活動事例

開発秘話

当社開発の製品や技術について、そのきっかけや開発過程のエピソードなどを紹介します。

「世界最高速エレベーターの開発」
-速度1010m/分の実現を支える技術開発-

世界一早く、世界一快適なエレベーターを目指して

台北市のランドマークとなっている超高層ビル「TAIPEI 101」には、定常速度1010m/分(時速60.6km)で走行する世界最高速エレベーターが設置されています1)。このエレベーターは、1階から89階の展望フロアまでを約39秒で移動し、ギネスからも2004年に世界最高速と認定されています。

快適性と安全性を追及し、世界一の速さと良好な乗り心地を実現するには多くの技術課題がありました。これらを克服するために開発した主な技術を、図1に示します。以下ではこれらの技術のうち、世界最高速を実現するための代表的コンポーネントとして、駆動システムと、乗り心地向上のために開発したかご内気圧制御システム、振動抑制技術を中心にご紹介します。

図1 主な開発技術
図1 主な開発技術

図2 超高速・大容量巻上機
図2 超高速・大容量巻上機

超高速・大容量駆動システム

図1に示すように、エレベーターはかごと釣合いおもりをロープで連結し、最上部の巻上機でロープを駆動する構造です。図2に、開発した超高速・大容量巻上機の外観を示します。2巻線式の永久磁石同期モータでシーブを回転させ、これに巻き掛けられたロープを駆動する構造です。モータの最大出力は1,186kW、最大35,304Nmのトルクを発生させることができます。一般にエレベーター巻上機では、振動が建物に伝わって生じる騒音を抑えるため、静粛性が求められます。本巻上機では、フレームと電磁加振力との共振を防止することで、電磁振動を最小限に抑えています。

また、制御装置には、2系統の独立したコンバータ⁄インバータを制御するツインドライブ方式を採用し、かごの上下振動を抑制する制御手法も取り入れています。これらにより、大容量駆動を可能にするとともに、上下振動が無い滑らかな加減速を実現しました。

気圧変動から耳の負担を軽減するかご内気圧制御システム

地上382mの展望フロアと1階の間を短時間で昇降すると、かご内気圧の変動により耳詰りが生じます。耳詰りを緩和するためにかご内気圧制御システムを開発し、本エレベーターに世界で初めて搭載しています2)

エレベーターは、加速・定常走行・減速というパターンで走行するため、乗客が受ける気圧変動(気圧の時間変化率)は、走行開始直後と終了直前は小さく、定常走行(1010m/分走行)時に最も大きくなります。かご内気圧制御システムは、加圧⁄減圧ブロアを用いてかご内の気圧を制御するもので(図3)、走行開始から終了までに乗客が受ける気圧変化率を一定に保ちます。図4は上昇運転時のかご内気圧を、気圧制御の有無で比較したものです。気圧を制御することによって、気圧変化率を1.92hPa/sから1.24hPa/sに約35%低減でき、乗客の耳への負担が軽減されていることが分かります。下降運転時は気圧が上昇し、耳抜きがしにくくなるため、かご内気圧を制御するとともに、速度を600m/分に減速して運転しています。

図3 かご内気圧制御システム
図3 かご内気圧制御システム

図4 走行中の気圧変化
図4 走行中の気圧変化

乗り心地を支える振動抑制技術

エレベーターは、かごに取り付けられている4つの案内装置により、ガイドレールに沿って走行します。そのため、走行中にガイドレールの微小なたわみがかごに伝達されると横振動となり、乗り心地を悪化させます。そこで横振動を抑制するため、振動伝達の少ない案内装置を開発するとともに、世界で初めてアクティブ制振装置を乗りかごに搭載しています。

エレベーター用案内装置は、3つのローラをガイドレールにばねで押付ける構造ですが、開発した新型案内装置(図5)では、ばねの最適化を図るとともに、高周波の振動を吸収するバランスウエイトを取り付けることで、かごへの振動伝達を25%以上低減しました。

図6にアクティブ制振装置を示します。本装置は、センサーで横振動を検知し、これをキャンセルする方向に可動おもりを動かして振動を抑制します。また、可動おもりの駆動音が乗客に聞こえないように配慮した構造となっています。

建物へのガイドレールの取り付けには、レーザ測定器による芯出し方法を採用し、これにより高精度なガイドレールの据付を実現し、横振動を低減することができました。

図7に示すのが、走行時の横振動波形です。良好な乗り心地とされる範囲に十分収まる振動しか発生しておらず、極めて良好な乗り心地性能が達成できていることが分かります。

図5 新型ローラガイド
図5 新型ローラガイド

図6 アクティブ制振装置
図6 アクティブ制振装置

図7 1010m/分走行時の横振動
図7 1010m/分走行時の横振動

世界一早く、世界一快適なエレベーターを目指して

今回は、世界最高速を実現するための、駆動システムと乗り心地向上技術を中心に紹介しました。これら以外に、走行時の風切音を防止する整風カプセルや緊急時にかごを非常制動する非常止め装置3)、時々刻々長さが変化するロープの非線形振動解析技術4)など、多くの新しい装置や技術を開発しています。今後も安全で快適なエレベーターを世の中に提供するための開発を続けていきます。

参考文献

  • 1)2011年3月現在、当社調べ。
  • 2)藤田善昭、ほか.エレベーター用気圧制御システムの開発.昇降機・遊戯施設等の最近の技術と進歩技術講演会.01、58、2002、p.29-32.
  • 3)中川俊明、ほか.世界最高速1,10m⁄minエレベーター.東芝レビュー.57、6、2002、p.58-63.
  • 4)木村弘之、ほか.エレベーター・ロープの横振動解析.日本機械学会論文集(C編).71、706、2005、p.1871-1876.

(2011年10月公開)