活動事例

開発秘話

当社開発の製品や技術について、そのきっかけや開発過程のエピソードなどを紹介します。

郵便処理機械の高速取出し技術
-海外市場の壁を越える機構制御技術の創出-

郵便局では、切手を消印する自動取揃え押印機や、郵便番号や宛名を読み取って仕分けを行う郵便区分機などの郵便処理機械が稼動しています。図1に示す郵便区分機の場合では、取出し装置が郵便書状を1枚毎に分離して機械に送り込み、住所認識結果に基づいて区分集積を行います。これらの機械は、人間が作業するよりもはるかに高い処理能力を有しており、郵便局での作業の効率化に貢献しています。ここでは、郵便物の高速処理を支える取出し技術について紹介します。

図1 郵便区分機
図1 郵便区分機

高速取出し技術の難しさ

郵便区分機は、海外の郵便局を中心に40,000通/h以上の高い処理量が要求されるようになってきています。この処理量を実現するためには、機械の入口にあたる取出し装置で1秒あたり11通以上の書状を取出す必要があります。一方、単位時間当たりに取出す書状の量を多くすると、1通を取出す際に他の書状と分離する時間が短くなり、2通以上の書状が分離されないまま搬送されるケースが増えてきます。このような状態では、区分できない割合(リジェクト率)が増加し、結果として処理量が低下してしまいます。市場要求である高処理能力を実現するためには、「高速取出し」と「低いリジェクト率」を両立させる必要があり、これが高速取出し技術の難しさです。

海外市場への参入と技術の壁

郵便区分機は長年国内を中心に事業展開を続けていましたが、事業規模の拡大を狙いグローバル市場に展開することになりました。国内機種の取出し技術を流用して、欧米の郵便書状で高速取り出しの実験を行ってみると、リジェクト率が予想より高くなる状況に陥りました。原因を調べて見ると、欧米では国内よりも摩擦係数の高い書状が多く存在し、従来技術のままでの高速化は困難であることが分かりました。

早速、新しい取出し技術のアイデア発掘に取り組むことになりましたが、海外他社の調査を行ったところ、簡単に思いつく取り出し方式は既に特許化されており、独自技術の創出が必要になりました。取出しが難しい欧米の書状に対応し続けてきた海外他社のホームグランドで戦うためには、他社以上の取出し技術を開発していくことが急務であり、グローバル化を推進するには絶対に乗り越えなくてはならない高い壁でした。

独自技術で壁を越える

この壁を乗り越えるべく、他社技術を徹底して分析し、独自技術の検討を日夜重ねました。その努力の結果、我々が得意とする精密な機構制御技術の集大成として、「複合エア制御」、「ローラの正転-反転制御」、「一定ギャップ取出し制御」を組み合わせた新しい取出し方式を実現することができました。

図2 取出し装置
図2 取出し装置

[複合エア制御]

まず、郵便書状を1通取出す毎に、真空ポンプによる「吸着」と「排気」、およびブロワによる「吸気」の3種類を複雑に組み合わせる「複合エア制御」を考案し、取出し装置の基本処理能力を飛躍的に改善しました。図2の取出し部に立てた状態で積層された郵便書状は、取出し面に最も近い書状が「ブロワによる吸気エア(図3 ①)」により引き寄せられ、「真空ポンプによる吸着エア(図3②)」により回転するベルトに吸着されます。このベルトの回転によって書状がローラ(図3④)に送られ、取り出されていきます。取り出された直後には、電磁バルブを制御して「排気エア(図3③)」を混合することで吸着力を瞬時に低減させ、次の書状が取出されてしまうのを防ぎます。

[吸着分離ローラの正転-反転制御]

また、1通毎に搬送を開始させるローラには、円筒の外周全面に多数の穴を開けた吸着分離ローラを使用しました。この穴からエアを吸いながら書状を吸着させて搬送が開始されますが、1通毎に搬送ベルトへの方向(正転方向)と逆方向(反転)に回転制御することで、複数枚の書状が重なったときに分離しやすくしました(図3④)。

[一定ギャップ取出し制御]

更に、図4に示すように、取出す際の書状の間隔(図中のギャップ)を短い距離で一定にするベルト制御方法も開発しました。従来の一定ピッチ取出し制御に比べて、高密度の搬送を実現し、目標の平均処理量40,000通/hを達成できました。小さな書状を連続して搬送する場合には60,000通/hの高速取出しを実現できます。

今後の展開

この取出し技術は、平均処理量40,000通/h以上、リジェクト率0.3%以下の仕様で試験導入を終了しました。現在は、次世代機に向けて、更なる処理量向上と、様々な種類の書状に対するロバスト性向上に向けた改良を続けています。世界No.1の郵便機械を実現し、郵便処理の作業効率を改善するイノベーションを提供していきます。

図3 書状取出し装置のエア制御方法
図3 書状取出し装置のエア制御方法

図4(a) 従来手法(一定ピッチ)
図4(a) 従来手法(一定ピッチ)

図4(b) 一定ギャップ取出し制御
図4(b) 一定ギャップ取出し制御