データの一元化と効率的分析で精度の高い高齢者福祉政策を目指す
自治体のデータ利活用を支援する地域包括ケアソリューション「ALWAYS® ICC」

 「高齢者が住み慣れた地域で、安心して暮らせるまちづくり」を基本理念とした「おおた高齢者施策推進プラン」を策定し、地域包括ケアシステムを推進している大田区福祉部。国が提唱するEBPM(証拠に基づく政策立案)を進め、データ利活用により介護予防事業の充実と高齢者の健康寿命の延伸をめざしたより精度の高い施策策定のため、自治体として初めて東芝デジタルソリューションズ(以下、東芝)が提供するクラウド型地域包括ケアソリューション「ALWAYS® ICC」を導入した。


Before

効果的な施策立案や給付適正化が課題と認識されながらも、介護・医療等のデータが庁内各課に分散し、介護予防事業のデータ化も進んでいなかったため、高齢福祉課では、実施しているさまざまな介護予防事業がどれほどの効果をあげているのかが見えにくい状態となっていた。また介護保険課では、介護給付費の適正化に取り組んでいる。その指標となる地域別認定率の経年変化を確認するには、表計算ソフトを用いて集計を行っており、介護保険事業計画策定業務の負担は大きかった。さらには、国のEBPM推進の動きに対応するためにデータ利活用をしようにも、個人情報保護などクリアすべき問題も多く、解決策を模索していた。

After

ALWAYS ICCの導入により、EBPMの実現に欠かせないデータ利活用基盤が整備された。庁内に分散していた介護等のデータの連携およびデータの可視化が実現し、データを元にした介護予防事業の実施や施策立案が可能となった。また、従来の集計作業が自動化され、職員の業務効率化に向けた取り組みが進んでいる。

いかに介護予防事業を推進し、健康寿命を延伸するかが課題に


 高齢者の介護予防事業を推進し、健康寿命の延伸をはかるため、どのようにして効果的・効率的な福祉サービスを提供していくかが、自治体の大きな課題となっている。
 2017年8月、国はEBPM推進委員会を設置し、翌18年には各府省におけるEBPMの取り組みを主導するため、政策立案総括審議官などを設置した。この流れに合わせて、地方自治体でもEBPM推進の検討・調査を始める動きが進んでいる。
 大田区福祉部高齢福祉課高齢者支援担当係長の前畑文枝氏はEBPMの実現やそのためのデータ利活用推進の必要性を認識しつつも、「個人情報の取り扱いなどの課題から導入にはハードルが多く、正直二の足を踏んでいました」と語る。
 庁内各課のシステムで保有するデータの個人情報を活用するには、あらかじめ本人に利用目的を明示しておく必要がある。もちろん、匿名化すれば個人情報を含むデータが活用できるが、それは統計処理されたデータによる分析結果となる。「データを利活用して、より現実に即した介護予防事業の実施や施策立案につなげるためには、統計的な分析だけではなく、最終的には該当する個人や事業者が特定できるような顕名データによる分析が必要だと考えていました」と当時福祉部高齢福祉課 高齢者支援担当(計画)だった小冨士絵美氏は振り返る。

左から前福祉部高齢福祉課 高齢者支援担当(計画)
小冨士絵美氏、同課係長 前畑文枝氏

自治体でデータの利活用をするために


介護保険課計画担当係長
大河原梓氏

 介護保険課では当時すでに、国が運営する介護保険事業(支援)計画等の策定・実行を支援する地域包括ケア『見える化』システム(以下、見える化システム)」を利用していた。このシステムでは、要介護(支援)認定者数や介護(予防)サービスの見込み量の推計や自治体間比較は可能だが、日常生活圏域別の認定率やその経年変化を見るには、区で保有するデータを処理する必要があった。介護保険課計画担当係長の大河原梓氏は「最適な介護保険事業計画策定のために、さらなるデータ利活用を進めたいという思いがありました」と語る。
 そんなときに東芝から紹介されたのが、クラウド型地域包括ケアソリューションALWAYS ICCだった。
 ALWAYS ICCは高齢者の「疾病予防」「介護予防」「介護」「在宅医療」にデータ利活用を取り入れ、実データに基づく地域マネジメントPDCA業務を支援するクラウド型ソリューションだ。自治体の各部門にて保有する高齢者データをクラウド上で横断的に管理できるデータ分析基盤を構築することで、統合されたデータから見えてくる高齢者の実態の可視化、分析結果の共有等を可能にする。こうしたデータに基づく基礎資料を提供することで、「根拠に基づいた施策立案(EBPM)」推進を支援する。
 前畑氏は「20年1月に基本コンセプトの提案を受けました。その後、ソリューションに搭載できるデータや可能な分析内容などヒアリングを重ねて、21年3月にはALWAYS ICCを導入する方向で動き始めました」と語る。

目指す分析が実現できるか


 前畑氏によると、ALWAYS ICCの導入にあたっては、比較検討のために、類似する他のソリューションについても調べたという。しかしカスタマイズができない、医療データとの連携ができないなど、大田区の目指すデータの利活用には向かず、採用に至らなかった。さらに、他の自治体がすでに採用しているソリューションについても情報を集めたが、個人情報を含む顕名データによる分析ができないなど、求める機能要件を満たさなかった。
 検討を重ねた結果、東芝のALWAYS ICCであれば、庁内各課でそれぞれ保有しているデータを顕名で一つに統合でき、分析メニューのカスタマイズによりさまざまな切り口での分析が可能なこと、将来的には介護データと医療データとを連携できることがわかった。こうして大田区が保有するデータから実現可能な事柄について東芝の担当者と詳細をつめていった結果、ALWAYS ICCの導入を進めることとなった。
 また、「国の『見える化システム』の構築に携わっていたことも、大きなポイントとなりました」と大河原氏は明かす。介護の世界にはさまざまな専門用語がある。「打合せで、我々が『日常生活圏域』といった専門用語を使っても、東芝の担当者は都度説明することなく、意味を理解した上で次の質問をいただけて非常にやりやすかった」と、小冨士氏はこの分野における東芝の知見を高く評価する。
 前畑氏も「私たちの業務・業界を知っている東芝だからこそ、スムーズに導入を進めることができたのだと思います」と語る。
 ALWAYS ICCの導入に際して、課題だった「区内約16万5千人の高齢者の個人情報の活用」については、「何のためにどう使うのか」を関係部署に理解してもらうことが不可欠だった。データに基づく、『政策立案・評価(EBPMの実現)』『住民サービスの質の向上』『行政職員の大幅な生産性の向上』というALWAYS ICC導入の3つの目的を、情報セキュリティの所管課をはじめ、データを保管している各部署に説明し、幾度もの話し合いを経て、顕名データでの分析を可能にしました」と前畑氏は当時の苦労を語った。

データ利活用に対する職員の意識定着と生産性向上


 福祉部では21年11月よりALWAYS ICCの利用を開始。現在、介護保険のデータをALWAYS ICCで活用できるようにしたところだ。「スモールスタートで始めています。まずは、高齢福祉課・介護保険課をはじめとする福祉部内関係課の職員にデータ利活用の必要性を周知するため、定期的に研修をおこなっていこうと考えているところです」と前畑氏。職員研修は、高齢福祉課高齢者支援担当(計画)主査清水秀専氏と、同担当杉浦あずさ氏を中心に実施しており、ALWAYS ICCの説明と、データの利活用によって実現できることについて具体的事例をもとに紹介、「業務にデータを利活用するという意識が少しでも高まってくれれば」と前畑氏。また清水氏も「職員から『こういったことはできるのか』という相談をもらうこともある」とし、研修の実施によりデータ利活用の意識が定着していくことに期待を寄せる。

左から高齢福祉課高齢者支援担当(計画)主査
清水秀専氏、同主事 杉浦あずさ氏

オンライン研修の様子

 ALWAYS ICCを導入してみて、そもそもデータがないことに気づかされることもあったという。例えば「老人いこいの家」で、毎日開催されている体操やダンス、ヨガなどの教室が、介護予防にどうつながっているかを分析したいと思っても、参加者のリストや出欠状況は紙で保管されていて、まずデータ化する必要があったのだ。「データ整備の必要性を実感しました。これも導入にむけた取組における気づきのひとつです」と小冨士氏は笑顔を見せる。
 本格的な活用に向けて、職員の生産性向上には少しずつ効果が出ているという。「これまでは、地域別の認定率を経年で見たいといった場合には、職員が一日かけて表計算ソフトでデータを作成していました。ALWAYS ICCであれば、すぐに正確でより分かりやすいデータを示してくれるので、今後さらに効率化、業務改善につながっていくことを期待しています」と、大河原氏は今後に期待を寄せる。

医療情報との連携、EBPMの実現にむけたデータの利活用の推進


 大田区のALWAYS ICCの利活用はこれからが本番。「現在行っている介護予防事業の効果について、介護面だけでなく医療面からも多面的にALWAYS ICCを通じて見ていきたい。国保データベースシステムで保管されている医療レセプト情報や特定健診の情報などとデータ連携し、介護予防事業の施策立案につなげられれば」と前畑氏は語る。
 介護保険課では、ALWAYS ICCの活用を進め「介護給付費の適正化(ケアプラン点検など)に役立てたい」と大河原氏は語る。介護給付費を地域別、事業所別など詳細に分析することで、大田区で働くケアマネジャーが自立支援に資するケアプランを作成できるよう支援していくという。
 大田区は、データ利活用の基盤として、ALWAYS ICCの利用を推進していくことで、データに基づいたより精度の高い施策の実現に向けて進んでいくだろう。公式PRキャラクター「はねぴょん」とともに、より笑顔溢れる街へと進化を続ける大田区を、東芝はこれからも支援していく。

SOLUTION FOCUS

地域包括ケアソリューションALWAYS ICC

「保険者機能強化」及び「地域包括ケアの地域マネジメントPDCA業務」のさまざまな課題をモデル自治体様の高齢者統合DB利活用による先行実績を踏まえ解決します。
 高齢者の全ライフステージをカバーする4事業(データヘルス、総合、介護、医介連携)の目標達成に向け、小地域別サービス需給分析、サービスの質の可視化、費用対効果推計・検証、事業の効果測定等の新たな業務を支援。
 東芝は今後も、データドリブン型の地域マネジメントの推進を支え、最終的に、健康寿命の延伸、医療・介護給付費等の適正化(抑制)、さらには持続的な社会保障システムの実現に貢献します。 

この記事の内容は2022年2月に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。

CUSTOMER PROFILE

名称
大田区

本庁所在地
東京都大田区蒲田五丁目13番14号

URL
https://www.city.ota.tokyo.jp/