人を幸せにする未来を描き、デジタルで実現する

システムエンジニア(SE)として、鉄道会社向けのシステム開発に取り組む沼尾幹房。ICTで社会に貢献したい想いを胸に、ダイヤ通りに運行することが当然という鉄道業界を支援する業務に、日々取り組んでいる。大規模なシステム開発では、SEとしてのスキルはもちろんのこと、社内外とのきめ細かな調整や進行管理などで、マネジメント力と持ち前のコミュニケーション力を発揮。そんな沼尾にとっての“デジタル”について語ってもらった。


安全で正確という世の中の「当たり前」を支える


私は主に、鉄道会社向けのシステムの開発やメンテナンスを行っています。これまでSEとして、複数のシステムの設計や構築に携わってきました。

現在は、鉄道会社における乗務員の勤務の計画と実績を管理し、乗務員が携帯するための時刻表を出力するシステムの開発を担当しています。列車は、早朝から深夜まで毎日走っています。ダイヤ通りの安全な鉄道の運行と乗務員の健康維持を両立させるためには、乗務員の勤務シフトが重要になります。乗務員には、定められた勤務時間の厳守と適切な休養時間の取得が欠かせません。そのため、列車の運行ダイヤと乗務員の勤務時間や休養時間を考慮しながら、誰が、どこからどこまで、どのルートで、どの列車に乗るのかを、日単位で割り当てます。この各乗務員の日々のスケジュールを、多くの組み合わせから作成するシステム開発を担っています。

鉄道会社ごとに多少の違いはありますが、鉄道の運行に必要となるシステムの構成要素はある程度決まっているため、現行のシステムを大きく変更したり、新規に開発したりすることは多くありません。そこで、システムの改修をする場合などは、鉄道会社にとって「当たり前」や「暗黙の了解」となっている、運用上の重要なポイントなどを事前に把握しておくことが大切になります。そのことを心得ずに、開発を進めてしまうと、お客さまが想定した動作と実際の動作にギャップが生じたり、システムの品質に影響を及ぼしたりする可能性があるからです。まずは、お客さまにとって常識となっていることを引き出すこと、そして小さなことでも、わからないことや理解が不十分だと感じる点があれば、躊躇(ちゅうちょ)せずに質問を重ね、深堀りするようにしています。理解を深めた上でシステムを開発し、お客さまの期待に応えられるように努めています。

また、大規模なシステム開発には、社内外から多くの協力者が関わります。その中には、鉄道業界になじみの薄いメンバーもいます。このようなメンバーに対する説明では、鉄道業界で固有の業務や用語などを正しく理解してもらえるように、常に意識しています。鉄道に関する相手の精通度合いに合わせて、かみ砕きすぎたり説明不足になったりしないように、言葉を選んだり表現を工夫したりしながら柔軟に説明できるように心がけています。ただ、よりよい方法を考えるあまり、ついつい時間をかけてしまうこともあるので、そこは改善したい点です。

鉄道業界に向けた仕事には、社会インフラゆえの苦労も多いのですが、それだけにやりがいのある仕事だと思っています。日本の鉄道は、常に安全で正確に走っていることが当たり前で、その運行を支えるシステムは、通勤や旅行などで鉄道を利用している人たちからは意識されることがあまりないかもしれません。もちろんそれは、システムが安定して運用されていることの表れでもあるため、開発者としてとてもうれしいことです。しかし電車に乗ったときの私にとっては、自分が携わったシステムが、まさにいましっかりと動いて世の中に役立っているのだと、喜びと醍醐味を感じる瞬間です。


デジタルは手段であり、人の幸せが目的


私が高校生のころに普及しはじめたスマートフォンは、いつの間にか周りのほとんどの人が使うようになっていました。いまでは、誰にとっても手放せないツールのひとつではないでしょうか。このようなデジタルを生かしたツールが登場する前、私たちはその環境を当たり前として日々を過ごしていましたが、それがひとたび現れ、価値がわかると瞬く間に広まり、生活の一部として浸透しました。気が付くと、デジタルの無い生活について想像することさえしなくなりました。このようにデジタルには、人々の意識や日常を一気に変える大きな力があると思います。

今後は、デジタルがデジタルを生む形で、デジタル技術の進化が加速していくと考えています。最近目にする、AIを活用したチャットボットツールのような先進の技術を見ていると、デジタルには限界がないように感じます。ただし、世の中に新しく登場した技術やツールは、それらの開発に携わった人たちの情熱・信念・哲学があってこそ作り出せたものだとも思います。私も、自分にとって、そして社会にとって「こんなことができるといいな」と思える未来を描くこと、そしてそれを実現することを目的として、デジタル技術を有効に活用する姿を理想としています。だからこそ、たとえ便利な技術やツールだとしても、社会的な課題を抱えている場合には慎重な姿勢を持ち、適切に取捨選択ができる、デジタルとうまく付き合える人でありたいです。

この先の10年は「デジタルが人々を圧倒する、あるいは翻弄する可能性があるのではないか」と考えています。世の中に便利なものがどれほど増えても、人が一日に使える時間は限られています。そのため、人それぞれが持つ時間をいかに多く使ってもらうか、すでに多くのデジタルツールによる競い合いが始まっています。このような状況では、デジタルが「手段」ではなく、「目的」になってしまう恐れがあります。本来は、世の中を便利にするはずのデジタル技術です。だから私は、あくまでもデジタルが持つ可能性の一つとして、よいところも悪いところも心に留めています。どのようにデジタルと共存すればよいのかを考え、その思いをシステムに落とし込めるエンジニアでありたいですし、デジタルは手段であること、そして目的は人を幸せにすることを常に意識した行動をとっていきたいです。

そのためにも、まずは自分自身の業務に目を向け、製品やサービスを利用する方々が真に求めているものが何かを、普段の何気ない会話や行動、実際にシステムを使われている様子の観察などを通じて見いだしていきたいです。また、これからはカーボンニュートラルなどの社会課題についても知識を深めたいと考えています。世の中のトレンドを追いつつ、どのような社会であってほしいのか、そこではデジタルをどう生かせるのか、エンジニアとしてできることは何か、といった視点を持ち、実現に向けてお客さまと共創していけるエンジニアになれるように、これからも研鑽(けんさん)に励んでいきます。

大切なことば/好きなデジタルツール

人類は、未知を恐れずに変化し続けることで、新しい未来を切り開いてきました。居心地のよい空間から抜け出すことは、容易ではありません。しかし私の経験上、勇気を出していつもと少しでも異なる行動をしたときに、「やってよかった」と感じることが多くあります。
“To improve is to change; to be perfect is to change often.”(進歩することは変化することであり、完璧であることは頻繁に変化することである)という言葉を胸に、「こうすると、どうなる?」と、少しの変化を加えながら、日々改善を続けることで、よりよい未来に向かって進んでいきたいです。

また最近、英会話を学ぶために、AIを搭載した発音トレーニングアプリを活用しています。即時に発音のフィードバックが返ってくるうえ、かなり正確です。採点してスコアを出してくれるためモチベーションアップにもつながり、楽しく続けられています。発音を分析し、自分用にカスタマイズされたトレーニングメニューが提供されるところも気に入っています。

沼尾 幹房

東芝デジタルソリューションズ株式会社
デジタルエンジニアリングセンター
交通ソリューション部 交通ソリューション第一担当


入社して以来、鉄道システムのSEとして活躍。複雑な鉄道の運行に合わせた乗務員のスケジュール管理システムの改修や、乗客に運行情報を提供するスマートフォンアプリの開発などに携わる。社内外から多くの関係者が参画する大規模なプロジェクトの中で、日々、積極的なコミュニケーションを図っている。

執筆:井上 猛雄

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