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金融機関、自治体の収納金業務をDX化するプラットフォームサービス

税金や公共料金の収納金業務を担う各機関の現場では、それぞれが膨大な業務を処理する状況にあります。その最大の要因は、紙の納付書を中心としたプロセスにあります。紙を扱うために発生する仕分けや輸送、保管などに時間とコストがかかっているのが現状です。金融機関から自治体への報告には期限があるため、金融機関での仕分けや輸送にも時間的制約があります。このような状況から、総務省では収納金業務の抜本的なデジタル化が進められています。
東芝デジタルソリューションズでは、金融機関と自治体や公共企業をセキュアなクラウド基盤でつなぎ、紙ベースの処理からデジタルデータ中心の処理へと刷新するプラットフォームサービスを開発しました。納付書の効率的なデータ化と安全なデータ共有により収納金業務の効率化を実現する、当社のプラットフォームサービスを紹介します。


収納金業務におけるDX化の必要性


総務省では、地方自治体における行政サービスや業務プロセスを、デジタル技術やデータを活用して抜本的に変革し、住民の利便性と行政の効率を高める取り組み、いわゆる「自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)」が推進されています。

その一環として進められているのが、「公金収納のデジタル化」です。地方税に対しては、申告や納付をオンラインで行える全国で統一された地方税ポータルシステム「eLTAX」や、納付書に印字されたQRコード(地方税統一QRコード「eL-QR」)をスマートフォンの決済アプリやeL-QRに対応した金融機関で読み取って電子納付を行える仕組みが展開されています。2026年9月からは、地方税に加えて、各種保険料や水道料金といった一部の公金についてもeL-QRを活用した電子納付を開始する方針が示されました。これに伴い、eLTAXの改修や関係する法令の整備などが、現在進められています。

税金や公共料金などを支払う際の、従来の一般的な流れを説明します(図1)。自治体や公共企業から対象の個人や企業などに払込書(納付書)が郵送され(図1-①)、個人や企業は受け取った納付書を使って、金融機関やコンビニエンスストアなどで支払いをします(図1-②)。納付されたお金や納付書は、それぞれの経路により、各自治体から公金収納の事務を委託されている金融機関(指定金融機関)に送られます(図1-③)。

指定金融機関では、集まったすべての納付書に関する入金処理や納付情報のデータ入力を行い、そのデータと納付書を納付先や税目(税金の種目)ごとに仕分けて、それぞれ決められた時間までに納付先の自治体や公共企業に報告します(図1-⑤)。報告には納付書の原本が含まれるため、輸送が必要です。この一連の作業は収納金業務(あるいは、税公金業務や公金収納業務)と呼ばれ、指定金融機関の多くでは「事務センター」が設置されてこの業務を担っています。そのため、指定金融機関の中でも、各営業店から事務センターへの納付書の輸送が発生しているのが現状です(図1-④)。

自治体や公共企業は、納付される予定の情報(帳簿)と指定金融機関から報告された納付情報、口座への入金情報を照合して、合致した情報を帳簿から削除する「消込作業」を行い、納付書を保管します。特定の納付書を確認する場合には、1枚ずつ見ながら探し出す必要があり、また保管した納付書を必要とする場合には倉庫から探し出す必要もあります。

こうした流れからわかるように、公金収納のプロセスの中心となっているのは納付書、つまり「紙」です。紙を扱うことによって発生する、納付情報のデータ化や、納付書の輸送や保管、さらには必要な納付書を探し出すことなどへの膨大な対応を、金融機関や自治体で担ってきました。このことから、金融機関や自治体の業務効率化にはペーパーレス化が有効と考えられ、前述したeL-QRの活用による電子納付の取り組みが進められました。


金融機関と自治体をつなぐクラウド基盤がペーパーレス化の鍵


eL-QRが付与された納付書は、それを読み取ることで、eLTAX内のサイトやスマートフォンの決済アプリなどを通じた電子納付が可能となります。納付書が金融機関の窓口に持ち込まれた場合でも、納付を受け付けた後の事務処理でeL-QRを活用できるため、金融機関において業務効率化が図れる仕組みです。この活用は年々広がってきていますが、一方で、解決するべき課題もあります。特に、大量の法人納付に対する窓口での対応に課題があります。

法人の場合、法人住民税や事業税、固定資産税といった複数の税目かつ大量の納付書を、複数の自治体に納付するケースが多くあります。例えば、レンタカーの会社では店舗ごとに多くの車両を所有しているため、自動車税に関する納付書を大量に複数の自治体に対して処理しなければなりません。QRコードによる電子納付は、納付書単位による処理が基本となります。そのため、企業によっては、金融機関の窓口にまとめて持ち込むほうが、作業負荷を軽減できると判断されるケースも少なくありません。また、納付データを管理する会計システムやERP(統合基幹)システムとのデータ連携や、スマートフォンでの決済における不正や誤納付といったリスクへの対応、さらにはeL-QRの対象と非対象の税目が混在していることへの対応なども必要です。

金融機関には、こうして持ち込まれる大量の法人納付への対応や、今後電子納付が増えても紙の納付書への対応が完全になくなることは難しいことなどから、窓口業務の維持が求められています。しかし電子納付により営業店への納付書の持ち込み数が減ることは望ましい一方で、現状の手数料では窓口業務の維持が困難になってきているのが現状です。納付者からのさまざまな納付に対応するために、いかに紙の輸送を減らして業務効率化を図れるかが、より一層重要になっていると考えられています。

このような状況を受けて、東芝デジタルソリューションでは、納付書のイメージデータを金融機関と自治体とで安全に共有できる仕組みを提供しています。納付書のイメージを自治体がデータで確認できれば、紙の使用や、それに伴う輸送や保管が不要になります。金融機関においては、納付書のイメージデータ化を営業店で行うことで、以降はデータを扱っての作業が可能となり、営業店から事務センターへの紙の輸送をなくせます。さらに金融機関の業務効率化を図れるのが、OCR(Optical Character Recognition:光学的文字認識)技術の活用です。OCR技術によって、納付書のイメージデータから情報を読み取りテキストデータ化することで、これまで紙の納付書を見ながら行っていた納付情報のデータ入力作業を軽減できます。認識精度の高さはもちろん、文字だけでなく、QRコードやバーコードの認識も行えるOCR技術を活用することで、その効果はさらに高まります。

これらを実現したのが、当社が提供する収納金業務のプラットフォームサービス「収納金共通サービス基盤forクラウド(以下、収納金クラウド)」です。そこには、金融機関の業務を効率化する「イメージOCRサービス」と「収納金アプリケーションサービス」、そして金融機関と自治体や公共企業とで情報を共有する「イメージ照会サービス」という3つのサービスがあります。お客さまの状況に応じてトータルで、あるいは段階的に、個別になど、柔軟に導入することが可能です(図2)。

収納金クラウドを開発した背景には、収納金業務の事務作業の効率化を目的にしたオンプレミス版の収納金システムを全国約50の金融機関に提供してきた実績と、デジタル技術の進化、近年の国の動向などがあります。金融機関におけるさらなる業務の効率化に向けて、クラウドへの対応を進めるとともに、サービスを強化しました。

実際に、株式会社福井銀行では、福井県内のすべての自治体と共同でイメージ照会サービスの運用を開始されています。紙の納付書の送付を段階的にやめていくこと、それによる業務の大幅な効率化とコストの削減を目指されています。自治体の職員の方からは、「これまで納付の翌々日までできなかった納付書の確認が、翌日に可能になった」「特定の納付書を見たいとき、1枚1枚探していたが、データ検索ですぐに見つけられるようになった」「納付書データをCSV形式で取得できるため、集計して予算検討などの二次利用に役立てられている」といった声が寄せられています。


LGWAN接続に対応したセキュアなデータ共有環境を実現


金融機関と自治体とがクラウド上で納付書のイメージデータや納付情報を共有するイメージ照会サービスを実現するにあたっては、セキュリティ面での工夫があります。

まず、FISC(金融情報システムセンター)安全対策基準のような、金融業界の標準的なセキュリティ基準に準拠することは欠かせません。イメージ照会サービスでは、FISC安全対策基準に基づき作成されたチェックリストを用いて、データ保護や不正使用防止などを含む12の観点による100を超える項目のすべてに対して問題ないことを確認しています。

次に、自治体におけるセキュリティです。自治体のシステムは、基本的にインターネットや広域網に直接つなげることはできません。インターネットとは物理的に切り離された、LGWAN(総合行政ネットワーク)という自治体専用の閉域ネットワークで、安全に運用されているからです。さらに、納付書には納付者の情報が含まれていることから、ネットワークを経由して共有する情報に対して、個人情報保護法への対応も必要となります。

これらのセキュリティ要件を満たすために行ったのが、金融機関と自治体のネットワークの分離と、クラウド上で共有するデータの絞り込みです。

イメージ照会サービスを含む当社の収納金クラウドは、Amazon Web Services(AWS)上で提供しています。自治体ごとに独立したテナントで、セキュリティを確保します。また、Virtual Private Cloud(VPC)により、金融機関と自治体のプライベートネットワークを分離し、ネットワーク間のセキュリティを担保しています。さらに、閉域網でさまざまなクラウドサービスとセキュアに接続する「Flexible InterConnect(FIC)」と、「Arcstar Universal One」というVirtual Private Network(VPN)を経由することで、金融機関および自治体のそれぞれにおいて、閉域での通信を実現しました(図3)。

※Flexible InterConnect およびArcstar Universal Oneは、NTTドコモビジネス株式会社のサービスです。

クラウド上で共有するデータは、総務省のガイドラインに基づき、テキストファイルまたは画像ファイルに限定するようなセキュリティ対策を施しました。こうしたネットワークの分離や共有するデータの絞り込みによって、イメージ照会サービスは、LGWAN-ASPサービスとして地方公共団体情報システム機構(J-LIS)に登録され、自治体からのLGWAN接続が可能となっています。


3つのサービスとその特長


セキュアなクラウド環境を実現した収納金クラウドが提供するサービスとその特長を紹介します。

まずは、イメージOCRサービスです。これは、東芝が長年取り組み進化させてきたクラウド型のAI OCRサービス「AI OCR Synchro+」を活用したサービスです。金融機関の営業店などでスキャンした画像をクラウドに送り、OCR処理を行います。専用のスキャナーを必要としないため、既存のスキャナーや複合機などが活用でき、また文字やQRコード、バーコードの読み取りに加えてeL-QRに対応している点が特長です。読み取りの際に必要な納付書の識別方法や読み取る位置といった、いわゆるモデルの登録をすることなく、AI OCRの機能が使える特長もあります。クラウドサービスのため、スキャナーの設置場所や作業場所にも縛られません。

※AI OCR Synchro+(旧名:AI OCR文字認識サービス)は、こちらの記事で詳しく紹介しています。

次に、収納金アプリケーションサービスです。これは、納付情報のデータ入力や入力したデータの精査、報告書などの帳票作成といった金融機関での作業を支援するサービスです。収納金業務に特化したデータ入力画面の活用により、作業の効率化が図れます。各種作業には、イメージOCRサービスによる認識結果、あるいは事務センターに設置されているOCRスキャナーなどで読み取った結果などが使えます。クラウドでの処理のため、複数の拠点で分散した作業が可能です。例えば、ピーク時や災害などの緊急時の対応が柔軟に行える効果があります。

最後は、イメージ照会サービスです。金融機関と自治体の間でデータを共有するサービスです。納付書の様式や仕分け方、データ化が必要な納付情報(属性情報)などは全国的に統一されておらず、自治体によってさまざまです。このサービスでは、当社が開発したクラウド型「文書管理サービス」を活用することで、データ化する属性情報の汎用的な定義や、登録データの構造的な管理が可能になっています。自治体においては、属性情報を検索キーにして、納付書のイメージデータや納付情報を探し出すことが可能です。納付情報はCSV形式で取得できるため、集計に活用することもできます。また、各データを閲覧する権限の設定が可能なため、金融機関や自治体のセキュリティ基準にも対応できます。


収納金クラウドでDX化を推進


収納金業務の効率化は、金融機関および自治体の双方にとって欠かせない取り組みです。eLTAXやeL-QRの活用が広がる一方で、従来の紙の運用を完全になくすことは簡単ではありません。個人や企業が安心して納付できるように、いかに効率的にデータ化をして紙の輸送を減らせるか、データ化による効果をいかに高められるかを考え、実現したのが収納金クラウドです。

OCRによる納付書の読み取りによって、金融機関における納付情報のデータ化が効率化されることで、例えば、これまでは自治体で準備していた消込データを、金融機関が提供するといったことも検討できるようになります。金融機関においては付加価値として、自治体においては業務効率化として、有効ではないでしょうか。

金融機関と自治体にとってよりよい仕組みを提供し、DX化を推進していく。収納金クラウドは、より効果の高いトータルでの活用、あるいはイメージ照会サービスから、イメージOCRサービスから、収納金アプリケーションからと、改善を図りたい業務からの活用が可能です。まずは活用していただき、ぜひ効果をお聞かせください。東芝デジタルソリューションズは、業界の枠を超えて、さまざまなお客さまの業務変革に貢献していきます。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2025年12月現在のものです。
  • この記事に記載されている社名および商品名は、それぞれ各社が商標または登録商標として使用している場合があります。

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