メディアのデジタル化がもたらすサスティナブル社会への変革(前編)

イノベーション、テクノロジー

2021年2月15日

現在、さまざまな領域でデジタル化、デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みが進んでいる。それはメディアにおいても同様だ。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌など従来のマスメディアに加えて、Webやソーシャルメディアが台頭し、動画配信、ライブイベント、AR、VRなど新たなコンテンツ形態、伝達方法が急速に広がっている。
デジタルテクノロジーによりメディアの役割はどう変わっていくのか、メディア学という学問にはどのようなことが求められるのか。目白大学 メディア学部 特任教授 平山秀昭氏に、本ウェブメディア「DiGiTAL CONVENTiON」編集長 福本勲が話を聞いた。

目白大学 メディア学部 特任教授 平山秀昭氏

2018年に新設された目白大学メディア学部

福本:
目白大学はどのような大学でしょうか。またメディア学部が設立された背景について教えてください。

平山:
目白大学は1994年に設立された比較的新しい大学です。単科大学からスタートして徐々に学部を増設し、現在は文系と保健医療・看護系を合わせた8学部で構成されており、東京・新宿と埼玉・岩槻にキャンパスがあります。メディア学部がスタートしたのは2018年4月。元々、社会学部の中にあったメディア表現学科に、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)、ロボット、AI(人工知能)、ゲームなどの新しいテクノロジー要素を加え、現代社会におけるメディアの役割を幅広く学べる場として新設しました。
メディア学は文系から理系までの幅広い領域の学問なのですが、目白大学のメディア学部はその中間的な存在です。従来からのメディアであるテレビ・新聞・雑誌・広告などに加え、ライブイベントや動画配信、AR、VRなどの、近年注目を集めているデジタルテクノロジーを使った新しいメディアについても学べるのが特徴です。

福本:
文系的なことだけではなく、理系的な分野も学べるということですね。どのようなカリキュラムなのでしょうか。

平山:
1年次はメディア学概論、メディア情報概論、メディアリテラシー論、メディアとモラルなど、メディア学の基礎となる理論と歴史を学びます。2年次以降は「メディアと社会・文化分野」「メディアと産業・消費分野」「メディアと表現・技術分野」の3分野から一つを選択して、専門性を高めていきます。この3つの中で最も理系的なのは表現・技術分野で、映像制作やCG、Webデザイン、アプリ開発などを学びます。また、新聞などの従来メディアについて学びたい学生は社会・文化分野を選択します。産業・消費分野ではイベント運営や広告制作、アニメーション制作、サウンド制作などについて学びます。

福本:
平山先生が担当されている授業は情報ネットワーク論やインタフェース論ですが、これはいわゆる情報工学科などで学ぶようなものでしょうか。

平山:
理工学部の情報工学科などで行われる授業とほぼ同じです。インタフェース論は表現・技術分野の必修科目になっており、2年次~3年次に学びます。


「自ら考え、自ら行動する」学生を育てる

福本:
専門分野と並行して社会連携プログラムという学びの時間も用意されていますよね。

平山:
教室の中だけで、調査手法や技術などの専門知識を学んでも、それが社会にどう役に立つかわかりません。そこで、地域の団体や企業などの組織と連携しながら活動し、学びを深めていくプログラムを用意しています。一昨年は「こどもDIY部」という東京新宿の非営利団体(2019年10月に法人化され、現在は株式会社ティンカリングタウンが運営)が企画した「こどものまちをつくろう」という遊びのイベントのお手伝いをしました。このイベントは、子供だけが入れる街で子供たちが会社を作っていろいろな仕事をするというものです。私のゼミのメンバーはプログラミング会社のメンターを務めました。昨年は京都の認定NPO法人の環境市民と連携し、そのPRポスターや動画を作成しました。

福本:
ゼミではどのようなことを教えられているのでしょうか。

平山:
私のゼミのポリシーは「自ら考え、自ら行動する」です。学生に教えているのはデジタルテクノロジーの専門性を高めることと、皆で協力して何かをやりとげることの2つです。ゲームプログラミングに興味のある学生が多いので、Unity(ユニティ・テクノロジーズが開発しているゲーム開発環境)でゲームを作ることにもチャレンジしています。作りながらオブジェクト指向が身につくという利点もあると思っています。

福本:
1年くらい前から新型コロナウイルス感染症が世界的に猛威を振るい、大学もオンライン授業に切り替わりました。授業やゼミの活動も様々な制限を受けたと思うのですが、いかがでしょう。

平山:
講義は春、秋学期ともオンラインで行いました。講義をするという点では、対面でもオンラインでも大きく変わりませんが、学生一人ひとりに向き合った講義はオンラインでは難しいと思います。教室で顔を見ながらやっていると、わかっていなさそうな顔をしている学生がいれば、どこがわらないのか尋ねてその部分を説明したり、なるほどと思っているような顔をしている学生がいれば、さらに深掘りして説明することができます。オンラインでも1対1ならできるかもしれませんが、40人もの学生がいると、気持ちまでつかむのは難しいです。一方ゼミは、春学期はオンラインでしたが、秋学期は状況を見ながらなるべく対面で行いました。ゲームプログラミングをオンラインで教えるのは効率が悪過ぎますし、2年生は秋学期に配属されたばかりで、お互いが知らない同士なのでオンラインで協力するのは難しいと考えたからです。

福本:
確かに、オフラインで会ったことのない人同士が、いきなりオンラインで心打ちとけて協同作業をするというのは、なかなか難しそうですよね。逆にオンラインになったことで、チャットを含めて質問の量が増えたという話も聞きます。

平山:
確かにチャットを使うことで質問が増えているかもしれませんが、私のゼミではチャットではなく、自分で手を挙げて声を発して質問することを重視しています。

福本:
海外では、セッションをするとその場で質問がたくさん出るのに対し、日本だと、その場では手を挙げて質問をせず、終わった後に個別に聞きに来る人が多いですよね。1対nのコミュニケーションが苦手な気がします。

平山:
どちらもできないといけないと思います。だから講義の中で質問の時間を設け、手を挙げて質問してもらうようにしています。

「DiGiTAL CONVENTiON」編集長 福本勲

メディアはデジタルテクノロジーの発展でどう変わるのか

福本:
新型コロナの感染拡大により、ビジネスの世界では、非接触で時空を越えたワークスタイルへのシフトが急速に進んでいます。製造業では、高度熟練技能者が地方や海外の現場に直接指導に行けなくなる中、リモートによる指導で生産品質を維持したり、製造装置のメンテナンスをリモートで行うニーズが増加しており、デジタルテクノロジーを活用する気運が急速に高まっています。メディアはデジタルテクノロジーの発展によってどう変わっていくと思われますか。

平山:
昨今、「AIに仕事を奪われる」ということが話題になったりしましたが、AIがAIでもできる仕事を受け持つことで、人間はより創造的な人間にしかできない仕事に多くの時間を振り向けられるようになるのです。メディアの領域でも、AIの活用が進んでいます。「AIの技術が進展しています。今やこんなことができるようになりました。5年後にはこんなこともできるようになるでしょう」といった報道は、AIを搭載したロボットメディアがやればいいと思います。人間はAIにはできないことをやる。社会が正しい方向に向かうべく考えられるよう、情報を正しく伝え共有できるようにする仕事をしていく。例えば、環境問題がなかなか解決の方向に進まないのも、多くの人の意識がそこに向いてはいるものの、まだまだ現状を十分に理解しきれていないからだと思うのです。アジアやアフリカが抱える環境問題の現状を、5GやAR、VRといったデジタルテクノロジーを使って皆で共有し、議論し、伝えていけば人々の意識はもっと高まると思います。メディアでも、AIができることはAIが行い、人間は社会が正しい方向に向かうように力を使っていくというように変わっていくと思います。

福本:
製造業でも属人性の高い仕事はたくさんあります。生産年齢人口が減少していくこれからの時代には、それらを見える化・形式知化して知識化することが重要になると思います。見える化・形式知化によって、デジタルに継承できるのか、人間にしかできないのかがわかるようになると思います。最近では、AIが絵を描いたりする事例もでてきています。学習をするとそれなりに人間が行ったものと同じようなものができてくる。ただ、ゼロから何かを考えるようなことはなかなか難しいということなのでしょうね。

平山:
芸術の分野でもAIが使えますが、ただAIができるのは、今までと同じようなことです。例えば、初期のビートルズの音楽で学習させれば、その頃のビートルズと同じような歌を作れるかもしれませんが、ジョン・レノンの「Come together」のような曲は生まれないのではないでしょうか。

後編はこちら


平山 秀昭 氏
目白大学 メディア学部メディア学科 特任教授

2001年3月、電気通信大学大学院情報システム学研究科情報ネットワーク学専攻博士後期課程修了、博士(工学)

2011年10月、東芝ソリューション株式会社生産技術センター長、2015年6月、東芝ソリューション販売株式会社取締役技術統括責任者を経て、2018年4月より現職

情報処理学会、電子情報通信学会、ヒューマンインタフェース学会会員


執筆:中村 仁美
撮影:鎌田 健志

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2021年2月現在のものです。

おすすめ記事はこちら

「DiGiTAL CONVENTiON(デジタル コンベンション)」は、共にデジタル時代に向かっていくためのヒト、モノ、情報、知識が集まる「場」を提供していきます。