年、株式会社ヒューマンクエストを設立し、人材・組織開発コンサルタントとして独立。経営学とスポーツ心理学を融合したメソッドで人と組織の課題解決に携わっている。