活動事例

開発秘話

当社開発の製品や技術について、そのきっかけや開発過程のエピソードなどを紹介します。

「蛍光強度を用いたオゾン注入制御技術の開発」
- 安全でおいしい水づくりに貢献しています ―

はじめに

水は安心して飲める、という認識が一般的なわが国でも、過去には一時的に水源の水質悪化などから、水道水にかび臭などの問題が発生したこともありました。その後、オゾン処理などを用いた高度浄水処理が導入され、いまではそれら問題はほぼ解決されています。

現在水道水はおいしく生まれ変わっており、自治体によっては浄水場でつくった水道水をペットボトルに詰めて販売したりしています。当社はこのような安全でおいしい水づくりに様々な技術で貢献しています。

オゾンの力で水を殺菌

高度浄水処理におけるオゾン処理は、オゾンの強力な酸化力を用いてかび臭の除去や発がん性物質であるトリハロメタンなどの発生を抑制しています。オゾン処理を行った水道水を飲む住民からは、水道水がおいしくなったという声が聞かれます。このようにオゾン処理は優れた浄化手法ですが、原水に臭化物イオンが含まれる場合、温度や他のイオンの影響により臭素酸という物質が生成することがあります。この臭素酸は平成16年4月より水質基準に加えられました。臭素酸はオゾンを過剰に注入すると生成するため、オゾンの注入率は適切にコントロールすることが必要なのです。

要求される制御技術の高度化

オゾン処理で処理しなければならない、原水に含まれれるカビ臭の原因物質や有機物の量は日々変化します。そこで従来の制御方式では、カビ臭や有機物の分解で消費されるオゾンが残るように、残存しているオゾン濃度(溶存オゾンといいます)を確認しながら、オゾン注入制御を行ってきました(図1参照)。しかしながら臭素酸の生成を防ぐためには溶存オゾンが出来るだけ残らないようにオゾンを注入する必要があります。その場合、溶存オゾン濃度計の測定下限値を下回るような低いオゾン注入率の制御は適切な調整が必ずしも容易ではありませんでした。そこで当社では、この溶存オゾンには依らないより使いやすい制御技術の開発を行いました。

図1 溶存オゾンによる制御範囲
図1 溶存オゾンによる制御範囲

新方式のオゾン注入制御を開発

オゾン処理による有機物の分解についていろいろ調べている中で、蛍光分析法において特有の測定条件で測定される蛍光強度が、オゾン処理の前後で大きく減少することを発見しました。

蛍光分析法は微量な物質の同定や定量に用いられる分析法です。これまでに当社では、この蛍光強度が水中の有機物の不飽和結合と相関を持つことに着目し、微量な有機物濃度の測定手段として独自の蛍光分析計(図2参照)を開発してきました。この蛍光分析計を新しいオゾン注入制御方式の構築に活用することを試みました。ラボ実験を繰り返し行った結果、オゾン処理によって有機物が分解されるに従い蛍光強度が減少するため、溶存オゾンの有無に依らず蛍光強度の測定からオゾン処理の進み具合を観測できることがわかりました。この知見を元に蛍光強度の減少を指標としたオゾン注入制御方法を開発しました。さらにオゾンの過注入防止や原水水質の変動に対応するには、オゾン処理前後の蛍光強度の比率を見ることが良いことが判り、制御システムに取り入れました。

本方法では図3で示すようにオゾン処理の前後で蛍光強度を測定し、その減少率でオゾン注入制御を行います。これまで溶存オゾン濃度だけでオゾン処理の進捗を見ていたものを、蛍光強度の減少率に置き換えることで、より広い範囲を見ることができるようになりました(図4参照)。特に、溶存オゾンがほとんど出ないところでオゾン注入制御ができるようになり、その結果、臭素酸の生成問題などに柔軟に対応できるシステムの構築ができるようになりました。

図2 蛍光分析計
図2 蛍光分析計
(オンラインセンサ)

図3 蛍光強度を用いたオゾン注入制御の例
図3 蛍光強度を用いたオゾン注入制御の例

図4 本開発によるオゾン注入制御範囲
図4 本開発によるオゾン注入制御範囲

現場での実証試験

ラボ実験で効果が確認された制御方法を、実スケールの浄水場で実証試験を行いました。開発した蛍光分析計によるデータ収集を行った結果、実際の浄水場においても期待する性能データを得ることが出来ました。

オゾン処理は安全でおいしい水づくりには欠かせない技術です。近年では、ただオゾンを利用するだけでなく、オゾンの注入を適切にコントロールすることが求められており、本開発はこのような社会の要求に答えるために進めてきました。当社では、安全でおいしい水づくりに貢献できるように、オゾン処理のほかにも、膜処理、紫外線殺菌技術など様々な技術開発にも取り組んでいます。