活動事例

開発秘話

当社開発の製品や技術について、そのきっかけや開発過程のエピソードなどを紹介します。

「革新的な省エネをめざす次世代ビル空調システムの開発」
- ビル全体の空調機を制御して30%以上の省エネを実現 -

28℃でも快適な冷房を

地球温暖化防止のため環境省では、夏季の冷房の設定温度として28℃を推奨しています。しかし実際に28℃に設定するとかなり蒸し暑く感じるのではないでしょうか?ところが、湿度が低ければそれほど暑さを感じません。例えば温度26℃で湿度60%の場合と温度28℃で湿度40%の場合では同程度の不快指数となります。従って温度の設定を28℃にした場合には湿度を下げればよいのですが、従来の除湿方法で湿度を下げるには大きなエネルギーが必要です。そこで当社では温度と湿度を独立にコントロールし、快適性を維持しながら省エネを実現する次世代のビル空調システムを開発しました。

中央熱源からの冷水温度を上げて消費電力を削減

図1に次世代のビル空調システムの概念図を示します。一般的なビル空調システムではビル地下の機械室等にある中央熱源と呼ばれる設備(冷凍機等)で作られた冷水を各フロアに送り、各フロアにあるローカル空調機で熱交換して冷房を行ないます。従来の方式では除湿も同時に行なうために約7℃の低温の冷水を必要としていました。ところが建物内の人やコンピュータによる発熱の冷却にはそれ程冷たい水は不要です。そこで次世代ビル空調システムでは、各フロアのローカル空調機内に個別の冷凍機を内蔵して換気用に導入する外気を除湿し、室内循環空気の冷却には中央熱源からの15℃程度の冷水を使用し、これらを混合して換気と快適性を保つ方式を開発しました。

図1:次世代ビル空調システムの概念図
図1:次世代ビル空調システムの概念図

これにより中央熱源設備の負荷を低減して消費電力を大幅に削減することが可能になりました。この方式では、快適性と省エネを両立させるために従来より複雑できめ細かい制御システムが必要になります。

最適制御システムの開発

ビル全体の消費電力を最小にするためには、多数のファンやポンプ、ローカル空調機と中央熱源、冷水配管、送風ダクトなどビル内の全ての空調機器をモデル化し、最適な運転パターンを決める必要があります。これは複雑な特性・挙動を示す非線形システムであり、実用化のためには一定時間内に常に答えを得る方法をどう実現するかという点が問題となりました。そこで、予め数万通りの運転パターンに対して非線形方程式をオフラインで解き、結果を関数フィッティングして実時間の制御に用いることとしました。きめ細かな制御を行うには各フロアの室内温度、湿度だけでなく各空調機器のパラメータなどを計測するセンサも必要になります。大規模なビルに多数のセンサを設置する場合に配線コストを低減できるように、温度、湿度、水温等を測定する無線センサも開発しました。図2は開発した最適制御装置の外観で、右下の枠内はソーラーバッテリーを用いた無線温湿度センサです。この装置で各部屋の温度や湿度、空調機の運転状態を無線センサおよび構内ネットワークを通じて収集し、ビル全体の最適制御演算を行い、各機器に運転指令値を送ることができます。

省エネ率の評価

ビル全体の省エネ効果を評価するため、最新のビルを評価モデルとして、次世代空調機の実験機で測定した特性データを組み込んだビル全体空調システム運用シミュレーションを行ないました。外気条件の季節変動や一日の空調負荷変動パターンを考慮し、中央熱源の冷水温度を含めて最適制御をした場合の消費電力を計算した結果を図3に示します。従来型空調機と次世代空調機の1日あたりの消費電力を比較した結果、冷凍機などの中央熱源設備の消費電力が大幅に低減し、ローカル冷凍機の消費電力増加分を加えても、全体で約31%の省エネが達成できることがわかりました。

図2:空調連携制御装置
図2:空調連携制御装置
(右下枠内は無線温湿度センサ)

図3:ビル全体シミュレーションの結果
図3:ビル全体シミュレーションの結果

これは例えば15階建てのオフィスビルの年間消費電力を100万kWh低減し、年間約1千万円の電気代の節約になります。これはまた一つのビルで年間340トンの二酸化炭素を削減することに相当し、地球環境にも大きく貢献できることになります。

おわりに

地球環境問題が社会的に重視されつつある今日、このような一つ一つの省エネ技術を早期に実現させていくことが大切です。今後、東芝は、次世代空調システムの普及推進を含め、各種のビル省エネ技術で地球環境保全に貢献していきます。