活動事例

開発秘話

当社開発の製品や技術について、そのきっかけや開発過程のエピソードなどを紹介します。

「電車用全密閉形モータ」
- 人と環境に優しい電車用全密閉形モータの開発 -

電車用モータの特徴と課題

電車用モータは、車体の下の台車部分に配置され、減速機を介して車輪を駆動します(図1)。モータの回転数は、毎分約6000回転にもなります。車輪を高速で回転させるのでモータ内部は発熱して高温になり、これを冷却する必要があります。このため、現在は外気をモータ内部に取り入れて冷却する、開放形モータが主流になっています(図2)。この開放形モータは、外気で直接発熱部を冷却できるため、冷却効率が良いという特徴がある反面、外気をモータの内部に取り入れる際に、微量ながら外気とともに塵埃(じんあい)が混入するため、3年に1度程度の定期的な分解清掃が必要となります。また、モータ内の回転子に通風ファンが直結する構造となっており、高速回転時の内部の流体騒音が外部に漏れ、騒音が大きいという問題もあります。

そこで、モータの内部を密閉構造とすることを考えました。この構造では塵埃の進入を防ぐことができ、定期的な分解清掃が不要となるとともに、低騒音化も図ることができます。但し、この場合、内部の冷却をどうするかという大きな課題が残り、これを解決する必要があります。

図1 電車用モータと台車
図1 電車用モータと台車

図2 開放形モータ
図2 開放形モータ

外部に冷却用ファンを取付けた全閉外扇形モータの開発

まず、内部を密閉構造にし、外部に冷却用ファンを取付けた全閉外扇形モータを開発しました。図3は全閉外扇形モータの外観と上半分の断面を示したもので、モータの回転子に外部ファン(外扇)と内部ファン(内扇)の2種類のファンが取付けられます。密閉構造の外側に取付けられた外部ファンは、外気を取り入れフレーム外周に冷却風を送ります。また、内側に取付けられた内部ファンは、密閉構造内の空気を循環させ、フレーム外周での放熱効果を高めます。このような構造にすることでモータ内部を冷却し、所定の温度以下に保つことができました。

全閉外扇形モータは、内部を密閉構造にしているので、定期的な分解清掃が不要という大きなメリットを有します。ところが、試作したモータでは外部ファンの騒音が予想以上に大きく、さらに低騒音化を行っていく必要のあることが分かりました。

(a)外観
(a)外観

(b)断面図(上半分)
(b)断面図(上半分)

図3 全閉外扇形モータの外観と断面図

羽根形状を工夫し外扇ファンを低騒音化

外部ファンの騒音を分析した結果、[回転数]×[羽根枚数(13枚)]の周波数成分が大きいことが分かりました。つまり、羽根の1回転で生じる周期的な圧力変動が、騒音の原因になっていました。

そこで、等間隔(等配ピッチ)で取付けられていた13枚の羽根を、不等間隔(不等配ピッチ)で取付け、羽根の1回転で生じる圧力変動を非周期的なものにすることを考えました。こうすることで、羽根の1回転で生じる圧力変動の周波数を分散させることができ、騒音の卓越成分を低減することができます。但し、単純な不等配ピッチでは回転バランスが悪化するので、羽根の取付け角度と回転バランス量の関係を定式化し、結果的には図4のようなピッチ角度としました。また、羽根形状の最適化や通風路の整流にも取組みました。

図5は試作機(等配ピッチ羽根)と不等配ピッチ羽根の騒音を比較したものです。不等配ピッチ羽根の採用により、1300Hzの騒音成分が大幅に低減していることが分かります。また、広い周波数にわたり全体に騒音が低減しているのもわかります。

このように、不等配ピッチ羽根の採用とファン形状の最適化により、トータルの騒音レベルを104dBから95dBにまで低減することができました。

図4 不等配ピッチ羽根
図4 不等配ピッチ羽根

図5 等配ピッチ羽根と不等配ピッチ羽根の騒音比較
図5 等配ピッチ羽根と不等配ピッチ羽根の騒音比較

外扇ファンもなくした全密閉形モータの開発

全閉外扇形モータに引き続き、外部ファンもなくした全密閉形モータの開発にも取り組みました。冷却には放熱フィンを取付けた冷却ユニットを用います。冷却方法は以下の通りです(図6)。まず、モータ内部て発熱した熱を内部ファン①により冷却ユニット②へ送り込みます。そのときに列車が走行する際に受ける向かい風(外気)③を利用して、冷却ユニットの放熱フィンにて熱交換させます。冷却ユニットで冷却された空気④を再び内部に送り込み、発熱部分を通過して内部ファン①に戻ります。このように、モータ内部で空気を循環させ、冷却ユニットで熱交換し、モータ全体を冷却させる方法を採用することで全密閉形モータを実現することにしました。

(b)断面図(上半分)
(b)断面図(上半分)

(a)外観
(a)外観

図6 全密閉形モータと断面図

熱-流体シミュレーションを用いて冷却性能を向上

全密閉形モータの実現には、冷却性能の向上が必須となります。このため、以下の構造を採用することにしました。

(1) ダクト式の新冷却ユニット

内部を空気が均一に流れ、効率よく放熱できるダクト構造を冷却ユニットに採用するとともに、放熱フィンも最適化しました。

(2) フレームレス構造

固定子の周囲を覆っていたフレームを無くし、固定子が直接放熱フィンに接するようにして放熱効率を向上させました。

(3) ブラケットの放熱フィン

モータ前後のカバー(ブラケット)の内外表面にも放熱フィンを設置し、軸受部の冷却性能を向上させました。

試作機の構造設計の際には、熱-流体シミュレーションを用いて、前述した冷却構造の最適化に取り組みました。図7は最適化前後のモータ内部の温度分布を示したものです。初期構造と比較して、モータ全体の温度が均一化し、固定子で25K、軸受部で16K以上温度が低減できることが確認できました。

試作機を用いて騒音を測定したところ、従来の開放形では95dBあったものが、全密閉形では74dBとなり、電車用モータとしては非常に静粛なものを開発することができました。

図7 冷却構造の改善によるモータ内部温度の低減
図7 冷却構造の改善によるモータ内部温度の低減

人と環境に優しい製品を世界に

低騒音化と省メンテナンスが実現できる全閉タイプのモータは、人と環境に優しい製品です。これまでに、全閉外扇形モータは西日本鉄道、北米の地下鉄(2物件)に、全密閉形モータは名古屋鉄道、新京成電鉄に採用されています。また、従来にない新しい密閉化技術は、電気化学技術の進歩発展に貢献したことから、2006年に電気科学技術奨励賞(オーム技術賞)を受賞しました。

今後、さらに性能向上やコストダウンを図り、世界中の鉄道車両に適用を拡大していきたいと思います。

以上