DiGiTAL T-SOUL
Vol.
34

自分でカンタンにIoTサービスがつくれる「ifLink」 目指すは「IoTの民主化」 自分でカンタンにIoTサービスがつくれる「ifLink」 目指すは「IoTの民主化」

吉本 武弘 Yoshimoto Takehiro 東芝デジタルソリューションズ株式会社社 O&M・IOTソリューション&サービス部 エキスパート
吉本 武弘 Yoshimoto Takehiro 東芝デジタルソリューションズ株式会社 O&M・IOTソリューション&サービス部 エキスパート

みんなが豊かになる社会を目指し、さまざまな活動に取り組む東芝グループ。東芝デジタルソリューションズが開発した自分でつくれるIoT「ifLink(イフリンク)」は、その具体的な活動の一つです。当社が目指しているのは、「IoTの民主化」。誰でもカンタンに、すぐに、安くIoTを使えるようにすることです。それによりさまざまなIoTサービスがユーザーサイドから生まれてきます。そのためには、ifLinkをさまざまな企業や団体、学校などに広めていく必要があります。そこで東芝と当社が発起人となり、「一般社団法人 ifLinkオープンコミュニティ」を設立しました。ここでは、ifLinkの概要およびその普及を後押しするifLinkオープンコミュニティの活動について、ご説明します。

自分でつくれるIoT

ビジネスシーンでは、さまざまなIoTの普及や活用が進んでいます。そこでは、私たち東芝デジタルソリューションズなどICT企業が、顧客企業の要望に合わせてIoTシステムを構築し、IoTサービスの提供を行っています。一方、個人の生活でもIoTが活用されはじめています。しかしエンドユーザーにとっては、ICT企業の提供するサービスを使うだけで、あまり自由度がありません。

「エンドユーザー自身が、さまざまな部品を組み合わせてカンタンにIoTサービスをつくれるようにしたい。」この思いを実現するために、私たちが開発したのが「ifLink」です。ifLinkは、IoT機器(デバイス)やWebサービス(サービス)をモジュール化することで、誰でもカンタンにデバイスやサービスを自由に組み合わせて、便利な仕組みをつくりあげることができるIoTプラットフォームです。

例えば、「玄関のドアが開いたら、家族に連絡する。」「熱のある人がいたら、お知らせする。」など、特定の状態(IF)とアクション(THEN)を組み合わせ、そこに関わるデバイスとサービスをスマートフォン(以下、スマホ)がBluetoothやWi-Fiなどの近接無線を使って中継することで、IoTサービスを実現します(スマホだけでなく、タブレット端末やホームゲートウェイなどにも対応)(図1)。

図1 ifLinkとは

従来、このような連携をするためには、デバイスやサービスを操作するためのソフトウェアの開発が必要でした。しかし、ifLinkでは不要です。「IF-THENルールエディター」というアプリを使い、利用したいデバイスやサービスを選んで連携の設定をするだけです。難しいところはifLinkがやってくれます。それぞれのモジュール(デバイスとサービス)は、通信方法やプロトコル、そしてAPI*も異なるのにどうやってつながるのか。それはモジュールとifLinkをつなげるマイクロサービスという個別の小さなアプリを追加していくことで実現しています。マイクロサービスがモジュール独自の部分を吸収し、多くのモジュールがifLinkの部品として連携できるようにしています。

API:Application Programming Interface
吉本 武弘

IFとTHENのルール設定を、よりカンタンに実現するために、「IF-THENカード」を提供しています。これはIF-THENルールエディターを使わずに、ルールを設定できるものです。

ユーザーは、IF用とTHEN用のそれぞれのカードを左から右に並べて、スマホのカメラで読み込みます。するとその情報がifLinkクラウドに送信され、その情報に基づき「IF-THENルール」を作成。作成されたルールはスマホに送られ、前述した「玄関のドアが開いたら(IF)、家族に連絡する(THEN)」などの動作がスマホだけで制御できるようになります。これは、ifLinkの大きな特長の一つです(図2)。

図2 IF-THENカードによるルール設定

自分でつくれるIoT「ifLink」に対応したモジュール(デバイスとサービス)は、続々と増えています。IF用には、センサーや通信SIMを内蔵したボタン、ビーコンなどのデバイスや音声認識などのサービスが、一方、アクションさせる側のTHEN用には、コミュニケーションロボットやリストバンド、赤外線リモコンなどのデバイスと、音声合成やIoTクラウドへのデータ送信、LINEやメールの送信、マップの表示などのサービスが利用できます。

ifLinkの普及を加速するため、「ifLinkオープンコミュニティ」を設立

当社では、このようにさまざまなデバイスやサービスとつながるifLinkで、「IoTの民主化」を目指しています。IoTの民主化とは、「誰でもカンタンに使える(Available)」「すぐに使える(Agility)」「安く使える(Affordable)」という「3つのA」を満たす世界です。これを実現するためには、ifLinkにつながるデバイスやサービスがよりたくさんラインナップされていることが重要です。これは東芝グループだけでできることではありません。そこで、さまざまな企業が集まって対応モジュールを増やし、学校や団体などとコラボレーションして活用方法を発案し、実現する場として、2020年3月に「一般社団法人 ifLinkオープンコミュニティ」を設立しました(図3)。

図3 一般社団法人 ifLinkオープンコミュニティ

ifLinkオープンコミュニティには、すでに100社を超える企業が参加。「社会課題の解決」や「IT人材の育成」、「新事業の創出」をテーマに掲げ、現在14個のワーキンググループ(部会)が活動しています。

最もホットな社会課題の解決に取り組む「新型コロナ対策部会」

その中で、いま最も活発に活動しているのが「新型コロナ対策部会」です。この部会には、大企業のほか、センサーを提供する企業やアプリケーションを開発する企業など、さまざまな企業が参加。「3密回避」「新たなワーク・ライフスタイル」「経済活性化」における課題を抽出し、その課題を解決するためのソリューションを試作しています。

例えば、近接した人数をカウントし、自分の行動のリスクを可視化するアプリ「AntiCluster(note株式会社)」はその一つです。受信した他者のスマホが発するビーコン信号から、近接者の数や距離を判別。それによる3密リスクの度合いを判定して可視化することで、個人に行動の注意を促します。ポイントシステムと連携し、数日間にわたって「安全」と判定された人にはポイントを付与するような使い方もできます。

次に紹介する試作例は、発熱者を検知するアプリ(note株式会社)です。赤外線カメラを搭載したスマホと顔認識の技術を組み合わせ、サーモグラフィー表示と人の顔部分の体温測定を実現。ifLinkで、発熱者の検知(IF)と、検知したときの動作(THEN)、例えば発熱者への案内や管理者への通知などにつなぎます。スマホが1台あれば発熱者の検知とそのときの動作が自動で行えるため、個人商店や飲食店、中小企業、学校、保育園などでの導入や活用が容易になります。

3つ目は、CO2センサーを使って「密閉」を検知し、対策につなげるものです。CO2センサーとifLinkを組み合わせて、CO2が一定の濃度を超えたとき(IF)、「換気をしましょう」と音声で案内する(THEN)、換気扇を回す(THEN)、パトロールランプを点灯する(THEN)といった動作をさせるアプリを試作しました。

この活動は、新型コロナに立ち向かう企業の共創活動例として、西村大臣率いる新型コロナウイルス感染症対策テックチームの会合で発表することができました。

強制発想ワークショップ「IF-THEN大喜利」で閃きを生む

IoTで便利な新しい何かを実現するためには、課題を見つけることが重要です。ifLinkオープンコミュニティでは、そのヒントやきっかけづくりの一つとして、アイデア出しから具体的な解決までを体験する発想会を行っています。その名も、強制発想ワークショップ「IF-THEN大喜利」(note株式会社)。「お題」を決めて、課題と解決を発想するワークショップです。

このワークショップでは、家庭や交通、工場などさまざまな生活の「シーン」を描いたカードや、顧客や働く人、経営者などを描いた「ユーザー」のカード、そして効率化や安心、省エネルギーなど解決することを描いた「テーマ」を表すカードという3つの種類のカードの中からそれぞれランダムに1枚ずつ選んで「お題」を決めます。それを基にディスカッションして、困りごとやできたらよいことなどを具体的に発想します。そして、その解決策をIFとTHENのカードを使って発案します。絞られた「お題」が与えられることで発想が具体的になり、IF-THENカードを使うことで発想をその場で動かして確認できるのがポイントです。

ある大学では、IF-THENカードを使ってIoTサービスを発想し、アイデアのビジネス化を検討するような授業が行われています。企業の新人教育などでも、実際にIF-THENカードが活用されており、私たちは、このような活用の場がさらに広がることを期待しています。

認証やレシピサイトなど普及拡大に向けた計画

ifLinkオープンコミュニティの活動を通して、今後ますますifLinkの普及を加速していきます。ここで重要となるのが、さまざまな企業が準備した、ifLinkと連携する個々のモジュール(デバイスとサービス)の信用性です。例えば、体温を計測するセンサーの結果が実際と異なっていたり、音声認識用のマイクが人の会話を傍受したりしては問題です。

それらの信用性を担保し、個人に安心してifLinkをご活用いただくため、モジュールを認証するサービスも考えています。

また、誰でも気軽にIoTサービスをつくって共有できるように、ifLinkレシピサイトを立ち上げる予定です。これはクックパッドのように、みんながifLinkレシピ(IF-THENルールのセット)を投稿してつくり上げていくサービス。共有されたさまざまなIoTの利用方法をたくさんの人たちが交換し合える場として提供します。

このような認証の仕組みやレシピサイトの立ち上げは、ifLinkオープンコミュニティを通して実現させていきます。

ifLinkは、IoTの民主化を推進し、たくさんのユーザーに利用していただくことで、さまざまな関連サービスやビジネスを生み出していきます。フィジカルとサイバーをつないでデータを活用していく「データ2.0」の時代において、ifLinkは新たな可能性を広げるツールとして、多方面から大きな期待を集めています。

みなさん、ぜひ私たちと一緒に活動しましょう。

集合写真

ifLinkの開発、商品化を推進している東芝デジタルソリューションズ社員
(後列左から)吉本武弘、石塚晃、(前列左から)福田理一、八掛千香子

この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2020年8月現在の情報です。