加速する、サービスビジネスへの変革。東芝が拓く「共創イノベーション」最前線

新規事業開発の共創プロジェクトによりドローンビジネスを創出/大貫 誠一,松田 光司

東芝では現在、カーエレクトロニクスの世界的なトップカンパニーであるアルパイン株式会社様と、画期的な共創プロジェクトを進めています。産業用ドローンを活用した電力インフラ向け巡視・点検システムの開発です。
産業への活用に期待が高まるドローンを核に据えたビジネスモデルを具現化しようというこの取り組みは、両社の従来の事業領域からは遠く、報道発表で多くの驚きを与えました。しかし、両社の経営トップの合意と決定から始まったこのプロジェクトには、互いが培ってきた高度な技術を根拠とした事業化への確かな勝算がありました。

ドローンを使って電力インフラの安心・安全を空から支える

 産業用ドローンは、「空の産業革命」とも呼ばれる小型無人機です。これまでの飛行機では難しかった低い空域を飛べる利点を生かし、ビジネスへの利用に結びつけようという動きが世界的に活発化しています。2015年には日本でも法整備が行われ、ドローンが本格的に活用できるようになりました。

 アルパイン様との共創による電力インフラ向け巡視・点検システムの開発は、こうした潮流を捉えたものです。アルパイン様が世界の自動車市場で磨き続けてこられた地図情報連携技術と信頼性の高い車載システム開発技術に、東芝のIoT ※1技術と画像処理技術を融合。電力インフラの維持・管理業務の中でこれまで保全作業員による目視が主流だった山間部の送電線や鉄塔の巡視・点検を、ドローンの活用に置き換えることで、安全性を確保しながら、よりスピーディーで正確な状況の把握につなげることを目指しています。

 産業用ドローンを高信頼・高精度で活用するために不可欠なセンサーや情報処理の技術を、アルパイン様と東芝とが互いに持ち寄ることで実現したこの共創プロジェクトは、2017年度中のサービスリリースを目指し、現在まさに着々と進んでいます。

  • ※1 IoT:Internet of Things(モノのインターネット)

想いを共にする両社が互いのコンピタンスと技術の融合を目指す

 今回の共創は、アルパイン様と東芝のインダストリアルICTソリューション社、それぞれの経営トップがリードするトップダウン的なプロジェクトです。きっかけは、2015年5月に開催した両社社長の交流会でした。

 アルパイン様は、カーナビゲーションシステムを中心に、カーオーディオ、車載カメラなど自動車に特化した独創的かつ最先端の製品を次々と生み出してこられた、カーエレクトロニクスの世界的なトップカンパニーです。早くから海外市場に力を入れ、自動車メーカーから高い評価を獲得しビジネスを拡大。ヨーロッパの高級車を中心に、同社の製品が搭載されています。

 しかし、急速なデジタル化の波を背景に、自動車領域を取り巻く事業環境は大きく変化しはじめていました。アルパイン様は自社の未来像を「あなたのカーライフを豊かにするモービルメディア・イノベーションカンパニー」と位置づけ、2020年をターゲットとした企業ビジョン「VISION2020」を策定。これまでにない付加価値製品の創出を推し進めることを宣言し、その実現には、これまで培ってきたカーエレクトロニクス技術から新たな価値を最大限に引き出すための積極的な外部アライアンスが必要であると捉えられていました。

 一方、東芝では車載ソフトやインバーター、さらにはバッテリー、EV※2モーター制御といった、自動車領域の豊富な技術を広く活用してビジネスを拡大したいと考えていました。自社のリソースの価値を最大化し、新たな飛躍の道を見いだしたいという想いは、アルパイン様と全く同じでした。

 こうした中、開催された交流会では、自社の技術やリソースを最大化してパートナーとの協業によりビジネスの拡大を図りたいと思う双方の経営陣にとって、互いのコンピタンスと資産は非常に魅力的に感じられました。

 実は、アルパイン様と東芝では、車載DVDやドライブアシスト機器事業を展開する「東芝アルパイン・オートモティブテクノロジー株式会社」を共同出資により設立、運営しています。これまで築いてきたビジネスパートナーとしての緊密な信頼関係も後押しとなり、互いの経営陣のトップダウンで、共創による新たな事業の創出にチャレンジすることが決定したのです。

  • ※2 EV:Electric Vehicle(電気自動車)

ワークショップと綿密な調査を重ね「飛び地」での事業創出を決定

 この交流会での決定をきっかけに、両社による共創の検討が開始されました。体制やスケジュールの合意など各種準備段階を経て、2015年9月に共創推進の事務局を発足。アルパイン様から12名、東芝から11名のプロジェクトメンバーが集結し、共創による新規事業開発が本格的にスタートしました。

 その取り組みは、福島県いわき市にあるアルパイン様の事業所や、川崎にある東芝の拠点を互いに行き来しながら、三つのステップで行われました。

 最初のステップでは、コンサルティング会社を交えて、共創により創出する事業の方向性と事業構想の仮説を策定。社会や市場環境の長期トレンドを踏まえ、両社のコンピタンスを生かして「勝てる事業」の可能性を、カーエレクトロニクス分野はもちろん、それ以外の領域にも幅広く求めました。導き出された事業の方向性は六つの領域に整理。

 カーナビやカーオーディオという既存の市場を深掘りする方向、車内空間価値の創造や自動運転・先進運転支援システム(ADAS)、クルマとITインフラとの連動など成長性の高い制御系や新たな領域へのアプローチ、コンシューマー市場への横展開、そして両社のコンピタンスから離れた場所にある新たな市場「飛び地」への参入です。

図1 協業事業仮説構築プロセス

 この六つの領域に沿って事業構想の仮説を構築。最大週1回の頻度で、プロジェクトメンバーによるワークショップを重ね、市場性や収益性の観点から可能性のある事業テーマを抽出し、50以上にも上るアイデアから三つのテーマに絞り込みました。

 次のステップでは、絞り込んだ三つのテーマをブラッシュアップ。緻密な分析と幾度にも及ぶ現地調査を通じて、その実現の可能性と事業性を精査し、さらなるテーマの絞り込みを行いました。

 こうして2016年1月に最終的なテーマに選ばれたのが、ドローンによる電力インフラ向け巡視・点検システムという、両社にとってまさに「飛び地」での事業展開でした(図1)

図2 ドローンによる電力インフラ設備点検イメージ

 止まることが許されない電力インフラ。これを支える巡視・点検は熟練の作業員の目視に頼る上、移動に時間がかかり、作業には危険がつきまといます。そこで、アルパイン様の航行制御技術でドローンを効率よく飛行させ、高所にある電線や鉄塔を撮影。これを東芝のIoT基盤上で高精度に画像処理、データ分析して不具合を詳細に見える化することで、点検の精度は飛躍的に高まり、手間や事故のリスクを解消できると踏んだのです(図2)。

 さらに、電力会社などが送電線や鉄塔の巡視・点検にかけるコストと本システムによる投資効果などから市場性と事業性を検討し、国内外のさまざまな社会インフラ設備・施設への展開なども視野に入れて、事業化への見通しを立てました。

 こうして2016年5月、両社の経営トップに対して、本事業構想のプレゼンテーションを行いました。新規事業領域ではあるものの、両社の先進技術の融合により十分な価値を生み出せることに加え、さらに東芝が培ってきた社会インフラ領域における太いパイプは将来の発展にもつながると評価。事業化に向けた共同開発プロジェクトをスタートしました。

 以来、2017年度中のサービスリリースを目指し、実際に産業用ドローンに高性能カメラを搭載して撮影、映像解析を行う実証実験など、現在も両社間で多くの取り組みを行っています。近い将来、電力インフラの巡視・点検分野で実績を生みだし、ドローンビジネスの先進的な事例になるのではないかと期待しています。アルパイン様との共創によるドローンビジネスが国内外に広く展開され、さらに共創による新規事業がいくつも生み出せるように活動していきます。

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