重症化予防ソリューション

インタビュー 日本調剤株式会社様 第2回

データヘルスを通じて薬剤師の地位向上を目指す
調剤薬局の重症化予防へのアプローチ

現在、健康保険組合などの医療保険者は、健康診断やレセプト(診療報酬明細書)などのデータに基づき、保健事業のPDCAサイクルを実施する「データヘルス計画」を策定し、疾病予防や重症化予防などさまざまな保健事業に取り組んでいる。より効果的・効率的な保健事業を支援するために、調剤業界はどんな取り組みを進めているのだろうか。今回は、調剤業界での取り組みや薬剤師が介在することの意義、そして具体的な構想も含めて、詳しく紐解いてみたい。

データヘルスにおける薬剤師の存在とは?


国の成長戦略の1つとして位置付けられているデータヘルス計画。2013年に政府が発表した「日本再興戦略」にて、“国民の健康寿命の延伸”が重要な柱の1つに位置づけられ、具体的な施策として登場したものだ。2018年度からは第2期データヘルス計画が開始され、2023年度までの6年間がその期間となっている。すでに多くの医療保険者は、健康診断結果やレセプトデータをもとにデータ分析を進め、効率的・効果的な保健事業を進めていることだろう。

そんなデータヘルスに関しては、健康・医療・介護に関連した事業を展開する多くの企業や団体がさまざまな取り組みを行っているが、その中でも注目されるのが、数多くの薬剤師を有する調剤薬局の存在だ。大手調剤チェーンの1つである日本調剤株式会社(以下、日本調剤)でもデータヘルスの取り組みとして「以前から、我々のグループ内のシンクタンクである日本医薬総合研究所において、薬局を訪れた患者に関する健康課題の分析を進めてきた経緯があります」と健保推進部 課長で薬剤師の鈴木 秀実氏は説明する。しかし、実際に課題が見つかったとしても、医療保険者が加入者に対して受診勧奨を含めてアプローチすることが難しい状況にあるのは間違いない。

そこで大きな役割を果たすのが、薬剤師の存在だ。「服薬していてもなかなか治療が進んでいない方が、実際には重症化しやすい傾向にあります。多くの薬剤師がいる我々だからこそ、薬の説明だけにとどまることなく、日々の生活や運動、栄養状況、家族環境などの情報を加味した服薬指導が可能な環境にあると考えています」。薬剤師という職能をこれまで以上に発揮することができるはずだと健保推進担当 取締役 鈴木 重夫氏は力説する。

取締役
鈴木重夫氏

そこで日本調剤では、保険者から診療報酬明細書などの医科レセプトをはじめ、他社で調剤した場合の調剤報酬明細書も含めた調剤レセプト、包括医療費支払いに関連したDPC(Diagnosis Procedure Combination)データ、場合によっては特定健診結果のデータを預かったうえで突合し、詳しく分析する新たなサービス「保険者連携プログラム」を開始している。このサービスでは、各種データ分析による重症化予防への取り組みをはじめ、薬剤の知見を持つ日本調剤ならではの重複投与や多剤投与の是正、ジェネリック医薬品(後発医薬品)への切り替え、そして薬剤師から医療機関での診療を促す加入者への受診勧奨などが可能になる。「薬剤師である我々は、薬の中身の分析もさることながら、服薬に関しても指導できます。薬の相互作用や禁忌といった、何を基準に服薬すべきなのかの抽出基準を示すことも。薬剤師として貢献できることがたくさんあるのです」と鈴木 秀実氏は力説する。

薬剤師の地位向上を目指して


健保推進部 課長 薬剤師
鈴木秀実氏

実際にシンクタンクによるデータ分析を数年前からスタートさせている日本調剤だが、薬を軸にした分析はまだ十分に普及していない状況にあるとみている。だからこそ、薬に対する知見を持つ同社の役割が重要になってくる。「医科レセプトも分析対象に加えることで、疾患名と調剤レセプト上の医薬品名が突合できます。そうすることで、患者が積極的に治療方針の決定に参加するアドヒアランスが確保できるようにもなりますし、薬に対する理解も深まります。医師の視点で見れば、他の医師の診断結果が分からずに処方せざるを得ないこともあり、中には相互作用を十分検討する必要のある薬を処方してしまっているケースも。薬を扱う我々だからこそ、医師に対しても有効な情報が提供できるようになるのです」と鈴木 秀実氏。

ただしデータヘルスに関しては、どの薬局でも有効なアドバイスや指導が可能なわけではない。本来薬局であれば、生活習慣や勤務形態、家族構成、運動量などより詳細な情報がヒアリング可能となるため、疾病名などの情報が加わることで薬剤師から適切なアドバイスを提供することができる。しかし、その意図を十分に理解している薬剤師であることが必要だ。実際にデータヘルス計画関連ソリューションの中には、重症化予防や多剤投与の是正などを促す通知書を薬局に提出して指導を促す仕組みもあるが、薬剤師側の受け入れ態勢が十分かどうかは見極める必要がある。「目的を十分に理解していない薬剤師に通知書を提出したとしても、当然うまくいきません。我々であれば、データヘルスに関して十分理解したうえで、その方にあった計画書を作成して指導していくことができます。特定保健指導という素晴らしい制度に学びながら、そこに薬の情報を加味してより適正化していくことができます」と日本調剤の強みをアピールする。

データヘルスに関して薬剤師が介在するメリットについて言及したが、地域密着型の薬局を運営している日本調剤だからこそ、相談窓口として薬局が持つ本来の役割についても、改めて訴求していきたいと力説する。「薬に頼りすぎることなく、セルフメディケーションのススメなども薬剤師だからこそできること。サプリメントも含めた食事指導を行うことができるなど、さまざまな形での提案ができるのが薬剤師なのです」と鈴木 秀実氏。最終的には健康増進のための活動を通じて、薬剤師の地位向上を図っていきたいという。

東芝との取り組み


日本調剤が取り組んでいる重症化予防や多剤投与の是正、受診勧奨については、健康チェックステーションでの指導、薬剤師による訪問指導、そして、スマホアプリなどを使った指導の3つが選択できるようになっており、加入者に対して最適な方法で情報提供を含めた健康指導が可能だ。「例えば薬局内に設置された健康チェックステーションであれば、血液の検体測定装置が設置されており、その場で数値化した結果が分かるようになります。その結果を受けて薬剤師が受診勧奨を行うことで、重症性の予防につなげることもできるようになる」と鈴木 重夫氏。

自社での活動はもちろんだが、他社と連携しながら保健事業につながるさまざまな取り組みも積極的に行っている。例えば、自宅で行うことが可能な血液検査キットを提供し、その結果を薬剤師に相談し受診勧奨につなげるというサービスがある。重症化予防という視点では、薬剤師が指導したことで数値の改善が見られたかどうかを判断する効果測定ツールとしても血液検査キットが活用可能だ。その結果、加入者の健康づくりや予防活動の促進につなげることができるようになる。

ほかにも、採血せずとも血糖値の変化が測定できる血糖自己測定器も提供している。「血糖自己測定器を使っていただくことで、例えば納豆を食べたときの血糖値の変化といった、自分の生活における血糖値の変化が分かるようになります。単に血糖値が高いので医者の診断を受けてくださいと指導するだけでは、なかなか行動変容に結びつきません。ご本人が体験して驚いていただくというアプローチが重要だと考えています」と鈴木 秀実氏は説明する。だからこそ、体験し、気づきを与え、行動変容につながるような働きかけが重要だと説く。

そして日本調剤が重症化予防のソリューションとして注目しているのが、東芝デジタルソリューションズが提供する「重症化予防ソリューション」だ。健診データとレセプトデータの突合分析により糖尿病などのハイリスク者を抽出することが可能なソリューションとして、東芝デジタルソリューションズの持つ高度な分析力に期待を寄せている。「我々も分析機関としてのシンクタンクがありますが、糖尿病などの生活習慣病に絞った高度な分析力は東芝ならでは。実際のマーケット展開についても一緒に進めていきたい」と鈴木 重夫氏は語る。すでに東芝デジタルソリューションズが実施している東芝健康保険組合の糖尿病重症化予防事業の取り組みについても学んでいきながら、1つのソリューションとして連携していきたいという。

ICT化の部分でも東芝デジタルソリューションズに期待している。「協業モデルができれば、組合健保だけでなく、協会健保や国保など、幅広い保険者へ展開していくことができると考えています。またICT化の面では、たとえインフラが整備できたとしても、活用方法を含めてなかなか進んでいかないケースもあります。活用も含めたノウハウや技術についても、東芝デジタルソリューションズにはぜひご協力いただきたい」と鈴木 重夫氏。特にICTの活用については、スマホアプリなどから日常的に加入者に介入できる環境を整えることが可能になり、月一回の対面指導よりも大きな効果が期待できるはずだ。「単に指導で終わるだけでなく、それが受診勧奨につながっていき、そこで薬の服用が必要になれば、調剤まで含めた一連のサポートが我々として可能になります。指導だけでなく医療にも関われるようなスキームにしていきたい」と鈴木 秀実氏に今後について語っていただいた。

ライタープロフィール

フリーライター:てんとまる社 酒井 洋和

関連商品サイト