DiGiTAL T-SOUL
Vol.
34

CPSテクノロジー企業が目指す「データ2.0」の時代 CPSテクノロジー企業が目指す「データ2.0」の時代

島田 太郎 Shimada Taro 東芝デジタルソリューションズ株式会社 取締役 社長
島田 太郎 Shimada Taro 東芝デジタルソリューションズ株式会社 取締役 社長

東芝グループは、世界有数のサイバーフィジカルシステム(CPS)テクノロジー企業を目指し、サイバー(仮想空間)とフィジカル(実世界)の技術を融合させて、社会の発展に貢献できるよう活動しています。東芝グループは、さまざまな産業分野や社会インフラにモノやサービスを提供しています。現在、これらのモノを長期間にわたり動かし続けるインフラサービスを中心に事業を展開しており、今後東芝グループがさらに成長し、社会に新たな価値を提供するために、データサービスを核とした事業を育てることが重要だと考えています。公共性の高いインフラサービスによって自然と集まってきたデータを生かし、みんなが豊かになる世界を目指す東芝グループのデータサービス事業への取り組みについて、ご説明します。

データサービスを東芝グループの中核事業へ

東芝グループは、発電や電力流通、上下水道、鉄道、自動車などさまざまな産業分野や社会インフラに製品やサービスを提供しています。これらの製品やサービスを機能別に見ると、「デバイス・プロダクト」「インフラシステム(構築)」「インフラサービス」そして「データサービス」に分けることができます。この4つの機能(事業)の中で現在、中核を担っているのが、インフラサービス事業です(図1)。

図1 東芝グループの新しい事業セグメント

私たちがこれらの分野に提供している多くの機器やシステムは、保守や運用などのサービス(インフラサービス)を行う期間が非常に長いという特徴があります。

社会インフラでは公共性が重要であり、また、止めてはならない。例えば、災害時や昨今のような新型コロナウイルスの感染が拡大する状況においても、人々が安心で安全な生活を送れるように、安定した電力をくまなく届けなくてはならない。このような公共性や持続性が求められる社会インフラを、東芝グループは支え続けており、このことは私たちにとって誇りです。

人々の生活に欠かせない重要な社会インフラを、何十年にもわたり構築し、長期のライフサイクルをサポートしてきた実績に基づいて、東芝グループがさらなる成長と発展をするために、保守や運用のサービスで生まれてくるデータを、新たなデータサービスにつなげたいと、私たちは考えています。それはデジタル化時代を迎えて、私たちに課せられる使命だとも言えます。

では、東芝グループが考えるデータサービス事業とは何か。それは、フィジカルで発生するデータがスケールフリーネットワーク(後述)で自然に集まるシステムを構築し、そのデータをサイバーで掛け合わせ、社会に新しい価値を提供することです。

現在、世界に大きな影響を与えている企業として知られるGoogleやAmazon、Facebook、Apple、いわゆるGAFA。彼らは、私たちよりはるかに大きな企業価値を持っています。それはなぜか。彼らは「データサービス」という新しい世界を切り開いたからです。

彼らが展開するデータサービスは、サイバーtoサイバーによるデータのプラットフォームによるものです。そこでは、パソコンやスマートフォンから集まるコンシューマーのデータが中心に集められています。しかし、IoTの普及により、今やあらゆるモノから情報が収集できるようになってきました。

ここで大事になるのは、デイリーアクティブユーザーのデータ、つまり毎日多くの人が利用する機器からデータを収集することです。

東芝グループは、前述した分野だけでなく、長年にわたってPOSシステム*やエレベーター、鉄道の改札機など、人々の生活に密接に関わる機器(デバイス)やシステムも、世界中に提供してきました。これらのデバイスから生まれてくるデータを集めて価値に変えるためには、さまざまなテクノロジーが必要となります。

POSシステム:Point Of Sales(販売時点情報管理)システム、買い物の精算や支払いをしてレシートを発行します。

そこで、これまでに培ってきた東芝グループのCPSテクノロジー、例えば、IoT/AIの技術に加えて、強力なエッジデバイスや高度なシステムインテグレーション技術、先進のデータセキュリティ技術などにより、これらのデバイスからデータを収集し、サイバーにあるさまざまなデータと掛け合わせて新たな価値を創造する。この技術力で、東芝グループはフィジカルtoサイバーでデータを活用する「データ2.0」の時代において、企業価値を高めていけると考えています。

*DiGiTAL T-SOUL Vol.34の4つ目の記事で先進のセキュリティ技術をご紹介します。
島田 太郎

先が予測できない「VUCAの時代」に必要なスケールフリーネットワーク

フィジカルとサイバーの技術を連携し、新たな価値を創造するために必要になるのが、データが自然に集まり、それらが絡み合うシステムを作ることです。これは、データ2.0の時代のプラットフォームともいえます。しかし、これまで日本には真のプラットフォーマーになれた企業はありません。なぜなのでしょう。

ラプラスというフランスの数学者は、ある瞬間において超越的な存在(ラプラスの悪魔)がいると、未来を完全に予測できると主張しました。

そこで、1960年代に米国の気象学者ローレンツ氏が、わずか3つの式で1年後の天気を計算してみたのですが、答えがでないことがわかりました。なぜなら、ほんの少し初期値が変わるだけで、答えが大幅に異なってしまったからです。つまり、未来は完全に予測することはできず、不確実であるということです。

これは現代の人間の世界にも当てはまります。何らかのインプットを受け取れば、それまでとは異なる行動をするようになります。例えば、新型コロナウイルスの感染拡大により、人々の行動は大きく変わりました。これは誰にも予想できなかったことです。

現代社会は「VUCA*(ブーカ)の時代」と呼ばれるように、先がまったく予測できない時代なのです。

VUCA:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉

しかし人間は弱く、先が見えないと不安になります。そこで樹形図という思考の枠組みで整理しようとしますが、世の中はカオスであるため、樹形図にないものが次々と生まれてきます。つまり世の中は樹形図で整理できるようにはなっていないのです。

未来を予測できないのに、その未来に向けてプラットフォームをつくる。これを実現するヒントは、インターネットにありました。

インターネットはカオスの世界です。それぞれのWebサイトをリンク数が多い順に並べると、正規分布にはならず、べき乗分布になります。ほんの一握りのWebサイトが膨大なリンクを持ち、大半のWebサイトはごく少数のリンクしか持っていません。しかしリンクをたどると、どこかでほとんどがつながっている。これがスケールフリーネットワークです(図2)。インターネットは、このスケールフリーネットワーク上に広がったことで、普及したのです。

図2 インターネットの世界はスケールフリーネットワーク

そして、さらに重要なことは、このスケールフリーネットワークが新しいモノを生み出す力、イノベーションを起こす力を持っているということです。例えば、「バズる」という現象があります。バズるとは、ほんの些細なつぶやきが、あっという間に自分とはまったく関係のないところまでつながり、話題になることです。

これはパーコレーション現象の一つで、パーコレーション現象とは、臨界点を超えると一気に変化する現象のことです。つまり、スケールフリーネットワークのプラットフォームを作ることができれば、パーコレーション現象を起こし、イノベーションを起こすことにもつながるのです。

このパーコレーション現象を起こせるスケールフリーネットワークをつくれなかったことが、日本企業が真のプラットフォーマーになれなかった原因であったと推測します。

東芝グループは、フィジカルtoサイバーのスケールフリーネットワークによるプラットフォームの構築で、パーコレーション現象を、そしてイノベーションを起こす。このことにより、CPSテクノロジー企業として、データ2.0の時代における、豊かな社会の実現に貢献することができると考えています。

現在、東芝グループでは、このようなプラットフォームの構築に向けて、さまざまな取り組みを行っています。例えば、「ifLink(イフリンク)」と「スマートレシート別ウィンドウで開きます(東芝テック株式会社)」。

ifLinkは、IoT機器やWebサービスをモジュール化したことで、誰もが簡単に機器やサービスを自由に組み合わせて便利な仕組みを実現することができるIoTプラットフォームです。「自分でつくれるIoT」と呼んでいます。

また、スマートレシートは、買い物をしたとき、紙のレシートの代わりにスマートフォンに電子レシートを届けるサービス。POSシステムと連携し、レシートを電子化することで、個人や店舗、さらには地域社会などでも、購買データを有効に活用できるようになります。

いずれも、すでにさまざまな人や企業、団体などに参加いただいています。今後、自然にデータが集まり、スケールフリーネットワークが構築されていくことを期待しています。

*DiGiTAL T-SOUL Vol.34の2つ目の記事でifLinkの活動を、3つ目の記事でスマートレシートの活動をご紹介します。

みんなが豊かになる世界を目指していく

東芝グループの魅力は、エポックメイキングな技術がたくさんあることだと、私は思っています。

例えば、精密医療の技術もその一つです。マイクロRNA検出技術別ウィンドウで開きます(株式会社東芝)は、1滴の血液で13種類の癌を99%の精度で検出できるという、極めて破壊的で先進的な技術です。また世界ナンバーワンともいわれている量子暗号通信(QKD:Quantum Key Distribution)別ウィンドウで開きます(YouTube)技術の領域では、暗号鍵供給サービスが世界で標準的に使われることを目指して事業化を進めています。そのほかタンデム型太陽電池やシミュレーテッド分岐マシン(SBM:Simulated Bifurcation Machine)別ウィンドウで開きます(YouTube)なども、事業化が期待できる技術です。

いずれも、東芝グループが20年以上の長きにわたり、研究開発を積み重ねてきた成果です。これらの素晴らしい技術は、サイバーと連携し、価値の高いサービスとして提供していくことを考えていますのでご期待ください。

「人と、地球の、明日のために。」

東芝グループは、「データ2.0」の時代に向けて、自然にデータが集まるスケールフリーネットワークのプラットフォームを構築し、個人や企業、地域社会といったマルチステークホルダーがデータを活用できる、みんなが豊かになる世界を目指していきたいと考えています。

この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2020年8月現在の情報です。

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