デジタルで豊かな社会の実現を目指す東芝デジタルソリューションズグループの
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近年、注目を集めているビットコインやイーサリアム。これらはブロックチェーンを基盤技術に活用したサービスです。ブロックチェーン技術によって、仮想通貨やICO(Initial Coin Offering)、NFT(Non-Fungible Token)などの新しいトレンドが次々と生み出されています。一方でブロックチェーンは、従来の基盤技術の仕組みと考え方が異なり、多くの人にとってなじみの薄いものです。ここでは、そんなブロックチェーンの仕組みや技術、ビジネスへの適用について、連載でご紹介してきました。
連載の第1回では、一般的なブロックチェーンの技術を中心に、また第2回では、東芝デジタルソリューションズが開発したプライベート型のブロックチェーン「DNCWARE Blockchain+」の特徴を説明しました。そして連載最後の第3回では、ビジネス領域におけるブロックチェーンの適用についてご説明します。


仮想通貨の基盤技術がビジネス領域で使われるようになるまで


ブロックチェーンの技術は、その誕生からビジネス領域に適用されるまでに大きく進化してきました。

ブロックチェーンは、ビットコインという仮想通貨(暗号資産)の基盤技術として誕生しました。ブロックのハッシュ・チェーン構造とコンセンサスアルゴリズムにより、トランザクション(取引の記録)の耐改ざん性が高いという特徴を備えています。

このブロックチェーンを、仮想通貨以外の用途でも使えるようにしたのが「スマートコントラクト(契約の自動化)」機能で、これによりブロックチェーンをビジネスに活用しようとする動きが広まりました。さらにブロックチェーンの基盤技術にも変化があり、プライベート型と呼ばれるタイプのブロックチェーンが生まれました。

スマートコントラクトは、トランザクションを処理する際に呼び出されて処理の具体的な動作を決定する、ブロックチェーンに記録されたプログラムです。アプリケーション開発者が目的に応じて定義することで、仮想通貨以外のさまざまな用途の処理や契約実行が可能になります。スマートコントラクトは、ブロックチェーンの優れた特徴のひとつです。

またプライベート型のブロックチェーンは、特定の管理者あるいはコンソーシアムによって運用されるブロックチェーンで、参加者間でやり取りした情報の開示範囲を設定することができます。使用料を仮想通貨でやり取りせずに済むこともビジネスで使いやすい面であり、金融以外のさまざまなビジネス領域で、すでに使われています。

東芝デジタルソリューションズが開発した「DNCWARE Blockchain+(以下、BC+)」は、プライベート型ブロックチェーンです。アプリケーション開発の容易性や柔軟なアクセス制御、高い信頼性と可用性、耐改ざん性などの特徴を持っています(第2回を参照)。特に、アプリケーション開発の容易性が評価され、企業や自治体のプロジェクトで利用が進んでいます。


「DNCWARE Blockchain+」を活用した取り組み事例


当社は、行政や社会インフラなどの分野で、プライベート型のブロックチェーンの特徴が生かせると考えています。現在、BC+を活用し、進めている3つのデジタルトランスフォーメーション(DX)事例をもとに、プライベート型ブロックチェーンがビジネス領域でどのように適用されているのかを紹介します。

① 自治体DX:契約事務の電子化への活用

総務省が推進する「自治体DX推進計画」では、デジタル技術の活用による業務の効率化が謳(うた)われていますが、これまで契約事務は、書面による押印手続きとなっており、効率化が難しい分野でした。2021年1月に地方自治体法施行規則が改正され、電子署名法に基づく電子署名による電子契約が可能となったことから、契約手続きをデジタル化する取り組みが進んでいます。当社は、BC+を活用した電子契約サービスを提案し、現在、自治体と共に調達業務(業者登録から入札、契約、遂行、納品に至る全般業務)における契約事務の実証実験を行っています。

この電子契約サービスは、当事者型の電子契約で、契約書(電子ファイル)のハッシュ値に対して電子署名したものをブロックチェーンに記録することで、締結後に契約内容を書き換えられると検知できる仕組みになっています。契約書自体はこれまで通り、契約管理DBで管理しながら、「いつ」「誰が」など当事者が契約した事実と、それが改ざんされていないことをブロックチェーンの技術で担保します。多くの電子契約システムが採用しているPDF署名(PDFで作られた契約書の文書部分のハッシュ値に電子署名したものを、PDF後半に追記する仕組み)とは異なり、契約書に付随する各種届出や図面、図書などPDF以外の書類も契約書にひも付けてブロックチェーンで管理でき、それらの書類の脱ハンコやペーパーレスの実現にもなります。なお、ブロックチェーンを使ったこの電子契約サービスが、電子署名法に定められている「電子署名」の要件を満たしていることは、経済産業省のグレーゾーン解消制度に照会して確認できています。(実際の照会書(411KB)回答書(212KB)

※グレーゾーン解消制度:現行の規制の適用範囲が不明確な場合でも、事業者が安心して新事業活動を行えるように、具体的な事業計画に即してあらかじめ規制適用の有無を確認できる制度。

今回の実証実験では、電子契約に必要な本人認証に、既存の電子入札資格登録情報が使用できることなど、BC+をベースとした電子契約サービスが既存の調達業務の他のシステムと連携する形で導入できることを検証していきます。これによって、電子契約サービスを導入することで自治体のブロックチェーン基盤が整備できることになり、今後の自治体DXの推進に大きく貢献できると考えています。

例えば、本人確認が必要な申請届け出のデジタル化が考えられますし、民間と自治体の間における契約行為の透明性を高めることができるので、情報開示請求への対応業務の効率化なども考えられます。スマートコントラクトによって、契約締結をトリガーにした業務の自動処理が自治体内のみならず民間企業との間でも実現可能です。BC+を基盤に据えることで、地域の住民をはじめ、企業や近隣の自治体など、社会全体のデジタル化やスマート化を加速することが期待できます(図1)。

② 相続DX:本人性の確認への活用

終活や相続でも、ブロックチェーンの活用が期待されます。

相続では、相続財産や相続税の対象となる資産を明確にする必要があります。例えば、遺族はこれまで、金融機関が発行する紙の通帳を手掛かりに、故人の預貯金を調査していました。しかし最近では、電子化された通帳(デジタル通帳)や、インターネット上で預貯金を管理するインターネットバンキングを利用する人も増え、遺族が預貯金の有無を把握することが難しくなっています。また、相続財産の対象以外にも、大切な思い出の品であるデジタル写真などにアクセスできず、放置されてしまうものも少なくありません。このため、生前に自らが、相続財産や遺品を財産目録にまとめ、それらをどうして欲しいのかを明確にしておくことが大切になっています。

これを気軽に行えるように支援するデジタルサービスが誕生しています。その一つが、SAMURAI Security株式会社が提供するオンライン相続支援サービス「サラス」です。このサービスでは、財産目録を作成し、その財産を対象とした家族信託契約を締結することができます。当事者型の電子契約を可能とする認証局の仕組み「KAMS」がBC+上に構築されており、作成・登録した電子実印の不正使用を防止する仕組みがブロックチェーンの分散認証の技術を使って実現されています。また、本人認証の履歴や契約書はブロックチェーンに記録され、改ざんが困難な仕組みになっています(図2)。

今後、自筆証書遺言制度のデジタル化の議論が進んで法整備されれば、オンラインで完結できる遺言書作成サービスへの適用の可能性があります。

※参考:内閣府 規制改革実施計画(令和4年6月7日 閣議決定)(1.55MB)P66

また、ブロックチェーンで担保されたデータは、例えば、不動産の契約手続きや、ローンの審査手続きなどにも応用が期待されます。

 

③ 物流DX:モノのトレースへの活用

商品などのモノの追跡を行うトレーサビリティーでも活用されています。

関係者間の取引記録を相互に確認し合えて、改ざんされにくいという特徴を持つブロックチェーンの代表的な事例として、トレーサビリティーでの活用はよくあげられます。

ここで紹介するのは、ZEROBILLBANK JAPAN株式会社が提供する物流サプライチェーン管理サービス「Trace Ledger」です。このサービスは、BC+を活用した基盤で稼働し、すでに複数の実証実験を行っています(図3)。

トレーサビリティーにはブロックチェーンをどのように活用すれば効果が期待できるのか。物流分野では、各事業者が管理するERP(統合業務システム)やWMS(倉庫管理システム)のデータをもとに取引が行われているため、他の事業者との間の情報連携には、時間を要したり、紙の帳票のやり取りによる手間が発生したりしています。

そこでZEROBILLBANK JAPAN株式会社は、商品を「いつ」「どこで」「誰が」「どのように」扱ったのかをQRコードを用いてブロックチェーンで記録するサービスを開発しました。これにより、トレーサビリティーの透明性が高まることに加え、検品書と納品書のペーパーレス化や、販売証明としての活用、さらには二次流通において本物であることの表章を管理する真贋(しんがん)管理も可能となります。今後は、モノの紛失が関わる物流保険の証明などへの適用も考えられています。


価値を形にして流通させることができる、NFTの可能性


ビジネスへの適用という観点でブロックチェーンにできることとして、①「記録が改ざん困難な形で保持され続けること」、②「契約行動を自動化できること(スマートコントラクト)」、そして③「価値を形にして流通させることができること」の3つがあります。このうち①と②の例については、前述したBC+を活用した事例で紹介しました。ここでは、③の「価値を形にして流通させることができる」こと、すなわちトークンについて紹介します。

トークンとは、価値を表章するもの(何らかの価値あるものの代わりの印、証票)を意味する言葉です。身近な例をあげると、図書券や引換券、ポイント、割り引きを受けられる会員券などです。暗号資産やブロックチェーンの文脈では、ブロックチェーンの技術を用いて発行された電子的な証票を「トークン」と呼んでいます(仮想通貨をトークンに分類することもありますが、ここでは、それ以外とします)。

トークンは、特定のコミュニティー内での流通に向いており、地域通貨として、あるいはファントークン(スポーツチームなどが発行するトークン)として利用する例が多く見られます。

また、最近よく耳にする「NFT」も、トークンの一種です。NFT(Non-Fungible Token)は、簡単にコピーや改ざんをされる可能性があるデジタルデータに対して、一点ものの価値を表現するトークンです。トークンに、唯一無二であることを示すための個別の識別サイン(トークンID)を埋め込んでコンテンツと結びつけることで、そのコンテンツを個別に識別できるとともに、資産的な価値のあるモノとして交換できるようになります。アートや音楽、ゲームなどの分野でよく話題になり、また最近では、不動産取引への適用や、作品の相場や真贋を判定する「鑑定士」のようなサービスも登場するなど、新しいビジネスが生まれる可能性を秘めています。

ただし、NFTには課題もあります。第一に、トークンは誰にでも発行できるが故に、玉石混淆(ぎょくせきこんこう)の状態になりやすいことです。そして第二に、NFTの多くはイーサリアム上で発行されており、その急激な需要の高まりからイーサリアムの手数料(「ガス代」といわれます)が高騰していることです。

当社では、NFTの特性を生かしたビジネスを推進させるため、プライベート型ブロックチェーンでどのようなアプローチができるのか、研究開発を進めています。


進化するブロックチェーンの活用で業務のDXを加速する


ブロックチェーンは、その誕生経緯から仮想通貨と同義で捉えられているところがありますが、この技術には、仮想通貨以外の用途で社会をよりよく変えられる可能性があると感じています。当社は、脱炭素社会や循環経済、分散型社会といった新しい社会の実現にブロックチェーンは有用な技術だと考え、企業や自治体での使いやすさを目指してプライベート型のブロックチェーンを開発しました。初めてブロックチェーンを使用するアプリケーション開発者でも容易にアプリケーションが開発できることを重視しつつ、高度なことができる機能の提供にもこだわっています。例えば、データは全員に開示することも、指定したユーザーやグループにのみ開示することもできますし、開示する部分を指定することもできます。

ブロックチェーンは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を進めたい業務など、新しい仕組み作りへの適用がおすすめです。

その中でも、事例で紹介したような、契約や何らかの証明書を、複数の企業や関係者の間でかつ書面でやり取りしているような業務は、ブロックチェーンの適用が有用な分野だといえます。ブロックチェーンを使うことで、デジタル化した書面を、容易に、安全にやり取りできるようになるからです。これらの書面がデジタル化されてこなかった背景には、デジタルではコピーや改ざんが容易であることや、それをやり取りするシステム構築のコストの問題があったと考えられます。ブロックチェーンはこれらを解決できる技術なのです。

ブロックチェーンを書面のデジタル化ツールとしてではなく、データ基盤として捉えれば、トレーサビリティーにも活用でき、取引の過程で万が一問題が発生した場合には、速やかに原因の調査や対処ができるようになります。監査や情報公開のあり方も変えられる可能性があります。このように、ブロックチェーンは、企業のDX推進に役立つものと考えています。

ブロックチェーンは、世の中の仕組みを変える技術だといわれています。Web3やNFT、DAO(分散型自律組織)など、ブロックチェーンを核とする新たな概念の多さは、ブロックチェーンの可能性の大きさを表しています。ブロックチェーンは進化を続け、その用途は拡大し続けています。ブロックチェーンは大注目の技術なのです。当社のBC+は、できるだけ簡単に利用できるように設計していますので、みなさまのDXを加速するために気軽に活用いただければと思います。今後も当社はブロックチェーン技術で、社会への貢献を目指します。

大川 朋子(OKAWA Tomoko)

東芝デジタルソリューションズ株式会社
ICTソリューション事業部 新規事業開発部 主任


東芝に入社後、UNIXコンピューターやRDBMS(リレーショナルデータベース管理システム)など、ITインフラ層の商品企画業務に従事。主に、プロダクトマーケティングやベンダーとの折衝、システムのオープン化やクラウド化の提案推進を担当。2021年から、ブロックチェーンの商品企画の業務に取り組んでいる。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2022年10月現在のものです。

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