自社が保有する無形資産のうち、企業で生み出された発明やノウハウ、著作物などの知的財産から得られる利益を最大化するための知財戦略は、経営戦略における重要な柱の1つとなっています。コア技術を侵害されないための権利保護の観点のみならず、特許を他社との交渉材料として有効に活用し、事業成長の武器にするには、知財情報を正確に把握し、迅速に意思決定できる仕組みづくりが不可欠です。東芝デジタルソリューションズの知財管理サービス「IPeakMS」は、知財を「守る」だけでなく「攻める」ための情報管理を強力に支援し、経営戦略に直結する知財活用を、確かなデータと高度な機能で後押しします。
拡大する知財管理市場、知財・無形資産にまつわる市場動向
企業価値を測る要素は、自社の製品や設備といった物理的な形を持つ「モノ(有形資産)」だけではありません。近年、価値の源泉として「無形資産※」が注目され、その獲得・活用が活発化しています。企業が持つ無形資産は、保護する対象から、事業の成長やイノベーションの創出をする経営資産へと進化しているのです。例えば、無形資産を活用することで自社の製品やサービスを進化させ、差別化による競争力を高めます。既にグローバルIT企業などでは、企業価値の多くを無形資産が占めているのが現実です。
※無形資産とは、特許権(技術)や商標権(ブランド)、意匠権(デザイン)、著作権(創作物)といった知的財産権をはじめ、開発したソフトウェア、製造技術や業務プロセスのようなノウハウ、社員のスキルや経験といった人的資本など、企業に価値をもたらす物理的な形のない資産を指します。
日本は現状、技術革新力やデジタル分野における国際的な優位性(国際競争力)が長期的に落ちていく傾向にあります。その一方で、アニメや漫画などのコンテンツ産業や、観光資源を有効活用したインバウント誘致、食文化の普及促進といった領域は大きく伸びている国です。これらの市場は今後も拡大していくことが予想され、各種資産を適切に保護しつつ、成長に生かしていくことが重要になっています。このような状況を踏まえ、2025年6月に、内閣総理大臣が本部長をつとめる知的財産戦略本部において、「知的財産推進計画2025」が決定されました。そこでは、日本の知的資本(技術力、コンテンツ力、国家ブランドなど)を最大限に活用し、国内外の社会課題の解決を図る「新たな知的創造サイクル」の構築を目指す、IPトランスフォーメーションの実現が大きなテーマとされています。※
※「知的財産推進計画2025を決定しました - 内閣府」に掲載されています。
今、知的財産は「守る」だけでなく「攻める」戦略が必要です。特許を交渉力に変え、事業成長の武器にするために、知財情報を正確に把握し、迅速に意思決定できる体制が求められています。
実際にグローバルIT企業では、知財管理を専門とする子会社を設立する動きが出てきています。これは、知的財産をはじめとする無形資産(以降、ここでは「知財・無形資産」とします)をいかに活用できるかを経営戦略の重要な柱に位置付け、経営基盤の強化を図っている企業が増えてきていることの表れでもあります。経営戦略において無形資産を有効に活用するためには、自社が持つそれらの資産を適切に管理するための基盤づくりが欠かせません。しかしその管理の現場では、多くの課題を抱えている現実があります。
知財管理の現場が抱える課題とDXの必然性
知財管理の現場では、専門性の高い人材が求められます。特許や商標の出願(権利化)と維持・管理、海外展開に伴うグローバル対応、権利侵害の監視、特許事務所や年金管理会社との連携といった、知財管理に欠かせない業務には多くの専門人材と時間が必要です。しかし現状では、専門性の高さや人材不足による業務の属人化、担当者の高齢化が課題として顕在化しています。また、知財情報を分析して経営戦略に生かす、いわゆるIPランドスケープの取り組みには経営の視点を持つ人材が欠かせないため、その育成も必要です。ほかにも、特許や商標の出願や維持にかけるコストの妥当性(最適値)の判断が難しい、さらには経営層や研究者、製品の開発者との情報共有が不足しているといったさまざまな課題を抱えています。
新たな技術を発掘する研究者や製品の開発者の視点では、特許を出願すべき技術の判断や出願する時期と質の両立、権利化した特許の活用促進、さらには他社の特許の侵害リスク回避なども課題です。
これらの課題を解決して知財業務の効率化を図りながら、知的財産を継続的に経営戦略に生かしていくことは容易ではありません。だからこそ、知財管理のデジタルトランスフォーメーション(DX)が急務です。情報を一元管理し、業務を効率化し、経営層が迅速に判断できる環境を整える――それが、攻める知財管理の第一条件です。
知財管理DXを加速する強力なエンジンー知財管理サービス「IPeakMS」
東芝デジタルソリューションズは、知財DXを実現する環境を整備するステップを整理しました。最初は、自社の知財・無形資産に関する情報を一元的に管理するところからです。一元管理により、情報の活用や共有の準備が整います。そして次は、業務環境の整備です。生成AIによる属人的な業務の支援やRPA(Robotic Process Automation)ツールなどを用いた情報収集の自動化、機能の利用による外部の機関や企業との柔軟な連携などにより、業務の効率化や高度化を図ります。そのうえで、各知財・無形資産に対して、強みや弱み、事業への貢献などからその価値を評価して可視化し、可視化した情報を基に、今後の知財戦略や技術戦略、さらには事業や経営などの戦略に生かしていきます。保有する知財情報のマッチングを通じて新たな事業を創出するなど、事業の拡大に貢献する知財・無形資産へと、その価値を高めます(図1)。
この知財情報の一元管理から経営戦略への活用までの一連のプロセスを支援するプラットフォームが、知財管理サービス「IPeakMS」です(図2)。
その特長を紹介します。
・一元管理で意思決定スピードを向上
特許や商標、契約、経費、人材、ノウハウといった知財・無形資産に関する情報をクラウド上で統合的に管理します。また、他社の権利を侵害するリスクの回避などに有効な、他社の特許情報などの管理も可能です。社内の研究者や製品開発者、経営者との情報共有はもちろん、特許事務所や年金管理会社、外部サービスとの連携も可能です。例えば、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)との連携により、特許庁が発行する公開特許公報や特許公報といった公報を参照できます。さらに、特許の価値を見える化するための評価情報を追加することで意思決定のスピードを向上します。
・AIやRPAの活用で属人化を解消し、業務を自動化
発明の創出から出願、審査請求、中間手続、権利化、権利満了までの特許ライフサイクルを網羅的に管理できます。そこでは、生成AIやRPAの活用により、各種手続きなどの業務の効率化を支援する取り組みも進めています。例えば、特許事務所から請求書を受け取ったとき、従来は、受けた請求書を確認しながら人がシステムに転記していました。この業務効率化を図るため、IPeakMSでは、請求書を取り込むだけで、RPAによって請求書の読み取りとデータベースへの格納が自動で行われる機能を提供しています。また現在は、特許庁から拒絶通知を受け取った際に必要となる、特許庁への意見書の作成を生成AIによって支援することも検討しています。
・可視化で戦略立案を加速
IPeakMSに蓄積されたデータを分析し、競合他社の状況や、知的財産ごとにかかっているコスト、収益性などを把握できます。標準ダッシュボードで、組織別の出願件数や経費の統計、各特許技術の事業貢献度、人的リソースの状況などを即座に確認できます(図3)。これにより、経営層における迅速かつ精度の高い意思決定を可能にします。
・セキュリティと柔軟性を両立
知財情報は、貴重な情報資産です。IPアドレスでのログイン制御とSAML(Security Assertion Markup Language)認証による安全性の高いアクセス制限と、ユーザーごとの詳細な権限設定と業務単位での情報の公開範囲の指定による安全な情報管理を実現しています。さらにノンプログラミングで、管理項目の追加や変更、画面や帳票、業務フローを柔軟に構築できるカスタマイズ性を備えています。管理項目や画面構成などの情報はすべてデータベースで管理し、画面の編集は、画面上に必要な項目をドラッグ&ドロップ操作によって配置するだけで、独自の管理項目を追加できる仕組みです。これは当社が長年培ってきた知見を基に進化させてきた技術により実現しました。お客さまの業務に合わせた柔軟な運用を可能にします。
このように、IPeakMSは、知財管理を「業務」から「戦略」へと進化させる強力なエンジンです。
きめ細かい業務支援と伴走による信頼の導入支援
知財管理業務においては、さまざまな期限の管理が欠かせません。例えば、特許は出願から権利化までに年単位の時間がかかります。その間、出願日から3年以内に審査請求をする必要があるなどの決まりがあるため、長期間にわたっての期限管理が必要不可欠です。IPeakMSでは、このような特許庁への手続きに関する期限をはじめ、保有する特許の契約期限、年金の納付期限、さらには手続きや案件に関わらない社内業務の期限などを詳細に設定できます。期限の間近や当日など、担当者に適切なタイミングで自動的に通知を行い、業務の抜け・漏れを防止します。
またIPeakMSは、一般社団法人日本クラウド協会(ASPIC)が主催する「ASPICクラウドアワード2024」において、「基幹業務系ASP・SaaS部門 DX貢献賞」を受賞しました。これは、クラウド技術を活用して業務効率化や新しいビジネスモデルの創出を実現し、社会や産業に影響を与えたとして、第三者機関から高く評価されたというものです。こうした評価を受けたIPeakMSは、現在も進化を続けています。2025年には、株式会社スカラコミュニケーションズが展開する知財管理ソリューション事業の譲渡を受けました。これにより、「知財管理を行うためのデータ管理のノウハウ」や「知財知識とITノウハウを持つ人材」を強化。お客さまの競争力向上に貢献していくことを目指して、これまで以上に知財管理業務の高度化に向けたサービスの拡充を進めています。
当社では、IPeakMSを提供するにあたり、お客さまにおける既存の業務の確認から業務効率化につながる業務フローの設計、データ移行の設計やその作業までの導入に向けた一連のプロセスにおいて、さまざまな支援を行っています。当社が長年蓄積してきた多くの導入実績に裏付けられた知見やノウハウを生かしつつ、知的財産が持つ価値を最大化するための仕組みづくりを伴走しながら支援できる体制を持っていることも、お客さまに安心感と満足感を与える大きな強みです。
知財管理DXの未来、価値最大化への挑戦
IPeakMSは、知財・無形資産の一元管理と価値の可視化を実現したうえで、次のステップへ進みます。今後は、企業が持つ特許をマッチングさせて新たなビジネスの創出につなげるための仕組みづくりや、保有する知財・無形資産の価値を適切に評価するための環境の整備、さらには特許の売買市場への展開を視野に入れ、知財・無形資産の価値最大化につながる取り組みを進めていきます。
東芝デジタルソリューションズは、知財管理業務の高度化に向けた業務基盤となるIPeakMSを核に、知財管理DXを加速し、お客さまの企業価値を高めるパートナーとして進化し続けます。
知財管理サービスの推進メンバー
(左から)坂田 厚作,山元 春奈,富田 りえ子
- この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2025年12月現在のものです。
- この記事に記載されている社名および商品名は、それぞれ各社が商標または登録商標として使用している場合があります。


