AIによる働き方の革新と生活の快適化を目指す東芝デジタルソリューションズは、昨年末、新たなサービス「RECAIUS ナレッジエディタ」の提供を開始しました。RECAIUS ナレッジエディタは、コンタクトセンターや社内のヘルプデスクにおいて、顧客や社員への応対業務などで活用されるFAQ*の作成や更新を、AIで効率化する革新的なサービスです。コンタクトセンターや社内のヘルプデスクにFAQを用意しておくことで、応対業務の効率と品質の向上につながります。また、FAQを活用することで、顧客や社員は疑問を自己解決でき、コンタクトセンターや社内のヘルプデスクに問い合わせを行う件数が低減されます。ここではFAQの作成や更新のプロセスを大きく変えるRECAIUS ナレッジエディタの画期的な機能を、株式会社LIXIL様での実証事例を交えてご紹介します。
*FAQ:Frequently Asked Questions
FAQのメリットとFAQの作成・更新における課題
商品やサービスに関するよくある質問とその答えをまとめたFAQは、コンタクトセンターやヘルプデスクでの応対の疑問をすぐに解決できるため、企業と顧客の距離を縮め、リピーターや、企業そのもののファンをつくりだす大きな役割を果たすとして、脚光を浴びています。FAQは、事業内容や商品などを紹介するWebサイトにも掲載されるなど、さまざまなシーンで活用されています。最近ではテキストや音声による問い合わせに対して、FAQをもとに自動的に応答するチャットボットを運用する企業も増えてきました。
WebサイトなどにFAQを掲示することで、コンタクトセンターや社内のヘルプデスクへの問い合わせ件数を減らし、また、顧客や社員の疑問が解消するまでの時間を短縮させることができます。顧客や社員への応対にFAQを活用することは、担当者の負担を軽減するとともに、応対時間の短縮や、応対品質の均一化などの効果があります。このようにFAQは、コンタクトセンターや社内のヘルプデスクの担当者の働き方の革新と、顧客や社員の生活の快適化に大きく寄与します。
こうしたメリットから多くの企業がFAQの導入に取り組んでいますが、簡単にFAQを作成できないという悩みや、最新情報の反映が不十分なFAQを使い続けてしまっているという悩みを抱えている企業も多いようです。その大きな要因は、FAQの作成や更新に多くの時間とコストがかかるところにあります。
FAQの作成と更新で肝となるのは、問い合わせの応対時などのやり取りを文章化した情報(応対履歴)をいかに効果的に活用できるかです。FAQの作成と更新では、まず、商品やサービスに対して過去にあった問い合わせやクレームとなった事案などの、膨大な数の応対履歴を整理して類似している内容をまとめ(グループ化)、既存のFAQがある場合は既存のFAQと比較するなどして、FAQとして追加するべき内容を選定し、選定した内容に対してFAQ用の質問文と回答文を編集し、それをカテゴリーで分けます(構造化)。
この一連のプロセスは、通常、文書整理を得意とするデータアナリストが、膨大な応対履歴を分析して行うため、相応のコストと時間がかかります。またFAQが完成した後も、サービスの変更や機能の追加に伴い最新の情報を反映させるため、FAQの定期的なメンテナンスが必要です。既存のFAQを把握した上で新しい情報を整理し、FAQの改善や追加を行っていくことは実に大変な作業であり、「FAQを整備するために3万件のデータを分類したら、2ヶ月かかった」といった声も聞きます。このようにFAQの作成や更新には多くのコストや時間が必要となるため、FAQがタイムリーにメンテナンスできないケースも多々あるのです。
FAQ作成・更新における課題を解決し、応対業務の効率と品質を高めるソリューション
FAQの作成や更新に関する企業の悩みにお応えするため、東芝デジタルソリューションズは2018年12月、東芝コミュニケーションAI「RECAIUS(リカイアス)」の新たなサービスとして「RECAIUS ナレッジエディタ」の提供を開始しました。FAQの作成や更新をAIが支援することで、そのプロセスを効率化するソリューションです。
応対時のやり取りがそのまま自然な文章で記録された応対履歴をRECAIUS ナレッジエディタに取り込むだけで、RECAIUS ナレッジエディタのAIが、質疑応答の特徴を自己学習・分析し、内容が類似した応対履歴をグループ化(質問グループ作成)します。そして、それらの質問グループを応対履歴の数が多い順に表示し、問い合わせが多かった内容をFAQに登録しやすいように支援します。
また、機械学習などを応用した文書分類技術により、高速かつ高い精度で既存のFAQと質問グループの類似度を判定し、この判定に基づいて、類似した既存のFAQの有無をわかりやすく表示します。これによりユーザーは、どの質問グループを新たにFAQとして追加するのかを容易に選択できます。さらに、AIが自動的に抜き出した質問グループの代表的な文章やキーワードを、ユーザーはFAQの質問文や回答文、キーワードの編集に活用できます。
このように、膨大な応対履歴の分析や、質問グループの作成、既存のFAQとの比較、質問グループの代表的な文章とキーワードの抽出といった作業をAIで自動化しました。
その結果、RECAIUS ナレッジエディタは、テキスト解析に関する専門的な知識がなくても、FAQの効率的な作成と更新を強力に支援します。
数万件の応対履歴を、データアナリストが目視で確認し、分析して整理するという従来のやり方では、FAQの作成や更新を行うために通常1〜5ヶ月程度かかるといわれています。RECAIUS ナレッジエディタを活用すれば、FAQの作成や更新の一連のプロセスの中で最も時間と人手がかかる応対履歴のグループ化や既存FAQとの比較、キーワード抽出などの時間を大幅に短縮できます。数万件の応対履歴を用いたテストでは、これらの処理をわずか数分で実行することができました(図1)。
RECAIUS ナレッジエディタを用いて応対履歴からFAQを作成し、作成したFAQを活用して応対業務を行い、その履歴に基づいてFAQを更新する、という活動を繰り返すことで、FAQが充実し、コンタクトセンターや社内のヘルプデスクの効率と品質が向上していきます(図2)。
LIXIL様「お客さま相談センター」での実証実験とその後の機能強化
お客さまがの課題を解決し、現場でより有意義に活用できるソリューションに成長させるため、当社では、RECAIUS ナレッジエディタの実証実験をお客さまとともに進めています。
そのひとつが、株式会社LIXIL様の「お客さま相談センター」への導入です。人々の暮らしを支える先進的な技術と、トイレやお風呂、キッチンなどの水まわり製品、窓やドア、インテリア、エクステリアといった建材製品を開発し、世界に提供されているLIXIL様は、AIによる業務の効率化で、先進的な現場の改善にも積極的に取り組まれています。
LIXIL様は、企業向けおよび消費者向けの膨大な数の製品を世界に長年提供し続けておられるため、日々、顧客からの問い合わせに応対するお客さま相談センターでは、膨大な数の、多岐にわたる種類の問い合わせに対応していく必要があり、応対業務の効率化と応対品質の均一化が非常に重要となります。
応対業務の効率化と応対品質の均一化にはFAQの整備が効果的であることから、LIXIL様は、今回、AIを活用したFAQの整備に取り組まれました。
今回の実証実験では、応対履歴をRECAIUS ナレッジエディタに取り込んだところ、わずか数分で、類似の質問文がグループ化され、代表的な質問文や、キーワード、類似する既存FAQの抽出が完了しました。この結果、効率的にFAQをメンテナンスしていくことが可能となり、FAQを活用して、応対業務の効率化と品質の均一化が期待されています。
ここでの経験を生かし、当社はRECAIUS ナレッジエディタの改善を続けています。例えば、自動で抽出しにくい特殊な用語などのキーワードや同義語を事前登録する機能や、抽出する必要のないキーワードを除外する機能、質問グループをさらに細かいグループに分ける機能など、より現場に寄り添った機能を追加しました。
東芝デジタルソリューションズは、「RECAIUS コンタクトセンタープラス」をはじめとするさまざまなソリューションと、RECAIUS ナレッジエディタを連携させることで、FAQの効率的な作成からオペレーターの応対業務までを一貫して支援するサービスを目指しています。そして、コンタクトセンターや社内のヘルプデスクの業務プロセスの改善と、そこで働く人々の働き方の革新や生活の快適化に貢献していきます。
*「RECAIUS コンタクトセンター」については、#02で詳しくご紹介します。
※この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2019年8月現在のものです。