技術者の素顔

技術者の素顔技術者の思いをご紹介

私の学位取得体験記 今一度、研究者のスタートラインへ 児山 裕史 専攻:電気電子工学

かつて博士の道を見送ったことがありました。社会人博士は私にとって忘れ物を取りに行くようなものだったように感じます。

私は入社以来、パワーエレクトロニクスの研究開発に従事しています。子供の頃から考える事が好きだったので、大学に入った時は博士課程まで進んで研究職に就くことが当然のように考えていました。しかし大学院に入ると、早く社会に関わりたいという思いが強くなり、修士卒で就職しました。それから学位のこともすっかり忘れ去っていたのですが、入社後8年ほど経ち、様々な製品分野や人に触れるうち、技術の世界の広さ・奥深さを改めて知りました。その中で出会った社内外の博士の方々は、この先も研究職の道を進もうとする自分にあるべき1つの姿を示してくれたように思います。同じ部署に社会人博士課程に通う人達が常にいて実際のイメージができたことや、頻繁に学会発表するようになっていたことも後押し、かつては見送った博士の道に今一度進むことにしました。

博士へ行く意思を当時の上司や関連部署、そして家族に伝えると、どこも二つ返事で快諾されました。所属が研究部門なので、学位の取得は基本的に推奨されます。会社では普段から自身の裁量が大きかったので、仕事と博士課程の時間の取り合いは特に苦労しませんでした。元々そのような職場だったからこそ、社会人博士に行こうと決断できたのだと思います。

社会人博士にあたり、当然ながら研究室の選択は重要です。私の場合、修士時代の恩師は退職されていたので、当時の先輩が現在指導されている研究室にお世話になりました。研究室に行くのは月に1回程度で、他はメールでのやり取りでした。先生はよく知っていて気軽に話せる方に越したことはありません。その先輩が話しやすくとても面倒見の良い方ということは学生時代から知っていたので、その点は終始安心でした。研究テーマは、直近の会社でのテーマの延長線上のものを先生と相談して決めました。

幸いなことに3年間の博士課程は楽しく有意義に過ごせました。論文を書くのにプライベートの時間も使いましたが、学位のためと思うとモチベーション高く楽しんで取組めました。先生には研究の着眼点や論文の書き方など、細かく御指導頂きました。特にアカデミックな視点・論点は企業ではなかなか意識する機会がないのでとても勉強になりました。研究室にはたまにしか行かないのに、学生さん達にもとてもよくして頂きました。学会で国内外の色々な所に行ったり、国際学会の時に現地の大学を見学させて頂いたりしたのも良い思い出です。

社会人博士の間、海外も色々な所に行きました
社会人博士の間、海外も色々な所に行きました

社会人博士に行く直前から英語も勉強しました。特に、英会話と論文英語です。会社の補助もあったので、英会話に通い対話力を磨きました。英語が話せると世界が広がりますし、海外での自身の安全も高まります。また、博士たるもの成果を世界に発信して然りでありますから、やはり英語は重要です。

予定通り3年間で学位を取得した時、研究者としてようやくスタートラインに立ったように感じました。取らなければ、きっと一生頭に引っかかったままだったと思います。忘れ物は取りに行くなら早いに越したことはありません。しかし学位はただの肩書であり、技術・知識・経験を今後も社会に活かしていくことが大切です。そして、自分がかつて見た博士の先輩方達のように、周囲に良い影響を与えられる存在になれるよう、今後も励んで参ります。

「技術者の素顔」のトップへ