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電力系統向けパワエレ技術 高品質で高効率な電力系統を目指して 新井 卓郎 専攻:電気電子工学

電力系統向け数十万V・数十万kW級変換器(インバータ)の開発

世界的な人口増加の中、持続可能な社会の実現のためには、限られたエネルギーの有効活用が必要です。電力エネルギーの省エネ化はもっとも重要な課題のひとつで、電力を「つかう」と「つくる」だけでなく、「おくる」も含めた電力系統全体の品質や効率の向上が求められています。

私は、パワーエレクトロニクス(パワエレ)を専門にしており、高品質で高効率な電力系統を実現する電力変換器(インバータ)の研究開発をしています。このような電力変換器は、長距離を高効率に送電できる高圧直流送電(HVDC)や電力貯蔵ができる可変速揚水機向け変換器、送電電圧を一定に保つ無効電力補償装置(STATCOM)などに使われています。これらの変換器は電力系統に使われるため、開発における一番の難しさは、数十万V・数十万kWもの超高電圧・超大容量であることです。高さ10m以上の変換装置をマイクロ秒の遅延を管理しながら、高効率化や小型化を目指しています。実際の研究開発では、それぞれの応用先に適するように、新しい変換回路や制御法を研究します。解析で理論の正しさを確認したり、実際の装置を模擬したミニモデルを自ら設計し、検証することも行います。また、応用先の装置はとても大型ですが、一つ一つ分解すると、複数の要素回路から構成されていますので、実装置と同じ定格の要素回路を試作して実験することもあります。

私は、学生時代もパワエレの研究をしていました。私自身は、小容量向けの変換器を対象に研究していたので、若干技術分野が異なりましたが、隣の席の同級生はまさに大容量の変換器を研究していました。パワエレの基礎的な技術を習得していたことと同級生と何気なくしていた日頃の雑談や発表を聞いていたことで、スムーズに現在の仕事に入れたと思っています。

インバータの実験風景
インバータの実験風景

入社1年目のときから7年間にも及ぶ、HVDCの大型プロジェクトに携わりました。先輩方が研究していた変換器を実際の装置に適用するプロジェクトでしたが、設計を進めていく段階で様々な課題が出てきました。一つ一つの課題を設計者や技術営業の方と、ときにはお客様と一緒に議論し、開発を行いながらプロジェクトを完遂することができました。泥臭いことも多いですが、実用化に向けた研究ができるのはメーカ研究者の醍醐味です。

入社6年目の時には、育児休暇を取り、8年目からは社会人博士課程へ進学しています。このように、研究部門は比較的自由な雰囲気で仕事ができます。リフレッシュした頭で物事を俯瞰的にとらえ、誰もが見過ごしている課題や解決策を提示することで、社内外へ貢献していきたいと思います。

(2019年8月執筆)

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