既存の製造設備に後付けで稼働状態の遠隔監視を実現
「Meister Apps™ 設備あやつり制御パッケージ」で業務を効率化

 豊田佐吉が発明した自動織機を原点に、繊維機械をはじめ、産業車両や自動車・自動車部品の製造・販売を手掛ける株式会社豊田自動織機。なかでもフォークリフトやカーエアコン用コンプレッサー、エアジェット織機などは世界トップシェアを誇り、280社を超えるグループ企業が多様な事業を展開している。
 大府工場では主にカーエアコン用コンプレッサー部品の製造、金型の開発などを行っている。同工場でアルミ部品のダイカストマシンの運用状況を可視化し、現場と離れた事務所にいながら設備を遠隔でモニター、制御できる仕組みとして採用したのが、東芝デジタルソリューションズ(以下、東芝)が提供する「Meister Apps™ 設備あやつり制御パッケージ」だ。


Before

アルミ部品のダイカストマシンは、材料や鋳造温度、射出速度などが刻一刻と変化する管理の難しい技術で、状況が変わるたびにエンジニアが現場に出向き、調整する必要があった。業務の効率化と関連会社や海外工場への展開に向け、限られたメンバーでも十分な現場支援ができるよう、事務所の自席からダイカストマシンの状態を把握でき、遠隔操作できるような仕組みと環境整備を求めていた。

After

現場と離れた事務所の自席PCに既存設備の画面をエミュレートし状況把握や遠隔操作を実現するため「Meister Apps™ 設備あやつり制御パッケージ」を導入。事務所と現場を往復しての作業時間がなくなり、業務の効率化に大きく貢献。海外も含めて、担当者が新しいラインの立ち上げや生産技術の指導などにより専念できるようになると期待している。

カーエアコン用コンプレッサー製造のマザー工場としてさらなる海外展開を視野に


 カーエアコン用コンプレッサーの製造のマザー工場である大府工場で、アルミ部品の鋳造工程から熱処理工程、仕上げ工程までを一貫して管理しているのが、コンプレッサー事業部 アルミ技術部だ。「価格を安く、リードタイムを短く、といったお客様のご要望に応えるため、生産プロセスの『高速化』、働きやすい環境づくりに向けた『自動化』、1つの工程で異なる製品を生産できる『なんでも化』、そして耐久性に優れた高品質な製品づくりを行う『高精度化』といった、さまざまな取り組みを進めています」と説明するのは、大府工場 コンプレッサー事業部 アルミ技術部 部長 幾世 隆氏だ。

大府工場 コンプレッサー事業部 アルミ技術部 部長
幾世 隆氏

頻繁に状態変化する鋳造工程に少人数で対応できる仕組みを求めて


アルミ技術部 鋳造第二室 室長
稲山 慎一氏

 アルミ技術部が管理運用しているのが、コンプレッサーに必要なアルミ部品を鋳造するダイカストマシンだ。特に鋳造工程では、材料や鋳造温度、射出速度などのさまざまな製造条件があり、刻一刻と状態が変化することがあり、同部のエンジニアは、その都度迅速かつ適切な対応が求められている。「製品によっては条件管理が難しく、製品の良・不良が後の工程で初めてわかるケースもあります。そのため、担当者は現場に足繁く通い、状況を把握しながらきめ細かく調整する必要があります」と同部 鋳造第二室 室長 稲山 慎一氏は説明する。現場を管理する担当者の熟練度によって、製造のクオリティや製品の出来栄えが左右されてしまうことにもなるため、管理レベルの品質の標準化も課題だった。

 また、今後国内外の関係会社でも新たにダイカストマシンを使ったアルミ鋳造が始まることから、これまで以上に幅広く現場を支援できる体制をつくる必要があった。「条件設定や機械の状態把握、異常への対処など、アルミ技術部の限られたエンジニアのみで国内外の関連会社も含めてすべてに対応するのは難しい。そのため、デジタル技術を活用してこの課題にアプローチできないかと考えていたのです」と幾世氏は語る。
 

遠隔での鋳造設備の状態の可視化と、安全な操作の実現が要件に


 新たな環境として念頭に置いていたのは、エンジニアが現場に行かなくても、遠隔で状況を把握し、適切に対応できる仕組みづくりだった。「現場の見える化の仕組みとしてはさまざまな方法に取り組んできましたが、より精度の高い情報を得るには直接データを取得するほうが確実だと感じました」と同室 第21G グループ長 冨野 和則氏は語る。

 そこで注目したのが、東芝が提供する「Meister Apps 設備あやつり制御パッケージ」だった。「データを通して状況を的確に把握でき、規格がそれぞれ異なる既存の設備にも後付けで1つのパッケージで対応できる点は大きな魅力でした。関係会社や海外拠点であっても、1つのソリューションで応用できる。まさに我々が求めていた要件を満たしていたのです」と稲山氏は評価する。

 導入に際しては、トヨタグループとして、安全は最優先課題であり、現場の設備を外部から動かすことに対する安全性には非常に気を配ったという。また遠隔操作に伴う通信のセキュリティ確保も当然の前提条件だった。セキュリティ面では、量子暗号通信などの先端のセキュリティ技術にも取り組んでいる東芝グループならではの信頼感もあったという。遠隔で設定変更などの操作をする場合は、万が一の事故を防ぐためにも現場の許可を得てから遠隔操作に入るよう、現場側が管理するワンタイムパスワードを導入するなど、安全に向けたきめ細かい対策を取ることで導入が実現した。

アルミ技術部 鋳造第二室 第21G グループ長
冨野 和則氏

 こうして、トライアルを経て十分な安全性やその効果を実感できたことから、長年に渡り同社の生産設備のエンジニアリング・パートナーを務めてきた株式会社進和を通じてMeister Apps 設備あやつり制御パッケージの正式な導入が決まった。

 また、あやつりBOXには、耐環境性能や頑健性、保守性を備える産業用コンピュータである東芝インフラシステムズ株式会社の「CP30 model 300」を選定した。

工場の設備の横に設置したあやつりBOX

事務所の自席から設備の画面情報を確認・操作

現場の遠隔監視・操作で業務の効率化を実現、リードタイムの短縮で機会損失も最小限に


 Meister Apps 設備あやつり制御パッケージは、既存の設備の横に設置したあやつりBOXに設備の画面情報を転送し、リモートデスクトップ機能を利用して離れた事務所の自席PC上に設備の画面情報を再現する仕組みだ。

 「これまでは大府工場だけでも1日に数回現場対応することがありましたが、自席で対応できるようになり、専用のケーブル類やPCを持ち運んで事務所と現場を往復する時間を取られることもなくなりました」と同室 第21G  濵口 富平氏は評価する。また、対応に要する時間の短縮は、結果的に製品のリードタイムの短縮につながり、機会損失を最小限に抑えられることも期待されている。「海外の現場対応をする場合に、出張の必要性が減ることで、出張にとられていた時間の節約と、出張コストの削減にもつながります」と稲山氏は期待を寄せる。

 「自席であれば近くにいる上司をはじめ経験豊富な他のメンバーに相談しながら、より早く、的確に対応することができて大変助かっています」と濵口氏。さらに、設備の保全を担当する部署でも、事務所からデータをもとに状態を把握できるので、予防保全につなげられるなど、新たなデータ活用の可能性も期待されている。

アルミ技術部 鋳造第二室 第21G
濵口 富平氏

社内展開を進めつつ、データ活用や海外や他設備への展開にも期待


 同工場では、今後アルミ鋳造に取り組む関係会社や海外子会社などにダイカストマシンを導入する際には、Meister Apps 設備あやつり制御パッケージとセットで展開することを視野に入れている。そして、セキュリティとセーフティを確保しつつ、遠隔からの可視化や操作可能な範囲をさらに広げ、業務効率化や品質向上に資する環境整備を推し進めていきたいという。「鋳造は生ものと同じで、日々変化する奥深い世界です。どんなデータを収集し、どう解析すれば品質向上につなげられるのか、エンジニアは日々頭を悩ませています。有効なデータ活用のためにも、東芝のこのすぐれたソリューションを活かしていきたいと考えています」と幾世氏は期待する。

 現在、現場の映像データを取得できる仕組みを整備しており、今後はMeister Apps 設備あやつり制御パッケージで得られたデータと組み合わせて、新たな価値を提供する環境づくりにも取り組んでいきたいという。「不具合が生じた時など、画像解析によって異常を見つけるなど、データ活用を通じて稼働率の向上やさらなる品質改善に向けた活動につなげていきたい」と冨野氏。

 現場から得られたデータを確実に活かすためには、「デジタルによって作業を標準化していきながら、新たに得られたデータをフィードバックできる環境があれば、属人的な業務から脱却できるはず。そんな環境づくりを目指していきたい」と濵口氏。

 また、同社ではダイカストマシンのみならず、組立工程や加工工程などで使われるさまざまな設備へのMeister Apps 設備あやつり制御パッケージの活用にも期待を寄せている。「ダイカストマシン以外にも、現場のラインにはさまざまな設備があります。Meister Apps 設備あやつり制御パッケージは既存設備に後付けできるため、これらの既設のラインに設置して、全体を遠隔で監視、操作ができるような環境が整備できれば理想的です」と幾世氏は語る。

 現場と離れた自席から工場の現場の設備の状態を把握、操作できるMeister Apps 設備あやつり制御パッケージ。同工場のなくてはならない重要なツールとして、今後国内外のさまざまな現場に展開していくことで、さらなる競争力の強化に貢献し、コストやリードタイムといった顧客からの要望にも一層応えていくことのできる環境づくりが進むだろう。

SOLUTION FOCUS

Meister Apps 設備あやつり制御パッケージ

深刻化する労働力不足に備え、更なる生産性の向上が求められる製造現場に解決策を提供するのが「Meister Apps 設備あやつり制御パッケージ」です。
製造設備の改造なしに外部装置を後付けすることで、定型操作の自動化を実現し、操作ミスによる稼働ロス削減や省人化に貢献します。さらに、操作履歴や画面の読取結果をデータ化することで、旧型設備のIoT化やリモート監視が可能になり、現場のオンライン化を促進します。

小型組込み産業用コンピュータ CP30 model 300(東芝インフラシステムズ株式会社のページへ遷移します)

産業用コンピュータである東芝インフラシステムズ株式会社の「CP30 model 300」は、24時間連続稼働を前提に高信頼・長寿命部品を採用して設計し、10年以上にわたって保守サポートも提供しているため、安心してご利用いただけます。小型でファンレス、供給電源はAC/DCを選択可能、突然の電源断に備えたOSシャットダウン用バッテリの搭載(オプション)といったCP30の特長を生かし、後付け装置として過酷な環境の現場に安心して設置いただけます。

この記事の内容は2023年6月に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。

COMPANY PROFILE

会社名
株式会社 豊田自動織機

設立
1926年11月

代表者
取締役社長 伊藤 浩一

本社所在地
愛知県刈谷市豊田町2丁目1番地

事業内容
繊維機械、産業車両、自動車・自動車部品の製造・販売

URL
https://www.toyota-shokki.co.jp/