超高齢社会を迎えている日本では、国民の健康寿命の延伸と、医療費や介護給付費の適正化が国の重要な政策課題となっています。この課題解決に向け、地域住民の暮らしを支えるサービスの提供はもちろんのこと、蓄積された医療や介護などの膨大なデータを、施策の立案やその評価に有効に活用することが、自治体に求められています。しかしながら、自治体の多くでは、データを横断的に活用できない、さらには日常的な業務に追われて施策の立案に注力できないといった課題を抱えているのが現状です。ここでは、データ活用による効果的な施策検討や業務効率化を支援する、東芝デジタルソリューションズの地域包括ケアソリューション「ALWAYS ICC」をご紹介します。
エビデンスに基づく地域包括ケアの基盤構築が急務に
厚生労働省は、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、市町村や都道府県における、地域それぞれの特性に応じた地域包括ケアシステムの構築を目指しています。地域包括ケアとは、重度な要介護状態となっても、可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けられるように、住まいや医療、介護、予防、生活などの支援やサービスを一体的に提供することであり、その体制を地域包括ケアシステムといいます。※1
また日本政府は、EBPM(Evidence Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)を推進しています。EBPMとは、政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすること、また政策効果の測定には重要な関連を持つ情報や統計などのデータを活用することとされています。※2
※1 参考:厚生労働省 地域包括ケアシステム
※2 参考:内閣府 内閣府におけるEBPMへの取組
つまり、地域包括ケアシステムを構築し、住民に対して疾病やその重症化の予防、さらには横断的な介護と医療を推進すること、そしてそれをEBPMに基づき実現していくことが自治体に求められているのです。
しかし、多くの自治体の現状を見ると、集められた介護や医療、健康診断などの各種データは、それぞれ独立した情報システムに保存されているため、自治体全体で横断的に活用できる状態ではありません。紙で収集された情報は、電子化できていないものもあります。
また、自治体の多くでは、各種問い合わせへの対応や、データの収集や加工、分析、さらには会議や打ち合わせに向けた資料の作成など、多くの日常的な業務を人手に頼っています。そのため、担当者はこれらの業務をこなすことで精一杯になりやすく、より効果をもたらす施策を検討する業務に注力することが困難です。このように、システムと人材の両面で悩みを抱えている自治体は、少なくありません。
そこで今後は、自治体に蓄積されているデータを統合的に収集し、集計したり分析したり、さらには有効に活用したりできるデータ活用基盤をいかに整えられるかが、自治体にとって重要になっていきます。この基盤の実現により、データを生かした現状の把握(Check)から課題の抽出(Act)、施策の検討(Plan)、その実行と評価(Do)までの業務を繰り返しながら、疾病や重症化の予防、そして横断的な介護や医療の推進などに向けた地域包括ケアの地域マネジメント業務を効率的に行えるようになります。
これは、自治体にとって、EBPMによる地域包括ケアシステムを実現する取り組みであり、さらには、国から求められている国民の健康寿命の延伸と、医療費と介護給付費の適正化に向けた取り組みでもあります(図1)。
横断的なデータ分析で地域包括ケアを支援する「ALWAYS ICC」
東芝デジタルソリューションズは、このような自治体における地域包括ケアの地域マネジメント業務を支援する取り組みを進めています。
まずは、データの管理です。自治体の各システムに分かれて蓄積され、その活用が難しかった医療や介護などのデータを、高齢者ごとに突き合わせてクラウド上の「高齢者統合台帳」に保存し、一元的に管理します。次に、データの活用として、高齢者統合台帳をもとに、データの集計や解析、さらには必要なデータを抽出して分析し、見える化やデータドリブンな資料作成に活用できるデータ活用基盤を構築します。
これらにより、高齢者一人ひとりに対して、心身状態の変化などを分析したり、可視化したりできるようになります。また、心身状態により変化する「疾病予防」「介護予防」「介護」「在宅医療」という高齢者の各ステージを支援する自治体の事業それぞれにおいて、横断的なデータ分析による施策の立案やその実行評価に活用できるため、効果的な施策を見いだすことにつなげられます。地域ごとの比較や経年推移についてもデータから確認できます。データ活用基盤により、人手に頼っていた日常的な業務が効率化され、担当者は、地域包括ケアに関する改善や改革の業務に注力できるようになります。
これらを支援する仕組みは、当社の地域包括ケアソリューション「ALWAYS ICC」で提供しています(図2)。
ひとことでデータの活用といっても、その実現は容易ではありません。データの収集や分析、加工などには、さまざまなノウハウが必要です。
当社は長年にわたり、厚生労働省をはじめとする医療や福祉の分野で、さまざまなシステム構築を経験し、データクレンジングをはじめとする多くの知見とノウハウを蓄積してきました。それらとともに、自治体への導入を進める中で蓄積され続けるノウハウを取り込むことで、このソリューションは現在も進化しています。
データによる効果検証で、よりよいケアを多くの人や地域に展開
ALWAYS ICCは、高齢者の心身状態の変化と各種サービスの利用履歴の可視化や、疾病や重症化などのリスク対象者の抽出、地域別および各種サービス事業者別の実態把握、施策実行の実績評価などを、データ活用を通じて実現するソリューションです。
具体的には、特定の条件に合致する高齢者を抽出し、その高齢者の心身状態と、介護サービスの利用状況や地域などで開催されている体操やレクリエーションへの参加状況などを経年推移で比較しながら見ることができます。心身状態の改善への寄与が見込まれる具体的なサービスや活動などが可視化されるため、その後の計画に生かせたり、心身状態が似ているほかの高齢者におすすめしたりと、本人だけでなく多くの人のための効果的な施策として検証し、活用できるようになります。
また、地域別、さらにはサービス事業所別に、介護サービスなどの利用状況や利用者の心身状態を集計して比較できるため、地域ごとの傾向や差異などがつかめます。これにより、活発に利用されていたり、利用者の心身状態の改善が多く見られたりするサービス事業所の施策をほかの事業所に展開するなど、地域全体の改善に貢献できます。
さらに、ケアプラン※3が適切かどうかを点検するにあたり、点検候補のケアマネジャーを選定する業務や、年を取ることで避けられない心と体の働きが弱くなっていく状態をいかに予防していくかというフレイル予防の取り組みなどに活用し、業務の効率と質を向上します(図3)。
※3 ケアプラン:ケアマネージャー(介護支援専門員)が、介護を必要とされる方に対して作成する介護サービス計画のこと。参考:厚生労働省「介護サービス計画(ケアプラン)について」
このように、信頼できるエビデンスやデータをもとに調査や検討ができることで、自治体に求められている「EBPM(証拠に基づく政策立案)」の実現につながります。
EBPMという、データを使った根拠ある事業計画の策定や評価を行うことは、自治体に大きな信頼と効果をもたらします。地域包括ケアでの経験をもとに、自治体の多くの事業に拡大していければ、さまざまな課題の解決に、より多くの観点で取り組めるようになることも期待できます。これからも東芝デジタルソリューションズは、ALWAYS ICCを進化させ、地域の実情にあわせた地域包括ケアの地域マネジメントに貢献します。
- この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2022年10月現在のものです。