クラウド型 災害情報システムで災害時の機関連携を強化

災害時に迅速かつ的確に対応すべく、状況をリアルタイムで把握、情報の共有から提供まで迅速に行う。被害の軽減を目的に、県と市町村が連携した災害対応の促進を実現。


Before

クラウド型 災害情報システムで災害時の機関連携を強化すべく、県・市町村・防災関係機関などがリアルタイムで情報共有し、災害対応を促進する情報基盤を整備・有効活用することを検討。

After

多くの情報を一元化、状況をリアルタイムで把握、県、市町村、警察、消防、自衛隊などの防災関係機関と情報を共有・連携した災害対応の促進を実現。災害初動期から復旧期まで幅広く対応できるオールインワン的なシステムとして、ユーザビリティも向上。また、他の関連システムとの連携により、業務の省力化と迅速化をもたらし、高い耐災性も実現。

県と市町村が連携した災害対応を促進する情報基盤を整備


 日本は諸外国と比べても、台風、大雨、大雪、洪水、土砂災害、地震、津波、火山噴火などの自然災害が発生しやすい国土である。2011年3月の東日本大震災や今夏の大雨による広島の土砂災害も、予期せぬ自然災害の恐ろしさを多くの人々に知らしめ、恒常的な防災意識、防災対策の重要性を改めて認識させた。全国の各自治体はこれまで以上に防災対策に注力するとともに、IT技術を活用した防災情報システムの整備を急ピッチで進めている。

鳥取県ではそれまで、電子メールおよび庁内LAN災害情報データベースを主体にしていた災害時の情報収集手段を見直し、2014年4月から鳥取県災害情報システム(以下「システム」という。)の運用を開始した。「鳥取県内での災害発生時に最も重要なのは迅速な情報収集と初動対応です。初動対応が遅れれば対応が後手にまわり、それだけ被害の拡大を招きます。鳥取県の災害対策の目的は危機対応が必要な各種事象に対して、迅速かつ的確に対応することで初動対応の遅れを防ぎ、県民の生命・財産を災害から保護し、災害による被害を軽減することです」と語るのは、鳥取県危機管理局危機対策・情報課(以下、危機管理局)の当時の担当者だ。危機管理局は国内外の各種災害、危機管理情報の他、交通やライフラインなどのインフラ障害情報などの生活安全情報を収集・整理・分析、情報伝達し、迅速な初動対応につなげるとともに、総合的な防災対策を推進する業務を担う部署である。

「当県ではこれまで県・市町村・防災関係機関等共通のリアルタイムで情報共有できるシステムがなく、迅速に連携した災害対応を行う上で支障となるおそれがありました。今回の災害情報システム導入のねらいは、県・市町村などによる連携した災害対応を促進する情報基盤を整備・有効活用することで公助の強化並びに適時適切な情報伝達による地域住民の自助・共助の促進による被害の軽減です。災害時の初動対応の遅れを回避するためにも、平日はもちろん休日や夜間でも情報をいち早く覚知し、県、市町村、警察、消防、自衛隊などの防災関係機関と情報を共有・連携して対応できるシステムを求めていました」(当時の担当者)。

同県では、これらの要求を満たす災害情報システムを検討する上で、注目したのが静岡県版の防災情報システム「ふじのくに防災情報共有システム(FUJISAN)」だった。

各関係機関が容易に参加できるFUJISANをベースにカスタマイズ


 「我々がFUJISANに注目したのは被害状況の集計・集約にとどまらず、現場被害報告や支援要請など災害対応に活用できる防災情報システムだったからです。しかも、クラウドサーバーを活用することで、ライセンス(ID、パスワード)を付与されたインターネット接続環境のあるパソコン、スマホ、携帯電話などの端末から利用できる上、参加者の追加の柔軟な対応も可能だったので、市町村、国、防災関係機関などの参加の容易性も高いと判断しました。こうしてシステムはFUJISANと同種・同等以上の機能と操作性を有する防災情報システムからカスタマイズすることに決定したのです。FUJISANの使用について許諾いただいた静岡県に対して、深く感謝しています」(当時の担当者)。

鳥取県は総務省の2012年度補正予算による防災情報通信基盤整備事業費補助金を活用して予算を確保し、発注仕様方針を固めた。システムの開発は総合評価一般競争入札で選定された東芝ソリューションと、FUJISANの開発元であるSBS情報システムとの共同企業体で2013年9月にスタートした。

「今回のシステム導入において東芝ソリューションを選定した理由は、当県におけるシステム整備・保守運用業務企画提案書審査会において、発注仕様書で提示した機能面や技術面に加え、価格面なども含めて総合的に優れていると評価されたからです。導入時の現場対応においても、システム利用の要であり情報入力者となる県、市町村職員などの意見を真摯に受け止め、的確にシステム構築に反映していただきました」と語るのは、鳥取県危機管理局危機対策・情報課情報システム管理担当の当時の担当者だ。「2013年度中の導入という限られた期間の中で、県所管部局などから提示されたシステムアウトプットとしての各種被害報告やシステム操作画面への意向確認についても、所管部局などと直接調整してもらったり、システム構築段階の意見に対する対応方針を説明してもらったりするなど、誠実にご対応いただきました」(当時の担当者)と、開発工程の現場対応力について評価している。

常に利用者の視点で「使いやすさ」を追求する


 今回のシステムを真に活用されるシステムにするため、県・市町村の連絡責任者への説明・評価会の開催と合わせて、意見照会を行い、対応方針を提示するという形態で構築事業者との間でキャッチボールしながら意見反映に努めた。さらに、システム構築と同時並行でシステム運用の手引きを作成、実際のシステム運用方法を県・市町村職員がイメージし、東芝ソリューションと共有しながらシステム構築に反映させていくという方法で開発を進めていった。

 「危機管理局では被害情報を収集・集約し、情報共有を図りながら災害対応を行うことがメイン業務ですから、今回のシステム開発に当たっては、現場の視点、個々の被害情報・災害対応も含めて、災害対応の各場面に携わる利用者の視点に立って構築することが重要でした。もし現場の利用者の視点を抜きにして、当局の評価だけで開発したら、実際に災害が起きた時に使いにくかったり、システム操作・対応が遅れたりするなどの支障を来すこともあり得ます。このようなことを極力避けるためにも、東芝ソリューションには3段階のプロトタイプ(試作品)を示していただきました。このようなプロセスを大切にし、システムは利用者の視点に立っての構築に努めることで、結果的に使いやすさにつながっていると思います。さらに、市町村にとってもメリットがあるものになったと思います。具体的には、現場からの被害報告や支援要請時における被害、対応状況、今後の対策などが時系列的に把握できるようにしたこと。また、市町村間で被害状況や避難勧告などの対応状況をリアルタイムで把握、市町村単位で集約資料を作成できるようにしたことなどです」(当時の担当者)。

危機管理ポータルサイト「鳥取県の危機管理」

多くの情報を一元化、リアルタイムで情報を把握


 こうしてシステムは、2014年4月に運用を開始した。システムは災害時における県・市町村・防災関係機関などによる災害対応業務の効率化、迅速化、そして住民などへの情報伝達手段の拡充を図るため、リアルタイムで情報を収集・集約し、情報共有による災害対応を可能にした。地図情報を含む災害情報の閲覧・書込みや、テレビ、ラジオ、新聞など多様なメディアに配信する「Lアラート(公共情報コモンズ)」の連携も実現。また、事前登録制の防災情報メール「あんしんトリピーメール」、県職員参集・情報提供メール、鳥取県ホームページ「とりネット」とモバイル版ホームページ、とりったー(ツイッター)、フェイスブックおよび緊急速報(エリア)メールなど、それぞれ一括配信でき、多様な情報伝達手段の効率的な配信も可能にしている。

 メインサーバーは県外に設置されたクラウドサーバーの冗長化により耐災性を向上させ、県庁内LAN上にバックアップを設置。これにより、クラウドサーバー不通時でも県庁内LAN上のバックアップサーバーによって業務が継続できるシステムにした。また、県や市町村、消防局などの関係機関からパソコンや携帯端末を活用して収集された情報や、他システムとの連携により得られた気象、雨量・河川水位などの情報、さらには現場被害報告、支援要請といった災害対応状況に関連する情報を「災害情報システムデータベース」として即時に集約し多くの情報を一元化し、リアルタイムで情報を把握。関係機関へ即時に情報提供することで、緊密に連携した応急活動などを可能にする情報共有基盤が構築された。

「鳥取県の危機管理局で取り扱う情報範囲は情報区分として60項目あり、災害初動期から復旧期まで幅広く対応できるオールインワン的なシステムとして、ユーザビリティも向上しました。他の関連システムとの連携により、業務の省力化と迅速化をもたらし、高い耐災性も実現しています。さらに運用後のメンテナンスも良好と感じています」(当時の担当者)。

収集・伝達すべき情報を一元化したデータベースを構築


 システムのその他の特長としては、システム上の地図情報入力により、GIS(地理情報システム)上でアイコンがバウンド表示され、迅速に現場被害報告や通行止め箇所などの覚知を可能にしていることだ。「従来の仕組みと比べて、視覚的な面の分かりやすさという点でも操作性は向上していると思います。ただ、全く新しいシステムの導入ということで、職員によっては操作に不慣れな面もあります。今後、システム担当職員が交代することもあるため、システムが持続可能で実践的に生かされるように継続的にシステム習熟の向上を図りたいですね。また、システム操作マニュアル、ヘルプ機能の充実、随時の訓練の実施などを通じてシステムへの理解、普及も進めていきたいと思います」(当時の担当者)。

今後も予期せぬ災害対応時の被害軽減を図るために、県・市町村はもとより、消防、警察、さらには参加可能な防災関係の各機関が速やかに情報共有し、緊密に連携して災害対応を行う必要がある。それらを支える総合的な防災情報基盤として、このシステムを活用することとしているのである。

有事の際に災害対策本部となる会議室

システムを基盤として連携を図り、可能な限り一体的な利用を推進


 「災害対応時における情報ニーズは発生事案により異なり、多種多様です。今後も災害実対応や訓練実施における意見や検証結果によりシステムの改良が必要となることも想定されるため、東芝ソリューションには引き続きシステムの機能アップに向けてフォローしてもらえるよう期待しています。今後、土砂災害や風水害、医療機関との情報共有など、分野ごとに新たなシステム構築もあり得ると考えています。その際にはこのシステムを基盤として連携させ、可能な限り一体的な利用ができればと思っています」(当時の担当者)。

いつ発生するかもしれない大規模災害。このシステムはこれからも住民の安全・安心を守るため、決して眠ることなく稼働し続ける。


ここに掲載しているコンテンツは、日本経済新聞 電子版広告特集「先端企業が挑み続けるイノベーションの姿」として、2014年9月~2015年3月まで掲載されたものの転載です。
この記事の内容は2014年8月8日に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。

COMPANY PROFILE

名称
鳥取県

代表者
知事 平井伸治

所在地
鳥取県鳥取市東町一丁目220

概要
中国地方の日本海側(山陰地方)の東側に位置する県で、東は兵庫県、西は島根県、南は中国山地を挟んで岡山県と広島県に隣接している。西日本有数の豪雪地帯でもある。面積は全国47都道府県中41番目で、人口は最も少ない。観光地としては鳥取砂丘が有名。

URL
https://www.pref.tottori.lg.jp/