生産技術センター

東芝の研究開発・技術

生産技術トピックス

タービン発電機向け高機能型検査ロボットを開発

公開日 2022年11月30日

  • メカトロニクス技術

 国内外の発電所に設置されているタービン発電機は、定期点検により維持・管理されていますが、固定子からの回転子引き抜き作業があり、点検工期の長期化が課題となっています。本点検の工期短縮を目的に、ロボットを利用した非分解検査が着目されています。
 今回当社と東芝エネルギーシステムズ株式会社は、発電機の固定子と回転子との間隙を走行しながら外観検査、固定子楔の緩み検査、固定子鉄心の欠陥検出検査、および回転子の超音波探傷検査を行うタービン発電機向け点検ロボットを開発しました。点検ロボットは、走行方向の前後と回転子・固定子を観察するカメラ、左右クローラ、および3本のアームで構成されており、アームを固定子に、クローラを回転子に押し付けながら直進走行します。これまで難易度が高いとされてきたバッフル*1)付き発電機に対し、固定子鉄心内面に押し付けた各アームを畳むことでバッフルを乗り越え、機内の任意の位置への移動が可能となりました。発電所における試作機のトライアルでは重力の影響が大きい90°を含む複数の検査位置で走行できることを確認しました。本ロボットを実適用することで、回転子の引き抜きが不要となり、工期を1/2以下に短縮できる見込みです。
 現在、本ロボットは設備設計部門への移管を完了し、2023年度の火力・原子力発電所保守点検サービス開始を予定しています。

*1) バッフル:機内通風清流化の為に固定子に設置された突起

関連部門

東芝エネルギーシステムズ株式会社

掲載誌等

2022年10月12日 ニュースリリース
上左図:タービン発電機と点検項目,上右図:バッフル付発電機,下図:発電機点検ロボット

荷降ろしロボットで2022年度(第71回)電機工業技術功績者表彰奨励賞を受賞

公開日 2022年11月30日

  • 知能化ロボット技術

 本賞は、日本電機工業会において、「技術の向上と合理化意欲を刺激して業界の発展に資するため、電機工業の進歩発達に貢献した者を表彰する」ものです。当社荷降ろしロボットの重量物高速処理や多様な積み方への対応とそれらを支える技術の先進性、省人化や安全確保への貢献の期待が受賞につながりました。被表彰者は当社の牛山隆文、東芝インフラシステムズ株式会社の藤原弘章、河野優香の3名で、2022年10月12日に表彰されました。以下に技術の概要を紹介します。
 物流現場では、近年の労働力不足の顕在化により省人化が要求されています。そのため、パレット等の上に積まれた重い荷物を自動で荷降ろしするロボットの導入が進んでいます。しかし、同一サイズで整然と積まれた荷物や、異なるサイズで不規則に積まれた荷物等があり、多様な積み方への柔軟な対応が課題でした。
 そこで、デジタルツインによる仮想空間での事前検証により、荷物の把持と排出の動作を柔軟かつ安全に並列に実行できる技術を開発しました。これにより、多様な積み方に対応し、荷降ろし性能も45%高速化しました。この技術を搭載したロボットの展開により、荷降ろし作業を自動化し、人手作業を排除することで、作業者の安全確保にも貢献が期待されます。

関連部門

東芝インフラシステムズ株式会社

掲載誌等

一般社団法人 日本電機工業会
複雑な動作をデジタルツインで柔軟に計画して多様な荷物に対応する荷降ろしロボット

物流現場の生産性を向上させる柔軟な対応が可能なロボットとシステム

  • 知能化ロボット技術

 ECでは多様な商品が扱われており,物流現場では人手による柔軟なオペレーションで,複雑な作業に対応している。近年,物流量の増大で顕在化した労働力不足への対策として,複雑な作業にも柔軟に対応できる自動化技術への要求が高まっている。これに応えるため,AIを活用して物流現場用ロボットの知能化を進めている。今回,様々な状態や形状の荷物の把持・荷降ろしや,現場レイアウトの制約への対応が可能な,計画技術を開発した。
 物流現場では,複数の同じ形状の荷物が整然と積まれる場合や,形状が異なる荷物が不規則に積まれる場合など,多様な積み方がある。パレットや台車などの上に積まれた重い荷物を,画像認識で位置を検出して荷降ろしするロボットの導入が進んでいるが,多様な積み方に対応するのは難しかった。そこで,デジタルツインによる仮想空間で事前検証することで,荷物の把持と排出の動作を,柔軟かつ安全に並列に実行できるようにする計画技術を開発した。この技術により,多様な積み方に対応するとともに,荷降ろし性能が約30 %高速化できることを試作機で確認した。
 また,通路幅や,レイアウト,通行制限などの物流現場の状況に柔軟に対応して,できるだけ短時間で搬送できる経路を選択する技術も開発した。搬送を指示するシステムと指示を受けて搬送するロボットで構成し,ロボットは周囲状況を判断しながら自律走行する。一時的な通行不可などロボット単体では判断が困難な状況では,搬送経路候補ごとに推定した搬送時間が最短となる経路をシステム側で選択することで,物流現場の状況に柔軟に対応できる。
 今後,これらのロボットやシステムを適用し,物流現場の生産性向上に貢献する。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2022 Vol.77 No.2 2021年の技術成果
物流現場の生産性を向上させる柔軟な対応が可能なロボットとシステム

溶接モニタリング・修正機能を搭載したサーバー向けHDD封止装置

  • 光応用・画像検査技術
  • メカトロニクス技術

 ヘリウムガスを充塡した3.5型HDD(ハードディスクドライブ)は,主にサーバー向けに使用されている大容量HDDである。その製造設備として,溶接モニタリング・修正機能を搭載したHDD封止装置を開発した。
 ヘリウム充塡HDDの製造ラインでは,レーザーを1周走査することでHDD筐体(きょうたい)とカバーの縁をシーム溶接し,ヘリウムガスを筐体内に封止している。従来は,溶接完了後に封止装置から自動検査装置にHDDを搬送して溶接部の外観,及びヘリウムガスのリーク有無を検査し,不良を検出した場合は封止装置に再度搬送して修正を加えていた。
 今回,加工点での発光強度を赤外光センサーでリアルタイムに計測し,その信号の特徴量から溶接不良を検出した場合は即座に2 周目の溶接を行って不良箇所を修正する機能を,HDD封止装置に搭載した。これにより,不良修正に掛かる時間を1/10以下に短縮した。今後,開発したHDD封止装置を新規製造ラインに順次導入し,生産効率の向上を図る。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2022 Vol.77 No.2 2021年の技術成果
溶接モニタリング・修正機能を搭載したサーバー向けHDD封止装置

落雷による機器故障対策の効率化

  • 制御技術

 落雷に対する故障耐性を評価するために電気機器の開発時に行われる雷サージ試験(注)において,雷サージの伝搬経路の見える化と定量評価を実現した。従来困難だった高電圧波形の取得には,光絶縁プローブを採用した。そして,高周波における電子部品や基板配線の挙動などのアナログ電子回路に関する知見を応用し,部品故障メカニズムの解明やサージ吸収部品の選定を合理的かつ効率的に行うことを可能とした。
 ビル用空調機の例では,雷サージ電流は配線が絡み合う空調機内部を複雑な経路で流れ,その電流の一部が通信線上のコイルを流れた場合に2次的な過電圧が発生し,通信ICが破壊されることを明らかにした。部品故障メカニズムを明らかにしたことで,適切なサージ吸収部品の選定や配置が可能になる。また,各故障対策に対して,通信ICに重畳する過電圧と絶対最大定格を定量的に比較でき,過不足のない故障対策を実現できる。

(注)試験規格IEC 61000-4-5(国際電気標準会議規格 61000-4-5),
JEC 0103/0202
(電気学会 電気規格調査会標準規格 0103/0202)など。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2022 Vol.77 No.2 2021年の技術成果
落雷による機器故障対策の効率化

エネルギー・社会インフラ製品のモノづくりを支える化学物質管理技術

  • 電子機器パッケージング技術

 樹脂の可塑剤として使われるフタル酸エステルは,欧州RoHS(Restriction of Hazardous Substances)指令により4 種が規制され,2021年に監視・制御機器などにも適用が拡大された。材料内部から染み出して接触物を汚染する可能性もあるため,製品だけでなく生産現場で使用される治工具や作業マットの管理も必要になる。
 当社は,2018 年に低コストで高精度な簡易検査法として薄層クロマトグラフィー(TLC)法を開発したが,品質管理への適用を進める中で,樹脂添加剤が原因の過剰検出が問題となっていた。そこで今回,樹脂添加剤に反応しない呈色試薬検出法を開発した。簡易検査の判定精度を向上させることで,次工程の精密分析の頻度を低減できる。一方,汚染は温度や,接触時間,荷重などが影響する複雑な現象である。そこで,実際の製造環境を想定した汚染現象を検証して汚染速度に強い影響を及ぼす因子を特定し,これを基に化学物質がもたらすリスクを最小化する管理体制を構築した。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2022 Vol.77 No.2 2021年の技術成果
エネルギー・社会インフラ製品のモノづくりを支える化学物質管理技術

顧客要求と製品仕様を連結して業務効率化を図る営業コンフィグレーター

  • 知識・情報システム技術

 受注設計型の製品では,顧客要求を正確に捉えた魅力的な提案を迅速に行うことが重要である。しかし,複雑な構成の製品では,顧客要求・製品仕様・価格の調整が難しいため,顧客が納得するまで提案を繰り返すこともある。
 このような課題を解決するため,顧客要求から見積書を自動作成する営業コンフィグレーターを開発した。このコンフィグレーターは,製品開発の実績と仕様のトレンドから事前に作成した標準的な顧客要求と可能性のあるバリエーションのリストを用意する。そして,営業・技術部門の担当者が概算・入札見積時に,標準とは異なる顧客要求をリストから選択することで,迅速な見積もりを可能とする。また,受注後に必要となる技術部門から設計部門への引き継ぎ資料を,定型フォーマットで出力する機能も実装した。インフラシステム製品に対して,開発したコンフィグレーターの適用を開始し,見積もりや資料作成の工数削減への貢献を確認した。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2022 Vol.77 No.2 2021年の技術成果
顧客要求と製品仕様を連結して業務効率化を図る営業コンフィグレーター

エネルギー・社会インフラシステムを支える大型構造物の3次元計測技術

  • 機械構造・製造技術

 大型発電システムが設計上の性能を発揮するには,構造物の設置精度や主要部品の加工精度が重要となるため,3次元形状を正確に評価する技術が求められる。
 そこで,構造物の設置では,熟練スキルを要する手動ツールでの長さ寸法計測に代わり,可搬型測定機(レーザートラッカー)を用いた3次元計測とデータ統合法を組み合わせて精度を評価する技術を開発した。今後,組立工法の効率化や保守業務にも,開発した技術を適用していく。
 また,部品製造の現場では,複雑な3次元形状で設計された部品の加工精度を評価する手段が高価な専用機器に限られる上,結果を表示する後処理にも時間を要していた。そこで,安価に入手できる深度カメラで撮像した3次元データと設計データの差分を可視化する演算手法を実装し,修正加工の必要性などをその場で判断できるシステムを開発した。このシステムは,計測の専門家以外の作業者でもその場で加工精度を評価できることから,様々な用途における3次元検査へ展開していく。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2022 Vol.77 No.2 2021年の技術成果
エネルギー・社会インフラシステムを支える大型構造物の3次元計測技術

製造IoTを活用した多品種少量生産のトレーサビリティー管理の自動化

  • 知識・情報システム技術

 顧客満足度を向上させるには,顧客の要求品質を満たす製品を安定して提供することが重要である。多品種少量生産においては,製造工程や材料の切り替えが多く,品質管理が複雑になる。
 そこで,製造工程の一部が他拠点にあるなど,品質管理が複雑になる要因に対応したトレーサビリティー管理が可能な品質情報検索システムを開発した。製造ロット履歴と製造工程IoT(Internet of Things)データの関連付けは,ものづくりIoTクラウドサービス Meister ManufactX ™を用いて実現した。関連付けした情報は,BI(ビジネスインテリジェンス)ツールで取り込み,設備情報や時間軸などの多様な条件で対象ロットを抽出できるようにした。また,抽出ロットに対してロット分割・統合をトレースすることで,他工程の影響範囲を特定できるようにした。影響範囲内と範囲外のロットの品質情報を比較することで,品質低下時の影響範囲の特定が迅速にでき,早期の原因究明や品質改善活動に生かすことができる。
 今後,海外拠点やサプライヤーを横断したトレーサビリティー管理も実現し,更なる品質向上に貢献していく。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2022 Vol.77 No.2 2021年の技術成果
製造IoTを活用した多品種少量生産のトレーサビリティー管理の自動化

3次元データを活用した生産ライン設計評価技術

  • 生産エンジニアリング技術

 製造拠点のIoT(Internet of Things)化に向け,生産進捗などの製造データ取得や,3次元生産シミュレーションによる生産ラインの設計・運用評価,スケジューラーによる生産管理効率化などのソリューション開発と導入に取り組んでいる。
 効果的なソリューション導入のためには,個別最適の運用とならないようデータ利活用の全体像を描き,データ取得のタイミング・場所・手段をそろえることが重要である。そこで,あらかじめIoT化で実現する製造現場の業務フローと改善活動での活用イメージを定義することで,一元化されたデータを用いた一連のソリューションを実現した。
 中国の空調機器製造拠点では,タブレットによる製造データ取得システムを導入し,作業者に負荷を掛けずに効率の良いデータ取得・集計を実現した。そして,このデータと3次元生産シミュレーションをつなげ,デジタル空間での生産ラインのレイアウトや生産数を検証する環境を構築した。これにより,生産ラインの新建屋移設では,事前のレイアウト検証で遅延のない生産立ち上げを実現した。また,新建屋の運用開始後は,生産計画を効率良く達成するため,生産・人員計画の見直しや改善施策の事前検討を可能にした。更に,生産シミュレーションで検証したライン運用ルールや生産能力データをスケジューラーに適用して,生産管理の仕組みを構築した。ノウハウに依存せずに負荷なく迅速に生産計画が作成できるので,管理者は,製造進捗に応じて必要な改善アクションの検討に集中できる。
 これら一連の取り組みにより,データ取得からライン検証・計画管理・改善実施までがつながった仕組みを構築した。これにより,生産規模拡大に対しても管理工数を増加させずに,効率的な改善活動が可能となる。今後も,製造拠点のIoT化を加速していく。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2022 Vol.77 No.2 2021年の技術成果
3次元データを活用した生産ライン設計評価技術

製造ライン設計レビューを効率化するVR技術

  • メカトロニクス技術
  • 知能化ロボット技術

 製造ラインの設計では図面や3D(3次元)モデルによるレビューが行われる。しかし,設計者中心では,現場作業者視点での作業性確認が不足しがちで,立ち上げ時の後戻りリスクがある。
 この課題を解決するため,製造ライン設計レビュー向けのVR(Virtual Reality)技術を開発した。この技術では,広域な製造ライン全体をVRデータにしても動作遅延が生じないように,3Dモデルデータをレビューに必要な最小限まで簡易化するとともに,レビューアーが,VR 上で手の位置を認識できる機能や,検討結果をその場で反映するためのモデル再配置機能などを備えている。これを設計レビューに適用することで,各設備の配置状況や各工程における作業性確認を実作業に近い感覚で行えるようになる。
 実際に,量産ラインの設計レビューに適用した結果,作業者視点でなければ気付けなかった,設備のワーク排出位置の修正などを事前に行え,後戻りリスクを排除できた。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2022 Vol.77 No.2 2021年の技術成果
製造ライン設計レビューを効率化するVR技術

幅広い知見・情報を共有可能な高速ナレッジ検索システム

  • 知識・情報システム技術

 東芝グループの技術情報やノウハウの共有・活用により,顧客価値と基礎収益力の向上を図る全社標準ナレッジシステムを開発した。
 開示範囲の制御でセキュリティーを確保しながら,利便性が高くレスポンスが高速であることが特長である。高速性は,カラムストア型DB(データベース)やREST(Representational State Transfer)通信によるクライアント通信量の抑制で,2,000万件のコンテンツに対し1秒以内の検索を実現している。セキュリティーでは,ユーザーのアクセス権に応じたデータ領域をレイヤー構造で管理することで,閲覧制御と一括検索の高速動作を両立させた。
 開発したシステムは,東芝グループ内の技術情報を共有するために,この構造下で開示範囲を明確に再定義して社内規定として整備した。また,OS(基本ソフトウェア)の機能やクラウドシステムのマネージドサービスなどを活用することで,シングルサインオンによる利便性や,可用性,冗長性などのシステム要件を満たしており,管理も容易なシステムとなっている。

関連論文

掲載誌名
東芝レビュー 2022 Vol.77 No.2 2021年の技術成果
幅広い知見・情報を共有可能な高速ナレッジ検索システム