活動事例

開発秘話

当社開発の製品や技術について、そのきっかけや開発過程のエピソードなどを紹介します。

「透過率センサーレス紫外線調光制御システムの開発」
-無駄なく確実な紫外線照射を可能にする調光制御の開発-

はじめに

1980年代前半頃から英国や米国で塩素剤に対して耐性のあるクリプトスポリジウムやジアルジアなどの病原虫による集団感染事例が報告されるようになり、わが国でも1996年に埼玉県越生町の水道水による集団感染が発生し、その後、複数の水源で検出されています。

この、クリプトスポリジウム、ジアルジアに対しては、紫外線による消毒が有効であり、我が国では、2007 年4 月に「水道水におけるクリプトスポリジウム等対策指針」が通知され、地表水以外の水源を原水とする施設において紫外線照射装置の導入が認められ導入が進んでいます。紫外線照射装置は、ランプを常時点灯する必要があるため、消費電力の削減が大きな課題であり、被処理水の質・量に応じてランプの消費電力を制御する調光制御が求められていました。

紫外線で水を消毒

塩素剤などによる微生物の不活化の機構は、細胞膜の損壊による細胞成分の漏出、生体反応に関わる酵素の失活であるとされるのに対して、紫外線照射による不活化は核酸(DNA(デオキシリボ核酸)もしくはRNA(リボ核酸))の損傷によるものとされています。

特に病原性原虫であるクリプトスポリジウムは、塩素剤に耐性があり不活化が困難な一方で、他の病原菌やウイルスと比較して紫外線に対して非常に低い抵抗性を示すため、紫外線照射が有効に作用します。

省エネを実現する調光制御

紫外線照射量は紫外線強度と照射時間の積で表されます。流速が速くなれば処理水が照射槽内に滞留する時間(照射時間)が短くなり紫外線照射量は減少します。また、紫外線照射量は、処理水の紫外線透過率(以降、UVT(Ultra-Violet Transmittance)と称する)と光源の強度の積になります。そこで紫外線照射装置はその浄水場の最大流量および最低UVTの時でも必要照射量が得られるように光源を設定する必要がありますが、流量が少なく流速が遅い場合には光源の紫外線強度を調光制御により低減させることで消費電力削減が可能となります(図1)。また、同様に高UVTのときも紫外線強度を調光制御により低減させることで消費電力削減効果が大きくなります(図2)。このように紫外線調光制御は課題であった消費電力の削減に有効な手段です。

図1 流量変動に対する調光制御の効果,図2 UVT変動に対する調光制御の効果

  • 図1 流量変動に対する調光制御の効果
  • 図2 UVT変動に対する調光制御の効果

調光制御における透過率センサーレス化

当社は,浄水用紫外線照射装置としてTOSAQLEARTMシリーズ4機種について,JWRC((公財)水道技術研究センター)技術審査基準適合認定を取得し製品化しています(図3)。

図3 浄水用紫外線照射装置外観,図4 紫外線照射装置構成

  • 図3 浄水用紫外線照射装置外観
  • 図4 紫外線照射装置構成

紫外線照射装置には、元々紫外線ランプの発光強度を監視するためのUVセンサーが取り付けられています(図4)。従来このUVセンサーは紫外線ランプのすぐ近くに置かれていました。したがって、処理対象である菌への照射量を知るためには、別途UVTを測定するための透過率センサーが必要でした。しかしUVセンサーで測定した光源強度も、被処理水のUVTの影響を受けることに注目し、UVセンサーが透過率センサーの働きも兼ねられるのでは、と考えました。そこでUVセンサーの位置を工夫することで、UVセンサー出力と照射強度との相関を強くし、流量情報から計算される照射時間と組み合わせ、透過率センサーからのUVT情報無しにUVセンサーのみから照射量を推定することを目指しました。そのためには、UVセンサー出力に対するUVT及び光源強度の影響度を知る必要があります。数値流体力学解析を行い、UVTおよび光源強度に係わらずUVセンサー出力値が直接照射強度となる位置、すなわちUVセンサー出力値×照射時間(=流量の逆数)が照射量となる位置を探索しました(図5)。

実規模での検証試験

UVセンサーを解析で得られた適正位置に設置した紫外線照射装置を試作し、第三者による実規模での検証実験を行いました。その結果、解析の場合と同様に、UVセンサー出力を流量で割った値と照射量の間に強い相関関係が確認されました(図6)。このことからUVセンサーを適切な位置に設置することで透過率センサーが無くても調光制御が可能であることが検証され、上記のTOSAQLEARTMに適用されています。

図5 紫外線強度・流量比と照射量(解析),図6 紫外線強度・流量比と照射量(実験)

  • 図5 紫外線強度・流量比と照射量(解析)
  • 図6 紫外線強度・流量比と照射量(実験)