新たな価値を創造するデータビジネスとは、
データビジネスはシェアリング・エコノミーに繋がるのか?

経営、イベント

2022年3月29日

2022年3月3日と4日の両日、オンラインで開催された「TOSHIBA OPEN SESSIONS Session2」。Day1のスペシャルセッションでは、住信SBIネット銀行株式会社 代表取締役社長 (CEO)の円山法昭氏と、東芝データ株式会社 代表取締役CEOの北川浩昭をパネリストに迎え、「新たな価値を創造するデータビジネス」をテーマに現在のデータ活用の問題点や、来るべきデータ社会の変革を予見させるような心踊るトークが繰り広げられた。モデレーターは、東芝 代表執行役社長CEO 島田太郎が務めた。


データは掛け算で価値を生む! 共通思想でアライアンスを結ぶ

島田:
最初に両社の会社紹介からお願いできますか?

円山:
当社(住信SBIネット銀行)は2007年創業のネット銀行です。現在の預金残高は7兆円を超える業界No.1規模で、年2桁成長を続けています。最近、銀行業務のみならず「BaaS(Banking as a Service)」事業も始めました。銀行のプラットフォームを外部に提供し、自社の商品・サービスと組み合わせて活用していただくサービスです。直近では第一生命様や高島屋様と提携しました。バンキングのインフラを世に広く開放し、あらゆる産業に金融が溶け込む社会を作りたいと考えています。

北川:
東芝データは2020年に設立しました。東芝グループの持つアセットを通じ、データをお預かりして、インフラとして世の中に還流することがミッションです。様々なパートナー様とエコシステムを構築し、プラットフォーマーになれるように努力しています。現在はグループ企業の東芝テックの「スマートレシート」を通じて、オプトインを前提とした人に属した購買データを流通させることを生業にしています。

島田:
住信SBIネット銀行様は、なぜ東芝データと協業しようと考えたのでしょうか?

円山:
BaaS事業の次の展開も視野に入れているからです。我々の銀行では500万人以上の顧客を抱えていますが、例えば日本航空様で3,000万、ヤマダ電機様で6,000万、カルチュア・コンビニエンス・クラブ様で7,000万と、巨大な顧客基盤を持つ企業との提携により、銀行だけでは得られない情報が集まってきます。これらを活用するものとして、データ・プラットフォームビジネスが考えられます。まさに東芝データさんは購買データを持つプラットフォーマーであり、我々が持つ本人確認済みIDやパートナー企業のデータを掛け合わせれば、より質の高いデータとして活用できると感じています。

島田:
東芝も「データは掛け算で価値を生む」と考えており、円山さんと初めて会った時から意気投合しましたね。

住信SBIネット銀行株式会社 代表取締役社長(CEO) 円山 法昭氏


データは誰のもの? プライバシーポリシーの順守は基本中の基本

島田:
ただデータ連携で気になるのは、プライバシーの問題です。日本、欧州、米国も同様ですが、どうすれば本当に個人のためになるデータ社会を作ることができるのでしょうか。プライバシー面での考えをお聞かせください。

円山:
海外プラットフォーマーの一部の企業が、顧客の同意を取らずに個人データを利用している状況があります。それで欧州ではGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)の動きが出ているわけです。我々銀行業は、センシティブな個人情報を多く扱っているため高い感度を持っていると自負していますが、このような動きの中で、個人情報をしっかり守って顧客にサービスを提供するという銀行精神を持ち続ける所存です。公正な形でデータを扱い、必ず顧客の同意を取ったうえでデータを利用していきます。さらに、顧客にメリットを還元する必要があると考えており、お預かりしたデータを利用する場合に対価を返すことも重要だと思っています。なぜかというと、そのデータは企業のものではなく、顧客のものだからです。

島田:
北川さんは、東芝データのプライバシーポリシーについて、どのように考えていますか?

北川:
住信SBIネット銀行様との提携で最初に良いと感じたのは、まさにプライバシーに対する考え方が同じだったことでした。円山さんがおっしゃる通り、個人データは基本的に個人の所有物です。それを預かる際に、当然オプトインで事前にデータ利用について同意を得ることが基本になります。また、データはご自身のものなので、他の場所に移したいと言われれば、そこに安全にお届けする義務もあり、データポータビリティの担保も求められます。
さらに大切だと考えているのは、ご自身のデータが何に使われているかを見られるよう、ダッシュボード機能で可視化することです。プライバシーに関しては、オプトインとデータポータビリティをベースにデータを見える化し、嫌なところに繋がったらご自身で解除できるなど自由に設定できるところまで、一気通貫で対応しなくてはならないと考えています。GDPRを意識し、それ以上のプライバシーの考え方で取り組んでいます。

東芝データ株式会社 代表取締役CEO 北川 浩明


データを適切な広告表示に活用し、ユーザ配当金を出すモデルも

島田:
このような考え方で取り組んでいる企業は、現在どれぐらいあるのでしょうか?

円山:
そこまで意識している企業は少ないでしょう。個人データを企業データとして自由に使う、あるいは個人の許諾がないので何もしないという両極端だと思います。正しいデータの使い方をしている企業は、まだ少ないのではないでしょうか。そこで我々は広告業への参入も表明しており、東芝データさんとも協業していきたいと考えています。
我々が考えているのは、IDベースの広告プラットフォーム事業です。企業主体で広告を配信する仕組みではなく、企業がお客様の情報を安全に預かり、お客様が使って良いデータをオプトインし、使って欲しくないデータをオプトアウトできる、自分のデータを管理できる仕組みを提供します。また、預けたデータを利用することによる収益、つまりデータ配当金をお客様に還元できる仕組みを考えています。

島田:
預けたデータに利息がつくわけですね(笑)。

円山:
そうですね。データを投資するのが嫌だと思えば止めればよく、止めることができるという点が重要になります。そうすれば、お客様が広告を出してもいいところに、受けたいと思う企業の広告のみ届けられる仕組みになります。Cookieで興味がない広告が永遠に出続けるのは不快ですし、広告主にもメリットがありません。商品に興味や関心を持つお客様に広告を届けることが目的なのに、嫌な思いをする人にまで届けてしまうと、結局アンチを増やしてしまいます。

島田:
今の広告は逆効果かもしれませんね。不要な広告が減れば、お客様の満足度を高められます。

円山:
そのためには、やはりお客様をより良く知る必要があります。だからこそ東芝データさんの購買データが必要だと思っていますし、デジタルホールディングスさんなど、同じ思想を持っていただいているいくつかの企業と、この広告分野でパートナーシップを結ばせていただいています。本来の広告は、見せる量ではなく、いかに自社の商品やサービスを購買に結び付けられるかという質、コンバージョンで戦うべきです。今回の仕組みで業界を変えていこうということで、意見が一致しました。

島田:
何やら大変なレボリューションが起きそうですね。北川さんは、この点をどう思われますか?

北川:
非常に興味深い話です。やはり一番のボリュームゾーンはアドテック領域です。我々も、オンラインで不要広告が表示されない努力をする広告事業者やその支援企業に、同意・賛同を得たお客様の購買データを提供して、それによりお客様がいろいろなベネフィットを得ていくことができたらいいなと思っています。

島田:
今の広告は目的と手段が入れ替わっているかもしれません。データプラットフォームも、高級ホテルのように必要なときに必要なものだけが出てくる、安心して使えるサービスになることが重要ですね。

モデレーターを務めた、株式会社 東芝 代表執行役社長CEO 島田 太郎


限界費用ゼロ社会のように、銀行もメーカーも不要な時代が到来する!?

島田:
データの活用によって、次の世界はどのようになると思いますか?

北川:
広告は大きなテーマですが、もう一つのテーマは、売れるものを作る商品開発です。従来の経済では大量に生産し、大量に買ってもらうために広告を打ってきましたが、例えば年代・性別などで決めつけられた大きなお世話な広告が多く、個人の嗜好に合ったものではありませんでした。しかしこういうものは購買データを見れば分かるので、甘い菓子を買ったら「一緒にコーヒーもどうぞ」「もっと甘い飲み物もあります」という個人の好みに合った広告ができるようになります。同様のことが、商品開発でもできるのではないかと考えています。
住信SBIネット銀行さんは、グループ内で金融だけでも多くの事業をされています。我々のサービスではリアルタイムで購買データが分かるため、連携することで、例えば掛け捨て保険や割賦払いなどのニーズを拾い、「マイクロファイナンス」や「マイクロインシュアランス」のような事業も将来的に展開できるかもしれません。

島田:
そのあたりで円山さんは何か構想がありますか?

円山:
自己否定になりますが、実体経済における銀行はシャドーの存在で、本来なくてもよいものではないか、と個人的には感じています。あらゆるデータが繋がり、消費者も企業も正しい情報をベースに、本当に必要なものだけを届けられる社会になれば、広告もファイナンスも最終的に不要になる可能性があると思っています。
我々はサプライチェーンのプラットフォームにも進出しようとしており、いくつかの業界団体と話をしているのですが、それぞれの会社が生産から物流、広告や販売までを一社完結のビジネスモデルになっている業界が多いのです。業界横断的に共通化できる部分を共通化すれば、生産から販売までそれぞれにかかるコストも下がる世の中ができるはずです。
アルビン・トフラーが「第三の波」で提唱したプロシューマー(生産消費者)のように、消費者が生産者でもある世界が訪れると、メーカーの立ち位置も変わるでしょう。生産するための機能さえあれば、メーカーがなくてもよい時代になるかもしれません。
BaaSも同様で、銀行がなくても機能さえあればよいという考えです。企業の生産・物流・販売の活動に銀行機能が取り込まれると、無駄な融資も決済も必要なくなり、今よりコストが下がって、企業の負担も減ると思います。

島田:
ジェレミー・リフキンの「限界費用ゼロ社会」のような感じですね。サプライチェーンで物が足りないと、「First-In First-Out(先入先出)で」と言われるので、そこで多めに注文する人がいます。ノーベル経済学者のアマルティア・センによれば、数百万人が亡くなったベンガル飢饉では、食料が偏在し届くべき場所に届かなかったと。これは情報の非対称性やデータ非共有の問題そのものです。今のお話のように、機能を再定義・分解し、もう1回これを分散化してサービスで提供すれば、あらためて世界が進化すると感じました。

円山:
まさに、そういう話を現在いくつかの業界と議論しています。共同の物流や配送もブロックチェーン技術などを使えば実現できるので、実証実験も始めています。


サプライチェーンでCO2排出量を減らす! 環境に優しいデータプラットフォームへ

島田:
東芝はカーボンニュートラルを目指すエネルギー企業でもあります。消費行動とカーボンニュートラルを結び付ける施策はありますか?

北川:
カーボンニュートラルに向けては、サプライチェーンでのCO2排出量のトレースというテーマがあると思います。購入時に商品の生産から販売までのCO₂排出量を見える化し、購入後のリデュースやリユース・リサイクルまでを含めたトレースも、ブロックチェーン技術などを使うことにより一気通貫で実現できるようになります。
東芝データでは第1弾として、電子レシートで削減した紙の量から、削減したCO₂排出量を可視化し、消費者に環境貢献度の気づきを促す仕掛けをスマートレシートで採用しました。商品の販売までのCO₂排出量データが分かるようになれば、それを提示して啓蒙に繋げようとしています。

スマートレシートの新機能。紙からデジタルになったレシートによるCO2削減量を可視化。

島田:
製造業がいつも問われるのは見える化です。原因が特定できれば、もう7~8割は解いたようなもの。逆に可視化できなければ、消費者もどのような選択をすればよいのか分かりません。先ほどの共同配送の話も、CO₂の最適化と積算量が分かるプラットフォームが完成すれば、多くの税金を投入することなく、はるかに早くCO₂が削減できるでしょう。このままでは地球がもたないので、あらゆることを行う必要があります。だから、住信 SBI ネット銀行さんや東芝データが手掛けるこのデータプラットフォームが地球を救うわけです。

円山:
いいですね(笑)。まさに我々はそれを目指したいと思っています。サプライチェーンと広告で起こるデマンドチェーンを繋いだ、バリューチェーン全体をコントロールするプラットフォームを完成させたいですね。ここに関わるあらゆる企業や消費者にとってメリットがあることなので、このプラットフォームに参加してもらい、プラットフォームどうしを繋ぎ合わせてもらうための活動をしていきたいと思っています。
我々は、様々な企業とパートナーシップを結び、すべての人たちとオープンに付き合い、すべてをシェアすることが正しい方向だと考えます。少しでも格差を縮小し、企業や人々が適正な利潤を得られる公正な社会を作るべきです。

島田:
素晴らしいです。まったく同感です!データを独占するのではなく、皆に渡すことで社会を良くする。だからプラットフォームという言葉はイマイチで、エコシステムのように「信頼の輪」を繋ぐことだと思います。住信SBIネット銀行様や東芝データの取り組みから広がっていく壮大な世界を、ぜひこのセッションを聞いて下さっている皆さんともご一緒に作っていきたいですね。


執筆:井上 猛雄


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  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2022年3月現在のものです。

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