ニュースリリース

乳がん細胞の遺伝子の活性状態を可視化する技術を開発

乳がんの個別化治療に向け診断精度の向上に貢献
2018年11月17日

 当社は、細胞を生きたまま観察し、細胞内の遺伝子の活性状態を可視化できる「生細胞活性可視化技術」を開発しました。本技術により、採取した乳がん組織の中にある全細胞の遺伝子の活性状態を経時的に観察することができます。従来手法による遺伝子の配列異常に加え、新たに遺伝子の機能異常を検知することが可能となり、従来手法では検出が難しい細胞数が極めて少ない希少な病変も見落とさずに検出できることから、乳がんの診断精度の向上に貢献します。

 当社は本技術の詳細を、11月17日、18日に横浜で開催される「第57回日本臨床細胞学会秋期大会」にて発表します。

 当社は、11月8日に発表した「東芝Nextプラン」の中で、超早期発見と個別化治療による精密医療を成長事業と位置付けており、本技術によりがん治癒率の向上に貢献していきます。

 乳がんは、30~50代の日本人女性の死因の1位であり、治療効果の向上が求められています。乳がんは、がんの特徴により数種類のタイプに分類されます。タイプごとに効果的な治療方法が異なるため、適切な治療につなげるには正確なタイプの診断が重要となります。

 乳がんの診断では、健診などでがんの疑いがあるとされた患者から組織を採取します。通常、採取した組織をアルコールなどで固定した後、細胞の形態や特性を分類できる分子指標の有無によってがんであるかどうかの判別とがんのタイプに分類し、治療方針を策定します。治療方針を策定するための乳がんの分類には、主に4つの指標が用いられます。しかし、従来の指標による分類は、採取したがん組織の細胞を死滅させて行われるため、がん細胞の活動状況や時間変化を捉えることが出来ず、治療につながる知見が十分に得られずに診断が困難な症例が多く存在しています。このため、治療効果の向上には、より詳細にがんの特徴を顕在化させる精度の高い診断技術の開発が望まれていました。

 そこで当社は、がん細胞の増殖や構造異常に関わる遺伝子活性に着目し、生きた細胞内の遺伝子の活性状態を観察することができる生細胞活性可視化技術を開発しました。本技術は、主に遺伝子の活性状態を可視化する生分解性リポソームと細胞培養および観察に適したCMOSイメージセンサーで構成されています。当社独自の分子構造設計技術を適用した生分解性リポソームは、内包した遺伝子を細胞内へ安全に運搬するナノカプセルです。生分解性リポソームにより、患者から採取した細胞に、遺伝子活性を発光に変換する検査用遺伝子を高効率で導入します。生分解性リポソームを投与した細胞は、細胞培養用に独自に開発したCMOSイメージセンサー上で培養することで、遺伝子が活性状態に応じて発する微弱な発光をリアルタイムで撮像することができます。観察は1細胞レベルで経時的に行うことができ、乳がんの診断精度の向上に貢献します。さらに、少量の組織でも観察が可能なため、患者負担の少ない麻酔が不要な細い生体検査針による乳がん組織採取にも適用できる可能性があります。

 当社は今後、本技術を用いた診断デバイスを開発し、2022年に臨床性能試験を開始することを目標として研究開発を進めていきます。また、生分解性リポソームを用いた細胞への遺伝子導入技術については、再生医療などの治療分野へ展開も進めていきます。


開発した生細胞活性化システム


同システムで撮像した乳がん細胞